2人の子ども
4月に入って少しした頃、妻に陣痛がきた。
早く産まれる危険があるとずっと言われていたが、4月までお腹で育ってくれたようだ。
龍希は今回は産まれる前から同じ部屋に居たかったのだが、妻が嫌がったので仕方なく隣の部屋で子どもたちと待っていた。
「!」
赤子の鳴き声が聞こえてきた。今回も生きて産まれてくれた!息子と娘の時よりも少し声が小さいが、それでも隣の部屋までしっかり聞こえてくる。
「うまれた!」
「あかちゃん!」
子どもたちも大喜びしている。
「龍希様!」大泣きしている竜紗が呼びにきた。守番は竜冠だが、妻の警護のために特別に竜紗も立ち会ったのだ。
龍希は立ち上がって妻のもとに向かった。子どもたちも後をついてくる。
「旦那様!」カカもタタも妻の侍女たちもついでに毒見役も大泣きしている。
「・・・」
「おめでとうございます!」竜冠は泣き笑いしながら産まれたばかりの息子を差し出した。
「やっぱり!やったわね!」廊下で警護していた竜湖は部屋に入ってくるなり大泣きし始めた。竜音の葬儀の時だってこんなには泣いてなかったのに・・・
「さ!神殿に行く準備をなさい!龍栄、龍海、龍緑はすぐに来るわ。本家の連中にも子が産まれたことを知らせなきゃ。トリの襲撃に備えなきゃ。」
本家の使用人たちには妻が流産したように装ってきたから、驚くだろう。だが、そのおかげかあれ以降、妻に危険が及ぶことはなかった。
「あれ?そういや、俺は誰と神殿に行けばいいんです?」
族長の父はまだダメそうだ。
「え?本当の族長代行はあんたなんだから。あ、でも一人が寂しいなら兄さんについてきてもらう?」竜湖はにやりと笑う。
「一人で行ってきます!」龍希は竜湖をにらむと隣の部屋に戻って支度を始めた。
案の定、本家は大騒ぎになっている。
「ん?」
この匂いは竜染だ。龍栄派のあいつがなんでこっちに?
「族長代行!若様がお産まれになったのですか?」息を切らした竜染はノックもせずに入ってきた。
「あ、ああ。どうした?」
「それが・・・ぜえぜえ・・・たった今スミレ亭から使者が・・・孵化して産まれたそうです!」
「はあ?」龍希は驚いた。
「ど、どっちが先だ?性別は?」
「わ、分かりません。り、龍光様はどうすれば?神殿には誰が?」竜染もパニックになっている。
「落ち着きなさい。神殿に行けば分かるわ。龍希、あんた支度ができたらスミレ亭に龍光を迎えに行って一緒に神殿に行きなさい。」さすが竜湖だ。こんな時でも冷静だ。
「わ、分かりました。」
~スミレ亭~
「龍希様!本家を離れてよいのですか?」龍光は驚いた顔で馬車に乗ってきた。
「まあ座れ。出発したら話す。」龍希は平静を装ってそう言ったが、内心はまだパニックだ。
「は?ええ!若様がお産まれに?」あの龍光も大声をあげてパニックになっている。
そうだろう。同じ日に竜の子が産まれるなんて前代未聞だ。
「お前の方はいつ頃だ?」
「え?確か・・・ちょうど日が登る頃に卵が完全に割れて我が子が出てきました。」
「まじかよ。俺の子も日の出ころに産まれた。」
「ええ?」
龍希と龍光は両腕を組んで黙り込んだ。
~竜神の神殿~
「おめでとうございます。りゅう希様、りゅう光様。」ツインテールの竜縁は真っ白の巫女服を着て、神殿の最奥にある祭壇の前で待っていた。
「どちらのお子様からお伝えしましょう?」
「龍光だ!」龍希は龍光の子の性別が気になって仕方ない。
「かしこまりました。では、」竜縁は目をつむって大きく深呼吸すると、目を開いて龍光を見る。
