表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の名探偵(旧題:ファンタジーにおける名探偵の必要性)  作者: 片里鴎(カタザト)
ドラゴンイーターあるいは黄泉がえる首無し姫の問題 出題編
155/345

迷走(2)

 イスウ国とペース国の兵士は近くの宿で眠らせることになった。


 城内の警備体制も話し合いの末に決まった。

 城内は親衛隊が警備をする。二人一組で二組が城内の警備。そして、城の入り口の扉は締め切って、その傍には内側で常に二人が立っているようにする。

 不死公は貴賓室に。その貴賓室の扉の前にも二人が立っている。もちろん、倉庫に繋がるのではない方の扉だ。

 そうして、俺達は男は見取り図で言うところの大広間1、女は大広間2に閉じ込められる。こちらは、それぞれの出入り口に一人ずつ兵士が立つ。さすがにこの近距離で二人ずつ立つ意味はないからだ。

 つまり、基本的にどれも二人一組。交代制で、一時間ごとに、一階と二階、それぞれで休憩している別の組と入れ替わるそうだ。そのシフト等は、半分は親衛隊側が決め、もう半分はトカレフとマサカドが即席で決めたものを組み合わせている。これも話し合いの末に決まったことだ。

 つまり、不死公と親衛隊陣営と、それ以外の俺達の陣営。それぞれが、お互いの陣営のことを全く信用できていないことが浮き彫りになったわけだ。

 警備体制や、誰がどのタイミングで警備をするかということも含めて、互いの命綱になる。片方の思い通りにさせていてはまずい。双方がそう思った結果、互いに思い通りにならなような警備の仕組みができあがったわけだ。


 結局、屋上の調査も後回しになった。

 まあ、大嵐の中で調査をしても危険なだけだし、妥当なところか。


「僕達が軟禁されるなんて、不愉快極まりないな」


 ボブは大広間の中を足早に行ったり来たりして落ち着かない。


「まあ、不本意は不本意だが、しょうがない。向こうも必死なんだろう。で、ウーヘイ、お前がお目付け役か?」


 相変わらず真っ赤に熱している抜き身の焔をぶら下げて、マサカドが部屋の隅で佇んでいるウーヘイに言うと、


「お前達が武器を取り上げるのを反対するからだ。お前達全員が暴れだしたなら、廊下にいる親衛隊二人だけでは心もとない。即座に俺が手を下すしかない」


「ひひ。俺に勝てるってことか、そりゃあ?」


 にやりと笑ってヘンヤが冗談めかして刀を抜く素振りをする。


 身体検査は受けた。

 だが、その代わりにトカレフとマサカド、そしてゲラルトの強固な主張によって、武器の携帯は継続した。最初は、不死公は全員の武器を取り上げることを望んでいたが、それはこっちとしてもできない相談だ。特に、刀を持ったヘンヤはこっちの命綱とも言える。ヘンヤが刀さえ持っていれば、最悪、不死公が俺達を皆殺しにしようとしてもある程度は対抗できるだろう。


 しかし、こう考えると気が滅入る。どうして、互いにここまで信用できないのか。

 いや、元々、信用の欠片もない状態だったのか。国に秘密で裏の仕事を請ける連中と、そんな連中に仕事を依頼するどこまでが真実なのか分からない人を超えた存在。互いに信用できるわけもない。


「ずっと刀を抜いていることはないだろう」


 近くにいるため暑いのか、忌々しげに右の眉を上げてレイがマサカドに抗議する。


「ん、ああ、焔か。そうだよな、そりゃあそうだ。俺だって暑い。けど、しょうがないんだよ。鞘がないんだ」


 そう言えば、確かに鞘自体がない。


「俺、どこにやったっけ?」


「投げ捨ててなかったかい、爆発音がした時に」


 椅子に座って物憂げに足を組んだゲラルトが言う。

 そうだ、そうだった。それで、確かアオイが。


「ああ、そうだ。アオイが思いっきり踏んづけて転んでたな」


 マサカドが笑う。思い出し笑いか。


「分かった分かった、じゃあ、明日にでもアオイに拾わせに行かせよう」


 今からは無理だろう。部屋から出るのすら難しそうなのに、いったん城の外に行かなければならないわけだ。おまけに、今は嵐。とはいえ、自分で拾ってくればいいのに、とは思うが。


