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57 ホップメデューサジャンプ

「見えざる敵を誘き出せ!ゴブリィィィンパァァァンチ!」


 俺は遠くで蛇を操ってそうなメデューサに向けて気合いを入れてゴブリンパンチを放った。

 木の先端から空間が裂け、ゴブリンちゃんが一匹姿を現す。

 夕方とはいえ、今日は快晴。

 ゴブリンちゃんは上空から差す太陽の日差しを眩しそうに手で遮りながら歩き出した。

 そういうのはいいから早く行け。


チラッ


 俺は後ろに隠れているチビッ子応援団をチラ見した。

 この二人にとってはしょうかんしとしての俺を見るのは初めてだ。

 さぞ目を輝かせて見てるであろう、そう思って俺は二人の表情を確認したのだった。

 しかしチビッ子応援団は、今にも吹き出してしまいそうな笑いを堪えているような顔でゴブリンちゃんの背中を見ていた。


 ふっ、チビッ子が故に、このゴブリンちゃんの可愛さに心を鷲掴みにされているんだろう。


「……出野さんの迫力、そして出てきた魔物、あま

「やめとけって」


 侶子が何か言おうとしたところに侶春が口を押さえそれを制した。

 おそらく侶子はゴブリンちゃんをしょうかんする俺の姿に惚れ惚れしてしまっているんだ。

 憧れの対象である冒険者が今まさに攻撃を繰り出したんだ、幼き少女にとってその感情を押さえろというほうが難しい。

 しかしここは戦場だ。

 侶春に比べて緊張感が足りない侶子を先輩として注意しなければならない。


「おい侶子」


「は、はい!」


「気持ちは分かるがそれ以上は口を慎むんだな」


 本人も気にしてるんだよとかそういう会話が聞こえた気がするが、別に俺はこんな幼い少女に興味などない。

 しょうかんしたゴブリンちゃんは蛇の攻撃を掻い潜りながらメデューサに向けてパンチを繰り出した。


「はぁぁぁああああ?」


 遠くの方からメデューサとおぼしき叫び声が聞こえた。


「対象はおそらくあの方角にいます!出野さん、誘き出し成功、ナイスです!」


 ゆうなが声を張り上げ俺を讃える。

 俺を誰だと思っている、当然だ。

 叫び声が聞こえたタイミングで地を這う蛇達の動きが一瞬鈍くなった。

 続けてゆうなは真弓、チェリー、俺に指示を出す。


「あの様子だとこちらに気付いたみたいですね。向かってきそうなので、体制を整えつつ待機し動向を伺いましょう!姿が見えても目を見ないように!あとこれを!」


 ゆうなは巾着から液体が入った小瓶を真弓と俺に渡した。


「ゆうなちゃん、これは?」


「毒や石化から回復できる万能薬です」


「こんな高価な物をどこで!?」


「私の父はタンナーブの傭兵でした。父が家に保管していた分ですので私の分を含め三つしかありませんが、一応渡しておきます。もし誰かが石化したら振りかけてください。出野さんは二人を連れて少し離れていてください」


 渡された小瓶の中には透き通った青色の液体が入っていた。

 こんな便利な物も人間界にあるのか。

 まぁ俺には必要のないものだが、使う場面がくるかもしれないから持っておこう。


「誰だぁ誰だ誰だぁぁぁあ?」


 メデューサが勢いよく畝りながら地を這うように向かってきた。


「来ました!皆さん、目を合わさないよう注意してください!」


「侶春、侶子、俺の後ろから離れるなよー」


「う、うん」


 俺に好意を寄せている侶子が震えるようなか細い声で返事をした。

 皆が緊張感に包まれ動きが鈍る中、俺はメデューサに目を向けた。

 頭に紫色の蛇を生やし、怒り狂っているのか血走った目を真ん丸にして近付いてきた。

 ローブで足元は隠れているが、伝説どおりだとおそらく下半身は蛇だろう。


 メデューサは砂埃が舞うほどの勢いのままチェリーの横に付き、顔と顔がくっつきそうな至近距離から長い舌で頬を舐めた。


「あら、よく肥えた子ブタちゃんね」


「あああああ……」


 目を合わせぬよう真っ直ぐ前を見て硬直するチェリーは、恐怖を感じ小刻みに震えていた。


「あんた、離れなさい!強射(きょうしゃ)!」


「シャン!」


 至近距離から真弓が弓を引き、続け様にゆうなが見た感じ光属性っぽい魔法を仕掛けるが、メデューサはストンと一気に体勢を低くし避け、そのままチェリーの体に巻き付いた。

 というか、いつの間にゆうなはこんな魔法を覚えてたんだ?


