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62 僧侶 新谷侶春 新谷侶子

 英雄達の所へ戻ると、魔物の数は若干減ってはいるが、未だにうじゃうじゃと沸いて出てきている。

 そんな中、中心部で英雄とヴァーセブンが戦っているのが視界に入る。

 涌き出る魔物には、まほと守が対処している。

 そして回復したゆうなら仲間の面々もそれに加わって一緒に戦っていた。


「おっ、あいつら回復したんだな」


 俺も気合いが入る。

 しかしまだだ、まだ早い。

 このまま参戦すると俺の真価が発揮できない。


 時が来るのをじっと待つ中、俺は気になっていたことを聞いてみた。


「そういえばお前ら何の職業にしたんだー?」


「「僧侶です!」」


 二人が口を揃えて言った。

 二人が僧侶になるとは思わなかった。

 俺達は来る日も来る日も僧侶を探していたので思わぬ収穫だ。

 友達との再会までの限定的な仲間ではあるが、俺達のパーティで不足している役割の仲間が増えたことは他の皆も喜ぶだろう。


「そうか。お前らの選んだ道は、奇跡的にも俺達が欲していたものだ。この上なく歓迎されるだろうな。っと、そろそろ頃合いだな」


 英雄パーティとゆうなパーティが互いに手を取り合い魔物の群れと戦っている中、俺達の後ろから騒騒と声が聞こえてくる。


「行けー!」

「俺達も戦うぞー!」

「英雄さんが来たからには勝ち戦になるぞー!」


 町の中心部へ逃げ帰っていた冒険者達が次々と応援に駆けつけてきた。


「準備は整ったな。いくぞ、僧侶侶春、侶子!」


 俺は侶春と侶子が職に就く儀式をしている中、大声で英雄パーティが到着し、人間側が優勢になったと叫び散らしていた。

 理由はもちろん、戦闘に参加する人数を増やして誰が攻撃したのか分からなくするためだ。

 英雄パーティとゆうなパーティだけだと、一気に魔物を殲滅すると悪目立ちしてしまう。

 ゆうなパーティの皆、そしてまほや守は俺がハーデスである事を知らない。

 一気に魔物が葬り去られた場合、ゆうな達は英雄パーティの誰かの攻撃によりそうなったと認識するだろうが、まほや守に関して言えば、自分達がやってないとなるとゆうなパーティの誰かがという事になるので、驚くはずだ。

 それでは芋づる式に俺に焦点が当たり、何かのキッカケで正体がバレるかもしれない。

 そんな事を考えて、予め保険を打っておいたのだ。


 ぞろぞろと冒険者達が戦闘に参加し始めたので俺は行動を開始する。


「お前達は黙って俺の後ろに付いてこい。安心しろ。魔物には指一本触れさせない。英雄パーティはつえーぞー」


 賢太郎が一人で魔物が町へ侵入するのを防ぐ姿を横目に、侶春と侶子を引き連れ人間と魔物の大乱戦の中に飛び込んでいく。


「ゴブパンいっぱい!」


 俺はまずここにいる全魔物へとゴブリンパンチを仕掛ける。

 しょうかんする時は、一体につき一回、ちゃんと声に出してしょうかんしたいのだが、それをやってしまうとこればっかりは俺の喉が潰れてしまう。


 どれだけの数のゴブリンちゃんが現れたのか分からないが、ざっと一つの軍隊が出来るほどの数だ。


「やっば」


侶春は思わず声を漏らす。


「全軍、突撃ー!」

ザザザザザッ……


「「◎▼○#◆#*!」」

ペチペチペチペチ……


 至る所からゴブリンちゃん達の可愛い声が聞こえ、素殴りによる打楽器のハーモニーが戦場全体へと響き渡る。

 他の冒険者達もこの光景に騒然としていた。


「さて、仕上げだな……。逃げるぞ!侶春、侶子!」


 二人にそう伝え、後方へと走り出す。

 ある程度の所まで避難し、派手に転んだフリをして地面に魔法を放つ。

 土属性と雷属性、そして闇属性の三属性を掛け合わせた複合魔法。

 複合魔法ですら放てる者が限られた中、それを無数の魔物に放つのはおそらく過去を遡っても数える程度しかいないだろう。

 更に、敵と味方が入り雑じる大混戦の中、ここにいる全ての人間とヴァーセブンを除き、全魔物へ放つという繊細な技術。

 攻撃対象の選別など、元魔王にとっては朝飯前だ。


バッゴォォォオン!