「夜明けとともに母クシャナ様からお生まれになった子の名はりゅうぼくです。雄竜のりゅうに、黒いすみのぼく。大切に守りお育てください。」
「む、息子ですか・・・」龍光は驚いている。
「はい。若様です。さ、こちらを若様と一緒にお召し上がりください。りゅうぼくの誕生の実はデコポンです。」竜縁は祭壇の上にあるオレンジ色の果実を龍光に手渡した。
「お待たせしました。」竜縁は龍希の前に来ると、再び目をつむって深呼吸した。
「春の風が新たな生命を運んでくるこの月に、母のふよう様からお生まれになった子の名は、りゅう風です。 おす竜を示すりゅうに、風の字。大切に守り、お育てください。りゅう風がその名のとおり一族に新たな風をもたらす日まで。」 竜縁は言い終わるとふうと息を吐き、祭壇の上にある黄色の果物を手にとった。
「りゅう風の誕生の実は日向夏です。こちらを奥様と一緒にお召し上がりください。子はおちちから実の力をえます。」竜縁はにこりと笑って龍希に手渡した。
「竜縁。龍光の息子と俺の息子、どっちが先に生まれたんだ?竜神の意思に反しないなら教えてくれ。竜縁の安全第一だ。」龍希は恐る恐るきいた。
「え?どっちが先?分かりません。私は今日、ここでりゅうぼくとりゅう風の名を伝えるようにとしか聞いてません。」
「ええ?」龍希と龍光は同時に声をあげた。
「え?じゃあどうすれば?」龍希は今度こそパニックだ。
龍光も同じくらい狼狽えている。
「とりあえず戻りますよ。トリはもうどっちにも来てます。どうせ父様も混乱しているだろうから私も本家に連れてってください。さ、早く。」1人冷静な竜縁はすたすたと馬車に向かって歩き出した。
龍希と龍光は顔を見合わせると竜縁の後を追った。
~スミレ亭~
「あなた。息子ですか?」クシャナは玄関で龍光を出迎えた。外からトリの臭いがして不快だが今はそれどころじゃない。
「あ、ああ。ただいま。息子だ。名はりゅ・・・」
「やったわ!」クシャナは歓声をあげた。
名前なんてどうでもいい。ついに!ついにこの日が来たのだ。
「ああ、族長の妻になれるなんて!最高の日だわ!」
「まだ分からんよ。」
「は?」
聞き間違いだろうか?そうに違いない。
「今日、龍希様にも若様がお産まれになった。」
「はああ?」
このバカ竜は何を言ってんの?笑えない。
「あそこのガキは死んだでしょ?」
「何を言うんだ!奥様もお腹のお子様もご無事だ。一緒に名を授かってきた。あちらの若様は龍風様だ。」
「うそ・・・」クシャナは絶句した。
あの人族の子が生きてた?今日産まれた?息子?
そんなバカな!
「どちらが族長になるかは、2人の竜の子が転変した後だ。龍墨を守らねば。」
龍光はそう言うと守番たちがいる執務室に入って行った。
クシャナは怒りでどうにかなりそうだ。
~本家 族長代行執務室~
「ええ!あっちも息子!どっちが先か分かんないの!」あの竜湖が取り乱して叫んでいる。
「伯母様、どっちが族長ですか?」龍希は途方にくれて竜湖を見る。
「え?ええ?分かんないわよ!」
「先に転変した方では?ねえ、父様。」竜縁はそう言って、困った顔をして立ち尽くしている龍栄を見る。
「え?あ、ああ。竜縁がそう言うならそうだな。」
「いやいや!龍栄殿!しっかりしてください!」
『この親バカやろう!』龍希は慌てた。十中八九、龍風が先に転変するはずだ。
「同時に産まれたなら転変順じゃない?まあ、さすがにここじゃ決められないわ。2人とも転変した後に一族会議ね。」
竜湖の提案に龍希は頷くしかなかった。




