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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
番外編4

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276:叡智のオリザス

「――あれ、レッカくん。ルヴィ連れてくの?」

「あ、はい。何か離れてくれなくて」


 恐縮するように頭をかきながら言うのは、彼のいつもの癖だ。ミュアは彼の頭の上にチョコンと載っている紅玉のように美しい羽を持つフェニックス――ルヴィを見て微笑む。


「でも危険だよ?」

「そうなんですけど……」


 意地でも離れないといった感じで、レッカの頭にしがみついているルヴィ。


「何かあっても自分が守りますので」


 レッカお父さんも子育てには苦労しているようだ。


「それじゃ調練場所に急ご。そこでアヴォロスさんが待ってるはずだから」

「オッス!」


 二人でアヴォロスが待つ調練場所へ向かう。そこには兵たちが調練をしているのを、静かに腕を組みながら見つめているアヴォロスがいた。


「お待たせしました、アヴォロスさん」

「! ……来たか」

「よろしくお願いします」

「自分もです! あと、お久しぶりです先生」

「先生はよせと前にも申したであろう」


 レッカがこの世界に生まれて一人ぼっちだった時に、いろいろ教えたのがアヴォロスだという話をミュアも聞いていた。日色の存在も、レッカは彼から聞いたのだという。


「し、しかし自分にとって先生は先生ですから! オッス!」

「はぁ、まあいい。ならさっそく向かうが、余の言うことを無視して行動はするな、絶対だ」

「「はい!」」


 ミュア自身、彼に一度殺されたという経験はあるが、今では良き日色の理解者であり、世界を守る担い手の一人であることを知っている。

 彼の実力だって誰もが認めているだろう。そんな彼が傍にいるというのは何よりも心強いのも確かだ。

 三人の足元に突如として水溜まりが出現する。これはアヴォロスが扱う転移魔法の一つなのは理解していた。


「では行こうか――――アクエリアス・ゲート」


 三人の身体が水の中へ沈んでいく。水の中に潜るということで、反射的に息を止めてしまう。

 しかし冷たさは感じるものの、服は濡れないし、ものの数秒後――。


「――もう着いたぞ」


 アヴォロスの声に導かれ、ミュアは閉じていた瞼を上げると、そこには広大な海が広がっていた。空と海しかない空中に、ミュアたちは浮いていた。

 正確にいえば、アヴォロスが創り出した水場に乗っているという状況だ。


「ありがとうございます、アヴォロスさん。……アヴォロスさん?」


 ミュアは彼に礼を言うために顔を確認していたが、その彼の表情が険しさを表していた。


「どういうことだ、これは?」

「へ?」

「ミュアさん、下を見てください!」


 レッカが眼下の海を指差して声を上げる。


「どうした……の……っ」


 言われた通りに視線を向けると、そこには確かに驚くべき光景が映っていた。

 少し前までは、ここにはただただ広大な海が広がっていたはず。

 それなのに、島ほどの規模ではあるが、大地が浮かび上がっているのだ。


「ア、アヴォロスさん、もしかしてここが……?」

「そうだ。ここはかつて海に呑み込まれた失われた大地。四つ目の大陸だ」


 まだ全容は海から出ていないが、間違いなく島のようなそれは、大陸の一部だという。


「それにしてもどういうことだ……?」

「確かに早いですよね。急に大陸がここまで浮上するなんて」

「違う。そういうことを申しておるのではない」

「へ?」

「余が疑問に思っておるのは、ここにあったはずの街が――消えておる」

「消え……てる?」

「そうだ。海に潜って確かめた。ここには様々な建物があったはずだ。それに…………例の井戸も見当たらん」

「先生、井戸というのは例の『クピドゥス族』がいたという?」


 レッカが尋ねると、アヴォロスは肯定するように小さく顎を引く。

 しかしどういうことだろうか。アヴォロスが転移した場所が間違っていた?

