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推理(3)

「入れ替わりは、ゲラルトさんも検討していましたね」


「ああ、けれど、結局その考えは捨てた」


 ゲラルトはステッキを立ててそこに顎を乗せるようにする。


「皆さん、何が原因で入れ替わりが否定されたか覚えてらっしゃいますか?」


「貴様らが恥知らずにも大聖堂の地下に忍び込むようなマネをして、ファタの顔を知っていたからだ」


 言いながら怒りが蘇ってきたのか、ミンツの目尻の辺りがぶるぶると震える。


「そう、そのために入れ替わるタイミングがないことになり、入れ替わり説は否定されました。けれど、正確には入れ替わり説を否定する材料はそれだけではありません。ジンさんとライカさんが毎回表彰が終わる都度確認していたというのに部屋は血塗れにならず死体も存在していなかったこと、聖堂が密室であること。これからも入れ替わり説を否定する強力な材料です」


「じゃあ、やはり入れ替わりなんて起こらなかったってわけか?」


 俺の話がどういう方向に進むのか分からず不安なのか、ボブがきょろきょろと瞳を動かしながら目を瞬く。


「いや、そもそも、入れ替わりがあろうとなかろうと、どちらにしろ聖堂が血塗れになって死体が存在したのは確かなんだ。ということは、やはりこれらの材料は紛い物なんだ。ということは、密室に見える聖堂に侵入する方法も、部屋を血塗れにして死体を出現させる方法も存在する」


「確かに、たとえ外部犯説をとったとしても、そこを論ずるのは避けきれない」


 アイスが目を閉じて認める。


「そうです。では、まずは密室の方から解決しましょう。といっても、こちらは大した謎ではありません」


 そう、あまりにも下らない謎だった。


「そんなに簡単な話なのかい?」


 ステッキから顔を上げてゲラルトは目を丸くする。


「ええ、驚くほど簡単な話です。ボブ、あの扉が二つの鍵を使わない限り開かないって説明があった時に、お前は何だか妙な気がすると首を傾げていた。憶えているか?」


「あん? あ、ああ」


 自分にここで話が振られるのは予想外だったのか、少し慌ててから、


「けど、何がどう妙だと思ったのかは、自分でもよく分からない。違和感があったってだけで」


「いや、結構。さて、皆さん、何故ボブが違和感を抱いたのか。別にこの式場に詳しいわけでも扉を設計したわけでもないボブが、どうして? 理由は簡単でした。ボブの神経が太いからです」


「おいっ、お前」


 馬鹿にされたと思ったらしく、ボブが小鬼のように顔を赤くして立ち上がる。


 それを無視して、


「いいですか、つまり緊張していなかったんですよ、聖堂に入った時に。だからその説明に違和感があった。説明が正しくないことに直感的に気づいたのです」


「馬鹿な、扉は鍵がない限り開かない」


 冷静にアイスが反論するが、


「どうでしょうか? 俺はボブと違ってあまりにも緊張していたから情けないことに聖堂の内部についてあまり詳しく憶えてはいません。キリオだって同じようなものでしょう。ですが、冷静に記憶を辿れば、思い出したことがあります。聖堂に入り、背中で扉が閉まって鍵がかかった。けれど、表彰が終わって聖堂を出る時に、外から鍵を開けてもらった覚えがありません」


 俺の話に数人がはっと息を飲む。


 一方、それがどうかしたのかと戸惑ったような顔をしている人間もいる。

 そのうちの一人、ミンツ大司教が、


「何を言っている。それは当然だろう、内から開ければ」


 そこで絶句して、目玉を落とさんばかりに目を見開く。


「馬鹿な」


「そうです、その通り。冷静に考えてみれば当然の話です。扉を作る際に内部から開かないようにすれば、それはもう監禁です。姫を監禁するようなつくりにするわけがない。姫をよく知る方々にとって、姫が言いつけを破るなんてことは考えられないわけですから、なおさらです。当然なんですが、扉の構造をよく知らない俺達は、あなた方の鍵がない限り絶対に開かないという説明を聞いて、無意識にそういうものだと思い込んでいた」


