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なにも起きないはずの夜1

 ニャンとビンチョルを閉じ込める部屋は、すぐに決まった。というより、そこしかなかったのだ。まず、重要な研究対象である予言機のある部屋、それにつながる警備室、飲食物やお湯をわかす設備などがある研究室、このへんは考えるまでもない。


そして、いつ潜水館の迎えが来るか不明である以上、交代しながらでも休まないわけにもいかないし、トイレやシャワーも使いたい。だからバスルームと寝室ルームは監禁には使えない。そこに近すぎるし、必須物資もあるから倉庫2もだ。


 こうして、倉庫1に二人を閉じ込めて、多目的室に交代で見張りを置く、ということで話が決まる。


 ビンチョルは不満そうだったが、ニャンはこっちの決めた監禁場所へとすんなりと進んでいく。全員で確認の上、扉を閉める。外から鍵をかけられるようにはなっていなかったので、備品にあった金属の棒をつっかえ棒のようにして、更に同じく備品にあった鎖で何重にも巻く。


 ちなみに、その作業中に簡単に情報共有をしていると、どうやらこの研究塔内にいる人間は全員、ヴァンからドラゴンイーターと聖遺物については聞いているらしい。その研究をしているのだから当たり前か。


 見張りは、探偵士でもあるイースター、警備担当のエーカー、そして魔術師としての戦闘力で言えばおそらくトップクラスのはずのヴァンの三人が交代で行うことになる。


「タリィは一緒に倉庫に放り込んでおいてもいい気がしますが」


 鎖を巻き終えたくらいにイースターが言うが、


「それやってもいいけど、多分タリィは喜ぶだけだと思うよ」


「そうだそうだ。俺をさっさと彼女と一緒に閉じ込めるがいい。語りたいことがたくさんある」


 ヴァンの冷静な一言と、タリィの補足。そして、


「つうか、この鎖外してからまた巻くの、嫌だぜ、俺」


 というエーカーの正直な感想のためにその提案は立ち消えとなった。


「さてと、それじゃあ、本命いきましょうよ」


 閉じ込める作業が終わった頃に、少し楽しそうな様子のメアリがとことこと歩いていく。もちろん、目的地は分かっている。予言機だ。


「最初は私が見張りをしておきます。頼みます」


 そう言って多目的室で鎖に巻かれた扉と生真面目に対峙し、構えているイースターを残して、他は全員予言機へと向かう。


「色々と不確定な要素が起こったから、一応もう一度スイッチを押して未来予測し直した方がいいんじゃない?」


 これまでほとんど喋っていなかったルイルイが、部屋に着いた途端に冷静さを見せる。


「いや、その必要はない」


 だが、タリィは切って捨てる。


「は? 何でよ?」


 メアリが噛みつくと、


「簡単な話だ。凡人にも分かるように説明してやるとだな、やつらは潜水館からの荷物に紛れて入り込んだのだろう? だとしたら、さっきスイッチを押した時点で研究塔内にいたことになる。ならば、予言に支障はない。現に、予言機はあの二人の侵入者を予言していた」


 確かに。


「それ以降、ニャンを閉じ込めたりと色々あったが、どれも研究塔内のことだ。つまり、あの時にスイッチを押して未来予測をした時から、変更はないということだ。ここまで説明すれば凡人にも分かったか?」


「言ってることは正しいんだろうけど、でもやっぱ気持ち悪いから押しとこうぜ」


 どちらかというとタリィの態度にむかついただけであろうエーカーがそう言ってスイッチを押す。


「あっ、おい、エーカー」


 タリィが顔をしかめるが、全員無視する。


「さて、それでは予言機に確認いたしましょう」


 年長者らしく、エジソンが宣言してから一歩前に出る。


「予言せよ。特筆すべき事件は起こるか」


『――起こらない』


 ん?


 全員で顔を見合わせる。


「どう、思います?」


 ディーコンが首を傾げる。


「簡単じゃない。あのいかれ女、閉じ込められて何もできないってことでしょ」


 メアリが単純な答えを出す。


「ちょっと待て……。少し、考える」


 さすがに真剣な顔になったタリィが周囲を黙らせた後、


「……予言せよ。閉じ込められたニャンとビンチョルは、部屋から脱出するか?」


『――しない』


「馬鹿な、あの、ニャンが……失敗……?」


 周囲がほっと安堵の息をつく中、タリィだけが愕然としている。


「この予言が外れる可能性は?」


 冷静なルイルイの質問に、タリィは気を取り直して、


「ああ、それは、ありうる。ありうるが……」


「外れる要素は、予言を聞いたことによるもの、もう一つは範囲外つまり研究塔の外からによるもの、この二つだけだ。そのはずだよね」


 ヴァンの確認に、研究主任であるタリィは頷く。


「そうだ。そして、今の予言をニャンとビンチョルは聞いていない。この後、研究塔外から何かが起こらなければ、基本予言は外れることはないはずだ」


「じゃあ、今日のところはとりあえず安心ってことかよ」


 だはあ、とエーカーは大きく息を吐く。


「そう、ね」


 ずっと冷静さを崩していなかったルイルイも、ようやく少し緩む様子が見える。


 だが。


「……いえ」


 エジソンが固い顔をして、その流れを止める。


「念のため、もう何度かスイッチを押して同様の作業を繰り返しましょう」


「え? ええっと、あれですよね、飽和予言ってやつですよね? どうしてですか?」


 まるで意味が分からない。


 僕と同様に混乱する全員の中で、ヴァンだけが、ため息と共にエジソンの提案に頷く。


「そうね。やっといた方がいいでしょ、念のため」


 不審さを露わにしてルイルイが、


「飽和予言は、予言を聞いてしまったことで予言が外れることを防ぐテクニック。さっきも言ったように、この場にいないニャンとビンチョルは知ることがないから、あの者たちに予言を外すことなんてできるはず、が……」


 言っているうちにルイルイの顔が曇る。


「そう。この場にいる、予言を聞いた人間なら、予言を外すことができる。今の予言をニャンに伝えたりね」


 ヴァンの言葉に、全員の視線がタリィを向く。


「おいおい、信用されてないな……まあ、当たり前だけど」


「とりあえず終わったらタリィはロープでぐるぐる巻きにして寝室エリアの隅にでも放り込んでおこうぜ」


 エーカーの提案に反対する者はいない。


 そうして、念のためにということで飽和予言――つまり、何度もスイッチを押して未来予測をさせてから、同じ予言を聞く。

 内容は、ずっと同じだった。すなわち、ニャンたちは部屋から脱出しないし、事件も起きない。そういうことだ。


 安心できるはず。それなのに、むしろ不安で仕方がない。顔を見る限り、それは僕だけではなく、その場にいる全員がそうであるようだ。

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