 いや、そんな凡ミスをするとは思えない。ならば、あったはずの街並みが消えたというのは一体……。


「とにかくこの地を調査してみる必要があろう。どうやら危険な様子もなさそうだ」


 アヴォロスが上空から大地を見回してそう言うので、ミュアとレッカも「はい」と返事をした。


「一応まだ上陸は控える。空からそれぞれ確認するのだ。互いにサポートできるくらいの距離を保ち動け、よいな?」

「「はい!」」


 ミュアは獣耳を翼――《銀耳翼》に変化させると、そのまま身体をフワリと浮かせる。


「――《創造魔法》」


 レッカは得意のユニーク魔法で風を生み出し、同じように自身の身体を浮かせた。その頭の上には、眠たそうに欠伸をしているルヴィがいる。

 アヴォロスは背中から翼を生やして、水の足場を消すと同時に空を飛ぶ。

 そうしてアヴォロスの忠告通りに、互いに離れ過ぎずに空から大地を見回ることに。

 別段変わった様子は見当たらない。どちらかというと、【獣王国・パシオン】と同じような自然豊かな土地である。

 草や木々が生い茂り、まるで緑溢れる山の一部のようだ。


「レッカくーん、何か見つけた?」

「いいえ、こちらは何も見つかりません! 至って普通の島だと!」


 どうやらレッカも何も発見できないようだ。アヴォロスを見てみると、やはり険しい顔つきのまま地上を睨みつけている。

 ここにあったという街並みのことを考えているのだろう。


(でもほんとにここに街があったんだったら、一体どこにいったんだろ……?)


 それに海の中に潜ってアヴォロスが大陸を確認してからそれほど時間は経っていないというのに、ここまで大地が急浮上するだろうか。

 何者かの仕業としか思えない事象のような気がする。それもやはり白髪の男……なのかもしれない。


「――ッ!? キュイキュイッ!」

「あっ、待ってルヴィ! どこに行くんですか!?」


 見れば、レッカの頭の上から一人で飛び出し、島へと向かっていくルヴィがいた。


「あ、ダメだよルヴィ!」


 ミュアも注意をするが、ルヴィはある一点を見つめたまま真っ直ぐ空を飛ぶ。そのあとをレッカが追っていく。


「――どうかしたか?」

「アヴォロスさん、ルヴィが?」

「何? ……そういえばあやつはフェニックスだったな」

「あ、はい」

「ふむ。…………フェニックスは自然が生み出した化身だ。何かこの大地から感じ取ったのかもしれぬな」

「そう、なんですか?」

「とりあえず追うぞ。放置はできぬ」

「はい!」


 ミュアとアヴォロスは、地上に降りていったレッカたちを追って行った。



     ※



「――待ってください! ルヴィ、待ってくださいってば!」


 レッカはルヴィに手を伸ばしながら制止を促してはみたもも、脇目も振らずにルヴィは飛び続ける。

 木々の間をすり抜けて、まるで目的地でもあるかのように飛行し続けていく。


(一体どうしたんでしょうか、ルヴィは。あ、先生たちを忘れていました!)


 アヴォロスからは必要以上に離れるなと言われていたにもかかわらず、さっそく言いつけを破ってしまったことに後悔の念が浮かぶ。

 しかしこのままルヴィを放置することもできない。

 とにかく今は、早くルヴィを捕まえてアヴォロスたちのもとへ戻らないといけない。


 もう少しで追いつく、と思ったその時――。


「へっ、急に止まったら――っ!?」


 そう、ルヴィがいきなり空中で止まったので、レッカはこのままではぶつかってしまうと咄嗟に風の力の向きを強烈な向かい風に変えて急ブレーキをする。

 それでもあまりに突然だったこともあり、速度は大分弱まったもののルヴィとは接触してしまう。レッカはルヴィを優しく受け止める形で胸の中に収めると、そのまま目の前の大木を無理矢理かわした結果、体勢を崩してしまい大地に落下しそうになる。


 もう少しで地面と激突する――そんな時に、


「ったく、離れるなと申しておいたであろうが」


 レッカをギリギリのところで受け止めたのはアヴォロスだった。


「せ、先生……!」

「レッカくん、無事!?」

「ミュアさん……はい。すみせんでした、ご心配をおかけしてしまって」

「ううん。怪我がないなら良かったよぉ」


 ホッと胸を撫で下ろしているミュア。

 アヴォロスに静かに大地に下ろしてもらったレッカは、再度二人に向かって頭を下げた。


「もういいってレッカくん。ルヴィちゃんも無事みたいだし」

「キュイキィ~!」


 すべてはルヴィのせいなのだが、まったく悪びれている様子はない。


「けど何でいきなりルヴィちゃん、飛んでいったの?」

「キュイ~キュイキュイ」


 レッカの腕の中で、嘴をクイクイとある方向を指すように向ける。

 当然のように皆の視線がそちらへ。

 レッカは木々の隙間から見える〝ナニカ〟を見つけて目を見開く。


(あ、あれは確か……!)