「おい、目付け役。向かいの女性部屋に行ってもいいか?」


「駄目だ」


 だがウーヘイの返答はにべもない。


「それくらいいいだろう? 信用できないなら、お前も一緒に来ればいい」


「駄目だ。マサカド、お前というのが特にまずい。お前とゲラルト、そしてトカレフ。この三人には最大限の注意を払えと言われている」


 同じ七大探偵のはずなのに外されている俺とジャンゴは顔を見合わせて同じように渋い顔をする。

 何だか、悔しい。


「じゃあ、ヴァン。悪いが、お前が伝えてきてくれ」


「えっ」


 俺かよ。どうしてそんなパシリみたいなマネを、と思ったがよく考えればそこで向こうの女性陣と色々話すのは無駄にはならないだろう。こっちの連中からはいつでも情報が集められるだろうが、向こうには確固たる用も無しに話を聞きに行きにくい。チャンスと思えばいいか。とにかく、意味が分からない状況だ。情報は集められるだけ集めたい。

 しかし、一人で女性部屋に行くのも少々気まずい。

 誰かを頼ろうと見回したが、こんな時に頼りになるような奴はいない。ヘンヤはマサカドが動かそうとはしないだろうし、マーリンをこんなことで動かすわけにもいかない。一応、恩師だ。ゲラルトはそもそもマサカドと同じく要注意人物だし、目付け役のウーヘイが動くはずもない。

 ジャンゴを見ると、舌打ちをして顔を逸らされる。完全に拗ねている。


 残った二人と何となく目が合う。

 ボブとレイ。どういう組み合わせだ。


「何だよ、おい?」


 俺の視線を受けてボブが文句をつける。


「いや、できれば、一緒に来て欲しいかな、なんて」


 どうせ来ないだろうと語尾を弱くしつつ言ってみると、


「たった数歩、部屋から出て動くのが怖いのか。信じられない臆病者だな。しょうがない、僕が着いていってやろう」


 意外にもボブが胸を張る。どうやら、俺に頼られるのがかなり気分がいいらしい。


「俺も行こう」


 どういうつもりか、レイも立ち上がる。


「少し、トカレフと話したいこともある」


 この三人で行っていいかどうか問いかける意味を込めてウーヘイに目をやると、少しの間だけ考えていたがすぐに頷く。

 いいみたいだ。


 じゃあ、ということで俺、レイ、ボブの三人で部屋を出て、そこにいる親衛隊の二人に軽く会釈をして、そのまま女性部屋に入る。

 親衛隊はただ見ているだけだ。それはそうか。彼らからすれば警戒する必要はない。というより、現時点でおそらく俺達全員が怨公の信奉者だというケースまで想定しているはずだ。今更、男性部屋から女性部屋に俺達三人が入ったからといってどうということもない。


