69 魔王討伐へ向けて
装備品工房の待ち合い場所に着くと、最初から待っていた法子に加え、真弓、銀次、侶春、侶子が装備を一新して待っていた。
「おかえりー」
真弓は動きやすそうな緑色の軽鎧を纒い俺達を出迎えた。
侶春侶子も灰色のローブと新しい杖を持ち、幼いながらも様になっている。
銀次は相変わらず派手な着物を着ていた。
「師匠、かっけぇっすねぇ。特に後ろ姿は師匠っぽくてしびれるでやんす」
「そりゃあ自分で選んだからなー。似合うだろ?」
「自分で選んだんすね!さすが師匠!」
侶春と侶子が俺のローブ姿を見て何かヒソヒソと話しているようだったが、冒険者が多く、上手く聞き取れなかった。
おそらく銀次と同じように俺の『きぼうの衣』が格好良すぎて話さずにはいられないのだろう。
「あれ?銀次さん以外の男性諸君がいないみたいだけど?」
ゆうなは周りをキョロキョロするが、探し求める姿は見当たらない。
「あの三人は無駄にこだわってるみたいよ。もうそろそろ来ると思うけど」
それからしばらく談笑をしていると、剣児、ナックル、チェリーが三人一緒に戻ってきた。
「やあやあ待たせたな、諸君!」
皆を待たせている上に、悪びれる様子もなくナックルは登場した。
上半身はどこを守るんだというくらい申し訳程度のベストに、橙色の下衣を装備している。
今まで素手であったが、新たに拳鍔を填めている。
初めて見るがおそらく武極家の武器であろう。
後ろに剣児とチェリーの姿も見えた。
剣児は良い意味で特徴がない一般的な群青色の鎧を装備し、剣は剣三爺さんから貰ったものをそのまま使うようだ。
問題はチェリーだ。
以前より更に分厚い鎧を纏い、人間兵器のような出で立ちになっていた。
それは動きづらくないのか、ただそこが気になるところだ。
「皆揃いましたね。上級職に就き、装備品も新しくしましたし、魔王城へ早速向かいましょうか!」
ゆうなの一声で俺達は装備品工房を後にした。
◇◇◇◇◇◇
グレンヴァがいる魔王城はタンナーブより北に位置し、最短ルートを歩いて移動すれば一週間程度かかる見込みだ。
しかし人間側は、どこに魔王城があるのか分からずにいる。
俺がいた魔王城への道のりは書物等に記録されてはいるらしいが、グレンヴァは突如現れた魔王であった為、正確な位置は掴めていないのが現状だ。
その為、軍も依頼されたパーティも魔王城を探し求めながら北へ北へと歩を進めていくこととなる。
俺達はギルドを通して、タンナーブから北西のルートを突き進み魔王城を探し出すよう依頼された。
しかし残念ながらその方向には魔王城はない。
前に一人で出向いたから分かるが、タンナーブから真っ直ぐ北へと進んだところにグレンヴァの魔王城があるのだ。
人間側が魔王グレンヴァを討伐するまでの流れは、まず魔王城の位置の特定、そして他に魔物の拠点がないかなどの情報を集める。
その情報を基に、人間の総力を尽くして一気に攻め込むといった流れである。
最終決戦までに戦力を保持したい人間側は、命を大事にするという名目のもと、危険だと判断したら帰還することを義務付けられた。
あとは新しい情報を取得した場合、そして不測の事態が起きた場合はタンナーブに報告をする為に一度戻ってくるよう言われていた。
軍はいくつかの部隊に別れ様々な経路から進むが、真っ直ぐ北に進む中央部隊が主力だという。
そこに英雄パーティも加わっているので、ここに人間側のほとんどの戦力が集まっていることは間違いない。
タンナーブを出発した俺達は、指示通り北西へと進む。
道中出てくる魔物は、上級職に就かずとも難なく倒せるような弱い魔物だったため、戦闘に慣れていない侶春侶子、そしてチェリーを鍛えながら進行していった。
初日は何事も無く森の中でテントを張り、見張り番を交替しつつ夜を過ごした。
