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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第2章 夫婦編
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代替わりの儀

 4月のある日、龍希は族長と龍海とともに朱鳳しゅほうの巣に来ていた。

族長の代替わりの儀に参列するためだ。

朱鳳の巣は雲を突き抜けてそびえる大樹にある。朱鳳領の8割を占めるという大樹の全貌は誰も見たことがないらしい。広く商売を手掛ける朱鳳の一大儀式とあって数多くの種族が参列している。

「あら~龍希殿。今日も素敵ですこと。」

声を聴くだけで虫唾が走る。満面の笑みで黄虎族長が近づいてきた。

隣にいるワニの獣人は新しい夫だろう。龍希を睨んでいるところを見ると前の黒ヒョウよりは気骨があるようだ。

どうでもいいが。

「ふふ。嫉妬しないの。心配しなくとも私の恋は叶わないわよ。紫竜の次期族長様だもの。」

「違います。」龍希は即座に否定する。

「亀が首を長くして待ってたわよ。のろまなあいつらもようやく龍希殿の魅力に気づいたのね。」

「違います。藍亀あいきはどちらに?」

朱鳳の巣に獣人たちの群れ・・・いろんな匂いが充満していて藍亀の匂いが分からない。

「あっちよ。貸し1つね。」虎春こしゅんが右手で指す方を見ると、居た。

亀が2匹

「藍亀の族長と後継者だな。行くぞ。」族長が歩き出したので、龍希は龍海と後を追う。


「これはこれは。紫竜の族長と後継者殿ですか。」藍亀族長が龍希たちを見る。

「まだ後継候補です。」族長が否定する。

「そうでしょうな。族長殿は熊の息子びいきとお聞きしております。」藍亀族長がニヤリと笑う。

「・・・候補者の中で最も早く息子を2人授かったものを後継者とするのが紫竜のルールです。私は息子も候補者も贔屓はしません。」族長は藍亀族長を睨む。

「ほっほっほ。相変わらずよのう。それにしても孔雀の息子が父になるとは。ついこの間まで、海の魚に喜んで飛び回っていた小竜だったのに。」藍亀族長は愉快そうに龍希を見る。

『なんの話だ?』龍希は首を傾げる。

「龍希様が転変された祝いに藍亀族の島を訪ねたときのお話しですよ。」龍海が説明する。

『覚えてねえよ。』

「あの黄虎を手なずけるとは・・・熊の息子よりは気骨があるな。」

「違います。一方的に絡まれているだけです。藍亀族は随分と龍栄殿を気に入っておられると聞いていますが、どうして俺を?」

「ほっほっほ。聞いておらんのか?熊の息子が推薦したんじゃよ。自分には跡継ぎができるか分からんからというて。」

「はあ!?」龍希は思わず大声が出た。

『聞いてないぞ!あの野郎』

「それならご心配なく。龍栄殿の奥様はご懐妊中ですから。」

「ふっ」藍亀族長は鼻で笑う。

龍希はイライラしてきた。

「雄が2匹必要なのじゃろう。おぬしの方が早いのではないか?」

「まだわかりませんよ。」

「ならば熊の息子が正解じゃろう。不確かなことで取引先を困らせんように。」

「う・・・」

「おぬし、見た目通り頭が悪いな。」

「ぶっ・・・」

噴き出したのは龍海だ。

『後でぶん殴る』

「そうですね。龍栄殿にはかないません。」龍希は営業スマイルで答える。

この亀爺は嫌いだ。このまま龍栄一人に担当していてもらいたい。

「ふうむ。孔雀の息子は直感で動くタイプじゃな。さあて・・・」くそ爺は目を細めて龍希を見る。

幹亀かんき。あれはどこじゃ?」藍亀族長は連れの男に尋ねる。

「ご出産祝いは忘れてきました。今度、取りに来ていただきましょう。」連れの男は肩をすくめる。

「じゃあそなたに2匹目が産まれるまでに準備しておくから忘れんようにな。待っておるぞ。龍希殿。」

「はあ?」

意味が分からない。なんだこの亀たちは?


「おや、そろそろ始まるようです。朱鳳がこちらに」幹亀が龍希たちの後方を見る。

「お話し中失礼します。間もなく朱鳳の族長が参りますので、お席にご移動をお願いします。」やってきたのは鳳雁ほうがん竜湖りゅうこだった。

「ご案内します。」竜湖が龍希たちに声をかける。

藍亀たちは鳳雁の後をついていった。

「あちらが紫竜の席ですわ。ん?」

竜湖と同時に龍希も振り返る。

わずかだが殺意を感じた。明らかに龍希たちに向けられたものだ。

族長と龍海も同じ方を睨んでいる。


「人族か?」


龍希は獣人の群れの奥、大樹の枝の陰に4つの人影を見つけた。

「人族が来るとは聞いていませんわ。」竜湖は驚いている。

「じゃあやっていいですよね。俺に売られた喧嘩でしょう。」龍希は深紅の獣の目になる。

妻はいないので雷を遠慮する理由はない。息子が産まれる前、人族が妻に毒を盛ろうとしたことを忘れてはいない。

「ちょ・・・待って。私じゃ判断つかないわよ。朱鳳の巣で雷は待って。」竜湖は慌てる。

「龍希様、落ち着いてください。」龍海も慌てて制止する。


雌の朱鳳が1匹、人族たちに駆け寄って行った。

「あれは・・・凰鈴おうりんね。あの子の招待客なら落とし前は朱鳳につけさせなきゃ。」竜湖がニヤリと笑う。

「落とし前?」龍希はいつもの目に戻した。

「後で枇杷亭に首を届けさせるわ。」

「いりません。妻は獣人の血を嫌うので。」

いつかのゴリラの時のように気絶されてはたまらない。

「本家に持ってこさせろ。4つ全てだ。お前の娘だろうと容赦はせん。」

族長の顔は険しい。どうやら龍希以上にぶちぎれているようだ。

こうなると龍希が冷静にならざるを得ない。

「朱鳳族長に確かに伝えます。ですので雷はご勘弁を。大樹に傷がつけば大事になります。」竜湖は今度は必死に族長をなだめている。



 朱鳳の新族長は齢90の雄だった。竜湖の夫である鳳剣ほうけんの父らしい。

代替わりの儀はつつがなく終わった。

だが、招待客たちの間ではそれよりも紫竜にけんかを売った獣人の話題で持ちきりだ。

龍希が思っている以上に龍希の妻は獣人たちの間で有名になっているようだ。

昨年、龍希が人族の町に雷を落として全焼させたことも相当注目を集めたらしい。

 儀式が終わるなり、顔色を変えた鳳剣と凰蘭おうらんが飛んできて、新族長の待つ部屋に通された。

そこから紫竜と朱鳳の協議が2時間・・・龍希は疲れていた。

やっぱり族長なんて面倒以外の何ものでもない。駆け引きに騙し合いに・・・あれを日常の仕事にするなんてごめんだ。龍希には向いていない。

 


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