むずむずする……けれど、決戦も近いようです
──リーリエにスケッチされながらうーちゃんとキスをすること三十分。
うーちゃんはちょっとえっちな触り方したり、キスの合間に愛の言葉をささやいてきたりして、たしかに悶々とはしました。
でも、これ以上えっちなことを誰かに見られながらするのは絶対に無理! そう自分の中で何度も何度も、声に出していたら喉がかれていたであろうほどに叫び続けて、何とか耐えきりました。
「リエさん……すごい、理性ですね」
「だって……好きな人の、その……そういう時の表情とか、人に見せたくないじゃないですか。私も見せたくないですけど」
「……終身支援のチャンスだったのに。もったいない」
「リーリエうるさいです」
私が身持が堅いみたいですけど、この二人が性にオープンすぎるだけですよね? お願いだから誰かそう言ってください……。
でも……うーちゃんに触られたところ、まだちょっとむずむずする……。
「ほう。ほうほう。ほうほうほうほうほうほうほうほうほうほう……この表情はこの表情でそそるものがある。ちょっと仕事内容に色をつけておく」
「人が恥じらってる顔見てその態度はないでしょう!?」
「そこがとてもグッドポイント。スマホとか持ち歩いておけばよかった……もうワンスケッチいい? さっきのちょっと発情しちゃってるけどそんな自分が恥ずかしくて何とか抑え込まないと、って感じの快楽を知った女の表情で」
「そんな表情してません! リーリエのバカぁ!」
「一涅槃寂静冗談。さて、良い物見せてもらったし、仕事はしようかな。離れの中でご自由に」
「十のマイナス二十四乗が冗談って完全に本気じゃないですか! これで仕事内容に不備があったら本気で怒りますからね!?」
あーーーーーもう! 長い間キスし続けた結果、うーちゃんのこと全部わかっちゃったじゃないですか! ついでにうーちゃんが知っていることも全部! うーちゃん雑学詳しいですね!
でもまあ、それは悪いことではありませんが……私がなぜ現代のしゃべり方ができるのか、の説明もつきましたし。
「うーちゃんって、本当に私のこと好きなんですね……私が目覚める前から」
「ばれてしまいましたか?」
「はい。眠らされている私にキスしてたんですね。そこから現代のしゃべり方だけは身についたと」
「見られてしまいましたか……一度だけですよ。まあ、今となっては些細なことでしょう?」
「まあ……そうですけど。それに、うーちゃんはずっと私の味方だって、確信も持てましたし」
実のところ、短い間なら吸血鬼だとばれても友好的に接してくれる人はいたのです。私は積極的に血を吸うわけではありませんでしたから。
けれど、歳月を重ね、相手が老いていくのに私が一切見た目が変わらないとなると、そこから関係が崩れることも数多く会ったのです。
なのに、うーちゃんは……現代の文明で吸血鬼物の作品を見て、そこに疑問を抱くような女の子なのです。
なぜこの人は吸血鬼を裏切るのだろう、私なら一生添い遂げるのに、と。
作り物だからこそ、なのかもしれませんが、そこに今のところ嘘はありません。信じるに十二分のことでしょう。
「とりあえず、魔法の環境を整える。だいぶ広いけど、その分やりやすい」
「魔法ってそういうものなのですね……私にも使えますか?」
「……ツェツィーリエの眷属になれば、あるいは。現代には、ほとんど神秘が残されていないから、極限まで科学に近づけた魔法や陰陽術を習ったり開発したりするか、眷属になって自分自身にも神秘を取り込むかしかないね」
「神秘……ですか」
「うん、現代ではありえないとされているものも昔は実在したからね。人の空想が科学によって否定されるまで、空想たちは人の思いのエネルギーで具現化してたってわけ……さて、いい加減いかないと。やりやすいけど、広い分下準備に時間がかかる」
そう言うと、リーリエは学園指定のカバンには明らかに収まりきらない長さのほうきを取りだし、渡り廊下から空へと飛んでいきました。
「頑張ってくださいよ、すごく大変だったんですから……さ、うーちゃん。早く離れまで行きましょう。あそこを重点的に固めてくれるそうなので、あの中が一番安全です」
もう演技をする必要もないので、立ち上がって離れへと歩き出します。
「もう、体は完全に?」
「ええ。リーリエから少しだけ血を分けてもらったのと……はるなさんや、みやちゃんの血も吸いましたからね。リーリエは大魔法使い、はるなさんは上位の式神でしたから、十二分に体は回復しましたよ」
「……そうですか。私にできることがまだあったら、言ってくださいね。なんだってしますから」
「ありがとうございます。けど、近くにいてくれるだけでとてもうれしいですから。あまり無理はしないでくださいね」
「それでも何かしたいんです。私は、リエさんに救われすぎました。もっと、お礼になるようなことをしたいのです」
「では、今夜はずっと一緒にいてください。多分、今夜が一番危ないですから……」
はるなさんは私の本名も明かしていた。多分、血を吸われているのを逆に利用して情報を抜いたのでしょうが……それは、陰陽師本人との交戦時、まじないで封じられることもあるということ。兵は神速をたっとぶという言葉があるそうですが、それは敵にも、私たちにも言えることでしょう。
視認されて、言葉を発する。それをさせてしまった時点で、私の負けかもしれません。
それを防ぐには……とりあえず、あらかじめ霧になっておいたほうが良いかもしれませんね。
日暮れまであと三十分ほど。準備に時間がかかるものも考えると、万全の守りにするには無理があります。リーリエの魔法だけに頼っては勝てないでしょう。
私が……うーちゃんを守るんです!




