表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
741/765

ハーブ屋

~水連町~


11月のある日、ショウ、陶矢、カエデは水連町にある隠れ家に集まっていた。


数ヶ月前、犬に拐われて、豊たちが救出したカエデは両足の骨を折られて今も一人では動けないが、参謀的な役割で解放軍に協力してくれている。

 元々、カエデは戦闘員ではないが、現場の指揮官を失ったのは大きい。



ショウと陶矢は司令官の指示で水連町にきて、協力商人が用意した建物に滞在しているが、司令官が水連町のどこにいるのかは3人とも知らない。



「ついに雪が積り始めたな。寒すぎる。」

ずっと南部や西部にいた陶矢は部屋の中なのに上着を着たまま、寒そうにぼやく。


「水連町の連中いわく、こんなのは積ったうちに入らないらしいぞ。」

ショウは笑う。


「12月になれば人が町の外から来るのはかなり難しくなるらしいわ。でも昨年、獣人たちは雪でも町に支援物資を届けに来ていたみたい。カラスは無理でもワシの郵便配達はよほどの吹雪でなければ来れるみたいね。

 寒さに強い狼や犬族は雪をかき分けて来るから、その道を利用して猫や狸、狐なんかも来てたみたいよ。」


カエデはかなり情報収集をしていたらしい。



「そんなに獣人が入って来ているのに、殺傷事件が少なすぎるな。」

陶矢は首をかしげる。


「いまだにこの町は警察機能が戻ってきてないから、記録する奴もいないのさ。俺らは毎日のように町の連中と協力して奴隷商人や犯罪者の始末をしてるぜ。」


「知ってるよ。ショウは随分有名になって来てるぞ?目立ちすぎじゃないか?

それに、それを踏まえても少ないと思わないか?

他の町じゃ町民から獣人による殺人や誘拐、行方不明の噂が毎日出てくるのに、この町ではそれがほぼない。」


「陶矢の言うとおりね。火災前から町にいた人たちほどむしろ獣人に感謝していて、獣人が増えてきた町の変化を受け入れてるように見えるわ。

とはいえ、獣人たちがおとなしいのも事実よ。この町の協力商人からも、この町の商売は驚くほどやり易いと聞いてるわ。」


「この町に何があるんだ?やはりシリュウか?」


「獣人たちは何か知ってるみたいだけど、誰も教えてくれないのよ。アーストですら、ね。」

カエデは悔しそうだ。



「策士の残党とジュウゴは見つかったか?」

ショウが話題を変えた。


「手がかりはないな。」

陶矢の返事にカエデも頷いた。



コンコン



誰かが部屋の外からノックしてきた。

陶矢が立ち上がって扉を開けると、扉の前には誰もおらず、木でできた篭が床に置かれ手紙が一通入っている。


陶矢は手紙だけ取って扉を閉めた。



「豊からだ。」


「じゃあアーストが届けてくれたのね。読んで。」


カエデに促され、陶矢が手紙を開いた。


「・・・豊が町の外の隠れ家まで帰ってきたそうだ。ただ、獣人の匂いがかなり着いているのでしばらくは町に入れないと。」


「お!やっと帰ってきたのか!?」

ショウは嬉しそうだ。


豊の任務は3人とも知らない。司令官からは豊からの連絡を待てとしか教えてもらえなかったので、よほどの極秘任務らしい。



「あの隠れ家に一人で?寒さは大丈夫かしら?」


「手紙には何も書いてないから大丈夫だろう。

それよりここからが本題だ。ジュウゴを誘き寄せるために30代の女が一人必要だと。」


「は?女で誘き寄せるのか?」

ショウとカエデは顔を見合わせた。


「豊は、ジュウゴが探している女の情報を掴んだ、その女に成りすましてこの町にジュウゴを誘い出せないか?と書いてる。」


「ジュウゴが探している女?初耳だな。まさかこれか?」

ショウが小指を立てる。


「どうだろうな!?危険な任務にはなりそうだが、どんな見た目がいいんだ?」


「・・・最後に女の特徴が箇条書きにしてあるな。長い黒髪、肌は白い方がいい、背丈は160前後、中肉中背・・・巨乳だとさ。」


「・・・いるか?そんな仲間?」

ショウは困った顔でカエデを見る。


「胸は詰め物でどうとでもなるわ。肌の色も化粧で誤魔化せる。問題は髪ね。おそらく本物は育ちのいい女みたいだから髪質は誤魔化せない。」


「人選はカエデ姉さんに任せます。」


「見た目だけ寄せればいいのかしら?さすがに女の情報がなさすぎる。私と豊で作戦を詰めるわ。」


「よろしくお願いします。」




~水連町 大通り~


「さぶう~」


11月のある日、結太はむき出しの手をさすりながら水連町の往来を急いでいた。


この町に来てから、結太は洗濯屋の下働きをしながら、病院の寮に住んでいる。

 恩人の奥様こと芙蓉さんが言っていた病院での薬師の研修は、病院が開業する来年4月頃からになりそうらしい。


芙蓉さんが結太の住まいとして病院の寮の一室を借りてくれ、生活費も出してくれているらしいけど、病院が開業するまで結太は何もしないわけにもいかないので、後見人代わりの洗濯屋の主人に頼んで下働きをしている。


