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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第4章 世代交代編
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機転

「う・・・」

「ふ、芙蓉!」

「ん・・・」

目を覚ました芙蓉は、何度か瞬きをした。

頭がくらくらして目がよく見えない。それでも側に夫がいることは分かった。

「・・・」口を開いても声が出ない。

芙蓉はまた意識を失った。



 次に意識が戻った時には、部屋には明かりが灯されていた。

芙蓉はゆっくりと上体を起こしてシュシュ医師から渡された薬湯を飲んだ。

ベッドの側に座る夫は真っ青な顔で泣いている。

「あ、あなた。もう、大丈夫です。」

「芙蓉~」夫は泣きながら芙蓉に抱きついた。

「子どもたちは?」

「別室で龍海と龍緑がみてるから安心して。」竜湖が近づいてきた。

「龍希様。奥様にはまだ横になっておいて頂かなければ。」シュシュが注意すると夫は素直に芙蓉から離れてまた椅子に座った。

「龍希。芙蓉ちゃんをもう少し休ませるから、あんたは顔洗って着替えてらっしゃい。で、子どもたちを連れてきて。」

「嫌です!絶対に妻から離れませんからね!」

「あなた、子どもたちに会いたいです。」

「う・・・」

「ほら!私たちが居るから大丈夫よ。さっさと行ってらっしゃい。弱ってる芙蓉ちゃんを困らせないの。」

「・・・う~すぐに戻ってくるからな。」夫はそう言って芙蓉の手を握ると部屋を出ていった。

芙蓉は、大きく息を吐いて再び横になった。



 子どもたちの呼ぶ声で芙蓉は目を開けた。

「ママ!」

「ママ~」

「龍陽、竜琴。もう大丈夫よ。あなたたちが助けてくれたのよね。ありがとう。」

「倒れる前の記憶があるの?」竜湖が驚いた顔で尋ねる。

「え?はい。思った以上に血が出てしまって。すみません、ご迷惑をおかけしました。」

「体調に無理がないように昨晩のことを聞かせてちょうだい。」


はい。

休憩室のトイレから出ると竜紗様、クク、シュンがみんな倒れていて、茶色の猫の獣人が入ってきました。茶猫はなんで白猫族の眠りガスで寝てないんだと驚いていました。でもすぐに毒ナイフはやめて爪で殺すと近づいてきたので、とっさに持っていた黄虎の小刀で自分の左腕を刺したんです。


「自分で刺した!?」夫が叫んで立ち上がった。

「え、ええ。きっと血の臭いで子どもたちが気づいてくれると。逃げる方法はなかったので・・・」

「また大胆なことを・・・かなり傷が深かったのよ。」竜湖も驚いている。

「はい、思った以上に切れ味がよくて・・・子どもたちが来てくれた時には貧血で動けなくて・・・そのまま意識が。」

芙蓉は恥ずかしさと情けなさで俯いた。

「子どもたちが早く気づいて良かったわ。でもなんで茶猫が?」

「あ、そういえばココ様?の命令だと・・・」

芙蓉の言葉に夫と竜湖の顔色が変わった。

「なんであの白鳥が?それに白猫も?ふざけんな!」

「え?白鳥?」

「龍希、落ち着きなさい!芙蓉ちゃんの身体に響くわ。」竜湖が一喝する。

「芙蓉ちゃんありがとう。他に何か覚えてることある?」

「ほかに・・・あ、茶猫は本家の運搬係の制服を着てました。あと、持っていたナイフは・・・一瞬だったので自信がありませんが、あれは・・・ワニ族の牙加工品みたいで。」

「ありがとう!あなたは本当にすごいわ!」竜湖のこれは作り笑顔じゃない。

「いえ・・・うっ」芙蓉はまた頭がふらふらしてきた。どうやらかなり酷い貧血だ。

お腹の子は・・・胎動を感じない。

「あ、もう休んで!シュシュお願いね。」

芙蓉は再び横になった。



~大広間~

 妻が目を覚ました翌日の夕方、緊急会議を開いた。

龍希は今度こそ族長代行をやめて、妻のそばにいたかったのだが、その愛する妻から

「自分のせいで夫が仕事を放棄するのは嫌です」

と涙目で訴えられては・・・

それに妻をあんな目にあわせたあの白鳥とワニはこの手で殺さないと気がすまない!


