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63 嫌悪ノ塊

 底無しの黒い魔力を放出させた勇者ゆうなは、英雄に向かって嫌悪を込めた剣を振るう。


 それに反応するように英雄は剣を交える。


「何デ、女勇者ハ、嫌ワレル?」

「落ち着け」

ギンッ


「何デ女勇者ダカラッテ痛イ目合ウ?」

「落ち着くんだ」

ギンッギンッ


「ドウシテ私ハ偽物ナノ?ア゛ア゛ア゛ァァァ!」

ギンギンギンギンッ!


 正気を失い白目をむくゆうなの猛攻が英雄に迫るが、それらの全てを英雄は受け流していた。

 それを仲間や他の冒険者は、ただただ指を咥え見ていることしか出来なかった。

 英雄の構える剣は、ゆうなを傷付ける為の剣ではないと誰もがそう思っているが、思考が追い付かない俺はそんな事に気付くはずもなく、ただただゆうなが英雄にやられてしまうかもと切羽詰まった状態だった。

 幾度となく捌かれ弾かれたゆうなの剣は、いつしか耐えきれず刃が半分折れ、使い物にならないような長さに変貌していた。

 それでも尚、ゆうなの攻めは止まることを知らない。


「ゆうな!俺だ!」


 俺は剣を持つゆうなの両手をがっちり掴んだ。

 元魔王の俺と少し力を付けておかしくなっているゆうなとでは、力の差は歴然であるが、ゆうなは狂ったように腕を捻り俺へ剣先を向けようとする。

 頭がぶっ飛んでいるので、力を緩め捻らせないとゆうなの手が使い物にならなくなる。

 俺は徐々に力を緩めていくと、折れた剣先が俺の眉間へと近付いてくる。


「おい英雄、お前ゆうなに何する気だ?」


「ハーデス、私は彼女を救いたい。しかしこればかりは彼女自身の問題だ」


「ガガガガァァァアッ!皆何デ、ソンナ目デ見ル?私ハ、コノ町ヲ、皆ヲ守リタイダケナノニ!ア゛ア゛ア゛……」


 何だよ、ゆうな自身の問題って。

 救いたいとか言ってるわりに剣で戦うんじゃねーよ、紛らわしい。

 それより早くゆうなを治せよ馬鹿勇者。

 こんなの石化とか混乱とか麻痺とかそんなものの類いだろ。

 お遊びかましてんじゃねーぞ、津島スラッシュ野郎。


 俺はいつも真っ直ぐ正義を貫く英雄をしばらく心の中で罵倒した後、深呼吸して息を整えた。


「賢太郎ー!魔法でどうにかしてくれー!」


 俺は少し離れたところで冒険者の傷を回復させている賢太郎に助けを求めた。

 その一声で周りの冒険者達が少しざわついた。

 俺の事をひそひそと話しているが、元魔王だ、大体聞こえている。

 内容としては、賢太郎さんにタメ口きいてるあいつは誰だとか、若造が調子に乗ってるとかそんな事だった。

 誰に言ってんだと腹が立ったが、その気持ちを静め、再度賢太郎へ助けを求める。


「賢太郎様ー!あなた様の優れた魔法で、どうかこの子をお助けくださいませー!」


 他の冒険者が見ている手前、俺はもう二度と口にすることがないような言葉を並べ、発言を訂正した。

 賢太郎は顔を上げ、余裕といった笑みを浮かべ返す。


「そりゃ無理じゃー!」


 は?


「私ダケ……、何デコンナ目ニ……。ガガガア゛ァァァッ!」


 剣を突き刺さんとする力が更に増す。

 しかし元魔王の元へと届くことは万が一つもない。


「おい英雄、どういう事だ?人間の賢者という者は何でも治せるんじゃないのか?」


「こればかりは賢太郎でも治せない。さっきも言ったがこれは彼女自身の問題だ。おそらくレベルが30になった事によるものだ。『神から与えられし職業』は、上限に達した時点で即座に試練を与えられる。それを乗り越えられなければ上にはいけない」


 試練だと……?

 即座に与えられるということは、俺にも試練があったということか?


 少し時を遡って考えた。

 俺は大量の魔物を殲滅し、一気にレベルアップを感じたあの時、もうこれ以上強くならないような気がして焦燥感に襲われていた。

 しかし、「まっ、いいか」の一言でその気持ちを払い拭った。


 え?これ?

 これが神から与えられし試練?

 そんなわけないだろうと思い、英雄に聞いてみる。


「その試練っていうのはどんなのがあるんだ?」


「人によって様々だが、共通しているのは心の試練という事だ。人は皆、心のどこかで受け入れられないような事がある。それに打ち勝たなければ次は無く、神から見放されてしまう。多くの冒険者は、それに耐えられなくて冒険者としての自分を自らの意思で捨てる。私もこの試練は本当に苦しかった。あなたにも直にその試練が待ち受けているだろう」


