推理5
「……どうしてそう思った?」
「ああ、いやね、こっちは推理とも言えない話でさ、俺は、ニャンが予言機の部屋に突撃してきた時、確かに見たんだよ。さっきまで膨らんでなかったエーカーの尻ポケットの部分が、ぱんぱんに膨らんでいたのを」
「――あっ」
すっかり忘れていた。そうだった。そういえば、そんなことがあった。
「で、その後大分経って、それぞれが何してるかって話をしていた時に、エーカーは尻ポケットに入ってる懐中時計を、研究室の時計――あのずれている時計ね――あれで時間を合わせていたって証言したんだ。こんな変な話はないでしょ? あの尻ポケットの中に入ってるのが懐中時計だったとしたら、エーカーは警備員という立場で、侵入者がやってきた時にその目を盗んで懐中時計を尻ポケットに入れたことになる」
確かに、意味が分からない。
「普通に考えたら侵入者がやってきて警備員が何とか準備しようとするのは武器だよ。実際、武器を準備したって正直に言えばいいんだ。なのに、尻ポケットに入っていたのは懐中時計だって嘘をついたと思われる。何故か。その武器、自分が用意していた武器が、ニャン殺害の凶器となってしまったから。違う?」
「ええっと、つまり、運搬係っていうのは――」
頭を整理しながら僕は口を動かしていく。
「イースターにも確認した話だよ。イースターを囮にしてまでニャンの気を逸らせているのに、殺す役の人間が不死殺しのナイフなんて持ち込んでいたら、そこからバレるかもしれない。だから、ナイフを塔の中に持ち込む係と殺す係は別なんじゃないって確認したんだ。イースターは認めていたよ。多分そうだと思うってさ」
「口が軽い男だな。諜報員の風上にも置けない」
怒っているというよりも心底楽しそうな声。
「その通りだ。もちろん、エーカー自身は計画のことは知らない。奴はそもそもインコグニートのことすら知らないからな。塔の警備に必要なものとして、特殊なナイフを塔に持ち込ませただけだ。それも、奴自身がそう判断したのだと思い込ませて」
「怖いなあ……つまり、エーカーは自分の判断でその特殊なナイフを見つけて、塔に持ち込んでもしもの時用にしておこうって判断したってこと? 本当は誘導されているのに?」
「もっと言えばあのナイフはエーカーの私物だ。旅行中に、怪しい行商人から二束三文で買ったものだよ。その後、ちゃんとした商人に鑑定してもらったところ邪なる者に対して大変な効果がある値打ちものだと分かって得をしたと大喜びして、お気に入りのナイフになったんだ」
「その行商人とか鑑定した商人っていうのはつまりインコグニートの――ああ、やっぱりいいや。知りたくない。怖いな、本当に。まあ、とにかく、運搬人がエーカーっていうのは間違いないよね。だから、エーカーは殺し屋じゃあない。それもあってルイルイが怪しいって結論で俺の中で決定した」
あとは、とヴァンは手を打って鳴らしてから、
「あの事件を謎のままにするのなら、一番まずいのは時計がずれていると分かってしまうことだ。だから、助けが来た時点で大騒ぎで混乱しているどさくさに紛れて、絶対に時計のずれを直す、少なくとも内部の部品を取り外してどこかに破棄する必要がある。だから、それを待ちかまえておいて――ほら、これでおしまいだ。ルイルイは時計に手を伸ばしたところを捕まって観念する、と」
俺の話は大体終わりだよ、とヴァンは言って一呼吸置く。
「で、ルイルイがどうしてこんな事件を起こしたのか、そもそも起こせたのか。ルイルイとそっちの関係とか、色々さ、よく分かっていないことがあるんだ。それを補完させてもらえると思ってこっちも話に来たんだけど、教えてもらえる?」
「諜報機関にそんなことを要求するか? ……まあ、いい。君と俺の仲だ」
次の瞬間、目を光が刺す。真っ暗闇の中で、強烈な光。思わず眩み、腕で目を隠す。
そうして、徐々に目が慣れてきて、隠していた腕を下げて、周囲を確認する。
さっきまでの完全な闇は消え去っている。部屋の四隅に、いやになるくらいに明るい光を放つランプがぶら下げられている。一体、いつの間にあったのか。
そして、さっきまでの声の主はいない。どう見ても、いない。殺風景な部屋の中には、椅子に座っている僕とヴァン。そして。
「――こんにちは」
それに向かい合って座っている、少し不貞腐れたような珍しい表情のルイルイしかいない。




