81 ゴブリンクラッシュ炸裂
「破壊の限りを尽くせ!ゴブリンクラァァァッシュ!」
俺は初めて召還士としての役目を果たす。
愛用武器であるテンダーウッドの枝先から空間が現れると、それを切り裂くように一体の巨大なゴブリンが背中を見せる。
ゴブリンの王を彷彿させるような綺麗な褐色の肉体、そしてゴブリンの象徴とも言える帽子は無く、縮れた朱色の毛髪が特徴的だ。
その勇ましい姿をしたゴブリンの手には刺々しい棍棒が握られている。
おぉ、まるでカッキォのようではないか!
俺は魔王時代の配下であるカッキォにその姿を重ね人、目を憚らず興奮していた。
「ウオォォォオッ!」
地が震えるような太く懐かしいその声が俺を更に興奮させた。
いつも聞いている声とは違う声に仲間も横目でこちらを見ている。
おぉ、まるでカッキォだ、カッキォだ!
「……ハーデス様、この日を待ちわびておりました」
何か聞こえた。
俺だけに聞こえるような小さな声。
いや、勘違いなのか?
「……異次元に飛ばされた俺達は今、強力な結界の中、元の世界へ戻ろうと必死にもがいています」
ん?やっぱりだ。
声の主は……、まさかこのゴブリンか?
「……ハーデス様の近況は、我が同胞から聞いております。今まさにこの状況も。この魔王軍直属配下、カッキォに……」
えっ、カッキォ?
こいつ本当にカッキォじゃね?
「何なりと命をっ!」
ドゴォォォオン!
棍棒を地面に叩きつけ、振り返るその褐色の顔が目に映った瞬間、肉体を突き抜けそうなほど心臓が膨れ上がった。
召還士――、それは一般的な召喚士とは違い、呼び出すのではなく呼び戻すことの出来る特別職。
自身と強い結び付きがある者を一時的に呼び戻し、共に秩序を整え、争乱の世界を平和な世界へと導く唯一無二の職業。
「カッキォ、お前……」
俺は現実と空想の狭間で迷子になり、言葉に詰まった。
話したい事、聞きたい事は数えきれないほどある。
その一つ一つが一気に頭を駆け巡り、俺の思考回路はその膨大な量の思いを整理出来ずにいた。
そんな俺を見るカッキォの目は、あの当時のまま、魔王に忠誠を誓った配下としての目と何ら変わらない。
その目が俺を奮い立たせる。
ならば、俺も今だけは魔王軍の君主として振る舞おうではないか。
「カッキォ、あいつにゴブリンの真の強さを見せてやれ!」
「はっ!」
そう答えると、カッキォは棍棒を一振り二振りして感触を確かめた。
「おい、色々と攻撃出来るのか?」
「いえ、出来る技は決まっております。そして行動も限られており、おそらく相手を攻撃をしたらまた元の異次元へと飛ばされます」
召喚もしょうかんと同じく、役目を果たすと消えるようだ。
「そうなのか。じゃあ渾身の一撃を見舞ってやれ。そして戻ったら皆に伝えておいてくれ。必ず助け出すと」
「はっ!」
会話から推測するに、カッキォは生まれ育ったこの村に新たな魔王グレンヴァの魔の手が伸びている事を知っているのだろう。
俺がしょうかんしたゴブリンちゃん達が報告しているに違いない。
召還でこちらの世界に呼び戻された自分の使命も理解していた。
異次元へと飛ばされた挙げ句、気付いたら元の世界に召還された、なんてことであれば絶対に戸惑うはずだ。
これもゴブリンちゃん含め、他しょうかんした魔物から情報を得ていたはずだ。
そして、最後に俺が言った言葉。
憶測でしかないが、配下の皆は消滅したわけではなく、どこか異次元へと飛ばされ皆同じところにいるのではないかと思いカッキォへ言葉を託した。
それに対し返事をしたわけだが、それは全ての部分ではないかもしれないが、ある程度俺の憶測が合っているという証拠だ。
カッキォは相手が誰であろうと出来ないことは出来ないとしっかりと伝える。
配下の皆は無事だ。
存在自体が消滅していない分、助け出せる希望が見えた。
カッキォがヴァーシックスに狙いを定めて一直線に走り出す。
3メートルもある巨大な肉体は、上位種族である怪力のオーガ種にも引けを取らない。
そしてカッキォはゴブリンの中で一番強い、裏のゴブリン王だ!
