80 十一対一
「銀次さん、ナックルさんありがとう!」
チューヴァンを倒した俺達が救助に向かったタイミングでゆうな達は一旦戦線離脱し、侶春と侶子の回復魔法で傷を癒すべく動き出した。
「おめぇも爆発させるど!一文字斬り!」
悪魔は悪魔のまま、火属性魔法も放てないというのに爆発させるなどと意気がって斬撃を繰り出した。
その一撃はヴァーシックスの身のこなしにより空を切るが、剣児は続け様に何度も剣を振るった。
それに加え銀次とナックルも連撃を重ねるが、全て躱されている。
「チューヴァンを倒して勢いづいているみたいだねぇ。僕ちゃん笑っちゃう」
俺とその横にいるチェリーは少し離れたところから攻撃の機会を伺うが、俺のしょうかんを出したところで邪魔になりそうだからただただその光景を見ていた。
チェリーは言うまでもなく、あの入り乱れた素早い展開の中、魔物一匹のみに魔法を当てるのは無理だ。
んー、身のこなしはまずまずだな。
ゆうな達が苦戦していたのも無理はない。
ここから出来ることと言えば……。
とりあえず俺は柿ピーを取り出した。
それに気付いたチェリーが声をかけてくる。
「出野君、何するの?僕にもちょうだい」
食べることしか頭にないのかこいつは。
俺は普段誰かに分け与える時は一粒ずつしか渡さないが、この巨体に一粒はどうかと考えた結果、二粒を渡すことに決めた。
そしてチェリーに二粒渡し黙らせ、一粒を右手に持った。
一気に頬張るかと思ったが、一粒ずつ丁寧に食べ始めたチェリーは満足そうな顔を浮かべた後に視線を戦いの舞台へと戻した。
そして俺は熾烈な攻防の隙間を縫って、ヴァーシックスに向け柿ピーを弾き飛ばした。
シュッと音を立て一直線に進んだ柿ピーは、見事ヴァーシックスのおでこを捉え弾けて潰れた。
ふっ、どうだ、これが元魔王の力だ。
俺が自分に酔っている中、おでこに手をやりチラッとその衝撃の基を確かめたヴァーシックスは、こちらに鋭い視線を飛ばすや否や雷魔法を放った。
流石にバレたか。
俺は頭上からくる雷に備えたが、その雷撃は幸せそうに柿ピーを口に入れようとしているチェリーに向けられた。
しまった、こいつの手には柿ピーが!
こいつは本当に運の悪いやつである。
本来であれば、チェリーではなく俺にその矛先は向いただろう。
しかしヴァーシックスのおでこに付着したカスと、チェリーが手に持っていた柿ピーが関連付けられ、戦犯はチェリーだと判断されたのだ。
チェリーへの結界は張ってはいない。
直撃すると死ぬ恐れもある、万事休す……なのか!?
バッチィィィン!
チェリーの脳天に雷が直撃し、遅れて雷鳴が辺りを包み込む。
「ん?」
「えっ?」
きょとんとした顔で空を見上げたチェリーはそのまま口をモゴモゴと動かし、普通に戦いの行方を見ていた。
当たったはずなのに何故か無傷のチェリーを見て、少し首を傾げたヴァーシックスは三人をいなす合間で再度チェリーへ向け雷を放つ。
バッチィィィン!
「ん?誰か叩いた?」
後ろを振り向きまた空を見上げたチェリーは腑に落ちない顔をし、周囲を警戒していた。
この兜……。
俺は自らの頭上に超軽めの雷属性魔法を放ってみた。
ズヴァッチィィィィィィイン!
