166話 やはり俺たちのギルドはパワーアップしている。
集合場所にしていたギルドホーム。
4人が入っても窮屈さをまったく感じさせない洋風の部屋に、葵さんと翠さんが入ってくる。
「遅えぞ、翠。そっちが集合場所と時間を決めたってのに」
「ゴメンゴメン、来る途中で気になるアクセサリーが目に入っちゃって」
「ったく……あ、冬川は気にすんなよ。どうせこいつに付き合わされたんだろ」
「あ、うん……でも、ごめんね、高橋君」
「いや、いい、謝るな。てか、謝らないでください。お前に謝られると、後ろの奴がものすげえ殺気を投げてくるから」
「あ、うん……ごめんね」
「だからそれ逆効──おぐはぁあああ!?」
気を取り直し、4人で丸い机を囲む。
「じゃあ、一旦装備を確認し合いましょっか」
買い物をそれぞれでした後は、大抵こうやって互いの装備やスキルを確認する。
翠さん曰く、パーティを率いる上では絶対に必要なことなのだとか。
激しく同意だ。隊員の装備と能力を細かいレベルで把握するのは、優秀な指揮官であれば当たり前に行うことだ。
「これも恒例になってきたな。じゃ、いつも通り俺からな」
そう言って伸二は自分のステータス画面を大きく拡大し、天井近くの高さまで上げる。
企業のプレゼンテーションみたいだな。
「盾と鎧は新調。他はそのまま。かなりの出費だったから、当分は資金集めだな」
鎧の色はこれまでと同じ白銀だが、細部に女神の彫刻が掘られている。説明欄を見ると、高い防御力に加えて、一部にミスリルが使用されていることで魔法ダメージの10%を遮断する効果も付与されているらしい。これは高かっただろうな。
盾にも同様の処理がされているらしく、魔法ダメージの4%を遮断する効果が付いているのを確認できた。あいつの財布、すっからかんだろうな。
右腕の籠手だけが他と違って赤色をしているが、あれはオキナワエリアのボス《ジーザー》を倒した時に得た《獅子王の籠手》。確か女神戦のときに使われたが、1日1回に限り、敵の攻撃目標を強引に変更することができるやつだったはずだ。
翠さんや葵さんがピンチの時に、自分や俺に対象をよく変更させているが、あの時の伸二が実は笑いを堪えているのを、俺はよく知っている。いつか覚えてろよ。
装備はそのぐらいに、次はアーツを確認する。
伸二のアーツは、防御系と攻撃系をバランス良く取得しており、まさに騎士の理想像とも言える。最近では剣や盾の他に、槍の扱いも覚えだしてきており、増々騎士要素が大きくなってきている。
しかし何と言っても、伸二のアーツで飛びぬけているのは防御系統。盾を使ったその防御能力は、トップギルドの面々にすら劣らないこと大尉が太鼓判を押していた。俺たちのギルドにおいても、間違いなく最強の盾だ。
「で、次がスキルな」
スキルは筋力強化などの肉体強化系を低レベルで取得しているが、そもそも肉体強化系の常時発動型スキルはレベルが滅多に上がらないらしいので、その辺は誰も気にしていない。
それよりも、伸二のスキルで目立つのはやはりヘイト操作系のスキル。俺からヘイトを引き剥がすことは殆どないが、他の職業よりもヘイトを引き付けやすい傾向の強い魔法職の翠さんや、回復職の葵さんを何度も危険から救ってきた優秀なスキルだ。それに関しては、素直に助かっていると言いたい。
「じゃあ次は私。新調したのは、魔法の杖と、ブーツと、マントと、ローブと、イヤリングと、指輪と──」
「ちょ、ちょっと待て! 買いすぎだろ、そんな金どこにあったんだよ!」
「新調はしたけど、アンタほど劇的に性能を向上させてるわけじゃないから、幅広く揃えたのよ。これまで装備してたのもかなり良いやつだったから、高値で下取りしてもらったしね。あとは、溜め込んでいた素材やアイテムを知り合いに良い値段で買い取ってもらったりってね」
新緑の草原を思わせる緑色のマントをはためかせ、翠さんはふふん、と伸二を見つめ返す。
滑らかな曲線を描くローブは、白を基調とした生地で作られ、赤い縦縞のラインが数本入っている。
以前は木で作られていた杖は、銀色に輝く金属製になっており、上の方には小さな十字架と、丸いリングが付けられている。
