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82 格の違い

「ゴブリ――」


 言いかけた瞬間の出来事。

 そいつは現れた。


 緑色の髪を一本に束ね冷酷な目をこちらに向けたそいつは、転移を使ったのか一瞬で現れ、ヴァーシックスの頭を踏みつけ動きを制していた。

 首筋にはドラゴン系の魔物が人間の姿になった時に現れる刻印が見て取れる。

 微量ではあるが、俺でも感じ取れるような威圧を放つそいつはそこそこの強さであることは間違いない。

 現に、仲間の皆はその圧に立っていることで精一杯だった。

 そこに押さえつけられているヴァーシックスとは格が違う。


「ぐぬぬ、【ヴァンセカンド】か。僕ちゃんの頭から足を離しな。今からこいつらを殺すんだよ」


 潰れ顔のヴァーシックスは奥歯を噛みしめながら必死に目だけを上に向け話した。

 ヴァンセカンドと呼ばれたそいつは、地に伏すヴァーシックスに向け冷たい視線を放っている。

 劣等種を見下すような目が実にドラゴン種らしい。


「あまりに遅いので様子を見に来たらこの様か。そしてこんな醜態を晒しておいてまだ意気がるとはな。恥さらしめ」


 こいつら仲間同士だよな?

 何でこんなに仲が悪いんだ?


