第二宙 第七夢 陸達の夢
眩い閃光が辺りを包み込み、景色は一変した。
陸達は戸惑いながら周囲を見回す。
そこは高校の校舎だった。
あたりでは生徒たちがざわざわと騒ぎ、何かを話している。
「ねえ、あの子っていつも全然しゃべらないよね。」
「ほんと。もしかして、口がきけないのかな?」
「えー、それはさすがにかわいそう。あはは。」
「もう、みんな意地悪なんだから。」
生徒たちは口々に、陸達の陰口を言い続けていた。
耳を澄ませた陸達は、自分の悪口を言われていることに気づく。
どうしていいかわからず立ち尽くした。
さっきまで何かとても大切なことをしていた気がする。
しかし、その記憶だけがどうしても思い出せなかった。
その時、一人の少女が耳栓をつけたまま陸達の前に現れ、生徒たちを制した。
すると周囲は一斉に静まり返り、少女は陸達の手を引いてその場を離れた。
「なんなの、あの子?」
「耳栓なんてしてるし、変わってるよね。」
「目つきが怖い……関わらないほうがよさそう。」
「そうそう。二人とも変だよ。」
「一人はいつもマスク、一人は耳栓。お似合いじゃない?」
背後ではなおもひそひそ話が続いていた。
少女は振り返り、鋭い眼差しで彼らを睨みつける。
その視線は息が詰まるほど冷たかった。
陸達は手をつながれ、自分の手元を見下ろすと、顔を真っ赤に染めた。
幼い頃から、陸達は人付き合いが苦手で、無口で不器用だと言われ続けてきた。誰も彼と遊ぼうとはせず、話しかけようともしなかった。
こんなふうに心を開いて話しかけてくれる人は初めてだった。
嬉しい気持ちと、どうしようもない緊張が胸を満たす。
「私は雁羽。あなたは?」
少女は耳栓を外した。
「り、陸……達。」
陸達は少しどもりながら答えた。
雁羽はくすりと笑い、それから楽しそうに話し続ける。
陸達は彼女を見つめながら、不思議な感覚を覚えていた。
初めて会うはずなのに、昔から知っていたような懐かしさがある。
その心地よさに惹かれ、彼はただ静かに彼女の言葉へ耳を傾けていた。
「知ってる? 私はね、おしゃべりでうるさい人たちが大嫌いなの。
だからいつも耳栓をしてるの。
さっきみたいな人たちなんて特にね。」
そう言って雁羽は耳栓を見せた。
陸達は心の中で「かっこいい」と思った。
耳栓を持ち歩く人なんて滅多にいない。
自分も昔から人付き合いが苦手で、いつもマスクをつけていた。
彼女は自分によく似ている。
そう思った瞬間、陸達の胸は強く惹きつけられた。
似ているからなのか。
手をつないでくれたからなのか。
それとも、この言葉では説明できない懐かしさのせいなのか。
奇妙な感情が静かに芽生え始め、強いデジャヴが胸をよぎった。
雁羽は学校の石のテーブルと椅子が並ぶ場所まで陸達を連れて行き、二人は並んで腰を下ろした。
彼女は相変わらず楽しそうに話し続ける。
「私、あなたの無口なところ、すごく好き。」
そう言って、彼女は陸達の手を握った。
突然の言葉と行動に、陸達は驚く。
彼はそっとその手を離し、雁羽を見つめた。
その瞬間、彼女との数々の思い出が脳裏によみがえる。
そうだ。
自分は彼女を知っている。
だが、自分の知る雁羽は、こんなに明るくおしゃべりな人ではない。
目の前の雁羽が元気なのは嬉しい。
しかし、この雁羽は違う。
彼がずっと守りたかった、本当の彼女ではない。
その刹那、陸達のマスクが変化を始めた。
普通のマスクは、盾の紋章と青いジャカランダの花が描かれた仮面へと姿を変え、澄んだ青い光を放つ。
そして彼の脳裏に、一節の言葉が浮かび上がる。
陸達は静かに唱えた。
『夢よ――憧れを大きく叫び、勇気を胸に前へ進め。進み続けよ。決して退くな。嘲笑の声に抗い、あらゆる攻撃を打ち砕け。その先にこそ、真なる力は宿る。』
マスクはさらに、蒼き氷晶陣が描かれた《宙之曆》へと姿を変え、やがて「蔚沁之盾」となって青い光を放った。
光が広がると同時に、目の前の雁羽の姿は徐々に霞んでいく。
「……そうなんだ。私のこと、好きじゃないんだね。」
彼女は静かに消えていった。
その代わりに現れたのは、苦しげな叫びを上げる人面食夢蛛だった。
怪物は無数の糸を吐き出し、陸達へ襲いかかる。
陸達は盾を構え、「宙語」を唱えた。
足元に「沁藍之宙」が展開し、蒼い防護結界が広がる。
蜘蛛の糸は盾に触れた瞬間、音もなく溶け消えた。
人面食夢蛛は勢いよく突進する。
だが、防護結界へ触れた瞬間、その身体は一瞬で消滅した。
消えていく蜘蛛を見つめながら、陸達は小さく呟く。
「……いや、あれは本当に、いい夢だった。」
彼は心の中の雁羽を思い浮かべる。
「僕は雁羽が好きだ。でも、あんな彼女じゃない。本当の彼女が好きなんだ。口数は少ないけれど、誰よりも優しい、あの雁羽が。」
霧となって消えていく人面食夢蛛を見つめながら、彼は微笑み、
「ありがとう。」
と静かに口にした。
周囲を見回した陸達は、自分が元いた場所へ戻っていることに気づく。
辺りには誰の姿もない。
おそらく祁翔たちも、人面食夢蛛が作り出した幻夢の中へ落ちているのだろう。
陸達は壁際にしゃがみ込み、「蔚沁之盾」を手に周囲を警戒する。
そして仲間たちが戻ってくるのを、ただ静かに待ち続けた。




