龍兎の再婚
夕方、ようやくカバ族長の尋問が終わり、カバが死んだのを見届けて、暗い顔をした熊族長は一角獣の馬車に乗って帰っていった。
龍希もまた疲れていたが、明日は朝から一族会議だ。情報を整理して早急に動く必要がある。
~紫竜本家 大広間~
翌日、一族会議ではまず龍海がカバ族長から聞き取った話を報告した。
「ええ・・・つまり、龍海様の妻の兄がカバ族長唆して龍雲に不妊の妻を連れてきたり、竜色の娘を拐わせたと・・・
ただ、龍景の元妻誘拐には無関係で何にも分からない、と。」
「そのようです。誘拐犯のワシも妻の兄も行方不明、唯一の手がかりは鹿領の向こうの人族町のスミレというカイホウグンですな。」
「鹿との復縁はやむ無しねぇ。」竜湖のため息混じりの言葉に皆頷いている。
「しかし、熊兄はなぜこちらに?恨むなら熊族長と、その熊族長を後継者にしようと遺言状を残した死んだ熊妻では?」
男たちは首をかしげている。
龍希は無言で竜夢を睨んだ。
竜夢が熊族の後継問題に首を突っ込み過ぎたあげく、失敗したのが原因だ。
男たちには熊の先代族長夫婦の弱みを握っていたことを隠しているから、竜夢が先代族長を脅して兄熊を族長にさせようとしたことも知らせていない。
「それは熊を捕まえて聞けばいいわ。それより、カバ族と鹿族をそれぞれどうします?」竜湖が話題を変えた。
「鹿との絶縁はとくが、シリュウ香の取引再開は保留とする。あくまでも目的は人族町だ。カバ族からはすでに龍雲の結納金の返金とその同額の賠償金を受け取った。カバ族長も生きたまま連れてきたから、カバ族とは取引を打ち切って絶縁するだけで済ませてやる。いいな、龍雲、龍景。」龍希がそう言って2人を見ると、2人とも頷いた。
「今日この時点をもって龍雲は、カバの後妻と正式離婚だ。」龍希は族長として宣言した。
「あの・・・妻、じゃないカバの元妻はどうなりますか?」龍雲が尋ねる。
「心配すんな。殺さねぇよ。とはいえカバ族にも帰れないだろうから、うちの使用人になるかと竜和が勧誘したらしいが、断られたんだろ?」龍希がそう言うと竜和が立ち上がって報告を始めた。
「はい。カバの元妻は・・・ジャガー領に帰りたいと言うのです。両親の離婚後、成獣するまで母親と過ごした場所らしく。この件についての口止め料を渡してジャガー領に送ることで族長の承認を得ましたので、明日、私がジャガー領の宿まで送って参ります。」
「口外しないと信用できますか?」
「まあ、されたところでうちに大した被害はねぇよ。それに殺すのはあんまりだろ。カバの元妻は何にも悪さをしてねぇ。強いて言えばもっと早く教えろよと思うが、まあ拐われて脅されてうちに連れてこられたら・・・なぁ。」龍希はため息をつく。
「龍希様は変なとこで慈悲深いですよね。」
「あ!?喧嘩売ってんのか?」龍希は龍景を睨む。
「売ってません!誉めてます!」
「他に反対意見はあるか?」
誰も発言しなかった。
「よし!鹿本家に行く使者には龍兎と竜波を指名する。来週、マムシ族に結納金を渡しに行くついでに鹿族長に絶縁解除を伝えてこい!」
「畏まりました。」竜波と龍兎は同時に返事をした。
「龍兎は遂に再婚ですね。」異母兄である龍灯は嬉しそうだ。
「はい。予定通り、マムシ族の商人の娘と再婚が決まりました。カバ族と鹿族の牽制にもなりましょう。来週、結納金を支払い、来月中に嫁入り予定です。」竜波は嬉しそうに報告する。
「皆様のおかげです。仕事の手伝いをさせて頂き、こんなにも早く結納金を貯めることができました。」龍兎は深々と頭を下げる。
「何を言ってる!お前が勤勉だから皆、信頼して仕事を任せたんだ。もっと誇れ!」龍灯の激励に、頷くものは多い。
龍兎は鴨の前妻を目の前で殺されたショックはもちろん、序列が低いが故にもう縁談はなさそうで、あっても一から結納金を貯めるのに2年はかかると落ち込んでいた。
正直、龍希としては結納金の半分相当の見舞金を出してやりたい思いだったが、龍兎のプライドを傷つけてしまう。そこで、龍兎に色々と仕事を任せ、理由をつけて報酬を弾むことにした。龍灯たちも同じことを考えていたようで、龍兎は復帰してから休む間もなく方々に駆り出されていた。
ついでに再婚相手は族長筋じゃねぇから結納金はやや安めだ。
「ワシの捜索はどうしますか?」龍海が尋ねる。
「どうせワシ族は知らぬ存ぜぬだろうからなぁ。参ったぜ」龍希は両腕を組む。
「龍緑はまだ動けそうにないですか?」龍算が空席を見ながら尋ねる。
守番の竜夢が立ち上がった。
「ええ、相変わらず妻の体調が悪く、龍緑は巣から出てきません。3月に妊娠が分かった後、人族特有のつわりが始まったのですが、日に日に症状が重くなり、妻はリュウカの部屋から出ることもままならず、水分以外は受け付けない状態が続いております。」
「もう5月ですよ!だ、大丈夫なのですか?族長の奥様はなんと?」龍海はまた狼狽えている。
「つわりに効く薬はなく、つわりの重さも症状も個体差が激しいそうです。族長の奥様の時には食べられた食事を、龍緑の妻は受け付けないらしくシュシュも頭を抱えています。族長の奥様も色々と差し入れをして下さっていますが、龍緑の妻が口にできたのは生姜湯だけでしたわ。」竜夢はかなり深刻そうな顔をしている。
「大丈夫だろ。別に病気じゃないんだ。俺の妻の時も飯を食えないのは一時的なもんだったし。」龍希はそう言ったのだが、
「病気じゃないから困るのですよ!治療法がないのですから!それに族長の奥様はたまたま三回とも重症化しなかったからよかったですが、人族でも死産、流産は珍しくないのです!最悪、妻が死ぬこともあるのですよ!」竜紗が怒り出した。
「俺に怒るなよ。お前らは心配しすぎなんだ。認めたくねぇが、龍緑の妻の方が芙蓉より身体は頑丈だしな。」
「妊娠中は関係ないです。私たちや黄虎だって死ぬときは死にます。妊娠・産卵は命懸けなのですよ!」竜和と竜波も、いうか女たちから睨まれた。
『いや、なんで俺に怒るの?』




