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第45話 さて、それでどうするんじゃ?

 小さな咳払いが聞こえた後、マリは声を発した。


「さて、それでどうするんじゃ?」


 いつもの口調に戻った様だ。いつも、という程彼女の事を知っている訳ではないが、調子を取り戻そうと彼女も内心では奮起しているのだろう。

 声が若干上ずって、大きくなっているのもそういう心の動きを現しているのではないだろうか。

 我は、その事には触れずに周りを見渡して言う。


「とりあえず、出口を探そう」


 そう言って我とマリは歩きだしたのだった。


〇〇〇


「あれだな」


「あれじゃのぅ」


 我とマリが思わず同じ事を言ってしまったのは、出口を見つけたからである。

 ここはどうやら小さな図書館といったような一室だった。

 人の背よりも高い本棚が、まるで迷路の壁となっているように立ち塞がっている。

 そんな迷路を少し歩くと、両開きの大きな扉を見つけたのだ。


 ただし、ただの扉ではない。

 まるで奥に怪物でもいるのかというような大きな扉には、全体を覆うかのような大きな魔法陣が輝いており、その中央に4つのダイヤルが供えられた南京錠が浮いている。


 我がその南京錠に触れると、魔法陣に文字が浮かんだ。


『扉を開ける鍵を求める者。その者は最初の場所ヌルから、数々の偉人の集う場所アインスへと向かい。次には物語を生み出す地ツヴァイへ行くが、鍵は見付からなかった。ドラマ産みし悲劇の地ドライにて悲しみを落とし、最後の場所フィーアに希望を寄せるが、そこに鍵はない。鍵は場所にはないのだ。辿った道こそが鍵なのである』


 まさに怪文書である。我がその文字に目をやっていると、傍らでマリがふうむと頷きながら手を顎に当てる。


「間違いなくこの文章の中にヒントがあって、正しい数字に合わせると扉が開くということじゃろうのぅ」


「そういう事らしいな」


「のうドラゴンよ。もしかしてじゃが、この中に答えがあるのかのぅ」


 言われてマリの方に目を向けると、彼女は呆然としたような表情をして本棚を見ている。

 本棚の目の高さあたりに文字の書かれたプレートが付けられており、例えば彼女が視線を向けている先の本棚には、『偉人』と書かれていた。

 なるほど、そうかもしれない。ただ、地名に聞き覚えがないのだが、ここはマリに聞いてみる事にする。


「マリよ。この地名は実在するのか?」


「さぁのぅ。聞いた事はない。わしも魔法を学ぶ都合で様々な国の本を読んでおったが、そのような地名が出てきた事はないのう」


「そうか。辿った道が鍵だというから、地理にまつわる本があるのかもしれないな」


「役に立てなくてすまぬ」


 謝るマリに、我は疑問の視線を向ける。


「何故謝る?」


 問うと、マリは何故かもじもじとしてごにょごにょと言い訳のように答える。


「いや、ほら。頑張って役に立とうと思った矢先に、全く役に立てなかったから……その……」


 彼女の心模様は口調に現れるのだろうか。先ほどまでは老獪で自信に満ちたような口調であったのに、今はごにょごにょと自身のない、普通の少女のような喋り方になっている。

 面白い人間だと思うと同時に、とても変人だなとも思う。

 更に付け加えるとするならば、面倒くさい人間といったところか。

 しかし、我はこの面倒くさい人間と、この場所からの脱出という同じ目標に向かって歩くと決めたのだから、文句を言うのではなく、共に進むために努力するべきだろう。


「自信を持て。我はマリの知識を信頼している」


「本当? どういう所でそう思った? どこで知識あるって思った?」


 前言撤回。文句くらいは言ってもいいかもしれない。

 既に面倒くさくなってしまった我をじっと見つめるマリに、なんと言ってやろうかと思案すること数秒。しかし、我が口を開くよりマリの方が早かった。


「……いや、すまぬ。困らせてしまったのぅ。ところで、あれはなんじゃと思う?」


 言われて彼女が指さす方に目を向けると、南京錠に三つ埋め込まれている小さなクリスタルだった。


「ただの装飾だと思うが?」


「……そうかのう。だとして、センスがない。謎解きを求める扉という状況も踏まえて考えると、何か意味のある印だと思わぬか?」


 なるほど。そういうものだろうか。

 なんとはなしに南京錠をいじって、適当な数字にダイヤルを回し、解錠できないかシックルという逆さにしたUの字のような部分を引っ張ってみると、音を立ててクリスタルが一つ砕けてしまった。

 我はマリの推理が正しい事を知る。


「なるほど、合計3回までの挑戦で、今その内1回を消費してしまったわけか」


「そのようじゃの。なに、正しい答えを探してから解錠を試すという意味なら、後1回で良いのじゃ。ドラゴン氏の今の行動で残りの間違えてよい回数を知れたのは、大きいじゃろう」


「そうだな」


 頷きながら、当初やろうと思っていた方法が通用しない事が発覚した事に多少落胆する。

 勿論、マリの言うように、この図書室にヒントがあって正しい数字を探すという方法が正攻法だろう。

 だが、もう一つ方法がある。

 見たところダイヤルの数字は0~9である。0000~9999までの組み合わせは1万通りでしかない。全部を総当たりで試せばよいのだと思っていたのだ。

 多少時間はかかるかもしれないが、どこにあるかわからないヒントを我かマリのどちらかが捜索し、その間にもう片方は総当たりを試す。そういう効率的な方法で進めようと思ったのだが。


(回数制限とは。まるで児戯に付き合わされている気分だな)


 思わず胸中でそう呟きながら、マリと共に連れ立って迷路のような図書室を探索する事にした。

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