イースター大いに語る1
コミックヴァルキリーWeb版Vol.87より、異世界の名探偵コミカライズ開始いたしました!!
宜しくお願い致します。
「大昔から、大なり小なりドラゴンイーターの真実をある程度知る各国の指導者たちは共通した欲望を抱いてきました。それは、ドラゴンイーターを自らの陣営に引き込みたい、という欲望です。聖遺物一つ持つか持たないかだけで、国力が変わる。ならば、その製作者でもあるドラゴンイーターが協力してくれれば、一体その国にどれだけのものがもたらされるのか」
世界の盟主となることができるかもしれない、と考えてもおかしくはない。
「ただ、それは夢物語でした。何故なら、ドラゴンイーターは遥か昔に滅びたから。ところが、ドラゴンイーターにも僅かですが生き残りが存在することが少し昔、判明しました」
話がそこに来ると、嫌そうな顔をしてヴァンは顔をそむける。
「ああ、まあ、判明したね。判明したらすぐに死んだけど」
「ええ、ヴァンさんはそれをご存知でしたね。しかし、その後、それを知った各国がどう動いたのかまではご存知ないでしょう。しかし、想像はできるはずです」
「そりゃもちろん、話の流れからして、他に生き残りがいないか必死で調べて――あれ、もしかして」
じゃあニャンは、とヴァンが呟くと、
「ええ。各国の諜報機関は全精力を挙げてドラゴンイーターらしき存在の痕跡を調べ上げて、そしてある一人の芸術家の存在に辿り着きました。ニャンです」
「ニャンっていうドラゴンイーターがいたってことを、元々各国知っていたってことですか?」
仰天した僕の叫びのような質問に、イースターは頷く。
「ええ、かなり以前から。そして、セイバー事件にニャンが関わっていることも」
ひょっとして、あの脚本事件の時にイースターが関わってきたのは、それで?
「……ちょっと待ってよ。ええと、さっき各国の諜報機関って言ったよね。ってことは、シャーク国の、あのインコグニートも、関わってる?」
「もちろん。というより、自分はインコグニートの所属です」
「うわっ、じゃあ、あいつが噛んでるのかよ……というか、部下とかいたのか、いつの間に」
これまでにないくらいにヴァンが苦い顔をしてから、
「あ……ああ、ごめん、続けて」
「ええ。ともかく、各国はニャンに関する情報を奪い合う形になりました。諜報員はあらゆる情報を探り、ニャンに関係あるものを取り込み、そして機関同士で水面下で争っていた」
例えばニャンの同級生の一人はペース国の諜報員でした、とさらりとイースターが爆弾発言する。
「えっ、誰?」
「クロイツです。彼はニャンの情報を欲した機関と接触した際、最終的に諜報員にスカウトされた。可能性は低いですが、元同級生ということでニャンと接触がある可能性もありましたから」
「うわっ」
じゃあ殺されたのそれでか、とヴァンは天を仰ぐ。
「正直、いまいち分からなかったんだよね、動機が……そういう裏があったのか。ニャンが、邪魔になったクロイツを、タリィを使って殺させたってことかあ」
「元カレが裏切って諜報員になったからむかついたんじゃないですか?」
僕の意見にヴァンは肩をすくめる。無言だ。仕切りなおすよう首を振ってイースターに向き直り、
「ともかく、ニャンのことは裏ではとっくの昔に世界中で話題になってたってことだね」
「はい。しかし情報がつかめず、各国の諜報機関がそれでも諦めきれずにニャンの幻影を追っていた中、クロイツが殺されたあの事件が起きました。セイバーに眼球をえぐられていた、そしてかつてあのドラゴンイーター、怨公とも深くかかわっていたあなたが事件に関わっていた……あの事件は各諜報機関にとって、研究の対象でした。そして、ヴァンさん、あなたの追跡監視もスタートした」
うえ、と顔をしかめてヴァンは周囲を見回す。
「ひょっとして今も?」
「さて、どうでしょう……ともかく、潜水館の事件も事後に各諜報機関によって徹底的に調査されました。そして、そこからカルコサ湖の底にあるこの研究塔が発見されました」
「ああ、そういうことか……予言機が役に立たないことなんて、どいつもこいつもとっくの昔に分かってたんだな」
おかしいと思ったんだよ、とヴァンは舌打ちする。
「最初ならともかく、予言機があそこまで役に立たない代物だと分かってからもずっと維持しているなんて。エジソン・メアリ夫妻を抱き込み続けるなんて、相当予算がないと難しいはずなんだ。そういうことか。本命は、ニャンか。ニャンへの手掛かりとして、この研究塔を――」
そして言葉は途中で止まり、ぎろ、と剣呑な目つきでヴァンはイースターを睨み、
「ちょっと待て。じゃあ、あれか。俺がこの研究塔に度々呼び出されていたのは、つまり……ニャンを呼び出す餌か?」
「そこまでニャンがヴァンさんに執着しているとはさすがに誰も予想していなかったでしょう。自分もです。ただ、何らかの効果があれば、と期待していただけです。まさか、ここまでとは」
「あれ。ちょっと待ってください。ひょっとして、他の人たちももどこかの機関の諜報員なんですか?」
ずっと話を聞いていたが、不意に恐ろしい可能性に思い当たって口を出す。
まさか、僕たち以外全員諜報員なんてことは。
「この研究塔を囲い込んだのはインコグニートだ。他の諜報機関が入り込む余地はない」
だがイースターの口調はそこまで自信があるようには聞こえない。続けて、
「諜報機関同士で争って、ようやくインコグニートがこの研究塔を手に入れた。そして罠を張ってニャンを待ち構えた。そこに他の諜報員を入れるわけがない」
「でも、そういう場所に入り込むのがそもそも諜報員の仕事みたいなもんだもんねえ」
ヴァンに言われて、イースターの青白い顔に薄っすらと笑みが浮かぶ。
「仰る通りです。こちらも事前に調査を行い、他の諜報機関が関係している人間は入れないようにしているはずですが、それを潜り抜けて潜入している諜報員がいる可能性をゼロとは断言できません」
「ああっと、ちょっと待ってよ。ええっと……」
ヴァンは唸り、こめかみを指で叩く。
「そうなると、タリィがニャンに内通していたことも、その情報を隠しながら出した手紙も、インコグニートは把握してたってこと?」
「ええ」
「じゃあ、この事件のことも事前に分かっていた、と?」
ヴァンの眼が細まる。
「まさか。先程ヴァンさんがおっしゃったように、タリィは結局、計画の詳しいことは何も知らされていませんでした。タリィが流す情報やニャンから間接的に送られてくる指示をインコグニートが分析して分かったのは、いつの日かニャンがここに乗り込んでくる可能性が高い、そしてその時には何か奇妙なことをする計画がある、それくらいだった。しかし、それで十分でした」
「なるほど。つまり、イースター君の仕事は、タリィの世話をしながら、いつかニャンがやってきた時にそれを捕えるか交渉してシャーク国に協力させることだったわけだ」
だが、そのヴァンの言葉にイースターは首を振る。
あれ? 違うの? 僕もこれまでの流れからそうだとしか思っていなかったけど。
「表向きは、そうです」
「表って、そもそもインコグニートって組織自体が裏じゃん」
ヴァンの突っ込みは無視されて、
「自分たちインコグニートの本当の目的は、ニャンの排除です」
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