その夜、俺が見張り番をしていたときの事。
次の見張り番であるゆうなが起きてきて、俺の横に座った。
「出野さん、見張り番交替しますね」
焚き火の揺らめきを一点に見るゆうなの目は何かを話したそうに見えた。
「ゆうな、眠いのか?俺は寝なくても問題ないからこのまま見張りを続けてもいいぞ」
「ううん、大丈夫です。ありがとうございます。……実は気になることがあって」
「どうした?」
ゆうなからこんな風に俺に話しかけてくるのは初めてだ。
いつもは俺が聞いてばかりで、こういった個人的な悩み事を話したことはない。
「装備品工房で益夫さんが出野さんに言おうとしてたこと。最後まで聞きたかったなーって」
「魔王ハーデスの話か?」
「そう。今魔王グレンヴァになって世界がまた変わってしまった。それまではハーデスが魔王として君臨していて、私達人間とは争いをしない平和な世界を作ってくれた。私、そんなハーデスを尊敬しているんです。変だよね、人間なのに」
「んー、分からん」
内心この手の話の展開は避けたいのだが、せっかくゆうなが打ち明けてくれたから話を続けることにした。
「もしハーデスが生きていたならこんな世界をどう思うかな。もしハーデスが生きていたから私達に協力してくれるんじゃないかなって」
これは、俺がハーデスだと気付いているのか?
「おい、ハーデスは魔王だぞ?」
「うん、でもハーデスは魔王だけど、何て言うか、人の心を持っているような気がするんです。グレンヴァに負けて死んでしまったというのは嘘で、実は人間側についていたらな……。そうだったらすごく嬉しい」
ゆうなが目の前の火に薪を加えると、パチパチと音を立てる。
何と返してやればいいか分からず、しばし無言が続いた。
「益夫さんが出野さんに対して魔王ハーデスの話をしたときに、そんなことを考えちゃいました。だって出野さんって、ハーデスと名前が似てるから」
俺は魔王だ。人間側に加勢するつもりはない。
それに俺は個人的な恨みで今ここにいる。
かつての俺だったらこういう思いであろう。
しかし今は……。
「そんな誰かを頼るようじゃ、まだ甘いな。魔王ハーデスがいなくとも俺達でグレンヴァを倒すんだ。ゆうななら出来る」
「益夫さんみたい」
「はぁぁぁいっ!」
「あはは!それずるいですー!」
この日、俺は改めて決心した。
魔王グレンヴァを倒すと。
復讐など個人的な動機ではなく、平和の為だ。
いつしか魔物と人間の一線が消え、互いに笑いながら暮らせるように。
◇◇◇◇◇◇
次の日の早朝、俺達は出発した。
グレンヴァがいる魔王城には方角的に若干近付いているが、このまま進んでも発見に至ることはない。
その事を知っている俺は、一人ジレンマを抱えながら先へ進む。
人間が早く魔王城を見つけ出してくれることを願いながらただ真っ直ぐと。
進んでいると、何だか見覚えのある風景に出くわした。
それは俺がかつて統治していた領域に足を踏み入れたことを示す。
あー、ここ昔ゴブリンが住んでいた村の近くの森じゃん。
今も誰か住んでるのかなー?
俺は元魔王だが、魔物界全ての領域が頭に入っているわけではない。
一度訪れた事があっても忘れることなどざらにある。
しかしこのゴブリンの村は、一度訪れただけだが忘れることのない印象的な思い出がある。
この先にある村は俺直属の配下であるゴブリンの王、【カッキォ】と初めて出会った場所だったのだ。
次回予告
思い出の地に足を踏み入れたハーデス。そして蘇る配下カッキォとの出会いの記憶。ハーデスが魔王として君臨していた時、ゴブリンの王であるカッキォは、若さゆえに同族からの反感を食らう。
次回 ~No.10 裏のゴブリン王 カッキォ~
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