結太はいずれは薬師になってこの町で働いて芙蓉さんに恩返しをしたいので、町のことをたくさん知るために、洗濯屋の宅配や買い出しを積極的に引き受けていた。


今日は町のハーブ屋へのお使いだけど、ついに雪が降り始めて道にはもう10センチメートル近く積もっている。

大通りは町の人たちが雪掻きしてくれてるけど、昼になっても雪は降り止まずどんどん積るので、結太は雪駄を履いていた。

 配達用にと洗濯屋の主人が貸してくれたコートとマフラーは安物ではないけど、それでも結太は寒くて仕方ない。


故郷はもっと北だったけど、長年暮らした水洞町はこんなに雪は降らなかった。

マフラーから出た耳はちぎれそうなほど痛い。

結太は早足でハーブ屋を目指した。



「こんにちは。洗濯屋の、白兎屋(はくとや)の使いで来ました。」


結太は30分近く歩いたのに身体が温まらないまま、ハーブ屋に着いた。


「はいよ。今日は何をご所望で?」


店番は50代くらいのおじさんだ。

結太は買い物メモを手渡した。



「・・・ちょいと待ちな。」


店番の親父はメモを持ったまま、店の棚に行き、袋にハーブを詰めていく。



「はいよ。全部で3000円だ。」


「はい」


結太は預かってきた財布からお金を渡し、商品の包みを受け取った。



「メモの最後のドライハーブは横の温室に干してある。この札を持って温室で貰って帰りな。温室の中にも店員がいるから。」


店番の親父はそう言って緑色に塗られた小さな木の札を渡してきた。


「分かりました。どうも。」


金を渡したのに商品が足りないことを、結太は不審に思ったが、領収書ももらったので、とりあえずは温室に向かうことにした。



暖かい店内を出ると、結太の身体はすぐに冷えた。

温室はどこだ?


店の左側に回ったけど、そこには石製の倉庫らしき建物しかないので、結太は今度は右側に回った。


あった。

木製の小屋のような見た目だけど、扉に【温室】と書かれた金属の札が打ち付けてある。



「ごめん下さい。」


結太は扉をノックして声をかけるが、返事はなく、扉も開かない。


「・・・開けますよ~」


結太がドアを押すと、鍵はかかっておらず、温室の中に入れたけど、



「わ!?」


結太は思わず叫んで扉から手を離しそうになった。


狭い温室の中にはなんと狸の獣人がいる



「え!?あ、お店はあっちですよ!?」


中の狸も驚いているが、店の方を指差した。



「・・・買い物は終わってます。ここでドライハーブを貰えって・・・」


結太は警戒しながらも緑の木の札を狸に見せた。



「あ、お客さんでしたか。ここまで取りに来るなんて物好きですね。お渡ししますけど、扉を閉めてくれませんか?ハーブが枯れます。」



温室で狸と2人きりは嫌だけど、あの親父は店員と言っていたし、狸から危険な感じはしないので、結太は中に入って扉を閉めた。



水連町に獣人はたくさんいるけど、人の店で働いている獣人は初めてだ。


獣人にはいい思い出も悪い思い出もある。



「緑・・・ああ、このドライハーブですね。一つですよね?」


狸は慣れた様子で温室に干されたハーブを一束取って紙に包む。


まだ若い雄狸のようだ。

狂暴な感じではないけど、当然ながら結太よりも身体は大きい。



「・・・あの、あなたはなんでここで働いてるんですか?」


結太は好奇心に負けてきいてしまった。


「え?ぼくですか?薬草の勉強をしたくて、ここで用心棒兼見習いとして働いてるんです。」


狸はすんなり答えてくれたけど、


「なんで人の町で?」


「ここはぼくと妹の恩人が大切にしてる町なので、何か恩返しがしたくて。」


狸は意外なことを言い出した。


「ぼくも。恩返しがしたくて、この町に薬師の勉強をしにきたんです。」


結太は思わず言ってしまった。



「え?薬師!?すごいなぁ。じゃあここのハーブも薬になるんですか?」


狸は結太をばかにすることなく、嬉しそうに尋ねてきた。


「いや、今はまだ洗濯屋の下働きなんで。でもハーブも薬になりますよ。」


ハーブの香りは心を落ち着かせる効用があるのだ。



「そうなんですか!?ぼくの育てたハーブや薬草が人の役にたてたら嬉しいです。」


「・・・恩人って人間なんですか?」


この狸が人の役にたとうとするのは、この町にゆかりのある人間に恩があるから?



「ええ。」

狸は嬉しそうに微笑んだ。



『もしかして・・・』


結太は言いかけて言葉を飲み込んだ。

芙蓉さんや龍陽たちのことは内緒なのだ。

初対面の狸にはなおさら明かせない。



「ぼくは洗濯屋の下働きをしてる結太です。今後もどうぞよろしく」


結太は代わりに名乗ることにした。


「ぼくはジーロと言います。今後ともごひいきに。」


結太はジーロからドライハーブを受け取って温室を出た。



『なんかジーロとは仲良くなれそうだな』


結太は足取り軽く洗濯屋に戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