 レッカも初めて見るものだが……。


「……! 何かな……あれ?」


 ミュアも初めて見るようで小首を傾げている。

 アヴォロスは黙ったまま観察するように顔を向けていた。


「あれは多分……鳥居ってやつかと」

「とりい? レッカくんは知ってるの?」

「見るのは初めてです。ただ父上にああいうものがあるということは聞いていました」

「ヒイロさんに?」

「余も昔、シンクに聞いたことがある。だがあれは赤いものではないのか? 今目の前にあるものは黒いが……」


 アヴォロスの言う通り、確かに色は黒。レッカも日色から聞いていた鳥居の色は、そのほとんどが赤だった。

 しかも形もどこか変わっている。柱となっている二つの石柱だが、その上部に角のようなものが突き出ていた。また鳥居からは異様なオーラを感じる。


「ん、待て。奥に何かある」


 それは小さな祠。

 何かを祀っているいるようだが……。

 ルヴィが、その祠に向かって何度も鳴き続ける。


「ルヴィ、もしかしてこれを知らせるために?」

「キュイキュイ~」


 どうやらそのようだ。レッカはアヴォロスに視線を向ける。


「先生、前に先生が来られた時にこの祠はあったのですか?」

「いいや。ただここにあったはずの街が消えたことと何か関係がありそうだが」


 そう言うと、アヴォロスは歩みを進め祠へと進んで行く。

 鳥居を潜ろうとした時、アヴォロスが何かに弾かれるようにして吹き飛ばされてきた。


「先生っ!?」

「アヴォロスさんっ!?」


 二人の叫びに対し、アヴォロスは地面に手をついて弾き、その反動で身体を回転させてしっかりと着地をした。


「……結界……か」


 存外に冷静なアヴォロスだった。どうやらダメージを負ったとかそういうことではなさそうだ。


「少し離れておれ」


 アヴォロスが鳥居に向かって右手をかざす。


「この程度の結界ならば…………喰らえグラットゥン・ボール」


 アヴォロスの右手から黒い球体が放たれる。

 真っ直ぐ鳥居へと向かったそれは、パカッと割れたと思ったら、まるで大きく口を開けたかのように鳥居に喰らいつく。

 球体と結界が衝突し、バチバチバチッと周囲に放電に似た現象が迸る。


「……ふむ、なかなか強固なものだな。ならば」


 左手からも同じ球体を放出させたアヴォロス。それは先に結界に喰らいついている球体にぶつかると、融合してさらに大きな球体へと姿を変える。

 拮抗していた状態だったが、球体の方が徐々に口を閉じていきそして――パクゥッ!

