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~紫竜の別荘~
新しい北の貴族にはお帰り頂き、芙蓉は巴衛と今後のことを話していた。
「香水瓶のアモード花は、策士の部下の仕業なの?」
「私はそう思ってる。」
巴衛は自信ありげだ。
「でも点滴薬には毒が入ってたけど、香水にはなぜアモード花が?」
「ジュウゴの作った毒は肌に塗っても意味がないからだと思うわ。象族でアモード花製品を売りさばいた策士の部下が今回の件に関わってる可能性が高い。」
「・・・ユリにはアモード花アレルギーがあるの。ジュウゴが狙ってるのは私だし、ユリは巻き込みたくない。」
「ユリは自分を犠牲にする癖がついてるのね。解放軍に居たせいだわ。」
巴衛が落ち込んでしまった。
「巴衛が責任を感じることじゃないわ。ユリが自分で選んだことなんだろうから。今はもう大丈夫よ。過保護な夫がいるから。」
「・・・そうね。ジュウゴを始末すれば、芙蓉もユリも安心して暮らせるようになるはずよ。そのためにもジュウゴを誘き出したい。だけど、北都付近にいる豊のところにジュウゴは来てないみたいね。」
「ねえ、巴衛?私が水連町に行けば、ジュウゴは出てくるかしら?」
「芙蓉、それは・・・」
夫が久々に喋ったけど、浮かない顔だ。
「里帰りはダメなんでしょ?でも、私の故郷は焼けたわ。今の復興された町はもう私の知らない姿になってるらしいから、故郷とは呼べないわ。ダメ?」
「・・・ジュウゴを誘き出すなら他の町でもいいんじゃないか?」
夫はやはり嫌なようだ。
「ジュウゴが金で雇った人を使い始めたということは、獣人の協力者がほぼ居なくなったということです。人の町なら、人に紛れてジュウゴが接近してくる可能性は高い。
それに獣人が少ないほど、紫竜が潜んでいても匂いに気付かれにくいのでは?」
「水連町以外にも人の町はいくらでもあるだろ?」
「ジュウゴが水連町付近にいることは間違いありません。今は雪深い。遠方の町だとジュウゴはたどり着けないかもしれない。」
「・・・人の町じゃあ芙蓉の安全が保障されないだろ?」
夫は段々怖い顔になっている。
「水連町が一番安全です。昔からの町民が芙蓉を狙うことはない。解放軍の幹部もいますしね。」
「幹部ってのは何人いるんだ?全員が芙蓉に敵意がないと言えるか?」
「ご心配なら、直接会って確かめてはいかがです?紫竜は芙蓉の警固を、私たち解放軍はジュウゴの始末を、協力する以上、幹部たちにも芙蓉の顔を知る機会くらいは頂きたい。」
「・・・豊以外の雄もいるんだろ?」
「はい。」
夫は嫌そうな顔で問いかけるので、巴衛は呆れている。
「あなた、私も顔も知らない人と協力するのは不安だわ。あなたが一緒に会って確認してくれるなら、安心できる。」
これは芙蓉の本音だ。
巴衛の部下なら、豊さんの同僚なら信頼したいけど、ジュウゴは裏切ったのだ。
幹部だからといって信用はできないし、巴衛が夫に確認を求めるのは、幹部の中に心配な人間がいるからかもしれない。
「・・・さすがに妻個人の問題とはいかないから、俺一人では決められない。
トモエ、もう少し作戦を練ってこい。それを聞いてからどこまで協力するか一族にはかる。」
これが夫なりの最大限の譲歩だろう。
夫にも立場があるのだ、無理はさせられない。
「では、私は一度水連町に戻って幹部と作戦を練ります。
・・・もしも、紫竜に協力頂ける場合、熊族も利用できるのですよね?」
「ああ。香水瓶の件があるからな。だが、まだ他言するなよ。」
「分かりました。
じゃあね、芙蓉。また来るわ。」
「ありがとう、巴衛。ごめんね、色んなことに巻き込んでしまって。」
芙蓉は申し訳なくて仕方ない。
父のことも結太君のことも巴衛にお願いしてばかりなのに、芙蓉は何も返せていないのだ。
「謝るのは私のほうよ。ジュウゴは私の部下だった、私が後始末をつけられないばかりに芙蓉にも迷惑をかけてるわ。」
「そんなこと。裏切りなんて予想できるものじゃないんだから謝ることじゃ・・・父のこともお世話になってばかりなのに。」
「そんなのお互い様よ。ユリも豊も世話になったわ。だから謝るのはお互い最後にしましょ。」
巴衛は優しく微笑んでくれた。
「・・・そうね。よろしく。」
芙蓉も笑って手を差し出すと、巴衛はしっかり手を握って握手してくれた。
~水連町病院~
その日の深夜、巴衛はそっと水連町病院にやって来た。
紫竜の空飛ぶ馬車は早く、閉門ギリギリに巴衛は町に入れた。
まずはショウと陶矢の滞在先に行って、この間に町では大きな騒ぎはなかったことと、豊はまだ戻って来ていないことを聞いた。
その後、カグラのもとにも行ったので遅くなってしまった。
巴衛がカエデの病室の扉をそっと開けると、カエデはすぐに顔をあげた。
無事を確認したかっただけなのに、起こしてしまっただろうか?
