黒幕は上機嫌のようです
最長になって驚いている作者がいる
「クソッ!どうなっている!?」
ヴィジョン・リンケージ・コーポレーション。通称VRCというアメリカに本社を置く会社で、身なりのいい男が颯爽とエレベーターに乗った。ソレも通常のものではなく、地下のとある階層へ行く専用のエレベーターだ。
それなりに時間が経ち、1つの扉だけがある階に止まる。
その扉を開ければ、一見すれば普通のアパートの一室にも思える部屋に出た。
おかしなところがあるとすれば、壁の一面がスクリーンになっているとことだろう。
そこには、DEFの舞台となる各サーバーの大陸の地図とプレイヤーの分布図。更にはどこかで戦い続けているプレイヤー達。
果ては、NPC達の行動の映った映像まで存在している。
そんな部屋に2人の女…否ここに来れるものであれば、もう1人いることを知っている。
そのうちの1人は、鼻歌混じりに何かを作っていた。
入ってきた男は、その女に話しかける。
「一体どういうことだシューティングスター!」
正直怒鳴りたいところを押さえながらも、問いただそうとする。その内容は
「貴様はレベル99のプレイヤーが束になっても何度か戦い、何度も対策を練ろうとも龍種に挑むのは困難だと言っていたな。ならば何故初見の………しかもビギナーのいるパーティーが短期間に龍種を倒せているのだ?」
「ソレは簡単なことさベイリー君」
問われた相手は未だ振り向かずにキッチンで何かを作っている。
「レベル99なんてものは一般的なプレイヤーの指標でしかないって事さ。あの人たちは例外中の例外だというだけさ」
「はあ?」
納得したくないというような声を上げつつも、それしかないためそれ以上は何も言えなかった。
何せ、そのプレイヤー達は全員アドベンチャーモードで戦いを挑んでいたのだ。例外中の例外と断言されれば寧ろ納得いってしまう。
「何者なのだ彼らは」
「ヨシッ!出来ました〜私特製エッグベネディクト!ゼノ、ウサギ、ご飯にしよう!」
出来た料理をテーブルに並べ、一緒の部屋にいる2人を呼び込む。
「そういえばベイリー君はもう朝食は済ませたのかね?」
「済ませたとも。少々先走ってしまったがいつも通り娘の分まで作ってあるさ」
「経営難に陥ったことを理由に逃げた女との子供な〜」
「ヤメロ人のトラウマをいちいち言うな!」
ソファーに座ってパソコンに何やら打ち続けていた少女、ウサギが囃し立てる。
「やれやれ、ご主人様は今とてもご満悦のようだね」
どこからともなく現れた黒い少女、ゼノが言うように、シューティングスターこと流星院芽衣はこの状況を楽しんでいる。
「さてさて、食べる前はまずいただきますだよ〜」
「イヤそれよりも、私の質問忘れてません?」
呑気にいただきますをした3人に食い気味に話しかけるベイリーに、芽衣はやっと目を合わせた。
「単純なお話しですよ~。仙女様…仙凛と呼ばれるプレイヤーがただ取っておいただけなのです」
「と、取っておいたとは何を?」
「とあるプレイヤーがログインするまで龍種を討伐することですよ」
そう答えたことに、ベイリーは足の力が抜ける。
自身の心配は、とっくに想定済みの行動であったと言われ、ここに来た意味はなんだったのかと一気に疲れが溢れ出したのだ。寧ろもっと早い段階で龍種が狩られていたら、コンテンツとして何か言われていたんじゃないかと不安になる。
「まあもうわかっているだろうけど、すでに想定通りの動きだからさっさと次のイベントの用意をしなきゃね」
「では、そのプレイヤーとは一体誰なのですか?」
「おやおや、ここに来た意味を見出すために食らいつこうとするその精神には感服だね」
ニヒヒと笑いながら食べつつ答える。
「件のプレイヤー、ハバキリは私の親愛なる兄弟子様なのだよ!」
「兄弟子?」
流星院芽衣は、エンジニアであり、プログラマーであるはずだ。兄弟子と呼ぶのは些か違うのでは?そう考えていると向こうから答えがくる。
「私が7歳ほどの頃でしたね。父親が立場的にも敵を多く作る立場でしたので、自分の身をある程度守れるようにと学友だったという人の剣術道場に私を送ったのですよ。まあその時点でその学友さんは亡くなっていたそうなのですが」
「いきなり重いな」
「まあその道場で出会ったのが兄弟子様でした。初めは両親を失って傷心していた身でしたので少々影のある方だなぁとしか思いませんでしたよ。でもすぐにその考えは塗り替えらされました」
そこでベイリーは気付く。いままでになく、流星院がするとは微塵も思えなかった表情をしたのだ。
「剣を振るう時の彼は何事もなく澄み切ったように美しい剣を振るうものですから、初恋などとうに取られてしまったものですよ」
「嘘ぉ」