 うん、多分もうそれ乗り越えてるわ俺。

 神の試練など、元魔王にとってはちょっと気分が沈むくらいのものだった。

 確かに、人間界に来て、レベルといった理不尽な仕組みを目の当たりにし身を持ってそれを体験した俺は、もっと強くなりたいと更なる高みを目指した。

 しかし、その最強が職に就き、レベルを上げて更に最強になることなんて、傍から見れば何も変わらない。

 だって元から最強だもの。

 いつだってそう、最強は退屈だ。



「ア゛ア゛ア゛」



 最強としての退屈な日々に、突如として現れた新たな魔王グレンヴァ。

 こいつが現れてから、退屈な日々から刺激ある日々へ変わった。

 いや、正確に言えば勇者ゆうなに出会ってからだな。



「ア゛ア゛ア゛」



 ゆうなと出会い、最初は繋ぎの仲間として一緒に冒険したんだっけ。

 俺は最強の勇者、英雄パーティを引き連れグレンヴァにリベンジをしたいと思っていたからな。



「私ナンカ……、女勇者ノ私ナンカ……、呪ワレタ勇者ノ私ナンカ……」



 ゆうなには色々と人間界の仕組みを教えてもらった。

 そりゃあ魔物だった俺からしたら理不尽な事ばかりだった。

 それも今じゃあある程度受け入れている。



「誰カ……」



 ゆうなと出会ってからというもの、俺達にも他に仲間が出来た。

 グレンヴァが現れて、魔王時代の配下を一挙に失った俺は、この人間界での仲間なんて、どうせ魔王グレンヴァにリベンジを果たせたらそれでバイバイなどと思っていた。



「誰カ……」



 でもそんな冷めた感情は疾うの昔に忘れた。

 いつしか、理由は違えど同じ志を持ったこいつらと一緒に魔王グレンヴァを倒せたらなと考えるようになった。

 いつまでも一緒になって笑ってたいなと思えた。

 皆の笑った顔を見ると俺まで嬉しくなる。

 剣児を仲間にした帰り道で初めて見た、ゆうなのあの幸せそうな顔、俺はその顔が好きだ。

 だから……。



「誰カ、誰カ……。誰カ助ケ……」



「ゆうな、んなもん忘れて楽しくいこうぜ、な?」



 眉間を下げ、獣のように歯を食いしばるぐしゃぐしゃな頬を涙が申し訳なさそうに通る。

 もっと胸を張れ、お前が通る道だ。



「私ナンカ……、私ナンカ……」



「ありのままでいいじゃないか。さ、仲間が待ってるぞ」



 その瞬間、ゆうなを覆っていた黒い魔力が白銀となり一気にゆうなの体内に取り込まれる。

 剣へ込める力が弱くなっていき、目が次第に本来あるべき姿へ戻っていく。

 スッと目を閉じたゆうなは、しばらくそのままでいたが、次第に恐る恐るといった様子で目を開ける。


「きゃっ!出野さん、なんで私こんな事を!?」


 正気を取り戻したゆうなは、直ぐ様剣を引き、一驚した顔でキョロキョロと周りを確認した。


「ようやく意識が戻ったか。なーに、ちょっと暴れてただけだ」

「えっ!?」


 何が何だか分からない様子のゆうなに、英雄は安心したかのようにフーッと息を吐き、剣を鞘へしまい語りかける。


「君は試練を乗り越えたんだ。皆が言う『呪い』に、自らの手で打ち勝ったんだ。『呪われた職業』、いや『神から与えられし職業』、その中でも勇者は特別だ。君はもう、過去を受け入れ真の勇者となった。一先ず安心したよ」


「え?私が?真の勇者?」


「そうだ。職業神殿に行くといい。名称は『勇者』のまま変わらずとも、真の勇者として神から新たな祝福を受けるだろう」


 その言葉を聞いたゆうなは目を輝かせて喜んでいた。

 その顔を見てつられて俺も笑う。

 しかし、まだ後片付けが残っている。


「英雄……さん、まだヴァーセブンは生きていますよぉ」


 俺はぎこちない口調で英雄にそう伝える。

 英雄がチラッとヴァーセブンの首が転がっていた場所を見ると、今まであった首は消え去っていた。


「まだ息があったか。さすがはメデューサ、頭だけでも復活できるような再生能力があるようだな」


 俺達魔物の中には、再生能力を備えている者もいる。

 人間のように魔法で回復するのとは違い、その者達も基本時間をおかなければ回復することはない。

 しかしメデューサは回復はせずとも、人間界でいうところのHPが1でも残っていたら身体を作り直すことが出来るので、根本から断たないと死に至らしめることは出来ないと聞いた。


 もうそろそろ下から来るな。


ダゴォォォンッ


 土を巻き上げ、地から飛び出すヴァーセブン。


「きゃはっ。油断したね、愚かな人間ども」


 勢いそのままに宙で身体を止めるヴァーセブンは、剣の折れたゆうなに狙いを定める。


「まずはお前だぁぁぁあ!」


 ゆうなは折れた剣の先が背中につくほど上に目一杯振り上げる。

 そして黒き光を灯したその折れた剣を使い、ヴァーセブンに全身全霊の一撃を浴びせる。



「嫌悪ノ塊(ディスガースト)ォォォオ!」


グダァァァンッ


 黒き光は決して斬るのではなく、対象を叩き潰した。

 その一撃を受けたヴァーセブンの身体は跡形もなくなった。


 身体への負担も大きかったのか、ゆうなは倒れこむように前のめりになった。

 俺はそれを支え、言う。


「頑張ったな、ゆうな」


 その声を聞いてか聞かずか、ゆうながフッと笑ったように見えた。


 この瞬間俺達は、ヴァーセブンに勝利し、タンナーブの民を守り抜いた。

次章予告

 仲間とは何か、ハーデスは人間界に来てからいくつもの経験を重ね、それを徐々に理解していった。このタンナーブ襲撃を乗り越え、ついに人間界の逆襲が始まる。魔王グレンヴァヲ討伐セヨ。


次章 ~成長とは~



 第三章『仲間とは』はこれで終わりです。

 少し期間が開いた時期もありましたが、完結までまた気持ちを新たに執筆します。

 ここまで話を読んでいただきありがとうございます。

 面白くない、読みにくい等であれば☆1、面白い、続きが楽しみ等であれば☆2~5をつけていただければ嬉しいです。

 後はブックマークもしていただけると嬉しいです。


 第三章では、ハーデスの職業である『しょうかんし』もパワーアップし、多分皆様の予想の斜め上をいく展開が待ち受けていますので、お楽しみにお待ちください!

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