「そう、だったのですね、やはり」


 呟くのは、俺が推理を始める直前に「扉が内側から開くか」を確認をしたヤシャだ。その確認をされた時からこの展開を予想していたらしく、驚くことなく懺悔するかのように目を閉じる。


「馬鹿なっ、そんな」


 顔を白くしたミンツが立ち上がる。


「どうしてこんな馬鹿げた食い違いが起きたか。それは、ヴィクティー姫を知る人間の誰しもが、ヴィクティー姫が内側から扉を開けるなんて最初から選択肢になかったからです。姫が言いつけ以外のことをするはずがないという前提に立っていた。ヤシャさんも長い間ヴィクティー姫のお世話をされていたようですしね。けれど、あまり姫のことを知らない俺達からすれば、その扉が内側からなら開くという事実があれば聖堂は密室でもなんでもありません」


 つまり、


「ヴィクティー姫が内側から扉を開けて、犯人を招けばいいんです」


「嘘だっ」


 ミンツに続いてウラエヌスも立ち上がり、悲痛な叫びを上げるが、


「よせ、ウラエヌス。ありえる話だ。考えなければいけなかった可能性だ」


 アイスの沈んだ声が、その叫びをとめる。


「あの娘は、人形ではない。人間なんだ。人間だったんだ」


 静かな、しかし血を吐くようなアイスの後悔の念の吐露に、ミンツとウラエヌスは魂の抜けたような顔になってのろのろと腰を下ろす。


「死んでからも、無意識のうちに、あの娘の意思の存在を否定していたわけだ。救われないな」


 見るものをぞっとさせるような寂しい笑みを浮かべたあと、


「結局、最後まで私は親になれなかったか」


 アイスはそんなことを呟く。


「さて、これで聖堂は密室ではなくなりました」


 そんな悲痛な呟きを完全に無視して、俺は話を進める。


「実際にどういう方法を使ってヴィクティー姫にドアを開けさせたのか、何故姫がそれに応じたのかは、少なくとも今は考えないようにしましょう。重要なのは次です、つまりいつ犯人はヴィクティー姫に入れ替わったのか」


「最後の表彰が、つまりキリオの表彰が終わった直後、ということかのお。キリオも顔を確認しているから、その、キリオが犯人でない以上そう考えるしかない」


 マーリンの語尾は弱くなる。キリオに遠慮しているのだろう。


「ちょっと待って。でも、最後の表彰の後、姫を部屋にお連れする直前にも聖堂をあたしとジンは確認したのよ? その時は聖堂に変わった様子はなかった」


「ああ、そうだ、その通りだ」


「そのことは置いておきましょう」


 ライカとジンが言うのを、俺は手を前に出してストップさせる。


「聖堂が血塗れになって死体が出現した謎は別の話にしましょう。今は、純粋にいつ入れ替わったかだけの検討です」


「それなら、やはりキリオの表彰が終わった直後じゃろう」


「ああ、分かった、要するにこういうことだ」


 得意げにボブが話し出す。


「犯人はいつかのタイミングで式場から出て、そこの裏にでも隠れてるんだ。で、様子を窺って、キリオと護衛が式場に入ったタイミングで」


「待て」


 ジンが遮る。


「俺達は、最後のキリオの時には式場の内部には入っていない」


「はえ?」


 ボブの得意げな顔が固まる。


「当然だろう。次の奴を迎えに行く必要がないんだから」


「そう。だから、そのタイミングで誰かが聖堂に向かったらあたし達が気づくはずよ」


「じゃあ、こういうのはどうだ? 聖堂裏にいた、というのは」


 代わりに案を出したのはレオだ。


「聖堂の裏にいて、キリオ達が去って行くのを隠れて窺っておく。そしてある程度離れたところで聖堂の正面に回り、中に入る」


「それも綱渡りだな。三人のうち誰かがちょっとでも振り返ればおしまいだ」


 アイスが俺の代わりにレオの案に反論する。


「ええ、そうですね、計画としては杜撰です。というよりも、そもそも聖堂の外で待機するということ自体、かなり危険で運任せになります。護衛のどちらかでも、表彰を待つ間に、たとえば聖堂の回りをくるりと一周見回りしたらアウトです」


