48 デュラハンキング
「我ら一族をこけにしやがっておらぁぁぁあっ!」
漏れ出す魔力は洞窟内を震えさせた。
おっ、野生の魔物なのにこいつ会話が通じるな。
こんなところにもまだ知能がある魔物がいたとはな。
賢太郎は持っていた松明を地面に突き刺すと、辺りがパァーっと明るくなった。
「どうじゃ。戦う気になったか?」
「んー、まずはあんたらの本気を見せてくれよ」
「そうじゃな、こりゃ本気出さないとやられそうじゃ」
デュラハンキングが地に大剣をぶっ刺すと、英雄の足元から剣先が飛び出してきた。
ふーん、そこそこやるな。
それを英雄はそれを跳びはねて躱し、剣を低く構えデュラハンキングに向かって走り出した。
「飛雪千里斬り!」
スサァァァ
その剣技から放出される真空波は一本の線となり、地を削りながらデュラハンキングへと迫る。
その線を追いかけるように英雄は走る。
「フンッ!」
パンッ
デュラハンキングは大剣を頭から振り落とし同じく真空波を出すと、英雄の真空波とぶつかり合う破裂音が響き渡り、互いに繰り出した実体のない攻撃はかき消された。
英雄は構わず突っ込む。
「これはどうだ!【津島ノ剣】!」
仁王立ちのデュラハンキングに至近距離からその技を繰り出すと、英雄の剣が共鳴して光輝く。
俺は素直に技名がダサいなと思いながら、行方を見守った。
「デュラハンなめんなよぉ?」
キンッ
横に振るその剣技を、デュラハンキングは大剣で受けきった。
どちらも引かず、つばぜり合いとなったその攻防は、強者と強者の戦いとして人々の目に映りうるかもしれない。
英雄の顔の位置に胸当ての顔があるほどデュラハンキングは一回り大きい。
その大きなデュラハンキングに、それより小さな人間が張り合っている。
しかし俺は気付いている。
英雄は完全に力負けしていることに。
「賢太郎、お前は戦わなくて大丈夫なのか?」
「わしはあくまでサポートじゃからのう。あんな大剣を持った魔物に立ち向かえるはずがなかろう。そろそろ英雄から何かしらの指示がくるじゃろう。英雄は未知なる敵と戦うときは、相手がどのくらいの強さかを見定める意味でも自分一人で立ち向かうからのう」
どういう気持ちでこの戦いを見守っているのか不明だが、賢太郎なりの配慮があるんだろうと納得した。
俺もとりあえず様子見したいという気持ちが勝り、腕組みをしながらじっとこの戦いを見届けていた。
じりじりと英雄が追い詰められる中、渾身の力で大剣を弾き、連続して斬撃を繰り出した。
それに対しデュラハンキングは直立し無防備で受けているが、キンキンと金属音がするだけでダメージを受けている様子はまったく感じられない。
ガギッ
顔に剣を噛られ、英雄の攻撃はいとも容易く封じられた。
「くっ」
力負けしている英雄は剣を引き抜けずぐいぐいと体勢が低くなり、それを胸当ての顔はギョロっとした眼で見下し、ニタァっと口角を上げ余裕を見せた。
「あの二人は我を恐れて動けないでいるんだろぉ?お前を殺してからあの二人もやっちゃうよぉ?勇者君はそれでいいのぉ?」
「ふふっ、全部間違っているな。【津島ノ衝撃】!」
ボガァァァアンッ!
いちいち技名がダサいが、その剣技を放つと爆発と共に胸当ての口から煙が出て、デュラハンキングは苦痛の顔に歪んでいた。
その拍子に剣を引き抜き、後ろに跳びはね一旦距離を取る英雄。
「おいおい、今のは効いたぞぉ?我の顔に傷つけておいて、ただじゃあ済まねぇからなぁ?」
胸当ての眼がぐるりとひっくり返り、白い眼から赤い眼に変わった。
明らかに怒っているのが分かる。
「賢太郎さん、王は女王を吸収して普通の個体より強くなっている。倒せないことはないが、時間をかけてもいられないからサポートを頼んだ!」
英雄は前を見据え、賢太郎に参加を要求した。
「任せろ。【ゲキカケルニ】!【ボウカケルニ】!【ハヤカケルニ】!」
賢太郎が魔法を唱えると、英雄の迫力が増したように感じた。
ゲキカケルニ?ボウカケルニ?ハヤカケルニ?
そんな魔法知らないから俺はシラケルニ。
「今のは何だ?」
「ん?知らんのか?英雄の攻撃力と防御力と素早さを上げたんじゃ」
は?
攻撃力と防御力と素早さを上げただと?
そんな凶悪な魔法がこの世に存在するのか?
