優しいクラスメイト。そして、いつかの冷笑
朝礼が終わると、あちこちから視線を感じます。
……やっぱり、うーちゃんの人気がある分、皆さんからは嫌われてしまうのでしょうか。
「皆さん、私に何かおっしゃりたいのなら、今まで同様どうぞ?」
うーちゃんがそう言うと、一人の生徒がこちらに歩いてきました。
「…………金野みやび」
「あ、はい。リエ=ウヴァロヴァイト・アマツジです。何か、ご用事が……?」
「……別に。アマツジさんから名乗っただけだから、一応自己紹介しておこうと思っただけ」
「そ、そうですか……」
うう、敵対視されているんでしょうか。少し話しにくいです。前髪が長くて、目元が見えない分余計に……。
「みやびさんは、いつもこんな感じですから。リエさんのことを嫌っているわけではないかと」
「……そう、ね。天野さんのこと、嫌ってはなかったけど。みんなみたいにギャーギャー奪い合う気もなかったし。まあ、知り合いから。よろしく」
「お友達からではだめですか?」
おとなしそうなみやびさん。この方となら、それほど騒がなくても休み時間を過ごせそうです。
「ダメじゃない……けど……あたし、暗いから。あまり楽しくはないよ」
「あなたといて楽しいかどうかなんて、まだわかりません。それに、そういうのは私が決めます……ということで、よろしくお願いしますね、みやちゃん」
「みやっ……!?」
「リエさんはこういう人ですよ。私のことも、うーちゃんと呼んでいますし」
「……アマツジさん、変わってるんだね」
「そんな変でしょうか? 仲良しなんですから、あだ名とかで呼んでもいいじゃないですか」
首をかしげながら聞くと、みやちゃんは諦めたようにため息をつきました。
「……まあ、そういう人なら……あたしも、ちょっと距離縮めようかな。よろしく、リエ」
「私より距離を縮めないでくれますか?」
「……天野さんも、呼び捨てにすれば?」
「まあまあ、うーちゃん。うーちゃんが丁寧口調の方が話しやすいのは分かっていますし、何より……私の恋人は、うーちゃんだけですから」
「ン゛ッ……あ、ありがとうございます」
やっぱり、うーちゃんって時々奇声あげますよね。
「……すご。こんな天野さん、初めて見た。やるね」
「え、普段のうーちゃん、こんな感じじゃないんですか?」
「凛としてるっていうか……誰に対しても隙を見せない感じ。だから惚れる人もいたんだろうけど……そっか。恋人にはデレデレなんだ」
「ええ。私に対してはそんな感じではありませんね」
「ちょっと、リエさん、みやびさん。あまりそういう話をしないでください……恥ずかしいので」
思いっきり恥ずかしがるうーちゃん。その様子に、こちらを気にしている人数がすごい勢いで増えていきます。
……どうしましょう。私の恋人の可愛いところを自慢したいような、あまり大っぴらにしたくないような。複雑な気分です。
「リエさん、なんでそんなにニヤニヤしてるんですか……!」
「だって、恋人がかわいくて」
「……ふふ。なんか、あたし邪魔かな。今後、困ったことあったら言って。あ、でも恋人に頼る方が早いか」
「みやびさんまでそういうことを……!」
にやにやしながら離れていくみやちゃんに、恨み言を言ううーちゃん。うーん、私の恋人がかわいい。
「尊い……尊いですね。うん、尊い。決して間に挟まらないあたり、金野さんも分かっていて……クールだけど恋人にはデレる天野さんに、人当たりが良いけれどそんな天野さんが恥ずかしがる様を楽しげに眺めるソフトSの気があるアマツジさん……はぁ……ご飯三杯いける……」
……? 何か、おかしな声が聞こえたような……声がした方を向くと、壁際でスケッチブックに何かをかいている人が見えました。
「あの、そこのスケッチブックさん、何を?」
「……私は背景です……観葉植物です……壁紙……空気……気にしないでもっと百合百合して……」
「加賀野咲子さんです。彼女は変わりもので……なんというか、女性同士の恋愛に興味があるらしく」
「違う……私はただの空間……ただ、そこにあるだけ……ぶつぶつ……」
「……直接の害はないので、見なかったことにしてあげてください……」
……まあ、いろんな人がいて当然ですよね。学校には大勢の人がいるんですから。
でも、本当にお嬢様の集う学校なんでしょうかね、ここ。お嬢様というイメージからは、最初に出会ったさくらさんが一番近かったような……。
「やぁっぱり! うずめお姉さまと同じクラスに入り込んでいましたわね、アマツジ!」
そうそう、この声です。朝礼が終わると同時にここまで走ってきたのでしょうか。息が上がっています。
「……さくらさん。リエさんは私の大切な人なのです。それ相応の扱いをしていただけないと、あなたとの関係を考え直す必要が出てきます」
「うずめお姉さまは可愛い後輩であるわたくしよりも、ビジネス上の付き合いの方が大切だと!?」
「出会いのきっかけはともかく、ビジネスだけではありません。私はリエさんという人物に惹かれてこうなったのですから、もう放っておいてください」
「そこまでおっしゃるのでしたら……わたくしにも考えがありますわ!」
そう言うと、さくらさんは教室内に入り、こちらに早足で迫り──
「二番目でも我慢いたしますわ! どうかわたくしも恋人にしてくださいませぇ!!」
──うーちゃんに土下座をしました。
「……あの、さくらさん。私は同時に何人も愛せるほど器用ではないのでそういうのは無理です」
「側室でよいのです! 愛などなくても! どうかおそばにいぃぃぃぃ!!」
なんというべきか……かわいそう、ですね。でも、それだけうーちゃんに焦がれていたってことですよね……そうなると、譲れませんね……!
「うーちゃん、良く分かりませんが、うーちゃんの恋人は私一人ですよね?」
「あ、はい。もちろんです」
「いつか見ていなさいアマツジいいいいいいいいい!」
泣きながら走り去ってしまいましたね。
「勝った……!」
「何を言っているのですか、リエさん」
うーちゃんは戸惑っているようですが、ひとまず勝ったのです。うーちゃんの隣には私一人……!
「辻野さんは相変わらずですね、天野先輩」
しかし、その言葉に背筋に寒気が走りました。
「……はるなさん」
「この間ぶりです、天野先輩と……リエさん、でしたっけ?」
そっと微笑む安倍はるなさん。
どうやら、あの違和感の答え合わせをする時が来たようです。




