もう……どうとでもしてください
帰りの車の中では念のためまだ永久女様を演じ、離れに通じる廊下まで帰り着く。
「──ブフォッ」
急に変な音がしたと思ったら、リーリエの笑い声でした。
「わ、って……一人称が、わ、って……ふふふ……本当に平安に染まってる……昔のこと知ってるから、めっちゃ笑える……」
「ええ、ええ、どうせ私にはあんな偉そうなしゃべり方似合いませんよ! 分かったうえで虚勢はってるんですよほっといてください!」
「ブッフ……うん、ロリババアもそれはそれで悪くない。守備範囲ではあるから安心して」
「安心って何をどう安心しろと……?」
リーリエ……お世話になりますけど、ちょっと笑われてる部分の記憶を吸いだしてしまいたいですね……!
「プフ……記憶を吸いだしたいって目をしてる……」
「記憶を吸いだす……? リエさんにはそのような力が?」
「あ、はい。血液とか、体液から相手の持つ情報を引き出すことはできます。学校の勉強についていけたのも、うーちゃんとキスしたときに現代の情報を少し学ばせてもらったからですし」
「……相当じっくりキスしたんだ……粘膜接触すると、効率よくなるっていってたもんね……はぁ……はぁ……はかどる……依頼料、期待してる」
「依頼料……? リエさん、何のことですか?」
あっ。そう言えば、話すの忘れてました……。
「その……うーちゃんにも確認を取るべきだったのでしょうけれど……急ぎで必要な道具があったので、その提供を受ける代わりに……私たちのキスをデッサンさせる、と約束を……」
「……手助けもするのにその料金で据え置きなんだから、格安」
「デッサンできるほど長い時間リエさんとキスできて、手助けを受けられる……咲子さん、いえ、リーリエさんと呼ぶべきなのかわかりませんが、ウィンウィンの関係です」
「今後もごひいきにどうぞ」
……どうしましょう。なぜか話がビジネス上うまくまとまりかけてます。たしかにうーちゃんとリーリエは勝ってるかもしれませんけど、私は負けてますからね?
「……陰陽師が大々的に動くまでにはまだ時間があるはず。依頼料、払ってもらう。もちろん、その最中に襲撃されても対応できるよう結界もはっておくし」
「支払いましょう、リエさん。一刻も早く。私たちにリーリエさんの助けが必要だと思うからこそ、そのような契約を結ばれたのでしょう? 支払いましょう。早く。ああ、もうここでもいいですかね。ファーストキスの思い出の場所ですし」
「いいね……天野さん、すごくいい。その積極性、非常に評価できる」
ああもう! うーちゃんは正面に回り込んできたうえで顔近いですしリーリエはどこからともなくスケッチブックと鉛筆取りだしてる!
「ところで、リーリエさん。スケッチをされている間キスをし続けるとなると興奮が青天井なわけですが……離れでキスの先に進んでしまっても、かまわないのでしょう?」
「……ぐっじょぶ。その場合支援が終身的な物となります」
「私の同意なしに話を進めないでくれませんか!?」
「リエさん、大丈夫です。私も初めてですが、優しくしますし……スケッチが終わるころには、悶々とした気分になって自然とその先に進めますよ」
「まって」
「待たないで。天野さん、ゴー」
…………これもう、何を言っても無駄なやつですかね?
でも、それは確かにまあ、私もまったく嫌というわけではないんですけど、さすがに進み方が急すぎるのではとも思いますし、あ、でも一線を越えるということはそれだけ特別なことで急なことだろうからそんなことを言っていたら進めない? でも、初めてが古馴染みに見られながらなんて、そんなの恥ずかしすぎて──!
そうもじもじしている間に、私の唇はうーちゃんに奪われ。
……もう、どうなっちゃってもいいかもと、思ってしまいました。