 地を這い上がる黒雷は轟音と共に全てを葬り去った。

 もちろん地中に潜んでいる魔物も根絶やしにした。


ドクンッ


 今までとはまた違った感覚。

 一気に力が増した。

 そして新しいしょうかんも覚えた。


 でも今までとは何か違う。

 何だか……、これ以上強くなれないような気がしたんだ。

 どうしたことか、もうこれ以上冒険者を続けても意味がないんじゃないかと焦燥感に襲われた。


 後に分かることだが、これは人間界で言うところのレベルのカンストによるものだった。

 『呪われた職業』、いや『神から与えられし職業』は一般的にはレベル30が上限だとされている。

 俺のレベルは20ちょっとだったはずなので、一気に30まで上がったということだ。


 この時の俺はそんなことも露知らず、強くはなったが何だかモヤモヤした気分のまま、うつ伏せのまま魔物の死体が転がる戦場を眺めていた。


「出野さん!俺っちめちゃくちゃ強くなったかも!」

「うちもー!何か魔法も使えるようになってるー!」


 侶春と侶子の声が耳に入る。

 いやー、レベルなんて所詮あっても無くても俺は強いし、まっ、いいか。

 秒で気持ちを切り替え立ち上がり、俺は侶春と侶子に顔を向ける。


「おぉー、やっぱりか!誰かが魔物を殲滅してくれたおかげで経験値がかなり手に入ったようだな。まだ冒険者登録をしていないから確かめようがないが、結構レベルが上がっているはずだぞー」


 俺の言葉を聞くと、二人は目をキラキラさせ喜んでいるようだった。


「さて……と。残りはヴァーセブンだけだな」


 俺が目を向けると英雄とヴァーセブンが対峙していた。

 ヴァーセブンは片膝を地に付け、肩で息をしながら英雄を睨み付けていた。

 そんなヴァーセブンの眉間に向け、見下ろしながら剣を突き付ける英雄。

 勝利は目前、誰もがそう思った。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ!」


 この大きなうめき声の正体はヴァーセブンではない。

 誰もが目を疑ったことだろう。


「は……?」


 俺はただただ意味が分からなかった。

 声の主は全身から黒い魔力を出しながら、銀次に向けて一切の迷いもなく剣を振る。


ギンッ、ギギギ……


 銀次はその攻撃を短剣を交差させ防ぐが、力負けし次第に膝が曲がっていく。


「おい、どうしちまったんだよ!」


 近くにいたナックルが制止にかかるが、黒い魔力によって吹き飛ばされる。

 銀次の胸元へ剣が迫る中、どこからともなく守が二人の間にスッと入り、小手で無理やり剣を弾き返すと銀次を連れ一旦距離を取る。


「ア゛ア゛ア゛、グガァァァ!」


 黒い魔力は更に増大し、ナックルだけではなく周りの冒険者も危険を感じ次々とその場を離れていった。


「きゃーはっは、何これ?傑作ね」


 この様子を横目で見ていたヴァーセブンは、目の前の英雄を煽るように薄気味悪い笑みを浮かべた。

 俺はヴァーセブンが何か一枚噛んでるかと思っていたが、この様子を見る限りヴァーセブンにも予想外の事が起きているようだ。


「何デ……、何デ何デダァァァー!」


 黒き魔力を纏い、頭を抱え込み天へと向けて叫ぶ。

 英雄がチラッと顔を横に向けた瞬間、それを見逃さなかったヴァーセブンは、頭の蛇を一気に逆立たせ英雄に襲いかかろうとした。


スパンッ


「ぎぇっ」


 英雄の一断ちでヴァーセブンの首と胴体は分断された。

 身体は力が抜けたように崩れ落ち、コロコロと転がった首は少し大きめの石にぶつかり動きを止めた。


 英雄は剣を鞘に納めることなく、ここを脅かすもう一つの対象にゆっくりと近付いていく。

 斬る……のか?

 今まで思い知らさせた人間界の理解し難い仕組みなど、冒険者としての俺の歴史にとってはまだ1ページ目にすぎない。

 英雄が次にどんな行動を取るのかも知る由もない。

 気付いたら俺は一歩踏み出し、また一歩、また一歩と走っていた。

 思考を置き去りにし、身体だけが反応する。


ゆうな(・・・)!」


 底無しの黒い魔力を放出させた勇者ゆうな(・・・)は、英雄に向かって嫌悪を込めた剣を振るう。

次回予告

 突然暴れだしたゆうなに戸惑うハーデス達。ゆうなの身に何が起きているのか、そしてゆうなを止めることは出切るのか!?


次回 ~嫌悪ノ塊~

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