56 不気味
ゆうな、真弓、チェリーを追いかけ、チビッ子応援団の二人を連れて俺は走っていた。
さすがに疲れたのか、スピードが落ちているようだった。
疲労で死なれても困るので、俺も少しスピードを緩め並走した。
道端でニョロニョロと畝り歩いている蛇を見つけては殺気で倒していき、チビッ子応援団の安全を確保しながら進んだ。
侶春と侶子には結界を張っていたので、俺から放たれる殺気には気付かず、次々と泡を吹きながら腹を向けて痙攣する蛇達を奇妙な顔で見ていた。
魔法でも物理攻撃でもないのだが、元魔王の俺が少し怖い顔をしながら睨みつけるだけで弱き魔物達は勝手に死を選ぶ。
横にいる侶春、侶子はと……、よし、問題ない、結界が無事に張られているようだ。
俺が殺気を放っていると、侶春と侶子の走るスピードが上がった。
ほう、やるな。
俺達も負けてられない……、そんなメッセージが走る姿からひしひしと伝わってくる。
二人は疲れている身体に鞭を打ち、死に物狂いといった顔で前線へと、仲間の元へと向かう。
そんな二人を見ると自然と俺も気合いが入る。
尚も現れる蛇達を、殺気で押し黙らせながら、時に幼き応援団を気にかけながら駆けていく。
その間も侶春と侶子はどんどんスピードを上げ、ついにはゆうな達に追いつくことができた。
「侶春君、侶子ちゃん、大丈夫!?襲われそうになったの!?」
後ろの方から必死に走る二人に気付いたゆうなは声をかけた。
二人の顔を見ると、確かに疲労を通り越してある種の恐怖を感じているような表情にも映った。
ゆうなが勘違いするのも仕方ない。
俺はこの二人の勇姿を伝えようと口を開く。
「この二人は意外とや
「うぇぇぇん。出野さんの顔が怖かったんですー」
「何があったの!?」
「俺達が遅いから、出野さんがもっと早く走れって顔をしてたんだ」
待て待て、俺はそんな事は微塵も思ってなかったぞ。
むしろ、この二人の姿に感動していたくらいだ。
「どどどど、どんな顔で二人を見てたんですか?」
ガチャガチャと音を立てながら走るチェリーが、興味本位で俺に聞いてきた。
「あんま分かんないけど、こんな感じかな」
「はうっ」
その瞬間チェリーが気を失った。
やべ、チェリーに結界張ってなかった。
「ストップストーップ!」
ゆうなが皆を一旦止めて、真弓と一緒に後ろに取り残されたチェリーの元へと向かった。
真弓は大の字に横たわったチェリーに、「チェリー……」と言いながら隠れた顔を確認する為か兜をずり上げた。
「遊んでんじゃないわよ!」
そう言い放ち、真弓がチェリーの横っ腹を蹴り上げるとチェリーは「はひゅーん!」と言いながら飛び起きた。
どうやら真弓は、チェリーが注目を集める為に演技で倒れたと思っていたらしい。
俺も殺す気で睨んだ訳じゃないので、そこまで殺気を出さなかったが、普通の人間であればおそらく死んでいたであろう。
チェリーが冒険者で良かったと思うのと同時に、チェリーってそんなに信頼されていないんだなと哀れみの気持ちにもなった。
「い、いや本当に出野君の顔を見たら……」
「何言ってんのよ!さ、早く行くよ!」
真弓はチェリーの言葉を遮り、どこかひきつったような笑顔のゆうなと一緒に先を急いだ。
兜を被り直したチェリーは今起こった事が現実なのかそうじゃないのか区別がつかないといったように、首を傾げながら走り出した。
いやー、危ない危ない、この顔は危険だな。
人間に向けてするのは控えよう。
俺は走りながらチェリーの耳元で呟く。
「敵の親玉が近い。おそらくさっきのは、親玉がチェリーに向けて遠くから殺気を放ったから気を失ったんだろう。俺はさっき倒れたのは悪戯じゃないと信じてるぞ」
俺が意味不明な説明をすると、「そうだったのか!教えてくれてありがとう」と感謝された。
◇◇◇◇◇◇
走り続けると、ようやく大門が見えてきた。
ジョヴァンが襲来した時に戦っていた大きな平地には、時が止まったように何十体もの石化した冒険者が攻撃姿勢のまま立ちすくんでいた。
畝って地を這う無数の蛇がシャーシャーと威嚇しながら陣取っている。
そこに生身の冒険者は皆無で、遠くから狙っていたであろう魔法使いや弓使いが所々で石化しているのも視界に入る。
つまり、全滅を意味していた。
「皆さん、敵は無数にいます。警戒しましょう。それと、見る限り石化を誘発する魔物の姿が掴めません。蛇が頭に巻き付いていると言ってましたね?」
「そう、でも私もチェリーも一瞬しか見てないから見間違いかもしれないわ。目が合うと石化するから気をつけよう」
「分かりました。皆さん、一先ずこれ以上町の中心部に魔物が入らないようここで倒せるだけ倒していきましょう。もし蛇女を見つけたら皆に知らせてくださいね!出野さん、私達が前に出るので侶春君と侶子ちゃんをよろしくお願いします!」
「あぁ」
そしてゆうな、真弓、チェリーは周囲を警戒しつつ周りの蛇に攻撃を仕掛けていく。
あの離れた所にいるのが例のメデューサか。
遠すぎて皆の目には写っていないようだが、真弓の言うとおり、紫色の蛇が頭から涌き出ている。
おそらくこの無数の蛇達を操っているのだろう。
そして、それとはまた別の気配が地中の中から感じられる。
地中に潜っている大きな蛇や地面と同化している土色をした石の塊達は未だに動く気配はない。
元魔王の俺は魔物の気配に敏感だ。
隠れようが何をしようが、普通の魔物が俺の目を掻い潜ることなど不可能に等しい。
それこそ俺と同等の力を持つような魔物でなければ、どれだけ用意周到な策を以てしても俺の圧倒的な力の前では無意味である。
しかし無意味とはいえそれは結果論。
どういう思惑でこんな回りくどい手法を使っているかは俺には分からない。
魔王時代は戦略など考えたこともなかった俺は、一生懸命弱き者の思考を探る。
そして一つの答えに辿り着いた。
これは……、地に潜っている魔物はメデューサから隠れているのか?
