嵐の城(2)
回想を打ち切り、
「多少、元気そうですね」
声をかけると、
「ああ、怨公が到着するまではやることもないからね。近くに木材と土魔術で作ってもらった簡易宿のベッドでゆっくり眠らせてもらったよ」
城の近くに宿を作ってあるのか。
どうやら、怨公が到着するまで、そこで寝泊りすることになりそうだ。
ゲラルトと話していると、すぐにイスウ国の兵士達がこちらを見つけて近寄ってくる。
「ヴァン・ホームズ、ボブ・メージン、キリオ・ラーフラだな」
こちらが無言で頷くと、
「これがこの城の見取り図になる。中は我々が警備している。何か質問や意見があれば、マサカド団長に直接言うように、とのことだ。以上だ」
そう俺達に説明するように言われていたのだろう。言いたいことを言って見取り図を渡すと、さっさと兵士はまだ警備に戻る。
その肝心のマサカドはどこにいるんだ?
目でゲラルトに聞いても、肩をすくめられる。
仕方が無いので、ひとまず見取り図を見る。
「ふんふん、どれどれ、なるほどな」
見取り図を見ながらボブは何故かにやにやと笑っている。
「あれ?」
そこで妙なことに気付く。
窓だ。
二階に巨大な窓がいくつも見取り図には書き込まれている。だが、外から見た限りはそんなものはなかった。
「僕の説明が欲しいんじゃないか? どうなんだ?」
ずい、とボブが寄ってくる。
面倒だが、気になる。
「じゃあ、俺とは比べ物にならないくらいに博識で家柄、実力共に兼ね備えたエリートのボブさん、説明お願いできますか?」
「段々分かってきたじゃないか、ヴァン。よろしい、僕が説明してやろう。といっても、ちょっと二階を覗きながらの方が話が早いから、行くぞ」
周囲の兵士に許可も取らずに二階に上がろうとして、案の定すぐに兵士に止められるが。
「どこの部屋にも入らない。覗くだけ、二階を覗くだけだ。いいだろう、僕を誰だと思っているんだ」
と、驚くべきことにごり押しをして、結局二階に上がっていく。
「凄いな」
素直に感心すると、
「あれは大物になるわね」
キリオも同意する。
ともかく、周囲の白い目をしている兵士に頭を下げつつボブについて階段を上がり、
「ほら、あれだ」
指差す方を見れば、なるほど確かにそこには大きな窓が、下手をすればそのまま人が落ちていきそうなくらいに大きな窓が開いている。窓というより、壁にそのまま穴が開いているようだ。
「よし、いいだろう。戻るぞ」
と、ボブの号令で俺達はずらずらと入り口まで戻る。ゲラルトはいつの間にか姿を消していた。
「それで、見たか?」
「見たけど、あれ、何だ? あんなもの、外から見たらなかったぞ」
「ふふん」
更に得意げになるボブ。
「どうやら、名探偵ヴァンはあの窓の周囲の壁の色が微妙に違っていたことに気がついていないらしいな」
全然気付いていなかった。
「あ、ここも、そうなの?」
と、キリオが声をあげて周囲を見回す。
言われてみれば、確かに一階もところどころ微妙に壁の色が違う気がする。床も、天井もそうだ。言われてみなければ絶対に気付かないような微妙な違いではあるが。
「ところどころまだら状になっているだろう? 実は、この嵐の城が正確にいつ、どういう経緯で作られたのかは資料が残っていないからはっきりしていないが、建設にナムト国の王が関わっていたことは確かだろう、と言われている。不死公だな。もっとも、当然襲名しているだけで今の不死公とは別の人間だろう、ということになってる」
周囲の兵士の様子を窺った後でボブは耳元に口を寄せて、
「ドラゴンイーターの話なんて誰も知らないからな。けど、あの不死公の話を信じるなら、多分同一人物だ。あの不死公がここを建設したんだろう」
こそこそと囁く。
「で、それがこのまだらになってる壁や床、二階の窓と関係あるのか?」
「つまらない男だな。結論を急ぎすぎる。優雅さの欠片もないな」
ふん、と心底軽蔑された目で見られて、本気で少し傷ついて黙る。
「聖遺物だよ。この城が難攻不落だった理由の一つがそれだ。聖遺物を使っているから、頑丈なんだ」
「は? じゃあ、この城は不死公が作った聖遺物でできてるってことか?」
思わず普通に聞き返すと、
「はっはっは、馬鹿だなあ、ヴァンは。不死公が聖遺物を作るなんて、そんなことがあるわけないじゃないか」
と大声で言いながらボブが本気で腹に拳を叩き込んでくる。
しまった。聖遺物がドラゴンイーターの作品だという話は極秘だったか。
慌てて見回すが、どうやら周囲の兵士は訝しがってはいないようだ。助かった。
「大体、ちゃんと作れるならこんなまだらになるわけないだろうが」
そりゃそうか。
「聖遺物の塊であるダンジョンも、時には破壊される。人の手によってじゃないぞ。もっと大きな力によってだ。知っているだろう?」
もちろん知っている。それを利用して作られた幻想のダンジョン、帰らずの地下迷宮から命からがら生還した身だ。そういや、あれも元凶の元凶は怨公だったらしいな。怨公許すまじ。
「詳しいことは不明だが、どうやら破損したダンジョンの壁や床を持ってきて、流用しているらしい。だから、ところどころ聖遺物の壁や床があるってわけだ。ここまで言えば、二階の窓も分かるか?」
「一方通行の壁か」
驚嘆する。
なるほど、破壊不能な壁の向こう側から一方的に攻撃できるとすれば、これほど防衛線に向いたものもない。
あれは、どこかの壊れたダンジョンから一方通行の壁をもってきて、二階の壁に埋め込んでいるのか。
「そういうことだ。ダンジョンの破片、とも言うべきものがなけりゃ当然実現しないから複製はできないが、それでも中々のものだろ? うちの国の自慢だ。詳細は秘密だ。国家機密だ。知ろうとしたら殺す。そこの小僧は、べらべらとは喋るが、教科書に載っている程度のことしか喋っていないから許してやろう」
笑いながら恐ろしいセリフを吐き、巨漢が歩いてくる。
周囲の兵士が慌てて敬礼する。
「やっときたか。ヴァン、キリオ、それにボブだったな」
マサカドが笑う。腰には巨大な刀と鉄の鞘。鞘から抜かれている限り高熱を発し続ける刀、焔だ。
「ようこそ、イスウ国が誇る、嵐の城へ。一時的に、俺が城主みたいなものだからな。城主自ら、歓迎するぞ。さっそく、案内してやろう。それに積もる話もある。人の目があっては、話しにくいものもな」
やけに上機嫌なマサカドに、俺は少し恐ろしくなる。猛獣が機嫌がいいのは、血の雨が降る予感がするからじゃないだろうな。
いつの間にかマサカドの横にいるアオイ。そのアオイにマサカドは、
「じゃあ、客人を案内してくるから、頼むぞ」
「了解っす」
びしっと敬礼したアオイを残して、マサカドはずんずんと進みだす。




