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異世界の名探偵(旧題:ファンタジーにおける名探偵の必要性)  作者: 片里鴎(カタザト)
ドラゴンイーターあるいは黄泉がえる首無し姫の問題 出題編
165/345

探偵が推理するまで(4)

連続投稿 4/5です。

 多数の兵士の監視の元、誰もが窮屈そうに椅子に座っている。


 大広間1に入った俺達は、迷うことなくまだ顔色の悪いアオイへと近づく。


「アオイさん」


「う、うっす」


 声に元気がない。


「鞘のことなんですけど」


 俺がそう言うと、目に見えて更に沈んでいく。


「詳しく説明してくれますよね。もう、親衛隊の人達には話したんでしょう?」


「分かったっす」


 諦めたようにため息を吐き、アオイは話を始める。





 怨公が消えた騒ぎの時、鞘を思いきり踏んで転んだ。

 全てはそこから始まったのだという。

 アオイは自分が大いに転んだ後、あの鞘のことはすっかり忘れていた。いや、忘れようとしていたのだ。

 何故か?

 あの時は動転していたし、状況が混乱していたからあまり確かではないが、転んだ時に鞘が少し歪んだような感触がかすかにしたらしい。金属製の鞘ではあるが、おそらく偶然にもてこの要領で大きな力が加わったのだろう。

 ともかく、その嫌な感触が脳裏にあったため、あえて鞘のことを意識から外そうとしていたらしいが、マサカドに鞘を持ってくるように言われて、動転する。

 結局、見張りの兵士に頼み込んで嵐の中、転がっていた鞘を拾ってみると、やはり歪んでいた。他の物ならいざしらず、剣の鞘ともなると、歪んでいては剣が入らないかもしれない。

 そこからはアオイは完全にパニックになり、城内を走り回る。誰もいないところで逆に力を加えて鞘を元に戻そうとしたらしいが、かえって歪みが酷くなる始末。

 そして、いよいよ追い詰められたアオイは。


「どうにかして、凄い力でまっすぐにできないかと思って、あたしはあの竜の彫像を思い出したんす」


「まさか」


 俺は顔をしかめてしまう。話がどういうオチになるか分かったからだ。


「あの彫像の竜の口にこの鞘をくわえさせれば、まっすぐになるんじゃないか、なんて思って」


 実際にそれをしたわけだ。


「結果が、あれか」


 見事に曲がり、つぶれ、亀裂すらはしっていた惨状を思い出す。


 アオイは小さくなっている。


「あっ」


 そして、もう一つの謎も解ける。


「じゃあ、あの空き部屋の金属粉と足跡も、それか」


「それ、ジャンゴさんにも言われたっす。多分、そうっすね。外に出て、嵐でずぶ濡れになっていましたから。空き部屋で鞘をくわえさせた時には、走り回っているうちに乾いていたつもりだったんすけど、多分まだ濡れてたんすね」


「あの金属粉は、鞘が破壊された時に出たのか」


 あまりにも間抜けな結末に肩を落とす。


「ぐちゃぐちゃになっていく鞘を慌てて力任せに引き抜いてから、またパニックになっちゃって、あたしはその鞘を何とか服の下に隠して、今度は一階の倉庫に行ったんです。それで、とにかく隠さないとってそれだけ思っていたから、その倉庫に鞘を投げ込んで、走って逃げだそうとしたところで」


「頭を打って記憶喪失になったわけだ」


 何ていう馬鹿げた話だ。


「鞘を投げ込んだ時に、ちょうど扉に引っかかって閂のような役割をしたわけだな」


 ともかく、これであの扉が開かなかった理由は分かった。下らない理由だが。


「と、すると」


 だが、そうなると次の疑問が湧いてくる。


「やっぱり、マサカドはどうやってあそこから消えたんだ?」


 結局、疑問はそこに戻っていく。


 次は、ゲラルトだ。

 どうして、話を長引かせるようなことをしたのか。

 俺の疑問に、ゲラルトは簡潔に答える。


「不死公の予定を狂わせるためだ」


 この答えには、一緒にいたはずのウーヘイも驚いたようで、


「どういう意味だ?」


 と詰め寄る。


「そのままの意味だ。ウーヘイ、君は疑問に思わなかったか? あのタイミングで、シロナとマサカドを呼ぶことに」


 そう言われて、ウーヘイは黙る。


「理由を訊いても教えてはくれない。だが、どうも妙だ。だから、揺さぶってみたんだ。予定が狂えば、奴が崩れるかもしれない。あるいは、無理に僕を部屋から出すようなら、相当に重要な用件があの二人にあるのだと推測できる」