 鳥居は球体に呑み込まれてしまった。


「す、凄い……さすがは先生……!」

「あはは、あのヒイロさんのライバルなんだから当然かもしれないけどね」


 そう言うミュアも顔が引き攣っている。

 普通強力な結界を破るには、それ相応の準備と知識が必要になるのだ。失敗すれば、より強固になったり《反動》を受けたりするからである。

 しかしアヴォロスはそんなことはお構いなしという感じで、まさに力技で結界ごと消失させてしまった。


 残るは祠だけ――。


 アヴォロスが無造作に近づいて行き、祠の前に立つ。

 観音開きになっている扉に手を伸ばしていく。もしかしたら何か仕掛けがあって、触れたら結界のようにアヴォロスが吹き飛ぶのではと心配したが、そんなことはなかった。


「ふむ、これは……?」


 扉を開くと、中には小さめの座布団のような敷物があり、その上にチョコンと楕円形の塊が載っていた。

 その塊は異様なオーラを醸し出しており、一見して普通ではない代物だと思わせる。

 アヴォロスもレッカと同じことを感じたのか、塊に手を伸ばそうとして引っ込めた。


「何かの鉱石みたいな塊ですね」


 ミュアが興味深そうに観察しながら口を開いた。そのまま「調べないんですか?」と尋ねたが、アヴォロスは険しい顔つきのまま塊を見つめると、


「下手に動かさない方が良い気がしてな」


 と、初めて慎重さを露わにする。

 彼がそこまで言うのであれば、軽々しく扱うのは止めた方が良いのだろう。


「では先生、父上にこのことを報告……先生?」


 アヴォロスが顎に手をやって、塊を見ながらしきりに思案顔を浮かべて黙っているので気になった。


「……この感覚、まさか……いや、そうだと仮定するといろいろ辻褄は合うが。ならあの者はこれを利用しているということか……」


 と、ブツブツと一人で呟いている。

 レッカとミュアは互いに顔を見合わせて首を傾げた。

 するとアヴォロスが扉を閉じて、踵を返す。


「一旦ヒイロのもとへ戻るぞ」

「え、あ、はい」

「わ、分かりました、先生」


 二人は彼の指示に従い、その場を離れることにした。

 一体あの祠が何なのか、そしてその中にあった塊がどういうものなのかなど、レッカに想像できないが、アヴォロスには何か心当たりがあったようだ。

 これで四つ目の大陸の謎が解明できればいいと思い、皆で日色のところへ戻った。



     ※



「――――祠?」


 帰って来たアヴォロスたちに話を聞いた日色。

 日本ではありきたりな鳥居や祠のことを聞いて、思わず低く唸ってしまった。


「祠……か」

「何か心当たりでもありそうですけど、ヒイロさん?」


 日色の表情に感じ取れるものがあったようで、ミュアが尋ねてきた。


「ああ、実は前に一度この世界で鳥居と祠を見たことがあった。あれは魔界を旅している時だったな」

「あ、わたしたちと離れ離れになった時ですね?」


 日本からこの異世界に飛ばされた時、日色は一人で旅をしていてミュアとアノールドに会った。そしてそのままずっと旅をともにしてきたのだが、人間界から獣人界へ入り【獣王国・パシオン】で別れることになったのである。

 その後は一人で旅をまた再会して、魔界に入って今度はリリィンたちと出会い、一緒に放浪することになった。

 その時の旅路でした経験の中に、鳥居と祠を発見したということである。


「どういったものだったのだ?」


 アヴォロスの問いに対し、日色は腕を組みながら淡々と答える。


「初代魔王――アダムスが関わっていた」

「「「っ!?」」」


 その場にいたアヴォロス、ミュア、レッカがそれぞれアダムスという言葉に反応を返した。だがアヴォロスだけは小さな声で「やはりな」と呟いている。彼は気づいていたということだろう。


「祠の中に石があったって言ってたな?」

「あ、はい。石というか塊みたいなものが」

「それは恐らく《シールストーン》という代物だろう」

「! ……《シールストーン》か。やはりあの塊から感じた封印の力はアダムスのものだったのか」

「せ、先生はお気づきだったのですか?」


 レッカの質問に対し、アヴォロスが「ああ」と言うと、続けて答える。


「余は世界に蔓延るありとあらゆる力について研鑽しておったからな。『神族』を討つために。その際にもちろん超常の力を持つアダムスのソレにも目をつけるのは当然だった。アダムスはその実力は皆も知るところだと思うが、奴には物作りの才能もあった。かのヴァルキリアシリーズ然り、ヒイロが持つ《強欲の腕輪》も然り……な」


 確かにアダムスの才はマルチに長け、特に誰もが思いつかないアイデアを駆使し、様々な魔具などもまた作っていたのだ。

 まさに真に万能の天才と呼べる人物は、かの者だけであろう。


「余は《シールストーン》がアダムスの作った封印を施す魔具だと仮定すると、あの状況も納得がいった」

「? ……もしかして街がなくなったっていうことでしょうか?」

「そうだ、レッカ。恐らくあそこにいたはずの白髪の男が、その《シールストーン》を使って街ごと封印したのであろうな」

「と、ということはまだあそこにはわたしたちが見つけられなかっただけで、街があったってことですか!?」


 ミュアの驚きの言葉にアヴォロスが「その可能性が高い」とだけ答えた。

 そしてレッカが当然のように「何のために封印を……?」と疑問を呟く。


「無論何かをするための時間稼ぎ、であろうな。その前に余たちに邪魔されぬように」

「では再度今すぐ向かって、《シールストーン》を破壊すればいいのでは?」

「それはダメだ、レッカ」

「ち、父上……」

「《シールストーン》を下手に動かしたり、壊したりすると、逆に危険なんだよ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ、少なくとも前にオレが見たやつは、動かしただけで辺り一面をマグマに包まれそうになった」