「諦めなバツイチ社長。彼女が本気なことぐらい分かるだろ」
「逆に幼少から引っ張ってるからこそ普段こんな顔しないんだけどね」
いままで見ることはないだろうな表情。そんな顔もすぐに変わり大きく笑い出す。
「だからこそなんですよ!あのような存在がこの世にまだいる。その瞬間から、この世界を作ろうと思ったのですよ!」
「フーン………ン!?」
アレ?なんか流れおかしくない?と思った時にはもう遅かった。
「その時点であれこれ調べましたよ!噂程度でしかなかったものですのに、意外と科学の範疇でも大体は見つけ出せましたから。ついでに小型の人工衛星を度々飛ばして、その先で生み出せたのがこの世界でした」
「へ、へえ」
もはやどこから突っ込めばいいのか分からなくなる。
「でもですね、いざ招待しようにもわざとらしすぎてダメじゃないですか。まあそこら辺は仙女様が割とすぐに解決してくれたのでどうにかなったのですよ」
「ああそうなんだ」
正直付いて行けなくなってきていたがやっと終わりそうだと思っていると
「兎も角兄弟子様が来てくれればそれで良かったのですよ。彼のためにある世界なので」
「イヤマテマテマテマテ!?」
ここに来て特大の、それも絶対的に見過ごせない発言が飛んできた。
「何言ってんですか!?新たな技術を拓くための世界だってあなたが言っていたのでしょう!?」
「イヤそんなん建前だから。元々は兄弟子様やそれに連なる連中が有意義に暴れられる場所を用意したかっただけですから。彼らと彼らを輝かせるもの意外だなんて全て背景に過ぎないですよ」
あっさり答えられた衝撃発言に、何も言えず黙ってしまう。
「まあそれでも、他のプレイヤー達も楽しんでもらえているなら作った甲斐があったというものだよ。どんな分野であろうとも、みんなで楽しんでくれなくちゃ意味がないもの」
「あなたが天使か悪魔か分からなくなってくるな」
最後の言葉がなければこの女、どうしてくれようかと思っていたことを胸の内に潜め次の話題に切り替える。
「まあもうそれでいい。もう一つ直近の予定について確認したいのだが、何も問題ないのなら8月末に行うイベントはスケジュール通りで良いのだな?」
「そうだねー。勢力別のトレジャーハントイベント。魔物に別勢力プレイヤーにと敵が多いのがミソだよ〜。」
ベイリーは、スケジュール内容を読みながら確認していたが、ふとある状況を思いつく。
「コレ勢力問題がとても性格悪いんだが………というかWIRDSの方々が下手な勢力に入ってそこに他のプレイヤー達が殺到する事にならないか?」
「ああそこら辺は対策しているから大丈夫だよ。そもそも勢力ごとにプレイヤーの条件とかがあるから、結構分かれると思うよ」
「それならこのまま進ませて貰うが、後で対策についての情報をアップロードしておいてくれ。コチラでも確認しておきたい」
「ウンウン。あと提携先との会合の手はずもよろしくね〜」
「まああなただと向かいのバーガーショップを会合場所に指定しそうですからね」
ウンウンと他が頷いている事にむっとしながらも、手元の置いていたタブレットに通知が入ったのを確認して表情を変える。
「お、それようやく1冊分できたのか」
「ん?なんだそれは?」
「コレは一部のプレイヤー達の活動記録を基にAI生成で物語っぽくまとめたものだよ」
「なんだそれ?というか一部のプレイヤーって」
「イヤイヤ何も兄弟子様達だけという訳ではありませんよ。しかし今のトッププレイヤーにあたる方々が対象になりやすいというのは仕方がない事だと理解してください。最悪将来の歴史に残る可能性もあったりして」
それは夢があるなと思い、少々にやけているがそれよりも気になることがあった。
「なぜタイトルが日本語なんだ?」
「読む時に自動翻訳されるけど、文面は主役となるプレイヤーの出身言語になるように設定されているのよ。兄弟子様のタイトルはね〜」
そう言いつつ、芽衣はウキウキになりテーブルに乗り出した。
「『現代武人は異世界をも無双する』ってね!」
「飯食べている時にテーブルに乗らない!」
「………お前は私のお父さんか」
芽衣「てことでいよいよ私の登場ですよ~」
ベイリー「なんか私本名とか記載されていませんでしたけど、ベイリー・M・ライトマンです」
ウサギ「ちなみに私とゼノは実質コレが本名だよ」
ゼノ「そもそも戸籍とかそういうのなかったしね」
ベイリー「というよりタイトル回収とかよりもサラッとサーバー別に大陸が別ということが言われていますね」
芽衣「そこはもともと統合したかったんだけどね~。今なら可能だから次の周年に合わせて事実上の統合を行おうかと」
ゼノ「てか大陸とか違うのに同じようなイベントができるの?」
芽衣「それはまたいつかの回で言及されますから」