 座って談笑していたらしい女性陣は突然入って来た俺達を見て、驚くよりも先に怒り出す。


「ちょっと、女性のとこに来るのにノックもしないってどういうことよ!」


 先陣を切って怒り出すのはキリオだ。俺に指を突きつけてくる。

 別に、個室じゃなくて大部屋から大部屋に入っただけなんだから別にいいだろう、と思うがキリオの後ろでトカレフも鬼のような形相をしているから何も反論できない。


「そうそう。どうしてもあたしに会いたい気持ちも分かるけどさあ」


 ちらちらと横のキリオを見ながらエニが口を猫のように歪ませると、


「ああ?」


 思い切りキリオが睨みつける。

 怖い。


 何となく思うのだが、おそらくエニはキリオを気に入っている。だから、からかっているのだろう。ただ、キリオは基本的に毎回本気で怒っているのだとは思うが。


「おい、どうでもいいだろ。さっさと話をすすめさせてくれ」


 と、俺の後ろにいたボブが恐るべき面の厚さで言い放つ。何て頼りになる男だ。


「デリカシーの無い男どもだな」


 呆れた顔をしてトカレフがため息をつくと、それで女性陣がこちらの話を聞いてくれる雰囲気になる。


「あ、ああ。ノックもしないですいません、皆さん。いや、実は俺はただのメッセンジャーなんですよ。ええと、アオイさん」


 名前を呼ばれて、アオイが怪訝そうに眉を寄せる。


「え、なんすか?」


「あの、マサカドさんが、鞘を持ってきて欲しいって」


「あー、鞘、っすか」


 口調はそこまで変化がないが、明らかに顔色が悪くなっている。どうした?


「鞘ね、了解っす」


「鞘、何のこと?」


 我関せずといった様子で後ろの方に控えていたシロナが、興味を持ったのか顔を突き出してくる。


「見てないか、ほら、マサカドの焔の鞘だよ」


 ボブの説明に、思い出したような思い出していないような微妙な顔をしてシロナは首を傾げる。


「ああ、投げ捨ててた」


 その一方でキリオはぽんと手を打って、


「すっ転んでたわね、アオイさん」


 思い出し笑いか、キリオも少し顔をほころばせる、が。


「あはは」


 明らかに覇気が足りない声で当のアオイは愛想笑いしている。どうも、いつもの面倒なまでの元気のよさがないな。


「まあ、わかったっす。ひとっぱしり、鞘を取りにいってマサカド団長に渡せばいいっすね」


「そんなに自由に行動できるのか?」


 親衛隊が許すとは思えないが。


「大丈夫でしょ。正直なところ、あたし達のことはそこまで警戒してないわよ、あの人達」


 ひらひらとエニが手を振る。


「結局、目が届く場所に置いておきたいのは、何かを企んでいてもおかしくないマサカド、ゲラルト、それからここにいらっしゃるトカレフ女史くらいでしょ」


 トカレフは黙って肩をすくめることでその言葉に応える。


「あとは、手が付けられない専門的なスキル持ちってことでヘンヤとマーリンくらい? 他はおまけよ、おまけ」


 あまり積極的に反論できない。ついさっき、実際に同じようなことを言われてメッセンジャーに選ばれた立場だ。


「けど、にしたって時間かかるんじゃないか? ほら、こういうのってお役所仕事みたいに、まず親衛隊の隊長的な人の指示を仰いで、次にその隊長が不死公の指示を仰いで、結局アオイが出歩く許可がでるのは数時間後、みたいなよ」


 全く無能な奴らは指示待ち人間だからな、とボブは首を振ってやれやれと顔をしかめる。


 もしも俺が親衛隊に所属していたらぶっ飛ばしてやりたい態度だ。


「親衛隊は完全なエリート部隊だ」


 そこで、レイがぼそりと言う。


「奴らは将来のナムト国の重臣であるだけでなく、今既に重臣の目であり耳であり、そして腕でもある。あの国は昔からそういうシステムだ。国の重臣、官僚と親衛隊は分離していない。ほぼ同一だと思えばいい」


「いやに詳しいですね」


「聖遺物に関する調査で、ナムト国と三度ほど関わったことがある。その時も、俺の対応をしたのは親衛隊の連中だったよ。奴らは兵隊じゃあない。義務として一時期だけ鎧を着て剣を持っている高級官僚だと思え。奴らの意見は、不死公といえどもおろそかには出来ない。奴らが、そしてそのシステムがあの国を動かしている。違うか?」


 レイはいつの間にか、背後の扉へと話しかけている。


 扉が少しだけ開いて、そこにはいつの間にかべったりと張り付くようにしてウーヘイの姿がある。


「詳しいことだ。特に反論はない。だからこそ、注意して行動しろ。不死公が何と言おうとも、親衛隊がナムト国にとって死すべき存在だと判断すれば、彼らは容赦なく殺す。お前達をな」


 そうして扉は閉じられる。


「じゃあ、とりあえず行ってくるっす」


 さっきの警告に呑まれるかと思いきや、いきなりアオイが立ち上がる。

 え、今、このタイミングで?