「ごめんね、起こすつもりはなかったの。」
巴衛は病室に入った。
「いえ、起きて待ってました。ショウが知らせてきましたので。」
「信じられる?新しい北の貴族と肩を並べて北都を守ってきたわ。」
巴衛は苦笑いしながら北都での出来事をカエデに話した。
「豊が適任でしたね。」
カエデは巴衛がしてきたことを非難しなかったけど、
「誰が敵で、誰が味方かわからなくなってきたわ。」
巴衛は我慢できず悩みを打ち明けた。
「私たちが初めて獣人から生きたまま救助できたのは、貴族の息子でしたよ。」
「・・・そうだったわね。私たちの敵は貴族じゃなかった。人を獣人に売るクソヤロウだったわ。」
巴衛は思い出した。
売られた家族を連れ戻したい。
そんな思いから解放軍は始まったのだ。
「私も変化についていけない時があります。獣人は恐怖の対象だったのに、利害関係から協力するようになり・・・今では利害関係では説明できない関係になった獣人もいる。
私は知りませんでした。獣人たちにも人に向ける情があるってことを。」
カエデはそう言って困った顔で笑っているけど、こんな顔は10数年ぶりに見た。
カエデの言う獣人が誰だか聞かなくても分かる。
「アーストの思いを受け入れてあげるの?」
「どうでしょう。別に私と夫婦になりたい訳ではないんですって。一生寝たきりでも生きててくれれば良いって言うんですよ。
まだ理解できません。」
「そう?私もアーストと同じ思いよ。カエデには生きててほしいわ。」
「私に何ができますか?自分の足で立つことすら二度とできないかも・・・」
カエデは唇を噛むが、涙が溢れてきている。
「私は安心して遠出できたわ。カエデが水連町に居てくれるから。
私たちはこの10数年、命がけで駆け抜けてきた・・・その経験は無駄じゃないはずよ。若者を導くのは年寄りの仕事よ。」
「・・・私まだ50前ですよ。」
「じゃあ中年ね。若者と年寄りの橋渡しをしなきゃ。」
巴衛が笑うと、カエデは涙を流したまま笑ってくれた。
「あなたはそんなひょうきんな人だったかしら?」
「ふふ。カエデを笑わせたことに自分でも驚いてるわ。私も丸くなったのかしら?」
「司令官も解放軍の役割も変わってきましたね。戸惑いもありますけど、嫌な気持ちはしないです。」
「・・・気持ちだけで仲間の命を危険に晒せないわ。芙蓉はジュウゴを誘き出すために水連町に来ると言ってる。龍希は作戦次第では協力するそうよ。でも、ここまですべきかしら?時機を待てば芙蓉を危険に晒さず、紫竜の協力も要らずジュウゴを始末できるかもしれないのに・・・」
巴衛は悩んでいた。
でも、ショウにも陶矢にも相談できなかった。
司令官が悩んでいる、このことは二人にとっては作戦を中止する十分な理由になるのだ。
「私に止めてほしいですか?それとも背中を押してほしい?」
カエデは穏やかに問いかけてきた。
「半々」
「あらまあ!?ほんとに悩んでるのね?」
「ええ。だからカエデ以外には相談できない。」
「お友達には相談してこなかったの?」
「私を信頼して水連町に来る覚悟まで決めた彼女には言えないわよ。」
「すごい女性みたいね。運命の出会いをしたって豊は子どもみたいに興奮してたわ。」
カエデは笑うけど、
「え?そうなの!?」
巴衛は呆気にとられた。
「惚れたわけではないようよ。解放軍を知った時と同じくらい人生観が変わったって。
豊はいくつになってもピュアなところがあるのよね。だから若く見えるのかしら?」
「豊なら迷わずやるって言うと思うわ。」
「あら、まあ。豊に言われたら皆ついていっちゃうわね。」
「そうなの・・・豊もショウも陶矢も、皆勇敢で迷いがないわ。だけど、今回は誰も死なせたくない。
芙蓉はきっと死の責任を感じちゃうから。」
「司令官が悩んでる理由はそれなのね?」
「ええ。」
「なら、私の心は決まったわ。やりましょ!」
カエデはそう言って巴衛の手を握った。
「なんで?」
「大丈夫よ。皆強いから。皆司令官が好きだから。司令官が生き延びろと言えばそうするわ。安全第一、ジュウゴは第二、今回の作戦はこれに決まりよ。」
カエデは歯を見せて笑うけど、今度は巴衛の目から涙が出てきた。
「そんな作戦あり?」
「司令官がありなら、ありよ。芙蓉だって反対しないでしょ?きっと。」
「芙蓉はね。でも、紫竜は・・・」
「協力するかは作戦次第なんでしょ?紫竜の非協力で中止になるなら仕方ないわ。私たちは紫竜のご機嫌取りのために死ぬのはごめんよ。」
「いいの?芙蓉のために何かしたいのは、私のわがままなのに?」
「ふふ。皆ね。司令官のお友達に会ってみたいのよ。豊だけズルいわ。」
「ありがとう、カエデ。やっぱりあなたは寝たきりになっても生き延びてね。」
「いやよ。まだ中年よ。リハビリで動けるようになってやるんだから。」
カエデの拗ねた顔を見て、巴衛はまた笑ってしまった。