そしてその事にメデューサ自体も気付いていないのか?
この状況に仲間は誰一人気付いていない。
ゆうなと真弓とチェリーは今もなお蛇に攻撃を仕掛けつつ周囲から新たな魔物の出現を警戒している。
メデューサが気付かないのも無理はない。
数々の冒険者が町の中心部へ逃げ隠れていると考えると、弱き魔物達もメデューサの石化を怖れて隠れているに違いない。
さて、どうやって戦っていこうか。
出来ればこの地中にいる罪のない魔物達も守りたい。
こいつらは人間を襲うためにここに来たのではない。
弱き魔物のことだ、ただただ生きたい……、そう願って隠れているはずだ。
幸い誰もこの事に気付いていないようなので、唯一気付いている俺だけがこの状況を打破できる鍵を握っている。
「大丈夫だ、俺ならお前らを守れる」
俺は地を撫で、呟くように地中の魔物に告げる。
「「はい!」」
後ろにいる関係のないチビッ子応援団が返事をした。
そうだったな、この二人も俺を頼らざるを得ないんだ。
俺は後ろを振り向き、「安心しろ。お前らもちゃんと守るからな」と言うと、少しぎこちない笑みを浮かべながら小刻みに頷いていた。
ふっ、初めて味わう本当の戦いを目の前に緊張してるな。
「……のさん、何か怖いね」
「しーっ!強いパーティには頭がぶっ飛んだ冒険者がいるのは当たり前の事だよ」
ん?ナックルの事か?
まぁいい。
侶子と侶春はこそこそと話しているようだが俺には丸聞こえだ。
ナックルの事を少し不気味がっているようだが、気持ちは分からなくもない。
俺は立ち上がり、巾着から賢太郎から貰った経験値を仲間に分け与えられるという山分けの石を取り出した。
取り出したはいいが、どうしたらいいか度忘れしてしまいしばし立ち尽くした。
山分けの石を見ると、少し汚れが付着していたので、綺麗好きの俺はそれを指で拭い払う。
「ふふっ」
汚れが取れた石を見つめ、満足感で思わず口元が緩む。
あっ、そういえば、これは持っているだけでいいと言っていたな。
俺は山分けの石を巾着に戻し、腰から木の棒を取り出し攻撃の姿勢を取る。
「よし、俺のそばから離れるなよ!あとちゃんと応援頼むぞ!」
「……やっぱり不気味だよ」
「……あの石には触れないでおこう」
ほう、もしかしたらこいつらは地中で隠れている石の塊のような魔物に気付いているのかもな。
中々のセンスだ。
「お前ら、間違っても石には触れるなよ、命はないぞ!」
「「ひぃぃぃい!はいっ!」」
この素人二人が気付いたとなると、他の面々が気付くのは時間の問題だな。
メデューサに気付かれてしまっては終わりだ。
早々に片を付けなければ。
「皆、いきなり親玉が現れても体制を立て直すのに時間がかかるかもしれないから俺のしょうかんで誘き出すぞ!準備はいいか?」
「お願いします!」
俺は周りで戦っている仲間に向けそう言い放ち、早速メデューサを誘き出す為にもゴブリンパンチでの挑発を仕掛ける。
次回予告
やっと戦場へと到着したハーデス達だったが、ハーデス以外はメデューサの姿を確認出来ないでいた。ハーデスが挑発をすると怒ったメデューサが皆の前に姿を現す。そしてついにゆうなパーティで最初の犠牲者が出てしまう。
次回 ~ホップメデューサジャンプ~




