〈1〉
『おひめさま』に出逢ったのは、ぼくの歳がまだ片手で数えられるぐらいの頃でした。
「──小さな黒いお嬢さん。いらっしゃい。」
『おひめさま』は優しく笑いながらぼくのことをじっと見つめていました。
お花のように真っ白なふわふわのドレス。風もないのに自然に揺れてるみたい。
ぼくの髪もふわふわだけど、『おひめさま』の髪はぼくの髪よりももっとふわふわで、まるで砂糖菓子みたい。
透きとおるような白いお肌はまるでお人形さんのようでした。
だからぼくは、この女のひとはきっと絵本で見たおひめさまに違いない、と思いました。
「黒いお嬢さんって呼ばないで。ふだんはもっとかわいい服を着てるんだから。」
ほっぺたをふくらませるぼく。
『おひめさま』はごめんなさいと言いながら、
「それじゃ、ふわふわな髪のお嬢さん。あなたのお名前を聞かせてくれるかしら?」
そう微笑んで、どこからか取り出した宝石みたいなドロップを差し出します。
「ブリジットです。はじめまして。」
ぺこりとおじぎ。そして顔を上げて、にこっと笑います。
よその人にごあいさつする時にはおじぎと笑顔を忘れちゃダメよ。
ママンからの言いつけ。ちゃんと守れたよ。




