プロローグ
銃声が響き、額と人生にピリオドを刻まれる人間を見た。忘れ去りたい記憶ほど、頭にこびり付いて離れようとしない。むせるような血の臭いが鼻の奥にとどまったままだ。こんな世界に足を踏み入れてしまった、いや、踏み入れていた事に絶望する。人の命など紙切れのように扱う、おおよそ道徳心など母胎に置いて来たような悪魔どもが闊歩するこの街で、俺は生きていける気がしない。まだ生を受けて二七年と経っちゃいないのに、死体袋に詰め込まれる運命なんて死んでも御免だ。今すぐに逃げ出したい。だがいったい何処へ逃げればいい。行く当てなんて皆無だ。この仕事仲間、もとい人間の皮を被った悪魔達と一緒に暮らすしかないのだ。異世界など所詮、元いた世界とたいして変わらない。ここには亜人と呼ばれる奴もいるが、そういう奴らもひっくるめて人を一番多く殺しているのは、結局のところ人だ。自分の為に他人を蹴落とす事になんの躊躇いもない奴が一定数いるのだ。この街じゃその割合が異常に高いのが、頭痛の種であり、直視したくない現実である。マフィア、殺し屋、傭兵崩れのストリートギャング共、果ては未成年の子供まで銃を持っている。しかも異能とやらを使う輩まで居るときた。本当に馬鹿げてる、命が幾つあっても足らないのは明白だ。人生でここまでホームシックに陥った事はない。
「おい、ハル!聞いてんのか?さっきからなにぼーっとしてやがる、何をそんな思い詰める事があんだよ。」
「……俺にとっちゃショックだったんだよ。彼は命乞いをしていた、なのに容赦なく殺したんだ、、」
「あのなぁ、どの道あいつは死ぬ運命だったろ?早いか遅いかだけの違いだ。あたしらの世界じゃ落とし前ってのが大事なんだ、分かるか?ヘタレ野郎。」
「ああ、確かにそうだが――いや、いい。すまないが少しそっとしといてくれ。」
「ちっ、頼むぜ、まったく。」
俺はこの先、本当に生き抜いていけるのか。元いた世界に帰れるのか。何もわからない不安しかない。とりあえず今は一度考えるのはやめて、少し休もう。




