答えには至らないようですね……
安倍はるなさんは、余裕を保った表情でこちらに歩み寄ってきます。
「……なんですか、お二人ともずいぶん怖い顔をしていらっしゃいますが。あ、ひょっとしてこの間の推測があたっていたから、そんなに怖い顔を?」
「……推測?」
「ええ。ほら、別れ際にドイツ語でさようならといったじゃないですか。天野家の海外取引先に、ドイツの人がいたと思ってなんとなく言っただけなのですが、それが原因じゃないんですか? 言ってもいない故郷を知っているから、怪しんでいるんだと思ったのですが」
……なんとなく? それだけで本当にドイツ語が出るほど、天野家の取引先は少ないのでしょうか?
「海外の取引先、という条件だけで?」
「私、天野先輩のご家族ともある程度コネクションがあるんですよ?」
……これが本当だとしても、天野家とのつながりだけで引き出せるとは思えない。
「随分、名探偵ですね。はるなさん」
「あら、あたってました?」
ふふ、と笑って見せるはるなさん。
「さて、辻野さんや、面白い先輩方を見ていたらもう一限目が始まってしまいますね。私は教室に戻ると致します」
……うーちゃんの判断に任せましょう。私は、天野家については良く分かりませんから。
「うーちゃん、取引先ってそんなにドイツ企業が多いんですか?」
「……多いには多いですが、断定できるほどドイツだけ、ということもないはずなのですが……」
ひそひそと話しますが、はるなさんへの不信感はうーちゃんもぬぐいきれない様子。
答え合わせをするには、まだ情報が足りない……。
「次の休み時間に、こちらから会いに行くのはどうでしょう。何か情報を聞き出せれば……」
「簡単に聞きだせるような相手ではありません。かえって危険かと……」
買いかぶり……とは、一言には言いきれませんね。カンが当たっただけならともかく、うーちゃんはそれ以上の危険性を感じている様子。つまり……ただ、彼女の言うことをうのみにしない方が良いということ。
虎穴に入らざれば虎子を得ずとは言いますが、虎に食い殺されては何にもならないのです。
ですが、学校という公共の場で命にかかわるようなことが起きるとも思えませんが……うーん……。
「なぜ、うーちゃんはそこまで彼女を危険視しているのですか? ただの人間でしょう?」
「…………そう、なのですが……」
「何か……言いにくいことが?」
奇妙な間にそう問いかけますが、その会話は一限目の教師が入ってきたことによって中断せざるを得なくなりました。




