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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第6章 望郷編
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ゴリラの商人

~ゴリラ領 商人屋敷~

「若様、お疲れ様でございます。」龍景の黒ヒョウの執事が馬車の扉を開けた。

(らい)、ご苦労。」龍景が馬車を降りると、目の前の鉄製の門が開き、ゴリラの獣人が2匹出てきた。


「朝顔亭の若様、お待ちしておりました。どうぞ応接間にご案内致します。」

初老の雄ゴリラがこの館の主人で、その隣の若い雌ゴリラは妻らしい。



~応接間~

「紫竜の若様をお迎えできるとは、誠に光栄にございます。ささ、どうぞお掛けくださいませ。」

龍景が椅子に座ると、ゴリラ夫婦は向かいのソファーに腰掛け、ゴリラの使用人がお茶と果実を運んできた。

「いえ、カラス族から貴殿のことを聞きまして。実は私の屋敷の庭師を探しているのですが、父と同じく雄ワシを雇いたいのです。しかし、伝手がなく困っておりまして。」龍景は営業スマイルでゴリラに話しかける。

「左様でしたか。確かに少し前、ワシの雛をカラス族にお譲りしましたが・・・誠に申し訳ございませんが、只今、求職中のワシはいないのでございます。トンビの雌でしたらすぐにご紹介できるのですが・・・」雄ゴリラは申し訳なさそうな顔で答える。

「・・・貴殿は仕事の斡旋を生業とされているのですか?」

「え?あ、いえ。本業は食肉の加工と売買でございます。ただ取引先が多いので、仕事の斡旋を依頼されることがたまにございまして、ワシの雛もそのご縁でした。」

「・・・では、ワシの雛を連れてきた人族をご紹介いただけませんか?」

「え!?」雄ゴリラは驚いた顔になる。

「あ、いえ申し訳ございません。その人族は取引先ではなく、流れの商人でして。どこの誰かも分からず、連絡も取れないのです。」


「そうですか。わざわざここまで来たかいがありました。」


「ど・・・どういうこ・・・」

険しい顔になった龍景を見て、雄ゴリラは言葉を詰まらせる。

「また、ゴリラ族はわが一族相手に悪巧みをしているんだな。お前が嘘をついてるのがその証拠だ。」

「え、ええ!?いえ、嘘なんてそんな・・・」

雄ゴリラは慌て、隣の妻は震え上がっている。

「言い訳なら、うちの本家で聞いてやる。おい!」

龍景はそう言って今度は雌ゴリラを睨み付けた。

「ひ、ひい!」

「お前はワシの雛を連れてきた人族を知ってるか?」

「は、はい!」

「知ってること洗いざらい話すなら、お前の命は助けてやるよ。」


「は、はい!そ、その人族は、あ、あいつ、ゴーライの主人です。こ、ここから西の人族町に家があります。」

若い雌ゴリラは震えながら白状した。

「な!お、おい!」狼狽えている雄ゴリラが雌ゴリラの肩を掴む。

龍景は立ち上がると目の前のテーブルを壁に向かってぶん投げた。石製のテーブルは壁に勢いよくぶつかってバラバラになる。

「ひ!ひいい」

「女に喋らせろ。次に邪魔したら、お前を壁に叩きつけるぞ!」龍景が雄ゴリラに凄むと、雄ゴリラは雌ゴリラから手を離した。

「誰だ?そのゴーライってのは。」龍景は雌ゴリラを睨み付けて尋ねる。

「ゴ、ゴウランの息子です。」

「ゴウラン?誰だ?」

「い、いまの紫竜族長に返り討ちにされた男です。せ、雪光花の山で。」

「あーあれか。息子が居たのか?また仇うちかよ!」

龍景はうんざりした。


「ち、違います!ゴーライはな、何もそんな!」雄ゴリラがまた声をあげる。

「じゃあなんで俺に嘘をついた?」

「も、申し上げます!」雄ゴリラは観念したようだ


 す、数年前、我がゴリラ族から紫竜に嫁いだ娘が起こした事件で、雪光花の山で死んでいたゴウランとその妻たちが枇杷亭の若様ご夫婦、今の紫竜族長におろかにも喧嘩を売っていたことが分かりました。