「ヴァンセカンド、お前グレンヴァ様に気に入られてるからってあんまり調子に乗るなよ?僕ちゃんがぐぁぁぁあっ!」


 ヴァーシックスが語気を強めると、ヴァンセカンドは僅かに地面が陥没するほど足に力を入れ圧力をかけた。

 足をバタつかせ苦しみもがくヴァーシックスを見て何とも思わないのか、表情は冷たいままである。


「城ではペコペコと頭を下げているのに、人間達の前では己のプライドのために強がるのか?調子が良いものだな」


 そう言い放つと更に痛みを与える為にグリグリと足を動かした。

 ヴァーシックスは苦痛に歪む顔で絶叫をあげる。


「ぐぁぁぁあ!も、申し訳ありません!怒りで我を忘れてしまい口が過ぎました!どうか――」


グシャッ


ドクンッ


 俺のレベルが上がったと同時に一瞬でヴァンセカンドは俺の横に来た。

 やはり瞬間的に移動できる転移か。

 今の俺は転移が出来ない分、戦うには結構面倒なやつだな。


「さてと、ゴブリンはどこに隠したんだ?俺はそいつらに用があって来たんだが知ってるか?」


 マジ近い。

 相手と話す時の距離感分かってんのかこいつ。

 しかも何で俺に聞くんだよ。

 色々とムカついたが、俺は気を落ち着かせて答える。


「ん?知ってるけど何の用?つーか近い」


 俺は煙たそうな顔をして突っぱねた。

 どこぞの誰かも知らないやつに近い距離で話されることは非常に不快だ。


「やはりお前だけは何か違うな。この人間の塊の中でも特別だ。まぁいい。お前に用件を話す筋合いはない。黙って差し出すがいい」


「お前、誰に向かって口聞いてんだ?」


 仲間なら百歩譲って許せるが、いきなり来て俺に命令するなど言語道断。


 仲間が見ている手前、直接手を下す事は避けたい。

 俺はこの思いをカッキォへと託すべく、一旦距離をとり木の枝を振るう。


「出でよゴブリン王!」


「うぉぉぉおっ!」


 空間の狭間から屈強なゴブリンが姿を現し叫び散らした。

 ヴァンセカンドは不思議そうにその屈強なゴブリンを見て、「はて?」と口に出しながら首を傾げた。


「ゴブリンに用があんだろ?出してやったぞ」


 俺は半ギレでそう伝え、カッキォに攻撃指示を出すとヴァンセカンドに向かっていく。

 カッキォの迫力にも微動だにしないヴァンセカンドは、未だに何か考え事をしているような素振りを崩さないでいた。


「ゴブリンクラッシュ!」


 破壊を目的とした巨大な棍棒は、一瞬の残像を残しその悩ましい男の頭上をとらえた。

 ……かに見えた。


「子供騙しが」


 その破壊の一撃を腕で弾き返すヴァンセカンド。

 そして間髪入れずにカッキォの顔面へと豪快な爆発系の複合魔法を放った。

 耳が割れるような爆発音が皆の聴覚を奪う中、業火と黒煙が混ざりあった赤黒い塊がカッキォを包み込んだ。

 刹那、俺はヴァンセカンドの力を見誤っていた事に気付く。


 召還された者はダメージを負うことはない。

 爆炎に包まれたカッキォはその理不尽な仕組みに助けられたと言っても過言ではない。

 いくらゴブリン種最強を誇るカッキォであっても、あの複合魔法を食らったら一溜りもないだろう。


 爆発で生じた煙に紛れるようにカッキォも煙となり姿を消していった。


「少し力を入れすぎたな。肝心のゴブリンを消してしまったようだ」


 額に手を添え、やれやれといった感じで首を振っている。

 カッキォを自分が倒したものだと思い込んでいるようだ。


 しかしこのままだと色々と分が悪い。

 一先ずヴァンセカンドの圧で動けないでいる仲間を解き放つ為に俺は其々に結界を張った。


「軽くなった!?」

「今がチャンスよ」


 俺の結界によりヴァンセカンドの威圧が無くなり、ようやく動けるようになった皆は武器を構える。

 しかし真弓、チェリー、侶春、侶子は、恐怖という感覚に完全に支配されていた。

 戦闘態勢とは程遠い『見せかけの構え』、それがひしひしと伝わってくる。


「ふっ、下らん」


 冷酷な目でそう吐き捨てると、ヴァンセカンドは指で自身の目の前に小さな丸を描くと一つの黒い魔力の球体が浮かび出た。

 それを指でピンと弾くと、それらは更に小さな球体となり仲間達に飛んでいった。

 それは一瞬の出来事。

 弾いた瞬間には皆揃って吹き飛んでいたので、球体が俺の胸部をとらえたのを確認し、周りに遅れを取らないように俊敏に動きを合わせる。

 これこそが一致団結といったものだろう。

 それにしてもあの技はカッコいいなとか思いつつ、俺は天を仰いだ。

 豪快に背中から地に付くと、皆はこれからどんな反応をするんだろうと思い、横目でチラチラと周りの様子を伺う。

 法子がグラグラと身体を揺らしながら立ち上がると、それに続きゆうなも地に刺した剣を支えにしゆっくりと身体を起こした。

 俺もゆうなを参考に愛用武器テンダーウッドの枝を地面に刺そうとするが、しなやかな性質を持った枝は俺の重さに耐えきれず、ぐにゃりと曲がり俺はバランスを崩し地面に顔を擦り付けた。


「ん?今の攻撃を耐えられるとはな。俺が衰えたのか、お前らがそこら辺の人間よりも強いのか。はたまた奇跡か」


 確かに結界を張っていなければ俺以外は死んでいただろう。

 小さな黒い球体と侮る無かれ、それほどの威力ではある。

 他の面々も普段よりも重たく感じる身体を無理やり動かし、地に足を付けるがいつもと比べどうも様子がおかしい。


「この俺と戦う気か?それは得策ではないな。俺はその辺の雑魚とは違うぞ?」


 頭が潰れ息絶えたヴァーシックスに一瞬視線を落とし言い放つ。


「そんなの関係ない!私達は魔王グレンヴァを倒す為に来てる。その為にはあなたとも戦わなければならない!そして勝つ!」


 ゆうなが奥歯を噛みしめ剣を握るがその手に力は入らない。

 これから戦う者とは考えられないほどにダメージがゆうなの身体を蝕んでいる。


「へえ。典型的な量産型勇者なだけあって威勢はいいようだな。その割にお仲間達は及び腰になっているようだが」


 ヴァンセカンドが言うとおり、ゆうなと法子、俺以外の仲間は勝てる筋道が見えないようで小刻みに震えていた。

 どんな敵にもいつも勝ち気でいるナックルでさえも、この時ばかりはヴァンセカンドの絶対的な強さに押されていたようだった。


「ゴブリンの居場所さえ吐けばこのまま立ち去っても構わん。3つだけ数えてやろう。その間にその小さな脳みそで答えを出すことだな」


 この状況、俺が何とかするしかないのは分かっているが、以前英雄や賢太郎に言われたように、ここで暴れて万が一取り逃がす事があればハーデスの生存情報に繋がる可能性があり、最悪の場合、莫大な被害が人間側に及ぶ事になる。

 倒すのは簡単だが、相手側が転移を使えるとしたら変に動けないのは事実だ。



「3……」


 一瞬で倒せばいいのか?

 それとも仲間を逃がしてから倒せばいいのか?



「2……」


 仲間と一緒に倒せばいいのか?

 仲間と一緒に逃げるのがいいのか?



「1……」


 んー、もう分からん。

 やるしかないな。




 俺の思考が身体へと指令を出すその極僅かな瞬間、後方から放たれた回転する小振りのハンマーが俺の横を勢い良く通過した。

次回予告

 突如現れたヴァンセカンドは勝利を目前にしたハーデス達を絶望へと追い込んだ。しかし、そんな窮地を救ってくれそうな希望の光が差し込む。彼が現れた目的は如何に!?はぁぁぁあい!


次回 律動

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