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過去4

いよいよ、『異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件』発売です。

よろしくお願いいたします。


……それに合わせて読者への挑戦、という予定はどこへやら……全然話が進んでいなくて申し訳ございません。

 辿り着いた部屋には、大勢の係員、そして平素よりも多少青白い顔をした、それでも冷静さを保っているウーヘイがいる。奇妙なことに、それだけ大勢の人間が詰めているのに、部屋はしん、としている。誰もかれもが口をつぐみ、怯えているようだ。


「……ヴァン」


 覗いているヴァンの姿に気付いたウーヘイが名を呼び、その場にいる全員が一斉にこちらを向く。正直びびる。怯えて二歩、三歩後ろに下がる。


「どうした?」


 いや、こっちのセリフだ。そう思うが、軽口をたたく場面でもないらしいので。


「いや、どうも、妙な雰囲気があったんで……」


「なかなかの嗅覚だ」


 感心しているのか、それとも皮肉か、分かりにくい口調のウーヘイは周囲の係員に目配せをしてから、部屋から出てくる。


「……おあつらえむきだ。この状況下で相談するなら、ヴァン・ホームズ以外にはありえない」


「何か、あったの?」


 無言でウーヘイは出てきたばかりの部屋を、親指で指し示す。その先には大勢の係員、その中央にある金庫がある。見覚えのある金庫。そう、開会式で『黄金の瞳』が入れられた、あの金庫だ。


 金庫は開けられているし、そして、その中には、何もない、ように見える。もちろん、遠目に見ているだけだから、見えにくいだけということも考えられる、が。この雰囲気、ひょっとして。


「例の、セイバー、か?」


「多分、な……少し歩こう」


 冷静を装いながらも実はかなり焦っているらしく、ウーヘイは結構な力でヴァンの肩を掴むと歩き出す。


 半ば強引にウーヘイに連れていかれるようにして、人の気配のない方へない方へと、つまり試合会場とは遠ざかる方向へと廊下を歩いていく。


「あの例の予告状通り――『黄金の瞳』が盗まれたってこと? えらいことだね」


「責任者はクビだな……文字通り」


 ウーヘイは自分の首に手刀を当てる。


「それは気の毒に……予告状を受け取っていたのに、対策しなかったからその責を、って?」


 実際、セイバーという怪盗の名を聞いたことはない。そんな無名の人間からの盗難の予告状が届いたからといって、どこまで本気で警戒すべきかは難しいところだろう。予算を使って必死で警戒して予告状がいたずらだったら、それはそれで責任問題になりそうだ。その意味では、


「ウーヘイはうまくやっていたと思うけどね。『黄金の瞳』の盗難の警戒を、この大会の開会式の演出と結びつけた。あれなら、わざわざ厳重な金庫に入れても文句を言う奴はいない」


「その金庫から『黄金の瞳』が盗まれていたら世話はない」


 そりゃそうだ。


「で、一体どうやって盗まれたの?」


 多少、声量を落としながら問いかける。もちろん、周囲には全く人の気配がないのを確かめた上で、だ。


「全く不明だ」


 だが、返答はそんなどうしようもないものだった。


「どういうこと?」


「言うように、確かにあの閉会式の演出は、警備上の意味もあった。衆人環視の中で、確かに『黄金の瞳』は金庫に入れられた。そうだろう?」


「ああ、それは俺も見たよ」


「そして鍵は、四人に分けて渡された。今も持っているだろう?」


「もちろん」


 懐の鍵を触って確かめる。確かにある。


「ということは、あの金庫は誰にも開けることはできない――いや、開けることはできない、となっている。」


「何、それ?」


「つまり、こういうことだ」


 ウーヘイが懐から出したものは、一瞬ネックレスか何かに見える。細い鎖が、首に掛かっていたのだ。そして、その鎖には四本の鍵が通されている。


「……合いかぎってこと?」


「ああ、そうだ」


「まあ、そりゃそうか。よく考えれば、そうだよね。合いかぎは必要だ。試合で、誰かの持っている鍵が破損でもして金庫を開けることができなくなったらとんでもないことになるもんね」


「この合いかぎのことを知っているのは、ここから遠くに住む金庫を依頼した職人以外、自分だけだ。誰にも話していなかった。つまり、俺からこの合いかぎを奪って金庫を開けようという発想はありえないことになる」


「ふむ」


「確かに衆人環視の中で『黄金の瞳』を金庫に入れた以上、俺以外の人間にとって、あの宝玉を奪おうと思ったらヴァン、オーキ、イワン、ソラ、この四人全てから鍵を奪うしかなくなる。これ以上ないセキュリティだ。少なくとも金庫を開けるまでは。これで完璧だ。そう思っていた。優勝者に渡した後に奪われたのなら、俺の責任じゃあないからな」


 なかなか率直な意見を最後に付け加えてから、ウーヘイは足を止めると廊下の壁に寄り掛かる。


「ところが、だ。開会式の後、つい先ほど俺は金庫の中身を確認した……さすがに、賞品授与の時に初めて確認、で問題があったらおしまいだ。それで確認したところ――」


「金庫が空だった、と?」


「それで係員を呼んで、状況の説明とこれからどうするかの相談をしていたところだ。この大会を中止するわけにはいかない。ヴァン、知恵を貸してくれないか? 一体、どうやってこの状況で金庫の中から『黄金の瞳』を盗み出せる? 犯人は誰だ?」


 少しだけ考えてからヴァンは、


「とりあえず話を聞いた限りだと……犯行が可能なのは一人だけだね」


「……誰だ? 教えてくれ」


 そのウーヘイのリクエストに応えて、ヴァンはまっすぐ指を突き付けて、


「もちろん、ウーヘイだよ」

『異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件』購入特典については活動報告にて書かせていただいております。よろしかったら是非。

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