「マ、マグマ……!」


 レッカもあんぐりと口を開けて固まる。自然災害の恐ろしさは、彼も知っているのだ。


「とにかく、そうなっては下手に《シールストーン》を刺激するわけにはいかないな。その白髪の男のことだ。何かしら仕掛けは打っているはずだからな」

「だろうな。わざわざ島程度の規模を浮上させたのは、もしかするとこちらが手を出す可能性を考えて逆に誘導しようとしていたのやもしれぬ」

「だとしたらその思惑にあっさり乗るわけにはいかない。……やはりオレが直接行って、封印ごと何とかする他ないかもな」

「それはダメですよ、ヒイロさん。王が国を離れるのはあまりオススメできません!」

「とは言うがな、ミュア。このまま放置することもできないだろ?」

「それはそうですが……とにかく、もう少し情報を集めてからにした方が良いと思います」

「むぅ……」



「――ミュアの言う通りだぞ、ヒイロ」


 

 と、そこへやって来たのはリリィンとシウバの二人だった。


「貴様が直々に動かざる事態になった時にのみ動け」

「リリィン……」

「それまではもう少し周りを信頼したらどうだ? いつまでも貴様の力におんぶに抱っこでは、成長するものもしまい」


 確かに日色の力は万能であり、どのようなことにも対処しやすい。しかし何かあればその都度日色が解決していたのでは、後進が育ってくれないだろう。

 もし日色がいなければ瓦解してしまう。そんな柔な国では、意味がないのだ。


「……分かった。だがオレの判断で、動くべきだと思ったら動くからな」

「それでいい。あと、イヴェアムには連絡しておいた。奴も四つ目の大陸についての情報を洗うとのことだ。それと近々アクウィナスも顔を見せるらしい。例の白髪の男の能力に関して奴も気になっているのだろうな」


 アヴォロス曰く、白髪の男が使用した《創剣の魔眼》の力。それを解明するためにも、彼から情報を聞き出すことは必要だろう。


「分かった。なら引き続き連絡を密に。あとは……」

「――こちらもジュドム殿に連絡をしておきましたよ」


 ジュドムに連絡を頼んでいたクゼルがこの場に表れる。

 その隣にはアノールドもいて、


「うおぉぉぉ! ミュア~! 心配したぜ~!」

「も、もうおじさん……抱きつかないでよ、恥ずかしい……!」

「だってよぉ、お前が俺から離れて行動するなんてそうそうねえじゃんかぁ! お前のことを考えて仕事が手につかなかったんだしよぉ!」


 やはり親バカは健在のようだ。


「おいオッサン、ちゃんとレッグルスには伝えてくれたんだろうな?」

「ああ、レッグルス様も何か分かればすぐに情報を伝えてくれるらしいぜ」

「ジュドム殿についても同様ですね」

「分かった、オッサンにクゼルもご苦労だった」


 そしてリリィンたちにも鳥居と祠について説明した。

 リリィンとシウバは、日色と同じく一度見たことがあるので少し驚きを見せていたが、アノールドはサッパリという感じで「へ~」とだけ口にしている。

 しかしクゼルだけは難しい表情のまま床に視線を落としていた


「どうかしたんですか、クゼルさん?」


 質問をしたのはミュアである。


「ええ。実は鳥居というか、祠ならば幾つか私も確認したことがあります」


 その言葉が全員の注目を引きつける。 


「それはホントか、クゼル?」

「はい、ヒイロくん。私が見たことがあるものも、例外なく何かを封印する力を備えていました。ですからミュアさんたちが見た祠もまた、同様のものである可能性は高いかと」


 ということはやはり《シールストーン》が使用されているのかもしれない。


「……まだ分からないことは多いが、今は四つ目の大陸、それと《シールストーン》に関する詳しい情報を探るぞ」


 日色の言葉に全員が頷き行動を開始した。



     ※



 一方アヴォロスたちが四つ目の大陸から去る少し前、まだその全容を表に出さず、海の中に隠れている四つ目の大陸――その地中には、蟻の巣のように無数に掘られた空間が存在している。