俺の召還に反応した皆は、空気を読むように攻撃の手を緩めヴァーシックスへと向かうカッキォへの進路を妨げぬよう自然とゴブリンロードを作る。
「うぉぉぉお!同族をよくも!」
カッキォの低くたくましい声が響き渡る。
私情を全面に出してくる召還獣など見たこともない皆は、驚きながらも次々とその場から距離を取った。
ヴァーシックスもその異変に気付き、これから始まるであろう巨大なゴブリンの攻撃を回避する体勢を取る。
「ゴブリンの分際で僕ちゃ
「ゴブリンクラッシュ!」
ダゴォォォオン!
一瞬バランスを崩したヴァーシックスは慌てて回避体勢を取るが、その回避も間に合わないほどの速さで繰り出されたその一撃は、ヴァーシックスの身体を上から力任せに潰した。
為す術なく刺々しい棍棒に押し潰されたヴァーシックスは、丸く陥没した地の中央にうつ伏せのまま倒れた。
カッキォはゴブリンの中でも異常な強さを誇る。
純粋な力ももちろんゴブリンの中では特出しているが、強さの根源はそこだけではない。
戦闘における駆け引きが抜群に上手い。
ヴァーシックスが一瞬バランスを崩したが、あれはカッキォの攻撃方法によるものであった。
おそらく仲間の皆は、何故あそこでヴァーシックスの体勢が崩れたのか気付いていないだろうが、あの一瞬でカッキォはフェイントを入れていたのだ。
胴体を狙う一撃だと思ったヴァーシックスは上へ回避しようとして足に力を入れていたが、気付くと上から棍棒が差し迫っていてもうどうにもこうにも出来なかった。
その結果、己の思考に身体が追い付かず体勢を崩したのであった。
純粋な肉弾戦ではカッキォの右に出るものはいないだろう。
役目を終えたカッキォは煙となり消えていった。
微動だにしないヴァーシックスを目の前に、仲間の皆は驚きのあまり立ち止まったまま様子を伺っていた。
俺は陥没した地面を囲む仲間達の元へと歩み寄る。
「倒……したの?」
ゆうなが振り絞るように声を出した。
「そうみたいだな。……それにしても出野の召還は強力だな!今回のは普通に喋ってたしよ!上級にもなるとあんな意志があるような召還も出せるのか」
「さすが師匠でやんす!あっしが手も足も出ないような相手を一瞬で倒してしまいやすからねぇ」
ナックルも銀次も戦いが終わって一安心というような表情で歩を進める俺に視線を向ける。
刺子は最初嫌そうな顔を浮かべていたピンク色の鎧が今では気に入っているようで、上半身のプレートを脱ぎ、布を使い無言で汚れを拭っていた。
今やる事かと思って見ていたが、そのすぐ横で剣児が刺子にチューヴァンが爆発した時の様子を一生懸命説明していて割とカオスだった。
刺子はその話を絶対に聞いてはいない。
「ふぅ、一時はどうなることかと思いましたけど、私達の勝利ですね!出野さん、あんな強い召還があるなら早く使ってくださいよー」
ゆうなは剣を鞘へ納め俺へと駆け寄ろうとするが、足に力が入らないのか、途中でバランスを崩して尻餅をついていた。
気付けば壮大な鬼ごっこも終わっていたようで、遠距離組も倒れているヴァーシックスの元へと歩み寄ってきた。
真弓が横たわるヴァーシックスを見て一息ついた。
「やっと倒せたようね」
鬼ごっこをしていたのにどの口が言うんだ。
皆は長き戦いの疲れが一気に押し寄せたようで、肝心な事を完全に見落としている。
「お、おおお、おのれぇぇぇえ!よくもやってくれたな人間共めぇ!」
こういうことだ。
人間は僅かに残る魔物の鼓動、気配を察知できないのだろう。
しかしもう一度俺がカッキォを召還すれば片が付く。
これで終わりだ。
「ゴブリ――」
言いかけた瞬間の出来事。
そいつは現れた。
次回予告
とどめの召還を放とうとするハーデスであったが、『そいつ』が現れたことにより遮られた。仲間の皆は『そいつ』の登場により絶望を目の当たりにしたのであった。
次回 ~格の違い~




