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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第4章 世代交代編
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妻のお願い?

~芙蓉の客間~

 7月のある日、夫の守番中に上機嫌の竜湖が訪ねてきた。

「芙蓉ちゃん、例の解毒剤ができたわ。実験も今のところ上手くいってて、遂に蘇生に成功したわ。」

「まぁ!良かったです!」

 芙蓉が毒殺されかけたのは去年の息子の誕生祝いの時だった。それから今年3月にその毒の作り方が分かったので、解毒剤を作るのに協力してほしいと言われたが、さすがに解毒剤を一から作るなんて芙蓉には不可能だ。

竜湖に薬草辞典や毒の本を用意してもらい、解毒剤になりそうな薬草や人族の解毒剤を買ってもらって、試作品を作り、実験して改良してを繰り返していた。

理由は不明だが、先月から解毒剤作りが急ピッチになり、竜湖やシュグが毎日のように客間を訪ねてきては芙蓉と相談して改良し、シュグが実験しに行きの繰り返しだった。

実験体がシュグの医務室にいたらしいが、芙蓉は会わせてもらえなかった。

 なお、心配症の夫には芙蓉が解毒剤作りに関与していることは秘密だ。別に芙蓉の身体で実験するわけではないのだが、夫が大騒ぎするのは目に見えている。

あまり夫に隠し事はしない方がいいのだろうけど・・・自分だけでなく毒見役の三輪の命だってかかっている。その上、芙蓉を母にもつ子どもたちにも毒が効くかもしれないなんて脅されては・・・解毒剤作りを手伝うことに迷いはなかった。

 それに嬉しいのだ。子どもの頃から必死で覚えた薬や毒、商人の知識を生かせることが。


お金のために売られた憐れな花嫁で終わりたくない。

大切な者を守るために自分ができることをしたい。


「龍希には効果のある解毒剤ができたってことだけ伝えて、芙蓉ちゃんのことは伏せてるから安心してね。」

「ありがとうございます。竜湖様。」

「ううん、ほんとは芙蓉ちゃんのお陰だって広めたいけど、龍希はあなたのことになると心配症って言葉じゃ足りないくらいになるから。」竜湖は肩をすくめる。

「ふふ、とても大切にしてくださいます。」芙蓉は作り笑顔で答えた。

この女に夫の悪口など言わない。絶対に隙を見せてはいけない相手だ。



「あ、そういえば龍風はもうすぐ3ヶ月ね。転変しそう?」

「まだなんともいえませんが、上の子たちより小さいですし、まだ雷気を食べないのです。最近ようやく上の子たちが雷気を食べる姿をじっと見るようになったんですが、夫が雷気を口に近づけても食べないらしいです。」

「うーん、まあ兄弟でも個人差はあるし、龍陽も竜琴も転変の早さはトップクラスだったからね。龍光の子より転変が遅くなることはないはずだけど・・・」竜湖は何やら考えこんでいる。

「龍光様の子よりは・・・ですか?」

「ええ。多分だけど、先に息子が転変した方が次期族長って話になるかなー。というか私たち龍希派はそう主張するつもり。」

「え?先に息子が産まれ方ではなかったのですか?」

赤ちゃんと解毒剤のことで頭が一杯で族長のことはすっかり忘れていた。

「あ!言ってなかったかしら?同じ日の夜明けころに2人とも産まれたからどっちが先か分かんないの。」竜湖は肩をすくめる。

「え!?そうなのですか?」

芙蓉は驚いた。

『そんなことある?』

「同じ日に2人産まれるなんて前代未聞よ。2人とも転変したら族長を決めることになるけど、きっと龍希は龍光に族長の座を押し付けようとしてると思うから、あなたからも族長になるようにしっかり言っておいてね。」

「はい、竜湖様。」芙蓉は作り笑顔で答えた。

「芙蓉ちゃんは本当に頼りになるわ~。よろしくね。」竜湖はそう言うと満足げな様子で客間を出ていった。



 7月のある日、龍希は守番を終えて客間に戻ってきた。

明日から龍兎と龍範も復帰できるようだ。これで全員回復だ。龍光はもう自分の巣でトリ退治をしているらしいし、これでやっと守番も元通りになる。

龍兎と龍範はかなり重症だったようだが、2人とも力が弱いから仕方ない。その上、試作品の解毒剤の実験台にされていたらしいし・・序列が低いと大変だな。


「ただいま。」

「あなた、おかえりなさいませ。お疲れ様でした。」最愛の妻は今日も優しい笑顔で出迎えてくれた。

愛おしくて仕方ない。

 龍希は妻を抱き締めて長めのキスをした。

「起きてても大丈夫なのか?まだ夜はあまり眠れてないだろう?」

「大丈夫ですわ。今日は朝食後に龍風を竜冠様たちに任せて寝ておりましたので。龍陽と竜琴はタタさんと三輪と一緒に中庭で水遊びをしています。」

「そうか!じゃあ2人きりだな。」龍希は満面の笑みになると、妻を抱き抱えて隣の寝室に行こうとした。

「あ!あなた、あの、お願いがあるのです。」腕の中の妻は上目遣いで龍希を見てきた。

「ん?なんだ?妻のお願いならなんでも用意するよ。」

「あの・・・子どもたちのことではないのですが・・・よろしいですか?」

「え!もちろん」

龍希は歓喜した。子どものこと以外でのおねだりなんて初めてだ!

妻が欲しいものならどんなに高くても用意したい。それで今以上に妻に惚れられたい!


 だが、妻の【お願い】は全く想定外のものだった。


「え!?いいのか?だってそれだと芙蓉が・・・1人で寂しくないか?」

「ふふ、私には愛するあなたと子どもたちが居ますから。それに二度と会えなくなるわけではないですよね?」

「あ、ああ。芙蓉が望むならいつだって会う機会を用意するけど・・・」龍希はまだ信じられない。

だって・・・

「では、このことを竜湖様にお願いして下さいませ。あの方なら安心ですから。」

「わ、分かった。大切な妻のお願いだ。すぐに動くように伝えるよ。」

「ふふ、ありがとうございます。頼もしい夫がいて私はとっても幸せです。」

龍希は感動のあまり泣きそうになった。

この台詞と笑顔は反則だ。

「芙蓉~」

龍希は今度こそ妻を寝室に連れ込んだ。


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