 そして一つの道を突き進んだその奥。


 紫色の毒々しい液体が、マグマのようにそこかしこでボコボコと音を鳴らして蠢いている。異様な臭気と緊張感の中、大きな泉の淵で一人の男が立っていた。

 泉とはいっても、ここもまた紫色の液体で埋め尽くされている不気味な場所だ。


「――――クク、侵入者は去りましたか」


 白髪を持つその男は、不敵に笑みを浮かべる。

 男が見ている泉には、ある映像が映し出されていた。 

 それはアヴォロスたちが祠に近づき、中を確認してから去っていく映像。


「まだここを知られるわけにはいきませんからね。しかし……」


 男がチラリと、映像の中のある存在に視線を落とし、何かに気づいたように眉をひそめた。


「…………あの生き物は……なるほど。彼らを先導して不思議に思いましたが、だとしたら祠に気づいたことも納得できますね」


 泉のさらに奥に視線を移す白髪の男。

 そこからブクブクと音を立てて気泡が破裂している。しかも集中的に、だ。まるでその下に〝ナニカ〟がいるかのよう……。


「こちらも着々と準備が整っています。もうすぐ……もうすぐで宿願が叶う」


 低く笑い男だったが、表情を一切変えることなく……。


「あなたもそれを祝いに来てくださったのですか?」


 男がゆっくりと振り返り、右側に岩陰に注目する。



「そうなんですよね――――――ペビン?」



 スッと岩陰から出てきた人物はペビンだった。

 いつも相手をからかうような笑みを浮かべ、お気楽な風格を臭わせている彼だが、今は氷のような冷たい表情を見せている。


「よもや、このようなところにいたとは思いませんでしたよ――アンタレスさん?」

「懐かしい名ですね。ではせっかくですから、ペビンのことも真名ではなく、こう呼んだ方が良いですかね―――アルデバラン?」


 二人が視線を交わし、一時の沈黙が訪れる。

 真名というのは、『神族』と名乗っていたペビンたち異星人が持つ本当の名前のことだ。普段は真名ではなく字名のようなものであるもう一つの名を名乗るのが普通。


「僕のことはペビンで結構ですよ。もうそっちの名を名乗ろうとは思いませんから」

「なるほど。ではこちらも今後はこう呼んでください―――オリザス、と」

「あなたの真名を耳にするのもどれくらいぶりでしょうか」

「さあ……一千年や二千年という短い時間でないことは確かですよね」

「…………僕がここに来た理由、分かりますか?」

「何となく。というよりもこちらとしては、何故この場所が分かったのか不思議ですが」

「それを説明しますから、大人しく殺されるというのはどうでしょう?」

「ククク、殺されては説明を聞きようもありませんよ? かつての同志さん?」


 チリチリと敵意と殺意の濃度というものがあるとしたら、徐々に濃さが増していく。二人の間に火花が散り、大地に亀裂が走り始める。


「おっと。ここで暴れられては厄介ですから、場所を変えましょうか。ペビンも十分に暴れられる方がいいでしょう?」

「……そうですね。ですが――」

「っ!?」


 オリザスの身体が硬直したように止まる。


「……っ、これは……!?」

「気づかなかったようですね。すでにあなたは僕の手中ですよ」


 ペビンの右手の指からキラキラと輝きを放つ糸が見える。


「……ああなるほど。君お得意の《絶》……ですか」

「このままバラバラにしてあげます」

「うっぐっ……!?」


 ペビンが糸に力を込めると、オリザスを縛っていた糸もまた強力に彼を締め付けていく。


「懐かしい郷土話に花を咲かせたいところですが、あなたをこのままにするのは危険なので。ここで散ってください」

「う……がぁ………………………何てね」


 突如ペビンの糸が、灰化して消失。


「こ、これはアクウィナスさんの!?」

「驚いている場合ですか?」


 風のような動きでペビンの背後を取ったオリザスが、左手をペビンの目の前でパッと開く。

 すると手の平に小さな亀裂が存在し、それがパックリと開いていく。


「な、何を――っ!?」