「んぐっふ!」
あまりの轟音に注目が一気に集まる。
その雷撃は俺へと到達するかと思いきや頭上を避け、チェリーの兜の角に吸い込まれた。
上からの衝撃でチェリーの鼻から粉末状のカスが放射されたが、幸いその程度で済んだ。
やはりそうか、この兜に付いている天馬のような角が避雷針の役目を担っているのか。
それに気付いた俺はホッと胸を撫で下ろし、冒険者としての思考を巡らせ戦況を覆す打開策を見出だした。
それと同時にヴァーシックスと交戦していた三人が慌てて距離を取った。
「くそ、本気を出してきたか」
「あの雷は厄介でやんすねぇ。まともに食らったら一溜りもねぇでやんす」
ナックルと銀次がそれぞれ冷や汗をかきながら呟いた。
あれは俺の魔法だと言いたいところだが、辻褄が合わなくなるのでそれは叶わない。
このままヴァーシックスが放った攻撃だった事にするのが得策だ。
「何が起きているのか僕ちゃん分からないけど、一つ言えるのはちょっと面倒だなってことだねぇ……。まっ、全員殺しちゃえばいい話だけどね!」
ヴァーシックスは顎に手を添え何か考えたかと思えば、一人で納得していた。
「こっちは十一人、あなたに勝ち目なんてない!」
回復を終えたゆうなはヴァーシックスにそう告げると、剣を握りしめる。
女連中も回復したようで、各々が戦闘態勢に入った。
しかし先に言っておかなければならないことがある。
「みんな、チェリーの兜は避雷針代わりだ!雷を無効化出来る!遠距離部隊の雷は全てチェリーに受けてもらうからチェリーの近くでサポートを頼む!」
事の顛末を見届け打開策を見出だした俺は皆にそう告げた。
「えっ!?僕の兜で雷全部食らう!?」
「「了解!」」
真弓、侶春、侶子、そして法子は指示通りチェリーの元へと走り出し、俺を含むその他の面々は片を付けるべくヴァーシックスへと攻撃を開始する。
「えっ!?嫌だ嫌だおぉぉぉ!恐怖恐怖ぅぅぅう!」
空気を読めないチェリーは、雷を全て受けるという言葉だけ抽出し全速力で逃げだした。
「待てごらぁぁぁあ!」
それを集団の先頭に立つ真弓が怒声を放ちながら追いかける遠距離部隊御一行。
「ここここ来ないでぇぇぇえ!死ぬって、ホントに死ぬって!」
死の恐怖からか、普段の何倍もの速さで戦場を疾走するチェリー。
そんな突如始まった鬼ごっこを横目に、ゆうな達はヴァーシックスに攻撃を仕掛ける。
数はこちらが多いが、背丈の小さいヴァーシックスに対し、率直に言うと剣児、銀次、ナックルの三人でも手が余るほどだった。
そこにゆうなと刺子が加わり、総勢五人。
俺はほんの少し距離を取り、都度都度でオーガアタックや冷やかし程度のゴブリンパンチといったしょうかんを繰り出す。
数が多い事で戦力面では勝るかもしれないが、逆に戦いにくさはある。
しかし、一人一人が仲間の動きに気を配りながら決して大きくはない的への攻撃を続けている。
先程、チューヴァンを倒した時にレベルアップしたおかげか戦況は五分五分といったところだ。
銀次の特技である相手の素早さを下げるクリムトが当たれば少しは優勢になりそうだが、ヴァーシックスは剣先から出る魔力に警戒してその攻撃だけは確実に躱していた。
「チッ、本当どうなってんだよ。死ぬ一歩手前のやつが急にピンピンして動きまわったり、さっきと比べて強くなってたりよ」
力が拮抗している場面でヴァーシックスがぶつぶつぼやいた。
元々魔物側だった俺も最初は驚いたが、人間側が使用する回復魔法やレベルアップでの能力値上昇は魔物側の常識にはない。
もしかしたら遥か昔は魔物側も周知していたのかもしれないが、配下を含め、俺の周りでその事実を知る者はいなかった。
ヴァーシックスが思い通りにいかない愚痴をこぼすのも分からなくもない。
◇◇◇◇◇◇
あー、日が暮れてきそうだ。
「待てー!」
「はぁ、はぁ、い、嫌だー!」
もう皆の体力も限界に近づいてきているようだった。
ヴァーシックスへの攻撃は時折当たってはいて、徐々に体力も削られているとは思うが、正直終わりが見えない。
いつかは決着の時が来るのだろうが、果てのない戦いのようで退屈だ。
そんな中、俺の冷やかしでしょうかんした一匹ゴブリンちゃんが小さな石につまずき転んだ。
おーい、大丈夫かー?なんて思っているとヴァーシックスがそのゴブリンちゃんの頭を踏んだ。
ゴブリンちゃんは嫌そうな顔をしながらも立ち上がり、ヴァーシックスに向けてパンチを繰り出し自分の役目を果たす。
その瞬間、俺の中で退屈を形成していた線がプツッと切れた。
「退屈の原因は俺自身にあるだろ」
自分を戒める為にもボソッと口に出す。
俺は本当の意味で、この戦いに参加していなかった事に気付いた。
魔王ハーデスだった頃、俺は魔王城の広場で専用の腰掛けに座り、配下が戦闘訓練をしている中、他の配下が鬼ごっこをして楽しむのを見て平和だなーなんて物思いにふけっていたのを思い出していた。
「今は平和じゃないだろ」
幻が作り上げた腰掛けから立ち上がると、俺は意を決する。
この状況が覆るとは限らない。
でも……、俺は召還士だ、ゆうなパーティの一人、召還士の出野ハーだ!
「破壊の限りを尽くせ!ゴブリンクラァァァッシュ!」
俺は初めて召還士としての役目を果たす。
次回予告
世紀の凡戦に退屈していたハーデスは、その原因が自分にあると気が付いた。そしてそれを断ち切るように繰り出されたゴブリンクラッシュ。召還されたゴブリンを見て夢と現実の狭間に立たされたような感覚に陥ったハーデスは何を思うか。
次回 ~ゴブリンクラッシュ炸裂~
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