シンダイへ
「で、どうして僕がここに来ているかというとですねえ」
冬のイスウは想像以上に寒い。防寒着に包まれた状態でも震えながら、ココアは説明をする。
「ヴァンさんに呼び出されたんですよ。どうしても、寄り道しなくちゃいけないところがあるから、先に行って情報収集しておいてくれって。まったく、記者を何だと思ってるんですかね」
文句を言いつつも結局それに従ったのは、ココアの善意などでは当然ない。「ひょっとしたらこの事件、相当のでかい真相が隠れている可能性がある。それをお前が一番に記事にできるぞ」というヴァンの殺し文句にやられたのだ。編集長からは二つ返事でOKをもらった。ココアがヴァンの頼みを聞いてどこかに行く都度、特ダネをものにしてきている実績があるからだろう。
「まあ、気を使ってくれたんすよ、きっと。こっちもさっさと現場を片付けたいのはやまやまだったっすからねえ」
苦笑しつつ宥めてくれるイスウの探偵士――眼鏡をかけた女性で、アオイ・エンドウというらしい――の横に座り、僕は馬車に揺られている。馬車の外は白一色。イスウ国でも北のペース国との国境地帯であるトゥース地方は、寒さが一層厳しい。そうは聞いていたが、実際に来てみると想像以上だ。馬車の中にいても寒い。下手をすればペースよりも寒いかもしれない。タイプが違う。突き刺すような寒さであるペースとは違い、体の奥にしみこんでくるような寒さだ。
車窓から見える風景が雪で真っ白なのはいいとして、さっきからどんどんと建造物が減り、山や田畑が増える一方なのが気になるところだ。そんな僕の顔色を読んだのか、
「まあ、心配しなくても現場のシンダイはトゥース地方では一番発展してる町っすよ。この光景を見て不安になるのも分かるけど心配しすぎっす……トゥース地方自体がはっきり言って超ど田舎っすからたかが知れてるけど」
アオイがぽそりと最後に付け加える。不安になる。
とはいえ、わざわざ僕を迎えに来るために何往復もしてくれているアオイさん――多分歳上だ。童顔だからよく分からないけれど――に文句を言えるはずもない。どんな不便な場所だろうと、粛々と取材をするだけだ。
しかし、気になるのは。
寒さと馬車の揺れのどちらか、あるいは両方のために体を震わせながら、僕は考える。
事件そのものよりも、ヴァンの動きだ。かなりこの事件のことを気にしているようだった。それなのに、こちらの捜査への参加を遅らせてまで、一体何の用事があるというのだろうか。