「奥様が!ようございました!」

「族長代行も正気に戻って・・・一時はどうなることかと!」

「・・・」

龍希は血だらけで倒れている妻を見つけてから妻が目を覚ますまでの記憶がすっぽりないが、どうやら父と同じく脱け殻のようになっていたらしい。

まさか自分がそうなるとは・・・夢にも思わなかった。


「それで、あの妻の言うことはどこまで信用できるのですか?」竜色は相変わらずだ。

「まず黒こげになってたのは本家の運搬係だった茶猫のノールで間違いなさそうよ。芙蓉ちゃんが襲われた夜から行方不明になってるわ。2年前に本家で雇った孤児ってことだけど・・・白鳥との接点は不明。」

「白鳥から猫は産まれませんよね?」

「ええ。だから白鳥族の間者か・・・まあココの子がうちに潜入してるって話の真偽も不明だし。」

竜湖は肩をすくめる。


「次は私から。」竜夢が立ち上がった。

「白猫族に問い合わせたところ、眠りガスというのがあるそうです。理由は不明ですが、効果が現れる獣人は限られているそうで、猫族には効かず、鳥族にはかなり濃いガスでないと効かないそうです。ちなみに人族には最高濃度にしてもなぜか効かなかったと言っていました。」

「しかし、あの白猫族がそんな高度なガスを?」

「それが・・・魚の香草焼きの副産物らしいです。」

「は?魚?」

「ええ。ある魚とある香草を組み合わせた時に、この眠りガスが発生するらしく・・・魚も香草も白猫のみならずどの猫族にとってもポピュラーなので割りと簡単に作れると。」

「冗談だろう?」

「嘘みたいな本当の話です。普段の料理で出るガスでは気絶に至りませんが、意図的に濃度を高めれば眠りガスとして有用なようで・・・」竜夢は真剣だ。

こいつはおかしな冗談を言う女じゃないが・・・あんなに悩まされた臭いが焼き魚って!


「最後に私から。」竜染が立ち上がる。

「黒こげの死体の懐から出てきた塊はワニの牙の可能性が高いです。ほとんど焦げて原型はとどめていませんでしたが、かすかにワニの臭いがしたと。そうですよね?龍栄様」

「はい。ほんのわずかですが、あれはワニの臭いです。毒の臭いは分かりませんでしたが。」

「龍栄様が仰るなら間違いが・・・なぜ本家の猫がワニの牙なんて?」

「ワニ族の間者の生き残りか?」

「その可能性もなくはないけど・・・芙蓉ちゃんを狙う理由が分からないわ。」

「それをいうなら白鳥だって!」

「そうなのよね。今、芙蓉ちゃんを殺して得をするのは他の後継候補の妻ね。」

「な!」龍光が怒った顔で立ち上がる。

「シマヘビには前科があるからね。」

「いや、あれは・・・そんなさすがにそんなことは・・・」


「もう一つ気になることが。」竜紗が立ち上がった。

「なぜ猫は当初、奥様を毒ナイフで殺そうとしたのでしょう?爪も牙もあるのに」

「そう言えば・・・おかしな話だ。」

「血の臭いで発覚するのを恐れたのでは?若様たちの嗅覚は凄かったですから。」答えたのは竜冠だ。

「さすがは龍希様の若様と姫様です。恥ずかしながら扉の前に立っても血の臭いには全く気づかず。」龍緑は悔しそうだ。

「あの雷も凄かったですな。間違いなく未来の後継候補です。」龍海はまた目に涙を浮かべている。

「竜冠の説を採用するなら、黒幕は竜の子に相当詳しい奴ね。子のいない獣人の妻が分かることじゃないわ。」竜湖の発言に皆が龍光を見る。

「な・・・妻はそんなこと。」

「まあシマヘビが黒幕って証拠はないわ。それよりも今すべきことは芙蓉ちゃんの安全確保よ。二度とこんなことあってはならないわ。」

竜湖の発言に皆が頷いた。



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