47 あれ
「では、女王を瀕死に追い込むかいの」
「あぁ」
賢太郎が言葉をかけると英雄は首を縦に振り、一気に女王デュラハンに詰め寄る。
「ギェェェエ!」
先程のダメージが残っているであろう女王デュラハンは槍を両手に持ち直し、英雄を待ち構える。
キンッ
女王デュラハンの突く槍を躱しながら英雄が放った一振りは、女王デュラハンの左肩を削った。
キンキンキンキンッ
英雄は連続して巧みな剣技で鎧を剥いでいく中、女王デュラハンはその速さに対応出来ず、防御を目的とした槍捌きは悉く空を切っていた。
実力差が顕著に現れたところで、賢太郎が土属性魔法を唱える。
「今じゃ、ほれ【ズゴゴゴゴ】!」
グガッ、グガガガ……
足元の地面が弾け飛び、体勢を崩した女王デュラハンは制御できずにうろたえている中、地から逆流した石礫の数々が纏う鎧を破壊していく。
「ギエ、ギェェ。ギェェェエ!」
一頻りに二人の攻撃が終わり、土埃が舞う中、わなわなと怒り震える女王デュラハンが姿を現した。
一旦後ろに引き距離を取った英雄は、剣を腰の鞘に仕舞う。
えっ?これで終わり?
ここを潰すって、まだまだ全然洞窟が潰れてないんだが?
俺が意味も分からず戸惑っていると英雄が口を開く。
「これであれが出てくるかと」
「そうじゃな。わしらも初めてじゃがこんなもんじゃろ」
あれが出てくる?
そのあれってあんたらの必殺技とかそういう類いじゃないの?
全てに対して疑問が絶えないこの状況に、俺は取り残されていた。
目の前には怒り狂ったボロボロの女王デュラハンがダメージを負い立ち尽くしている。
「おい、目の前のデュラハンクイーンを倒さなくていいのか?」
「あぁ、これでいい」
「……ギェェェエ、ギェェェエイ!」
ダッダッダッ
一頻りに叫んだ女王デュラハンは奥へと逃げ去った。
追いかけなくていいのか?
「そうじゃハーデスよ、お主に良い物をやろう」
色々と理解出来ない状況の中、更によく分からない黒い腕輪と石ころを賢太郎から受け取った。
「これは何だ?」
「お主は経験値がどうたらなどと言っていたじゃろう。それは【ゼロの腕輪】というものじゃ。それを装備すると経験値が入らないと言われておる。所謂、呪われた装備品じゃ。一度付けると外れないみたいじゃが、お主なら大丈夫であろう。ほれ付けてみたらどうじゃ?」
何というタイミングで何という物をくれたんだ。
しかし経験値が入らないとなると、魔物を倒しすぎて仲間の中で俺だけレベルが高くなるという事態は防げる。
そのあたり意外と気を付けていたところなんだよなー。
まぁ冒険者の書を見せることはないだろうから、関係ないと言えばそれまでだが、使いどころはありそうではある。
とりあえず俺はその黒い腕輪をはめてみた。
大きさが変わりぐぅっと俺の手首にフィットし、ちょっとやそっとじゃ外れないほどになった。
「なかなか良い感じだな。というか、これ外れないんじゃないか?」
「呪われているからのう」
暫し沈黙の時間が続く。
俺は手首と黒い腕輪の間に指を入れようとするが吸い付くように装着されているので入らない。
少し力を入れたくらいではビクともしなかった。
今まで呪いとは無縁だったため、呪いというものはこんな感じなのかと何となく理解した。
俺は自力で外すのを諦め、素直に賢太郎へ意見を求めた。
「……いやどうやったら外れるんだ?」
カチャカチャと俺が腕輪を弄る音だけが耳に入る。
「……わしにも分からん」
「は?」
目を細め、遠くを見るじじいは俺と目を合わせようとしない。
地下訓練所にいたハリケーンウルフかてめぇは。
俺は人間界で初めて騙された。
しかも現最強と呼ばれる勇者パーティのじじいにだ。
これから経験値ゼロの未来が脳裏に過り焦った俺は、腕輪を力ずくで取ろうとした。
取ろうと思えば取れるとは思うが、できれば壊さぬよう外そうという損得勘定が働き、なかなか踏ん切りがつかないでいた。
その様子を見た英雄は、慌てたように俺に声をかける。
「ハ、ハーデス、呪われた装備はそれを打ち消す魔力を流し込むと外れると聞いたことがある。できるか!?」
「は?んなこと先に言えや人間風情がゴラァッ!」
俺を救おうと優しく声をかけてきた英雄に対し、八つ当たり気味で返すと英雄は少し戸惑いの表情を見せた。
英雄のそれは、しょうかんしたゴブリンの横っ面を本気で殴った時、そのゴブリンが俺に見せた表情に酷似していた。
俺はとりあえず元魔王の勘で魔力を流し込むと、その腕輪は次第に大きくなりすっぽりと抜けた。