 止める間もなく、さっき閉じられたばかりの扉を開けて外に出て行く。

 今、行くのか?

 外は嵐なんだが。


 さっそく、外の親衛隊員と押し問答になっているのが聞こえる。だが、どうやらアオイは強引に突破していったらしい。無茶をする。


「何だ、あれ」


 呆然としていると、


「これで、用は終わり?」


 シロナの質問に、とりあえず頷くしかない。実際、用は終わった。


「そう……ねえ、何が起こっているんだと思う?」


 と、シロナが珍しく俺にそんな突っ込んだ質問をしてくる。


「さあ」


 さあ、としか言い様が無い。


「ああ、そうだ。トカレフ、これからのことで相談がある」


 突然、シロナを横目にレイが声を出す。


「いいだろう」


 そこで、レイとトカレフは二人連れ立って部屋の隅に行って何やら話し出す。


「マサカドとゲラルトから大体の話は聞いているけど、だとしてもこの展開は意味が分からない」


「まあ、そうだな。正直なところ、この展開で一体誰が得をするんだって話だ」


 怨公と見られていた男、奴が逃げ出したわけだから簡単に言えば奴が得をしたわけだが、だとすればこの城に来る前に逃げ出せばいい。トカレフの言うことが真実なら、いつでもそのチャンスがあったわけだ。


「不死公が、こんな事件を企んだとも思えない」


「そりゃそうだろ」


 シロナの呟きにボブが同意する。


「今、この状況が怨公の企みのうち、っていうことは考えられないの?」


 さっきからずっと黙っていたキリオがぽつりと言う。


「あーあたしもそれは考えてた。自分を追う勢力が、全部一箇所に、この嵐の城に閉じ込められているわけだもんね」


 エニの補足に、俺は唸る。


「一連の事件は、俺達をこうやっておびき寄せるためだと? だけど、それだと」


 こういう展開になったのは、一人誰かが誘導してこうなったわけではない。だが、その場合、


「怨公を捕まえたトカレフが一番怪しいってことにならないか?」


 多少声を潜めたつもりだったが、


「聞こえている。そして、不愉快だがそれは間違っている」


 隅で話していたトカレフがこちらを向く。


「要するに、あの男がふらりと出てくればいいだけのことだ。ペース国で出てきたから私が捕まえた。シャーク国ならゲラルトに、イスウ国ならマサカドに捕まえられていたはずだ。だから、今回私がイニシアチヴをとっているというのは錯覚だ」


「それなら、マサカド?」


 シロナの問いに、トカレフは苦虫を噛み潰した顔をして、


「不愉快だが、今回の件の旗振り役は私ではなく奴なのは間違いない。この城も、イスウ国の所有だ」


 だが、今回の件をマサカドが企んだとすると、


「つまり、こういうことか? マサカドさんが怨公の協力者で、俺達を一網打尽にするために今回の事件を企んだ」


 言っていて、全然現実感がない。


「マサカドさんと怨公が組んでいるなら、こんな妙な事件を起こす必要あるかな。いくらでも方法があるように思えるけど」


 俺の意見に、エニとキリオは頷く。


 だが、シロナだけは、何かを考え込むように黙って俺を見ている。いや、俺に焦点はあっていない。どこか、遠くをじっと見ている。


 何だ、シロナは何かに気付いているのか?

 というより、俺が何か見落としているのか?

 分からない。結局、そこで会話は止まり、


「参考になった。ありがとう」


 とシロナは離れていく。


 事件の話に飽きたのか、エニとキリオは二人で何やら話を始める。冒険中の話や医術についての話をしているようだ。

 トカレフとレイは相変わらず部屋の隅だ。


 俺の傍にいるのは、ボブだけ。

 目が合う。


「何だよ」


「いや、別に」


 孤独だ。

 帰るか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] キリオは性格変わっただけじゃなく、ガラも悪くなってきましたね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