閉鎖
その日の学校は、いつもより少しだけ長く感じた。
帰りのホームルーム前。カーテンの隙間から見える窓の外は薄く曇っていて、午後の光が教室の奥まで届いていなかった。
僕は授業の復習をしながら、無意識のうちに周囲を見渡していた。
後ろの席では誰かが小声で笑っている。窓際では、スマホを机の下に隠している生徒がいる。
廊下側の席では、眠気に負けた誰かが船を漕いでいた。
どれも、いつも通りの光景だった。
「ねぇねぇ、零。今日、部活ある?」
隣の席から声がして、僕は顔を向ける。
話しかけてきたのは、クラスメイトで幼なじみの桐谷 美桜だ。肩までの髪を揺らし、ペンを回しながらこちらを見ている。
「あるけど、雨降りそうだし早く終わるかも」
「卓球部なのに、天気影響するんだ……いいなぁ。私は演劇の発表会前だから、多分遅くまであるわ」
そんな他愛もない会話。特別な意味なんてなかった。
だが、やがてそんな日常は、次第に崩れて行くことになるのだった――。
◇◇◇◇◇◇
初めの違和感は些細なものだった。チャイムが鳴るはずの時間になっても、音が鳴らなかったのだ。
みんなは席に着き、先生が来るのを待っている。
最初は誰も気に留めなかった。時計を見るクラスメイトもほとんどいなかった。
けれど、ホームルームが始まる予定の時間を5分ほど過ぎた頃、前の席の誰かが首を傾げた。
「あれ、チャイム……?」
針は、3時50分を指したまま動いていない。
「時計が止まってる?」
教室内にざわつきが広がる。
誰かが「電池切れじゃない?」と言い、別の誰かが「時計壊れてるだけでしょ!」と笑った。
そんな中、僕は何となく、胸の奥に引っかかるものを感じていた。
スマホを取り出して画面を見る。
電波は圏外。Wi-Fiも掴んでいない。もう一度、教室を見渡す。
窓の外は変わらず曇っている。空調の音は静かに鳴っている。
なのに、何かがおかしかった。
教師は来ない。校内放送も流れない。時間だけが、止まったままだった。
その時点では、まだ誰も知らなかった。
この校舎が――既に"閉鎖"されていることを。
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