「じゃあ、もう可能性は一つしかないな」


 ボブがキリオを睨みつけながら笑顔になるという器用なことをする。


「犯人はキリオだ」


「ちょ、ちょっと待ってよ、無理よ、そんなの。あたしは、その、表彰終わった後、ヴァンの部屋に行ったし」


 最後の方は耳を真っ赤にして顔をうつむかせてごにょごにょと口ごもる。


「じゃあ、共犯だ。キリオは本当は姫なんて見てないのに、姫だったなんて言ったんだ」


「そんな」


 キリオが縋るように俺を見てくる。


「ボブ、お前のその考えは中々筋が通っている」


 だがあろうことか俺がそのボブの考えに同調するようなことを言うので、キリオは愕然とした顔をする。


 ボブも意外そうな顔をする。てっきり、普段から仲のいいキリオを庇うと思っていたのだろう。


 だが、探偵は事件を終わらせることだけ考えればいい。情は不要だ。


「実際、そう考えたら話は片付く。ただ、俺としてはこの事件が複数犯だとは思いにくいがな。こんな事件に複数人に共通して持てる動機があるとは考えにくい。だがしかし、複数犯の可能性を却下するだけの根拠でもない。さて、キリオを共犯者だと仮定しよう。だが、問題はいつ入れ替わったか、だ。その前は、ボブ、お前の表彰だったな」


「ああ、そうだ。だから、入れ替わったのは、僕の表彰が終わってからキリオが行くまでの間、か?」


 言いながらボブの言葉には自信がない。


「その場合、犯人はさっきのボブの案で言えば、式場の外で待機していたわけか?」


「い、いや、ちょっと待ってくれ。あの時は勢いでそう言ったけど、よく考えたらその案も危険だな。だって、僕と護衛が式場に入るのを窺わなきゃいけないわけだろ。けどそれを窺うってことは、逆に僕達からもそいつが見えるってことだ」


「そもそも、そいつはいつ外に出たって設定なわけ? 表彰が始まってから外に出るのは、やっぱりあたし達護衛に見つかる可能性があるわけじゃない」


 ライカが質問し、


「じゃ、じゃあ表彰が始まる前からずっと待機してたんだ。昼食には全員いたから、その後だ」


「そのタイミングとなると……そうだな。昼食の後、全員で二階に上がった後で、ヴィクティー姫とお世話係、そして王と王妃、大司教は打ち合わせをして、終わったらそのまま姫と俺達護衛は聖堂に向かったわけだ。ということは、その時に打ち合わせに参加している人間が俺達に気づかれずに外に出るのは難しいだろう」


 ジンが分析して補足する。


「じゃあ、打ち合わせに参加してない奴だ」


 条件反射のようにボブが飛び上がってそう言う。


「ええっと、そうなると」


 アルルが指で残った人間を数え始める。


「ちょっと待て。そもそも俺達表彰される人間はその時点で外に待機しておくわけにはいかない」


 当然のことだが、一応念を押しておく。


「おまけに、俺は表彰終わりに小腹が減った時に大広間でヤシャに会っている」


 レオが面白そうに含み笑いをして、指摘する。


「そうなると、残っておるのは……ん? わしだけか」


 マーリンはそう言ってから、自分で自分の発言に驚いたようにフリーズする。


「そうなりますね。先生が犯人ですか?」


 俺が質問すると、


「違うわ! 大体なんじゃ、ボブの計画はボブ自身が言うように危険じゃし、それにわしは若いもののように全力疾走ができん。護衛が式場内におる間に聖堂まで行くことができるかが微妙なとこじゃぞ」


「あん? 魔力で身体強化すればいいんじゃねえか?」


 不思議そうな顔をしてジンが言う。


「この歳で身体強化して全力疾走したら、今頃反動で一歩も動けんわい」


「ああ、そりゃそうか」


「待て、待て、そうだ」


 ジンが納得したところで、ボブが再び喋り出す。


「外で待機するっていうのが違ったんだ。ここだ、大広間だ」


 今度こそ、ボブの顔に自信が漲っている。普段の傲岸不遜なボブの顔だ。


「ここで待機しておいて、護衛達が二階に上がったのを見計らって聖堂に向かったんだ」


「見計らうって、大広間の入り口から俺達が階段を上がるかどうかをずっと見守ってるのか?」


 呆れたようにジンが反論し、


「で、その大広間に待機したのはいつってことになるのお?」


 アルルが更に疑問を呈す。


「そ、そりゃあ、ええと、ヤシャが片付けしてたわけだから、それが終わって、ヤシャが部屋に戻ったタイミングだよ。そうだ、その時に俺はちょうどヤシャとすれ違ってから三人で聖堂に向かった。そのタイミングだ!」