俺は人間界に来て、回復魔法というものが存在することを聞いて驚いた。
そりゃあそうだ、そんな理不尽な魔法を乱用していたら泥仕合必至である。
もし魔物界でその回復魔法を使う者がいたとしたら、まず人間は勝てない。
魔物と人間はそもそも身体の作りが違うので、人間界で言うところの能力差というものがありすぎるのだ。
しかし人間は器用なもので、その能力差を知能でカバーしているので魔物側はジリ貧になっていくことが多い。
そこでもし魔物も一瞬で回復するとなれば、戦況は一変するだろう。
問題はここからだ。
今賢太郎が唱えた魔法、それは攻撃力と防御力と素早さを上げると言っていた。
遠い昔、俺が魔王になる前、話でしか聞いたことのない勇者との争い。
その中で、魔王軍は勇者やその仲間達との戦いでそれまで力が均衡していたにも関わらず、不可解な事に、それが偽りだったかのように一瞬で彼らの力が倍増し、均衡が崩れ圧倒されたという逸話があった。
俺はその逸話を馬鹿馬鹿しいお伽噺の一種かと思っていた。
弱き魔王軍が己の失態を後世に伝える際の、逃げ口上だと。
賢太郎の発言が本当なら人間は破壊兵器じゃないか。
人間凶悪すぎるだろ。
俺はこの世界における理不尽というものを再確認した。
「よし、これで楽に戦えそうだ」
「後ろの二人もまとめて殺してやらぁ!おぅら!おぅら!」
デュラハンキングは無作為に大剣を地面に突き刺すと、英雄だけに留まらず、俺や賢太郎の足元からも剣先が姿を現した。
賢太郎はそれをひょいっと躱し、俺はその場から動かず、剣先に乗っかり一人上下運動を繰り返す。
この程度の攻撃では俺は斬れないし貫けない。
能力が上昇した英雄は、剣を握り直し、その攻撃を器用に躱しながら一直線に駆け出した。
先程とは段違いの速さだ。
ほう、久しぶりにこの境地の者を見たな。
俺がわくわくしてその光景を見ていると、英雄が聞いているこっちも恥ずかしくなるようなダサい技を繰り出す。
「津島ノ剣!」
いや、これ実はカッコいいのか?
俺の場合、ハーデススラッシュだよな?
あれ?意外とイケるかもしれない。
冒険者だとしたらデスノスラッシュか。
全然イケる。
そう思ったらめちゃくちゃカッコいいと思えてきた。
ズザッ
英雄の剣技をデュラハンキングは大剣で防ぐも弾かれ胴体に傷を負った。
「てんめぇぇぇえ!」
キンキンッ
形相を変え、大剣を振り回し英雄に攻撃するが、能力が上昇した英雄はその一撃一撃を剣で弾きながら合間合間でデュラハンに斬撃を浴びせていく。
「ガァァァア!」
ブアァァァア
デュラハンキングが大剣で攻撃をしていると、胸当ての顔は不意に口から炎を放った。
「ほれ、【マクレープ】!」
賢太郎がそれを見て直ぐ様英雄に魔法をかけた。
英雄の身体が魔力の壁により守られ、炎による攻撃が軽減されている。
これが人間の結界魔法か。
顔は一旦炎を吐き出すのを止め、スゥーっと大きく息を吸い込んだ。
「ンガァァァア!」
ボアァァァア
「こしゃくな!【マミルフィーユ】!」
先程とは比にならないほどの爆炎が広範囲に広がるが、賢太郎が重ねてかけた結界魔法により、魔力の層が一気に厚くなり、その爆炎の中でも悠々と連撃を重ねる英雄。
俺は横にいる賢太郎に声をかける。
「賢太郎、お前やるな」
「戦っているのは英雄じゃ。褒めるなら英雄をぶわはぁっ!ゲホッ、ゲホッ!なにをするんじゃ!」
「あぁ、すまんな」
とりあえず軽いノリで、柿ピーを賢太郎の口に指で弾き入れたが、物凄くむせていた。
言葉は悪いが老いぼれには少し堪えているようだ。
もう控えよう。
爆炎に包まれている中、英雄はデュラハンキングを追い詰めていった。
「な、なぜ我の攻撃が効かぬのだぁ!そしてなぜ当たらないのだぁ!我らデュラハンは誇り高き魔物だぞぉ!負けるわけがあってたまるかぁ!うぉぉぉおらぁ!」
デュラハンキングは一つ一つを重たい斬撃に変え振り回し、至るところに真空波がばら撒かれていた。
壁に当たる度に削れると共に洞窟内は揺れ、振動で天井から小さな土の塊が降ってくる。
「英雄!洞窟が崩れるかもしれんぞ!早めに決着をつけるんじゃ!」
賢太郎は声を張り上げ英雄にそう告げた。
天井を見上げ、険しい顔をしていた賢太郎に声をかける。
「まぁ洞窟が崩れないように俺が結界を張るから安心しろ。えいっ」
「えっ?」
俺が洞窟内部に結界を張ると振動は収まった。
変わらずデュラハンキングから真空波はばら撒かれているが、俺の結界により洞窟内は傷一つ付かなくなっていた。
「……魔王やばくね?」
賢太郎は開いた口が塞がらないようだった。
それを見て俺は柿ピーを取り出したが、少し考えた後、首を横に振ってすぐにしまった。
次回予告
デュラハンキングと英雄の戦いを見て、技のダサさに気が向くハーデス。どんどんデュラハンキングを追い詰めるがデュラハンキングは戦いの最中、ある者の存在に気付いた。それは同じ魔物であるハーデスであった。
次回 ~王とは~