ブーツに関しては見た目こそ普通だが、説明欄を見れば、1時間に1度だけ、脚力を何倍にも増幅したジャンプやダッシュが可能となるらしい。効果は俺の迅雷に似てるな。
他にも、魔法の威力を上昇させる指輪。魔法の発動時間を短縮させるイヤリング。防御力を増幅させる腕輪。遠距離からの攻撃を低確率で防いでくれるネックレスなどを付けており、このパーティの中では最も装着している装備の多い人となっている。
「ふっふっふ、さらに、さらによ。なんと……新職にも就いちゃいました!」
「なにぃいいいい!? いつの間に!?」
大口を開ける騎士に、翠さんはしてやったりな顔で続ける。
「実はチュウゴク地方にいる時に取得はしてたんだけど、条件は最近ようやく揃ったばかりだったのよね」
そう言って翠さんが見せてくれたステータス画面の職業欄には、大きく《占星術師》と表示されてあった。
「おまっ、これ、レア職じゃねえか!」
占星術師の説明欄を見ると、そこには星を識る者や星の力を借りる者などの言葉が書かれてある。
「これまで習得してた魔法の殆どは使えなくなってるけど、前回のアップデートで新しく実装された天体魔法を使える職業だから、期待して良いわよ」
天体魔法。なんだその響きは。メチャクチャ羨ましい。
その後も、翠さんの使える魔法とスキルの簡単な説明がされる。しかし新しい単語が次々と飛び交っていて、正直半分も理解できていない気がする。この辺は、追々聞いていこう。
「私はこんなとこ。じゃ、次は葵ね」
「うん。私は、こんな感じ」
以前は紅白の巫女服だった彼女は、深い藍色と白の二色で作られた巫女服へとカラーチェンジしていた。いや、袴の部分は、スカートのような作りになっているから、これはもう進化と言って差し支えないな。素晴らしい進化だ。
しかも、ポニーテールをまとめている後ろ髪の部分には、淡い水色のかんざしが差してある。説明欄には回復魔法のリキャスト時間を5%短縮するとあるが、魅力値は2000%ぐらいアップされている。
左手に持つ純白の弓は《破魔弓X-208》とあるが、特筆すべきは攻撃特性だ。放たれる矢は物理的な矢ではなく、魔力で形成された矢となるらしく、属性的には魔法攻撃の部類に入るとか。それであれば、回復と補助系に特化しているとはいえ、魔法属性の高い《巫女》である葵さんには相性の良い武器となるだろう。
「術は、こんな感じ」
主に回復や補助の効果を持った術が、一覧として表示される。そんな複数の術が表示される中で、俺の視線を終始奪ったのは《降霊術》という名の術。
神・イモートに挑む際に見たことがあるが、確か動物霊を憑依させることで各種能力を向上させる効果のあった術のはずだ。あの時はキツネ耳の葵さんが見れて最高だった。
あれ以来、全然その術を使ってくれないが、いつかまたお目にかかりたいものだ。
「これからも、皆の傷はしっかりと治すからね」
よし、すぐに柱の角にダイビングしよう。
「ほら、総くん。見惚れてないで、次は総くんの番でしょ」
翠さんの言葉に引き抜かれていた魂を取り戻し、軽くゴホンと咳き込む。
「まぁ、こんな感じだよ」
習得しているスキルやアーツに大きな変化はないため、武器の一覧画面を表示する。
「……お前。これはいくら何でも、多すぎだろ」
「そうか? これでも結構厳選してるんだぜ」
常時装備している双銃。
ワイヤーを撃ち出すことで空中機動戦が可能なワイヤーガン。
頑丈さでは随一の大型ナイフ《GB-16》。
切れ味を追求した日本刀《夏風》。
ククリ刀に近い形をしている2本の鉈刀《双刃ナータ》。
他にも、投擲用のナイフが30本ほどあるが、このぐらいは常識の範囲内だろ。アサルトライフルやロケットランチャーなんかがあれば、もう少し簡素にできるんだがな。
「あれ、総くん。その銃、どうしたの?」
葵さんの声に、待ってましたと張り切って応える。
「これ、少し前に、武器職人のスミスさんに作ってもらってたんだ」
黒いオートマチックの銃。弾丸の装填数は15と比較的多く、連射性能、攻撃力共に安定している。