 謎は全て解けたとばかりに喜色満面でボブが叫ぶ。


「どうやってそのヤシャの片付けが終わるタイミングを知るんじゃ」


「え、あ、そ、そりゃ、部屋のドアから廊下の様子を窺って、ヤシャが自分の部屋に戻るのを確認するんだろ」


「なんか、ボブの推理って全部その様子を窺うって手段を使うわね。その曖昧で危険なやつ」


 思わず、といった感じでキリオが突っ込むと、ボブが凄い顔で睨む。


 そろそろ潮時だろう。ここでトドメを刺してやるか。


「大体の話が、もしもキリオの表彰までにヤシャの片付けが終わらなかったらどうするんだ?」


「はあ!? そ、そんなわけないだろ。そんなに長く片付けをするはずがない」


 明らかに狼狽えながらもボブが反論するが、


「いやいや、だってヤシャの片付けが実際に終わったのがボブが聖堂に向かう時なんだろう? 二十分ずれただけでもうアウトじゃないか」


「この表彰式が終われば卒業式までこの式場を使用する予定がないので、少々念入りに食器洗いや掃除もやっておりました。確かに長めの片付けになりましたし、もっと伸びていたことは十分にありえると思います」


 他ならぬヤシャ自身にそう言われ、


「がっ、む」


 ぱくぱくと口を動かした後で、


「そうだっ、ヤシャも共犯なんだ」


「お前、不都合なところは全部共犯だってことで無理矢理筋を通そうとしてないか?」


 さすがに呆れ顔になるレオ。


「それも考えにくい。計画的犯行である限りな」


 俺がそう返すと、全員が俺の顔を見る。

 どういう意味なのか分からないようだ。


「ああ、別にそんな難しい話じゃありません。全員が用がない限り部屋から出てはいけないことになっている。だから逆に、誰もが自由に動けてしまう。レオ、確かそんなことを言っていたな」


「ああ、確かに言ったな」


「それはほとんどの場合正しいが、当てはまらない人物も存在する。それがヤシャさんだ。他ならぬレオ、お前がそれを証明している。小腹が減ったからって大広間でヤシャさんに何かくれと頼んだんだろう?」


「ああ、確かに、そうだが」


「いいですか、皆さん。ヤシャさんは、関係者の中で唯一、いつ何時探されるか分からない人間なんです。何か用があった場合、我々はヤシャさんに頼むことになります。もちろん、実際にこの状況で次々と依頼が舞い込むかと言ったら怪しいものです。けれど、可能性はそんなに低いわけじゃない。現にレオが軽食を頼んだわけですしね。つまり、ヤシャさんはいつでも探されて用事を頼まれ、それによって大広間の片付けが遅れる可能性は当然あり、さらにヤシャさんが大広間にいる以上、ヤシャさんを探して誰かが大広間に来る可能性は常にあったわけです。ヤシャさんを共犯にしても、大広間で待機する役には立たない」


「ふむ、ふむふむ、どちらでも構わない計画だった、というのはどうかな?」


 面白そうにずっと俺達の話を聞いていたゲラルトが話に入ってくる。


「ど、どういうことだい?」


 ウラエヌス王が目を白黒させる。


「つまり、こういうことです」


 身振り手振りを交えてゲラルトが説明し出す。


「実際には、運良く大広間で誰にも会わなかったが、計画では会っても構わなかった。適当な理由をつけて、大広間で待機しておけばいいわけです。喉が乾いたとでも言ってね。そして、護衛のお二人が二階に上が、ああ、そうか、駄目ですね」