「邪魔者は排除、と」


 メデューサは両手を広げ、蛇の形を催した影を放つとゆうなと真弓は吹き飛んでいった。


「きゃははっ、雑魚娘達が飛んでった。さぁ、子ブタちゃん、私を見なさい」


 正面に体を向け、チェリーの顔を両手で自分の顔へ向けるがチェリーは両目を瞑り絶対に見ないように抵抗していた。


「嫌だ嫌だ嫌だー!あぁぁぁあ!助けてぇぇぇえ!」


 巻き付かれて足も手を動かせない状態で、必死に抗うチェリーは目が潰れそうなくらい精一杯閉じ、恐怖を叫んだ。


「あぁ、あなた致命的に息が臭いわねぇ。まるで千年も放置されたヘドロのよう」


 一瞬顔を歪め、不快感を露にしたメデューサ。

 心理的に傷ついたのか、この一言を聞いて明らかにテンションが下がったチェリーは口を真一文字に結び喋らないようにしていた。

 魔物相手に何を気にしてんだと思いちょっと笑いそうになったけど、そろそろ助けてあげないとな。


「さぁ、石になるか丸呑みされるか選びなさい」


「んー、んー!」


 何か言いたいことがあるのだろうが、息が臭いと言われたチェリーは必死に口を開かず意思を伝えようとしていた。


 込み上げる笑いに堪えながらも俺はどう攻撃を仕掛けようか悩んでいた。

 助けようにも、チェリーに巻き付いているから自慢のしょうかんでメデューサを攻撃してもチェリー諸ともそれを食らってしまう可能性がある。

 ゆうなと真弓は攻撃が重かったのか、膝を付き立ち上がれないでいる。


 まずはメデューサを引き剥がす事が先決か。


「ちょっとの間お前らじっとしててくれ。というか少し戦闘に参加するぞー」


「「えっ!?」」


「心配ない。ちょっと高いところに行くだけだ」


 戸惑うチビッ子応援団を脇に抱えグイグイとチェリーとメデューサに近付く。

 その挙動にメデューサが気付き、顔をこちらに向けた。


「あなたもお仲間ー?もしかして石になりたいのかなぁ?」

「汚物カモーン!」


 俺はそれを無視し、少し嫌だったが巻き付くメデューサの体の隙間からチェリーの股の間に頭を突っ込み、肩車のような体勢になった。


「きゃははっ、石で芸術品を作るつもり?面白い事をし……、は?何してんの?」


「$*▲」


 俺の股の下からスライムが登場し、ジャンプをするがいつもより低い。

 俺だけではなく、侶春、侶子、そして巨漢のチェリーと何か重そうなメデューサをまとめて支えているからだろう。


「こここここれ何!?ぼくの股にいるのは出野君!?」


「♯□★■」


 スライムが地についた瞬間、潰れそうになるが飛び出す目を充血させながらも踏ん張って勢いをつけた。


「汚物ぁ、気合い入れろー!」


「◇▼§◎!」


「は?は?はぁぁぁあ?」


 その瞬間俺達は家族旅行の如く空へ飛び立った。

 人間と魔物が絡まり合う団子状の塊のまま、俺達は出発した。

 さて、どうしたものか。


 俺はホップスライムジャンプを繰り出したはいいものの、この後の展開は正直読めない。

 俺の中の構想ではこのまま空高く飛び上がり、急降下した後に俺の尻にくっついた汚物が消え、メデューサを背中から地面に叩きつけるとチェリーから離れるかなと考えている。

 地に叩きつける瞬間に、チェリーにも結界を張ってメデューサ以外はノーダメージという算段だ。


 しかし戦いというものは、何が起こるか分からない。


「神様ぁぁぁあ!仏様ぁぁぁあ!」


 ぐんぐんと空へ昇るにつれチェリーが絶叫した。


「おえぇぇぇえ!千年ヘドロ臭っ!」

パシンッ

「おぶぅっ」


 メデューサがチェリーの息に耐えきれず、去り際にチェリーの頬に平手打ちをしながら家族旅行から離脱した。

 巻き付きを解除し、一人離れ、地面に向かって急降下を始めた。

 その光景を見下ろしながらも俺達はぐんぐん上昇する。


「チェリー、俺だ、出野だ。魔物は離れたから安心しろ」


 一頻りに叫び、気を失っているのか、返事は返ってこない。


「おーい、聞いてるかー?」


「出野さん、多分この人、石になってます」


「なぬっ!?」


 脇に抱えた侶春が、チェリーが石になっている事に気付いた。

 侶子は石化したチェリーの足の裏をツンツンしている。


「やばい、マジやばい。侶春!俺の腰についた巾着の中からさっきの小瓶取り出せ!」


「はい!」


 侶春を見ると、上空が寒かったのか鼻水が顔の半分を覆い尽くしている。


「頑張れー!」


 侶子がこのタイミングで応援を始める。

 情報量が多すぎて、元魔王である俺も半ば思考停止状態に陥った。


「ありましたー」


 侶春は巾着の中から小瓶を取り出した。


「よし、栓を抜いてチェリーに振りかけろ!」


 そのタイミングで急降下が始まった。


「えい!」


 侶春が上に向けて万能薬をかけるも、無情にも液体の塊は見事に空を切った。


 早速貴重な万能薬を一つ失った。

次回予告

 貴重な万能薬を失い、石化したチェリーを元に戻せなかったハーデス。そして急降下するハーデス達に待ち受けるは、丸呑みせんとパックリと開かれたメデューサの大きな口。絶体絶命!?


次回 ~陥没~

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