 そこで息を吐き、ゲラルトは全身の力を抜きだらりとする。


「僕の小細工のせいで一人、死んでしまったわけで、責任は感じているよ」


 あの二人に何の用があったのか、不死公には確認が必要だな。


「そう言えば、あの時の不死公の叫びは二階にも届いていたんですか?」


 俺の質問に、


「ああ、聞こえていた」


 ボブが大きく頷く。


「僕達も兵士も、全員が一階に殺到したぞ。ああ、一人、そこの腰抜けだけはずっと部屋にいたみたいだけど」


 そう言ったボブが指をさすのは、意外にもレイだ。


「レイさん、が?」


「事実だ」


 レイは固く頷く。


「反射的に、罠かと疑ってしまった。それだけだ。他意はない」


「いつまで部屋にいたんですか?」


「そうだな。叫びが聞こえ、続いて轟音。それから一階が大いに混乱したのが聞こえた。その混乱が少し落ち着いたくらいに、部屋を出て一階に下りた。そう思ってくれ」


 なるほど。


「あ、ちなみに、二階から一階に下りた人で、俺達が空き部屋に集中している時に動いているマサカドさんを見た人っているんですか?」


 そう言うと、ボブ達も兵士達も顔を見合わせる。


「多分、二階で真っ先に反応して誰よりも早く下に駆け下りたのはあたし」


 手を挙げるエニ。


「けど、あたしが階段を駆け下り始めた時にちょうど轟音がしたから」


 つまり、扉が壊されたタイミングがそこか。それでは、やはりマサカドが本当に貴賓室から出てきたのかどうかを見ている人間はいないわけだ。


「参ったな」


 材料が足りない。ともかく、不死公に会おう。





 いったん、キリオとマーリンには大広間にいてもらって、ウーヘイと二人で詰め所に向かう。

不死公は相変わらず直立不動のまま、腕をローブの中で組んでいる。目を閉じて微動だにしないその姿は、彫刻のようだ。


「食事もおとりになりません」


 見張り役の兵士がウーヘイに囁くと、ウーヘイは無言で頷く。


「別に断食で抗議しているわけではない。ただ、座る気にも食べる気にもならないだけだ。心配するな。私はドラゴンイーター。死ぬことはない」


 そして、目を開く。


「ヴァン、君は何か私に話をしに来たのだろう? 時間がないようだ。早く始めよう」


「ああ、そうですね。じゃあ、単刀直入に。どうしてシロナとマサカドさんを呼び出したんですか?」


 あまりにも単刀直入にすぎたのか、不死公は一度目を丸くしてから、


「それを、簡単に私が話すとでも?」


「話さないんですか、この状況で? 意味がないですよ。それに、話してくれるなら、例の倉庫の扉の真相を教えます」


 確か、不死公も気にしていたはずだ。


 冗談半分のような交換条件だったが、不死公は少し考えた後、


「分かった。それでは、まずは倉庫の扉の話を先にしろ」


 と言う。


 俺がいかにしてアオイがあの扉を開かなくしたのかの説明をすると、


「まったく、馬鹿馬鹿しい」


 と全く同感のコメントと同時に不死公はため息。


「ということで、やっぱり空き部屋から倉庫のルートは使えないようです」


「そうとも言えん。むしろ、そのルートを選んだ可能性が高くなったように思う」


 だが、不死公はそんなことを言って安心した顔をする。


「考えてもみるがいい。その扉は、偶然に引っかかって扉が開かなくなっただけだ。ということは、逆に何かの偶然でその扉が開くようになることも考えられる。何度も扉を開けようと押し引きしているうちに鞘が外れて、扉が開くようになる可能性はゼロではあるまい」


「まあ、そうですね」


「一度開いてしまえば、その倉庫はまさに潜むのにうってつけだ。物は多く薄暗い。おまけに、もう一度中から鞘で扉を開かなくしてしまえば、空き部屋の方から倉庫に入ることはできない」


「ふうん、なるほど」


 そういう考え方も、あるか?


「とりあえず、そこのあたりは宿題ということで。で、シロナとマサカドさんを呼んだ理由を教えてください」


「いいだろう。簡単に言えば、あの二人が今回の事件、怨公が現れ、そして消える事件を企んだのではないか、そう思ったからだ」


 トカレフの意見とほぼ同じだ。

 怪しいのは、シロナ、マサカド、そしてキリオ、か。そのうちの二人に不死公が目をつけていた。それはおかしなことじゃあない。


「トカレフさんも同じようなことを言っていました。理由も聞いています」


「そうか。ともかく、あの二人を呼んで確かめようと思った。それだけだ。今回の事件、素直に考えるなら、私をナムト国から出してしまうためのものに思える。その最終的な目的は、私の殺害」


 俺はウーヘイと顔を見合わせる。

 今度は、ヘンヤの意見と一緒ってわけだ。考えることは誰しも似通ってしまうものなのかもしれない。


「部屋に呼んでしまえば、私を殺そうと尻尾を出すかもしれないだろう?」


「ドラゴンイーターを殺せるものですか?」


 素朴な俺の疑問に、


「君だって殺せる。そのための道具を、持っているんじゃあないのか?」


 思わず胸を押さえる。

 懐には、木箱が入っている。その木箱の中にあるのは、アイスから預かった不死殺しの短剣。


「奴らが怨公の派閥だというなら、そのための道具をもっているはずだ」


「逆に、尻尾を掴むどころか本当に殺されてしまうとは考えなかったんですか?」


「ん? ああ、そうか。そうやって、普通は恐れるものか」


 そこで、はっと気が付いた顔をして不死公がまじまじと俺の顔を見る。


「そうだ。普通は、死ぬことをそんな風に恐れるものだったな。長く生きすぎて、忘れていた」


 感覚のずれがここまで来ると、もう別種の生き物、別種の存在だ。

 不死公に礼を言って、その場を離れる。


「ウーヘイ、夜が明けました。嵐も止んだそうです」


 詰め所を出たところで、ウーヘイが兵士に話しかけられる。


「そうか……どうする?」


「とりあえず、屋上に行くよ」


 一度、調べてみたかったんだ。

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