面会1
事件現場――シンダイからここはあまり離れていないはずだ、と頭の中で世界地図を浮かべて整理する。向こうはイスウ国、こちらはペース国ではあるが、ここも事件現場も国境付近だ。さっさと終わらせて現場に向かえば、そこまでの遅れにはならないはず。
何度も確認したこともまた頭の中で再び計算している。気が急いているのだろう。自覚はある。ヴァンは自分が貧乏ゆすりをしているのに苦笑する。
「お待たせして申し訳ありません」
待合室、木組みの長椅子に座って待っているヴァンの横に立っているイースターが言う。
「いいよ。色々手続きとかあるんでしょ。それより座ったら?」
見上げてそう言うヴァンだが、
「いえ」
とすげなくイースターに断られる。
「……一つ、訊いていい?」
「どうぞ」
「今回の事件――あっちで起こったことも、ここでのことも、どちらもシャーク国は関わってない。でしょ? 今俺たちがいるのはペース国だし、例の事件が起きてるのはイスウ国だ。どうして、イースター君が?」
シャーク国の宮廷探偵士であるイースターがどうして関りがあるのか。どうせ暇ならその時間を使って、それを確かめておきたい。正直、何となく答えは分かっているが。
「今回我々がこの事件に介入しているのは、上の方の意向です。ペース、イスウ共に話はついているそうです。詳しいことは、何も。ただ、かつてあなたが――あのヴァン・ホームズが関わった事件と関係しているから、介入する余地がある、ということしか」
「ま、だろうね」
頷く。そういうことだろう。それに、過去のあの事件が関係しているのだとすれば、裏の事情はなくともイスウ、そしてシャークの探偵たちは、少なくとも情報提供者としてはヴァンの協力は欲しいはずだ。その意味で、ヴァンが事件にスムーズに関われるようにシャークが国を挙げてサポートすること自体は、そこまで妙な話ではない。自分で言うのもなんだが、ヴァン・ホームズは世界的に高名な元探偵であり、シャークの大貴族なのだから。
「逆に、あなたは何かご存知では?」
生真面目な、しかし鋭い目がヴァンに向かって見下ろされる。
「さあ、けど、予想はできる。インコグニート案件だろうね」
「インコグニート? 王家直轄の我が国の諜報機関ですか? 噂には聞いたことがありますが……本当に実在を?」
「それは――」
答えようとしたところで、待合室に係員が入ってくる。
「お待たせしました。準備が整いましたので、こちらへ」
イースターと目を見合わせた後、ヴァンは頷き立ち上がる。そして係員の後をついていく。ドアを三度くぐったところで、目的地に着く。
狭い、殺風景な部屋。屈強な二人の男に挟まれて、一人、貧相な男を座らせている。その前にはテーブルをはさんで、もう一脚の椅子。それにヴァンは座る。
「久しぶりだね」
言いながら、ヴァンは目の前の男を観察する。記憶はおぼろだが、確かに間違いなくあの男だ。だが、記憶の中の姿とは大分違う。ぼさぼさの髪は伸び、無精ひげが生えている。全体的に痩せており、そのせいか皺が強調されていて、ぐっと老け込んでいるように見える。実際、老け込んでいるのかもしれない。目はどろどろに濁っており、表情に一切の覇気はない。それでも、目の前にヴァンが座ると目を瞬いて喉を鳴らす。反応はある。
「……ヴァン、ヴァン・ホームズか」
しわがれた声。やはり、記憶の中のそれよりもずっと老けている。
「なんて様だ」
そんなことを言うので、
「そっちに言われたくない」
と笑ってしまう。




