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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第4章 世代交代編
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クシャナの産卵

~芙蓉の客間~

 2月になっても奥様は切迫早産の危険があるために絶対安静が続いている。

 先月、血だらけの奥様を見た時には三輪の心臓が止まるかと思った。

幸い、奥様と血液型が同じだったのですぐに血を提供して、途中から本家の毒見役?と交代になった。

三輪は血液不足でシュグ先生の医務室で入院となり、職場復帰できたのは3日前のことだ。


 妊娠中の奥様に誰があんなに酷いことを?


奥様は誰かから憎まれるような方じゃないのに・・・それとも獣人の考えは違うのだろうか?

 と思っていたら、なんと昨日奥様から自分で刺したと聞いて驚きのあまり大声を出してしまった。

ククさんとシュンさんの睨みは怖かった~

でも猫の獣人に襲われたらきっと三輪だってそうした。例え爆弾があっても獣人と戦うなんて恐ろしくて無理だ。



「失礼します。奥様。くず湯をお持ちしました。」三輪が奥様の客間に入ると奥様はベッドに横になっていた。

ベッドの下では若様と姫様が竜冠様に絵本を読んでもらっている。

あの事件の後、旦那様が不在の時には竜湖様、竜紗様、竜冠様の誰かが常に奥様の側にいる。

若様と姫様も奥様のそばから離れない。

「ありがとう。三輪。あなたはもう大丈夫?」奥様は上体を起こして湯呑みを受け取ると心配そうに三輪をみる。

「大丈夫です。十分なお休みを頂戴しましたので。」

「本当に悪いことをしたわ。無関係なあなたを巻き込んでしまって。あんなに深い傷になるとは思わなくて・・・」

奥様の腕にはまだ包帯が巻かれている。あと少しで骨が折れていたとシュシュ先生は言っていたけど・・・あんな小さな小刀なのに?

オウコの切れ味はとんでもないのに!と旦那様は真っ青になっていた。



~スミレ亭リュウカの部屋~

「やったわ!」クシャナは歓喜した。

今朝、念願の産卵をしたのだ。あとは孵化して息子であれば・・・龍光が族長だ!


『やっぱりココは頼りになる。』


残念ながら人族を殺すことはできなかったようだが、腹の子は死んだらしい。あの血の臭いから間違いなく死んだと思ったのに意外としぶとい。

龍光は濁していたが、本家に潜入させているシマヘビ族の間者からの情報だから間違いない。

 襲撃事件の数日後に枇杷亭の使用人と竜湖が夜、こそこそと何かを火葬したそうだ。その日以降、人族の妻は本家の客間に引きこもり、その夫は族長代行から外され、異母兄が族長代行になった。

間違いない。人族は流産したのだ。

 高い金を出してワニ族から対人族用の毒を買った価値があった。これでスイスイも少しは憂さ晴らしができただろう。

龍光が族長になったらワニへの支援もさせられるかしら?

まあ無理ならいいや。ワニはもう用済みだし。ワニと接触したのはココだからシマヘビ族にもクシャナにもたどり着けないはずだ。


 産卵したし、しばらくは大人しくしておこう。最近、やたらと竜冠がスミレ亭を訪ねてきては龍光とこそこそと話をしている。

ああ!忌々しい!成獣して白鳥に嫁いだくせに今さら何の用なのかしら?

まさか龍希派から龍光派に?

あの雌竜は最年少のくせに一族での立場は高めだと本家の間者から聞いている。だったら、龍光を後継候補のままにしとけよ!あの時には何の役にも立たなかったガキのくせに!

クシャナはリュウカの部屋で1人悪態をついた。



~カラス族長室~

「族長代行の妻が流産した?」アヤは怪訝な顔でサヤを見る。

「本家の間者からの情報です。ただ根拠が少し弱いですが・・・」

「族長代行の交代は紫竜から正式発表があったわ。理由は明らかにされなかったけど、まあ先月の襲撃事件でしょうね。まさか転変祝いの最中に懐妊中の妻が襲われるなんて前代未聞だわ。」

「はい。襲われた妻は一命は取り留めたもののかなりの出血だったそうです・・・ 」

「まあ流産してもおかしくないわね。でもならなんで枇杷亭に戻らないのかしら?」

「妻が客間に引きこもっているらしいです。」

「変じゃない?自分が襲われて我が子を亡くした場所なら離れたくない?」

「え?まあ確かに・・・人族の考えが同じかは分かりませんが・・・」

「あの夫もそう。族長代行でなくなったなら自分の巣に戻るでしょ。力の強い竜ほど自分の巣から離れたがらないもの。」

「そうなんですか?」


「だって引きこもりの若様って有名だったじゃない。」


「あ!そういえば・・・」

「な~んか裏がありそうね。しばらく静観するわよ。本家の間者にもしばらく大人しくしとくように指示しておいて。」

「畏まりました。」



~紫竜本家 族長代行執務室~

「龍光の妻が産卵した?」龍希は驚いて竜湖を見る。

「ええ。今朝、報告があったわ。孵化は4月の見込みよ。」

「龍光の息子が先に孵化したら、龍光が族長ですよね。」

「どうかしら?同じ月にあんたの息子が産まれたら、先に転変するでしょうから。」

「え?先に息子が産まれた方が族長ですよね?」

「でも2人目の息子が転変するまでは族長は交代しないからね。孵化と転変どっちを採用するかで揉めそうね。」竜湖は肩をすくめる。

「いやいや、そりゃ孵化でしょう!じゃないと竜神の意思に反しません?」龍希は慌てた。


竜神の呪いはもう勘弁だ。


「は?竜神様?なに言ってんの?族長決めには関係ないわよ。」竜湖だけでなく龍栄も呆れた顔で龍希を見るが、

「はあ!?伯母様が言ったじゃないですか!族長は竜神が決めるって!」

「え?そうだっけ?それは嘘だわ。」竜湖はさらりと答える。

「はあ?なんでそんな嘘を!」

「え~もう覚えてないけど、たぶんあんたが族長になりたくないって結婚や子作りを渋ってたんじゃない?」

「あ~そうですよ!俺が結婚は嫌だってごねてたらそう言ってました!」

「竜湖様、あまり次期族長を騙さないで下さい。」龍栄は愉快そうに笑っている。

「てかなんで他竜事?龍栄殿だって今から子ができれば4月に間に合うのでは?」龍希は期待して龍栄を見るが、


「作りませんよ。俺は族長なんてごめんなんで。」


龍栄はそう言って肩をすくめる。

「はあ?族長息子のくせに!」

「もう1人の息子が族長になるからいいじゃないですか。」

「俺はごめんですよ!」

「今更なにを。奥様が命懸けでお守りになった3人目のお子様ですよ。」

「う・・・いやそうじゃなくて!俺は族長が嫌なんです!」

「芙蓉ちゃんは仕事熱心な男が好きなんでしょ?あんたが族長になって立派に仕事をこなせばますます惚れ直すんじゃない?」

「え!」龍希は思わず口角があがる。

「そうですよ。族長代行を立派にこなす夫をべた褒めしていたと私の妻から聞きました。族長になればなおさら奥様は褒めてくださるのでは。」

「え!ほんとに?」

「はい。」

「う~」

悩む龍希を前に竜湖と龍栄は必死で笑いを堪えていた。


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