もうひとつは、白いリボルバーの銃。弾丸の装填数は6と少ないが、攻撃力に優れており、なにより特殊弾丸に対して高い親和性を誇る。
このふたつが、キンキ地方に来てからの新しい相棒だ。
「あ、それと、刀の方も新調してるぞ。前は冬雨って刀だったけど、今使ってるのはこの《夏風》だ。これは鍛冶師の半蔵さんに作ってもらったやつで、切れ味が最高なんだよ」
紫色の鞘と柄をした美しい日本刀は、見ているだけでうっとりしてしまう。半蔵さんも自信作だと言っていたし、これは早く強敵相手に使ってみたい。
「ん、忘れてた。弾丸はこんな感じな」
武器一覧から、アイテム一覧画面へと切り替える。銃や刀などの武器と違って、弾はアイテム扱いになっているため、一々切り替えないといけないのが面倒だな。
「なぁ総。前から思ってたんだが、お前の弾丸、変態じゃねえか?」
「それは俺も思ってた」
徹甲弾や炸裂弾は、最近では射撃職の中でも当たり前に使われるようになってきているし、煙幕弾や閃光弾も、攻撃のバリエーションの乏しいガンナーやスナイパーにとっては貴重な搦め手として広まり始めている。
しかし、徹甲焼夷弾、さらには紅蓮徹甲弾や回天炸裂弾となると話は別だ。
この辺はスミスさんと俺とで開発を進めているからまだ殆ど市場には出回っていないし、そもそもがこれらの改造度の高い弾丸はアーツで使用することができない傾向が強いため、俺のようにアーツを使わなくても当てることのできるプレイヤーにしか向かない。
変態弾丸と言われても、否定できない域に達している気がする。
「この弾丸とか、材料にミスリルが必要なんだよ」
「……札束で相手を殴るようなもんだな」
ミスリルは魔法との親和性の高い金属で重宝されているが、まだまだ採掘が安定しておらず、希少金属として市場で扱われている。それを武器とは言え、消耗品の弾丸に使う俺とスミスさんは、明らかに異端に映るだろう。
だが、そのお陰で、魔法の効果を内包した弾丸を作ることができているのも事実。
特に少し前から愛用しているこの《雷装徹甲弾》は、雷属性を持っていて、無属性の直接攻撃ではなく魔法攻撃として分類されている。お陰で、実体を持たないレイスや粘性の高いスライムにも効果があり大変重宝している。
「相変わらず、攻撃に全振りの頭悪い構成だな」
「まぁ、総くんの場合、その頭残念な構成でも問題ないのが問題なんだけどね」
頭を抱える騎士と占い師。その矛先は、やはり、と思っていた場所へと向く。
「いくら回避できるからって、ちょっとは防具にも手を出した方がいいんじゃないのか?」
「葵がいっつもハラハラしながら見てるから、そろそろその紙装甲をなんとかしない? 総くん」
聞かん坊を嗜めるように言う2人が、揃ってこちらを向く。
しかし、いつまでも昔の総一郎と思うなかれ。もう紙装甲の総さんは過去の遺物なのだよ。それを今、教えて進ぜよう。
「これを見ろ!」
身に付けている防具の一覧を表示する。
そこには、これまで装備していた《黒服一式》ではなく、《心月》という文字が浮んでいた。
「確かに名前は違うが……見た目一緒じゃねえか」
「そりゃそうだろ。バージョンアップなんだから」
青と黒の迷彩柄の服の上に、長めの黒のコートとスリムパンツ。
この組み合わせは気に入っていたので、服装を扱っている仕立て屋さんにお願いして、能力の上書きだけお願いした。
それにより、これまでなんの効果もないただの布扱いだった服装は、『走る際に追い風程度の補助がかかる』『汚れた際に自動で洗浄する』『攻撃力がなんだか上がった気がする』『後ろを振り向いた際に前髪がフワッとする』『はんこが上手に押せるようになる』などの効果を新たに得た。
素晴らしいパワーアップだ。これで我が軍はあと10年は戦える。
「どうだ、これなら文句はないだろ」
この後めちゃくちゃシカトされた。
久しぶりだったので、武器更新&説明が主な回になりました。
ちょっと物足りなかったらゴメンナサイ。
次から物語が本格的に進んでいきます。
次回『やはり俺のサバイバルスキルはまちがってなかった。』
更新は木曜日の予定です。