黄虎族長の約束
「6月の終わりに、竜琴の鱗が生え代わり、黄虎と朱鳳から縁談の申し込みがありました。竜縁の鱗はまだですが、責任感の強い子ですから、族長の姪として竜琴が選ばなかった方に嫁ぐと言っているのです。
竜琴はまだ縁談なんて良く分かっていませんが、まあ、当然臭い虎は嫌!と言ってまして。かたや竜縁も黄虎の臭いは嫌いですが、これまで虎たちとほとんど接点がなく、黄虎の谷がどんな場所かも知りませんので、竜琴ほどの拒否はなく・・・」
「まじ!?虎引き取ってくれんの!」龍希は歓喜の声をあげたが、
「冗談じゃないですよ!虎にも朱鳳にも娘はやりません!」龍栄がキレた。
「なるほどね。それで今回、竜縁を黄虎の谷に連れてけば、黄虎の縁談を断固拒否するはずってことね。
族長、龍栄たちが一緒なら奥様は絶対安全ですわ。」竜湖はニヤニヤしながら龍希を見てきた。
「はあ!?嫌ですよ!」
「族長、行きますよ!お互いの愛娘のためです!あなたがしないなら、私から奥様にお話しします。」
龍栄は・・・ダメだ!親バカの顔だ。
こりゃ絶対に譲らねぇ。
「いや、俺は・・・」龍希は頭を抱えた。
「族長代行はまた龍海にします?それとも龍賢?」竜湖は勝手に話を進める。
「龍賢殿、お願いいたします。」
「畏まりました、龍海殿。」
「他のお供は・・・黄虎担当の龍灯と、女は・・・」
「私が行きます!娘を拐ったワシたちが居ますから!」なんと竜色が手を挙げた。
「私も参ります。前回もお供しましたし、幼い龍風もいますので。」竜冠も手を挙げる。
「決まりね。族長、早速黄虎に返事をしましょう。」
「え!?いや、俺は・・・」
「文句があるなら、あっちで龍栄が聞きますわ。」
「何時間でもお付き合いしますよ。愛娘のためです!」
龍栄の目はマジだ・・・龍希は観念した。
~黄虎族本家~
9月、紫竜本家を出発して3日目の昼に臭い虎の谷についた。ワシとワニ領を避けたので前回とは別のルートになったが、ちょうど追い風で予定より1日早くついた。
馬車から降りたところを出迎えたのは、見たことのない雄虎だ。
「ようこそ奥様!黄虎族長の弟の虎冬と申します。」雄虎はそう言って営業スマイルで頭を軽く下げた。
どうやらこいつがジャガーと政略結婚した弟らしい。
「族長がお待ちです。さ、こちらへ。」
虎冬は妻以外は無視して本家の中へと案内する。
~応接間~
「はーい奥様!ご無沙汰」
相変わらず虎春は馴れ馴れしい。
「族長様、ご無沙汰しております。」
妻は軽く頭を下げる。
「はるばるご足労ありがとう。
こちらの用件の前に、以前のお礼はお決まり?
なんでも言って下さいな。物でも情報でも、殺しの依頼でもなんでもしますわよ。」
「何の話です?」竜色が龍希に尋ねる。
「あ~前にここに来た時に、ワニと人族の揉め事のことを妻が教えてやったお礼のことだろ。」
龍希もすっかり忘れていた。
「・・・では、情報をお願いしたいです。」
妻がそう言ったので龍希は驚いた。隣の竜色は警戒した顔になる。
「ええ。何をお望み?うちの情報収集は紫竜なんかより上よ。」
「ココという名前の白鳥の獣人の素性と居場所が知りたいです。」
「え?」
「な!?」
龍希と竜色は同時に大声が出た。
『なんで妻がそんなことを?いや、助かるけど。』
「ココ?白鳥?どっかで聞いたような」虎春は隣に座る虎冬を見る。
「そっちにいる熊の息子の妻だった白鳥ですよ。」虎冬はニヤニヤしながら龍栄を見る。
「え!?」妻は驚いた顔になる。
「おいおい、族長の妻なのにそんなことも知らねぇの?まじで粗末に扱われてんのな。」
「なんだと!?」龍希は虎冬を睨み付ける。
「虎冬、奥様に教えてあげて。」
「はい、族長。白鳥ココの素性と居場所ですね。
ココは前の前の白鳥族長の養女ですよ。紫竜には実娘と偽って嫁いでましたけど。そこの熊の息子と結婚したけど、死産が続いて離婚されました。離婚した後は確かワシ領に居ましたね。そっから先は知りません。
あとは居場所ですけど~奥様はココと会いたいのですか?」
養女?ワシ領?
龍希の知らない話が出てきた。
てかなんで虎どもはそんなこと知ってんだよ!?
「いえ、どこにいるのかだけ教えて頂ければ十分です。そこから先は夫がお決めになることですから。」妻は表情を変えずに答えている。
「はーん。なるほどね。こんなバカ竜にはもったいねぇなぁ。ココはもう死んでますよ。」
「はあ!?」龍希は驚きのあまり立ち上がった。
「いつ?どこで?」竜色も驚いて尋ねるが、虎どもは竜色の方を見もしない。
「ココはいつ頃、どこで死んだのですか?」妻が尋ねる。
「さあ、そこまでは知りません。朱鳳に聞いて下さい。」
「はあ!?」龍希は訳が分からない。
「どういうことでございますか?」さすがの妻も困った顔になっている。
虎冬はちらりと虎春を見る。
「奥様に教えて差し上げて。」
「はい、族長。
昨年、朱鳳からの依頼でココの情報を売ってやったんですよ。あいつらはココのスカーフを回収したいと言ってたので、ココの死期が近かったんでしょうね。」
「スカーフ?」
「奥様が肩にかけてる朱鳳のストールと同じですよ。龍栄との結婚祝いに朱鳳がプレゼントしたものです。妻が死ぬ直前になると朱鳳は回収するんですよ。奴らはケチなので。」
「なんでお前らが白鳥の居場所を知ってたんだ?」龍希はイライラしながら尋ねたが、無視された。
「どうして白鳥の居場所をご存じだったのですか?」妻が尋ねてくれた。
「シマヘビから買ったんですよ。情報を。対価は奥様の妊娠の情報です。」
「あー!そうだ!あんときはよくも!」龍希は思い出して怒鳴った。
龍風の妊娠を隠していたとき、黄虎どもが龍光の元妻シマヘビに妊娠を知らせたせいで、妻はシマヘビに堕胎菓子を食べさせられるところだったのだ。
「何?私たちのおかげで龍光は失脚したでしょ。あんなのが族長候補なんて笑っちゃうわ。」虎春はそう言って鼻で笑う。
「あのシマヘビ妻はココの仲間だったのですか?」妻はまた驚いている。
「これもご存じないんですか?
奥様が何度も白鳥の手下に殺されかけたのは龍光のシマヘビ妻を族長の妻にするためですよ。
他の紫竜の妻は知ってるのに。一番の被害者には何も知らせないなんて。」
虎冬は呆れた顔で答える。
「でまかせ言うな!こんな話、妻たちには知らせてないよ!」龍灯がすかさず反論する。
「さてと、これで奥様へのお礼は十分ですよね。」虎冬はそう言って虎春を見る。
「ええ。ご苦労。さて奥様、今度は私どものお願いを聞いて下さいます?」
「お役にたてるかは分かりませんが、お伺いします。」妻はまた無表情になって答えた。