その上、紫竜の花嫁となった娘はゴウランの妻の仇討ちをしようと紫竜相手に悪さをしたということで、娘の家族の首は紫竜にお渡ししました。

 ゴウランの家族については、紫竜からお求めはなかったですが、ゴリラ族長の判断で死刑となりました。ただ、末息子のゴーライはまだ成獣していない子どもだったため死刑にはできず、ゴリラ領からの追放となりました。

し、しかし子どもが1人追放されては生きていけません。この子は何も悪いことをしておりません。父親があんなバカゴリラで、それもゴーライの母ではない妻の遺族が起こした仇討ち事件で、こ、子どもがゴリラ領外でのたれ死にするのは、あまりに憐れで、そ、その、私が秘密裏に匿っておりました。ゴーライの母方の祖母は、私の母の妹なのです。

そ、それでゴーライの働き口を探していたところ、ち、近くの人族町の商人が見つかったのです。

異種族嫌いの人族とは私は取引はありませんでしたが、そ、その人族から話を持ちかけてきました。な、なんでも人族と他の獣人の戦争が増えてきたので、他の人族町に商売に行く時の護衛がほしいと。ゴーライは成獣はしていないものの、人族の成獣よりも身体が大きく、力も強いので是非雇いたいと言うのです。

 ゴーライはその人族のもとで働き始め、その人族の商人が用意した人族町の側の小屋で暮らし始めました。そ、それからは音信不通となっていたのですが、今年の春、数年ぶりに訪ねてきました。

ゴーライはもう成獣になっており、人族の商人は獣人の奴隷売買で儲けて、より大きな人族町に引っ越すことになったので最後に挨拶に来たと言うのです。そして、かつて世話になったお礼だとワシの雛を連れてきていました。

 私は奴隷売買はしていないので困りましたが、ゴーライは、カラス族がワシ族と絶縁したためカラスたちは奴隷売買でワシを高値で買っているから、私の取引先カラスに買わないか聞いてみてほしいと頼み込むので、仕方なくワシの雛を預かったところ、すぐに取引先カラスから雛を買いたいと打診があり、予想以上の高値で売れました。

 見知らぬ人族から買ったと嘘をついたのは、ゴーライを匿っていたとバレたくなかったからです。ゴーライは紫竜に悪さなど企んではおりません。私がゴーライを匿い、隠したのも、紫竜に何かしようという考えなどございません!


雄ゴリラは大泣きして震えながら白状した。

「なるほどな。今の話に嘘はねぇな。うちの族長はゴリラの遺族に興味はねぇから、別にそのゴーライを匿ってたことはどうでもいい。それより、ゴーライとその人族はまだ近くの人族町にいるのか?」

龍景は営業スマイルに戻して雄ゴリラに尋ねる。

「い、いえ。ワシの雛が売れたことを知らせに行ったのですが、町外れの小屋にも人族町の商人屋敷にもゴーライも人族の商人の姿もなく。本当でございます。どこにいるのか、どこに行ったのか分からないのでございます。」

『これも嘘ではないようだ。悪意を感じない。』



「あ、あの・・・」

「ん?」龍景は震える雌ゴリラを見る。

「わ、私はゴーライを裏口から見送った際、き、聞いております。ゴーライの主人はし、鹿領近くの人族町に引っ越すと。」

雌ゴリラの言葉に雄ゴリラは驚いた顔になる。

どうやら雄ゴリラは本当に知らなかったようだ。

「鹿領近くの人族町?あ!もしかしてスイレン町か?」

龍景は龍光が話していた人族町の名前を思い出していた。

「え?いえ、スイレンではなく、えっと、あの、スイト?町だったかと。」

「スイト町?聞いたことねぇな。まあでも嘘はついてねぇな。

よし!お前ら正直に話したからこの話はゴリラ族長には黙っといてやる。うちの族長にもお前らの処分は求めねぇ。

その代わり、この話は他に漏らすなよ。」

龍景がそう言ってもう一度ゴリラ夫婦を睨むと、ゴリラたちは真っ青な顔で頷いた。


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