ニャン殺害について1
さすがに喉が渇いたので、倉庫にあった明日のラベルのついた水のボトルを持ち込み、全員で改めてお茶を飲みながら議論を再開する。
「ニャンが殺された件と予言が外れた件は分けて考えた方がいいだろうね。結び付けたまま一気に検証すると考えるべきことが多すぎる」
という、ヴァンからのもっともな意見もあって、まずは純粋にニャン殺害だけに絞って情報共有と議論をしていくことになる。
まずは、分かっていることから。
「予言のことを別にすれば、午後11時くらいまでニャンは生きて倉庫にいたことが分かっています……ビンチョルの話を信じるとすれば」
僕が最後にそう付け足すと、
「お、俺は嘘を言っていない、本当だっ!」
必死にビンチョルが叫ぶので、
「うるせえな、話の腰を折るなよ」
とエーカーが舌打ちする。結構本気でいらついている。
「どうやらドラゴンイーターが不死身だというのを利用して、自分の四肢の骨を砕いて無理矢理に通気口を通ったと推測されます」
ぞっとするような話を僕がすると、全員の顔が少しだけ青ざめる。ヴァンだけ元々青白いから変わりないが。
「あっ、ただ、気になることが。倉庫2の方は通気口の鉄格子が切断されていたんです。それを、魔術で一時的に固めていたような状態で」
「だから、少し力をこめると簡単に取れた」
実際にやったイースターが言い添える。
「そうなんです。でも、倉庫1の方はくっつけられていなくて、鉄格子は外されたままになっていたんです。これが、何を意味するのかを――」
「それは私」
ルイルイが口を出す。
横のエーカーが頷く。
「ああ。まあ、正確にはルイルイがやったわけじゃねえけどよ」
そう言えば、外された鉄格子を前に二人で何か意味ありげな反応をしていたな。
「数日前、メンテナンスの時に倉庫1の鉄格子が外れかけているのをエーカーが発見した。元々の溶接が不完全だったらしく、それと劣化が重なってのもので、人為的なものではなかったと思う」
ルイルイの説明に、ディーコンが頷く。
「ああ、確かに報告は受けていた。こまごましたことなんで、エジソンさんメアリさんにまでは伝えていませんでしたけどね」
それを聞いて夫妻は納得した顔で頷く。
「だから一度外して、また改めて溶接し直さなければいけなかったのだけれど――外したところで私がその続きを忘れていた。ただ、それだけよ。私のミス」
「いや、俺も見回りの際に外れたままだなーとは思ってたんだけど、見回り終わる時には忘れてたりしてな。ルイルイだけの責任じゃねえ」
エーカーがルイルイを庇っている。意外と男気あるな。
ともかく、ということはあの鉄格子が外れていたこと自体は全く事件とは関係ないわけか。
「……ふう、ん」
だが、ヴァンは何を思ってか、唸りながら頭を振っている。そうしてしばらくしてから、
「その鉄格子の話って、結局誰が知ってたの?」
「うん? ああ、外したこと自体は、塔に住み込みのメンバーなら全員知っていましたよ」
ディーコンが指を折る。
「私、イースター、もちろんルイルイとエーカー」
「あれ? タリィさんは?」
僕の疑問に、
「別にそんなことわざわざ伝えない。こいつはあくまで犯罪者で、特例で予言機の研究のためにこの塔で服役しているだけだ」
イースターが冷たく言い放つ。
「なるほどなるほど……そもそもの話で申し訳ないんだけど、エジソンさんとメアリはこの塔に住み込みはしてないの?」
「するわけないでしょ、そんなの。こっちは他の仕事が山ほどあるんだから。あくまでもスポンサーよ、スポンサー」
メアリが鼻で笑い、
「わたくしに関しては潜水館を運用して物資を運搬する、という役目もございますからな。わたくしと妻は、潜水館の物資運搬の際に顔を出す程度でございます」
「まあ、そうか……ええっと、そうなると」
うーん、とヴァンは何を考えているのかずっと唸っている。
「しかし、俺もすっかり忘れていた、鉄格子のことを。どうなっているのか確認すべきでした。炎の魔術を使えば溶接自体はすぐできたのに。怠慢だ」
どうでもいいことを反省しているディーコン。今、そんなことを反省している状況じゃないだろうに。
「ちょっと確認したいんだけど、ここに住み込みの人って外には出れないの?」
「それはタリィだけです。他のメンバーは休暇をとって外に出ることはもちろん可能ですよ」
そりゃそうだ。タリィ以外罪人ではないのだから。
「ことがことだから、外にここの情報を漏らすことは絶対にないようにって念は押されてるけど、別に家族友人に手紙を送ったりもできるぜ。っつっても、最近はその外に情報を漏らすなって話もどんどんどうでもよくなってるけどな」
期待されてねえから、とエーカーは笑う。
「ちなみにタリィは? 手紙も駄目?」
「俺は――」
「タリィは家族に宛てた手紙くらいは許されていますよ。元々いた牢と同じルールだ」
答えようとするタリィを遮ってイースターが言う。
「もちろん検閲されています。この場所の特殊性や研究内容等には絶対に触れないように。ですから内容は、ここでの日常生活やそこで起こったちょっとした事件くらいですか」
「はいはいはい……なるほどなるほど。そうなると、ええっと、あれがこうなって、こっちがなしだとあっちはそうなって」
ぶつぶつ言いながらヴァンは頷き、
「よし、そういうことだろうね……分かった。それについてはいいや。じゃあ、続きだ。午後11時までニャンは生きていて、0時をまわって予言機が例の不穏なエラーメッセージをよこした時には死んでいた。そう考えられる。ということで、その前後――ビンチョルが嘘を言っていた可能性も考えて、もうちょっと前からでいいか。午後10時前後でいいかな。それくらいからの、皆の行動を教えてもらえる? それを突き合わせて整理してみようよ。もちろん、正確な時間じゃなくて大体の時間ってことになるから、そこまで確実な情報が導き出せるとは思っていないけど、参考にはなるでしょ……ココア」
「はいはい」
僕はメモ帳から一枚破り取る。
長い付き合いでもあるし、何を求められるか分かっている。人数も多いし、情報も錯綜する。全員の話をまずは聞いて、表にでもまとめた方がいいだろう。