 苦笑してゲラルトは自説を引っ込める。


「誰かがいるのに、まさか大広間の出入り口からずっと玄関ホールや階段の様子を窺うわけにもいきませんか」


「分かった、分かったよ!」


 自棄になったようにボブが叫ぶ。


「俺の時に入れ替わったわけじゃなかったんだ、それでいいだろ!」


 そうしてボブは不貞腐れてそっぽを向く。


「別にそれで解決するような話じゃない。そうなれば、入れ替わったのは更にその前ということになる。ここまではよろしいですか?」


 俺の確認に反論はない。


「さて、そうなると妙なことが起きます。ボブの前は俺です。しかし、俺の表彰が終わってからボブの表彰が終わるまでの間だって同じことです。いや、むしろ実際に大広間にヤシャさんがいるだけ、更に難しい。ヤシャさん、そのタイミングで誰かが大広間に来たってことはないですよね?」


「ええ、わたくしが大広間にいる間にお会いしたのはレオ様だけでございます」


「そうなると俺の表彰よりも前。けれど、俺も姫の顔を確認している。これはどういうことか?」


「ああ、簡単だ」


 投げやりにボブが言い放つ。


「お前も共犯なんだよ、お前もキリオも嘘をついているんだ」


 あまりにも馬鹿げたボブの発言に、数人が失笑する。


 だが、俺は笑うことなく、深く頷く。


「そうだ、そうとしか思えない」


 部屋が、沈黙に包まれる。


「あの、君」


 ややあって、ゲラルトが不審げに、


「それは、自白か?」


「いえ、俺だけが使える推理の材料に、こんなものがあります。俺が犯人ではありえないことを俺は知っている、というものです」


「おい、ふざけてんのか」


 苛立ちを隠しもせずジンが貧乏揺すりを始める。


「いえ、真面目な話です。複数人が嘘をついていないと成立しそうもない事件だ、というのがこの事件に対するキリオの感想でしたが、それは正しい。俺とキリオが嘘をついていれば事件の筋が通るのです。しかし、少なくとも俺は共犯者ではない」


「何が言いたい? 悪いが、理解できない。結論を言ってくれ」


 珍しくアイスが困惑を露にする。


「ええ、つまり、俺とキリオは嘘とは気づかずに嘘をついていたということです」


「え、ど、どういうこと? あたしも、嘘?」


 キリオが頭を抱える。


「その嘘というのは、お顔を確認した、ということですか?」


 ヤシャが言う。


「いえ、違います。確かに俺は表彰で顔を見ました」


「じゃあ、その顔が知っている姫の顔とそっくりだったっていうのが嘘? 本当はそんなに似てなかったとかー?」


「いえ、あの日見たファタの像と瓜二つのお顔でした」


 アルルの問いかけも俺は否定で返す。


「それよりも前の時点の嘘です」


 そう、最初から俺とキリオは嘘をついていた。


「ヴィクティー姫のお顔を存じているというのが、嘘です。俺達は、ヴィクティー姫の顔を見たことなんてない。俺達が知っていたのは、ただ、あの日に見たファタの像の顔だけです」


「おい、いい加減にしろ、それは同じことだ。あの像と姫は」


 そこまで言って、ミンツ大司教は停止する。

 紙のように白い顔になり、言葉を止めて、ひょっとしたら呼吸まで止めているかもしれない。


「あの、像は、姫と」


 よろけながら、ミンツが立ち上がる。


 他の人間はまだ何のことか分かっていないのか、明らかに異常なミンツ大司教の様子を驚いたように見ている。


「馬鹿な、ありえん、それだけはっ、ありえん!」


 突如としてミンツが絶叫する。


「つまり」


 その絶叫に負けないように、俺は気合いを入れて口を開く。


「あの像が姫のお顔と同じ顔をしていると信じ込んだから、俺とキリオは嘘をつくことになった。そういうことです。なあ、そうだろう? あの像の顔は、ヴィクティー姫とも、聖女ファタともまるで似ていない。全くの別物の像だ」


 冷静に、できる限り冷静に喋りながら、俺は体が震え出すのを堪えながら顔を向ける。

 犯人に。


「レオ」


 俺に名指しされたレオは、いつもと同じ自信に満ちた態度で、金色の瞳を真っ直ぐに俺に向ける。

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