「……うむ、そういうことじゃ」
「はぁ」
じじいは頷きながら自分を正当化するような言動をした。
俺はとりあえず外れたことと、なかなかの代物を手に入れたという嬉しさが怒りに勝り、一つの溜め息でそれを帳消しにした。
「で、こっちの石は何だ?」
腕輪をしまった後、先程貰った指でつまめるほどの大きさの白い石ころを手のひらに乗せ、賢太郎に聞いた。
「それは【山分けの石】と呼ばれる不思議な石じゃ。原理は分からんが、それを持っているだけで周りの仲間と経験値を共有できる。わしらにはもう不要な石じゃ、お主にやろう。それは呪われていないから安心するんじゃ」
賢太郎は先程とは打って変わって、得意気に説明した。
最後の一言は、物が物だったら俺の怒りの感情も再燃するほどに余計な一言だったが、こちらもなかなかの代物であったため快く受け取る。
「ありがとなー。それでさ、女王デュラハンが消えたけど追わないのか?」
「あぁ、そうじゃったな」
英雄と賢太郎はゆっくりと歩き出した。
後を追うように俺もその後ろについて歩く。
「ハーデス、この先はこの洞窟最強の魔物が出てくる。ここのデュラハンは兄弟は姉妹に助けを求め、姉妹は女王に助けを求める。そして女王は、王に助けを求める。その王の名は【デュラハンキング】。王を倒せる実力がある冒険者は、現在一握りしかいないだろう。それほどに強いのだ」
英雄が語気を強くして俺に説く。
ほう、デュラハンの王か。
同じ王でも魔物界の王とデュラハンの王では、規模や影響力が違うので王と言っても一括りにできるわけではないが、王と聞くと強いんじゃないかと思ってしまう。
俺の配下にも種族の王はいたが、強さに関して言えば王でも弱いやつは弱い。
実際どれほどのものなのかは実際に対峙してみないと不透明な部分ではあるが、俺は英雄に強いと認められたその王の話を聞き自然と気分が高揚していた。
そういえば潰すって何の事だったんだ?
ふとその疑問が蘇り、尋ねてみる。
「さっき潰すって聞こえたが、あれは何のことだったんだ?」
「聞こえておったか。潰すというのは、この南の洞窟から魔物を根本から断つということを意味していたんじゃ。王と女王が消えればここは何十年と魔物が出なくなる。かつての勇者含め、数々の冒険者達がここでレベル上げを行っておったから、本当は女王だけ倒すのがいいのじゃが、あまりにも放置すると王が洞窟から出てくることがあるからのう。もう長い間放置しとったから、国王にいい加減倒してくれとせがまれておったのじゃ」
俺の予想とは違い、少しがっかりした部分はあったが、もしかすると英雄と賢太郎の本気を見れる可能性があるのでそれはそれで良かったのかもしれない。
「で、そいつはこの洞窟の最奥にいるんだな?」
「あぁ。普段は姿を見せないが、女王が傷付いて戻った時と、何十年かの間に一度だけ姿を見せるとの事だ。私も見たことはない」
俺達はそのまま最奥へ向けて歩いていると、ある箇所で英雄と賢太郎が立ち止まり顔を見合わせた。
「予想以上に強い気配がするな」
「そうじゃな。気を抜けんぞ、英雄」
英雄は剣を抜き、賢太郎も警戒しながら更に奥へと進んだ。
……ガシャッ、ガシャガシャ
最奥の拓けた空間に着くと、横たわるデュラハンクイーンの側に、それよりやや大きいデュラハンが俺達に背中を見せるように膝を付き、寄り添っているような姿が見えた。
身長ほどある大剣が地面に刺さっている。
「あれがデュラハンの王か?」
「おそらく……。私達に気付いてないようですね」「うむ。このまま背後から先制しようかの」
……ガシャガシャッ、ガガッ、ボリボリ
賢太郎の殺気が漏れたのか、デュラハンキングはガチャッと鎧が擦れる音を立てながら俺達三人に身体を向けた。
「あ、あれは……」
「なんということじゃ……」
女王は『子』を守り、王は『種』を守る。
王の胸当てに付く恐ろしい顔は紫色の血を口元から垂れ流し、女王を鎧ごと貪り食っていた。
俺達に気付くと、一気に女王を飲み込み立ち上がった。
胸当ての顔がゲップをする中、地面に刺さった大剣を両手に持った王、そして胸当ての顔が叫び散らす。
「我ら一族をこけにしやがっておらぁぁぁあっ!」
次回予告
南の洞窟の最奥に着いたハーデス達は、デュラハンキングと遭遇した。ついに英雄と賢太郎が本気を見せる!?そしてハーデスはまた一つ、人間界の理不尽を知ってしまう。
次回 ~デュラハンキング~