 開いた奥に潜むものにペビンは目を奪われてしまう。

 そこにあったのは―――不気味な瞳。

 ヤバイと踏んだのか、ペビンはそこから少し後方へ跳び距離を取る。

 しかし同時に瞳から血の涙のようなものが溢れ出し、瞬間――爆発的な吸引力が発生する。


「ぐぅぅっ!?」


 ペビンは吸い込まれないように《絶》を岩などに括り付けて必死に耐える。

 次々と岩盤が割れたものや、石などが瞳に吸い込まれていく。


「こ、これは――間違いない……どうやって《菱毘眼》を!」


 それはかつて、テリトリアルという人物の瞳に宿っていたもの。


「マズイ……ですねっ。こうなったらここは一旦……っ!?」


 明らかに何か行動を起こそうとし動揺を見せるペビン。


「そ、そんな――《クドラ》が使用できない……っ!?」


 『神族』にのみ許された魔法に似て非なる力――《クドラ》。ペビンは自身が持つ《強奪のクドラ》で、状況の打破を望んだようだが……。


「ここでは《クドラ》を使えないようにしているに決まっているでしょう」

「っ!?」

「君が来るのは予想できていましたからね。調査不足。短絡的。安易。愚かでしたね、ペビン」

「くっ!?」

「ここはすでに僕の手中なのですよ」


 ペビンのお株を奪うような文句。


 そして――。


 ペビンが《絶》をくくりつけていた岩が砕け、彼が瞳に吸い込まれていく。

 最後にペビンが懐から何かを取り出す仕草をしたが、それが何を生んだかは定かではなかった。

 敵が消え失せ、静かに笑うオリザス。


「ククク…………これで厄介な邪魔者が一人消えました」


 握りしめた左拳に視線を落としながら、彼は優越感を込めた声音で言う。


「さよなら――――――愛する弟よ」



     ※



 【太陽国・アウルム】では、四つ目の大陸や白髪の男に関しての情報を届けるために、アクウィナスとシリウスが到着していた。


「すまないな、遅くなってしまって」


 律儀なシリウスが、会議室に集まっていた日色やリリィンたちに頭を軽く下げて言った。


「いや、別にいい。さっそく持ってる情報を聞いておきたいんだが」


 と、日色が口にしたその時、窓際に佇んでいたアヴォロスの懐が淡い輝きを放ち始めたので、当然のように皆がそちらへと注目する。

 アヴォロスが懐を探って取り出したのは緑色の小さなリング。


「……! おいアヴォロス、確かそれはあの糸目野郎との連絡手段だったな」

「ああ、一応こちらからも連絡を取ろうと何度も使用していたが、全然音沙汰はなかった。しかしそのうちに向こうから連絡があると思いずっと所持していたものだ」


 するとリングの内側の空間がグラリと歪み、そこから八つ折りに小さくなった紙が幾つか送られてきた。全部で――三枚もある。


「これは……《思念紙》……だな」


 アヴォロスの言葉に、その紙の正体を知らないのか、ミュアが首を傾げながら「しねん……し?」と呟いている。

 説明するように答えたのはリリィンだ。


「最近、最近我が国で製造された魔具だ。紙を持って念じるだけで、伝えたい言葉が浮かぶ。故に《思念紙》と名付けた。まだ試用段階だから市場には出回っていないがな」


 日色も当然のごとく知っていた。これならば手が使えなかったり、声を出せないといった障害を持つ者でも、コミュニケーションを取り易くなると考えたのである。

 ただペビンがこれを使ったということは、これは彼からの何らかの情報だということだ。

 本来ならば彼は実際に会って話すといった連絡を取るのだが、この状況でわざわざ《思念紙》を送ってくるということは……。


(……もしかしたら例の四つ目の大陸に関することで奴も独自に動いてる?)


 好奇心旺盛な彼のことだから有りうる。そう日色は推察したので、


「……アヴォロス、何て書いてある?」

「確認するから待て」


 そうしてアヴォロスが紙を広げて書かれている内容を読み上げていく。


『いきなり不躾な手紙をご容赦ください。ただどうしても火急に伝えなければならない状況に陥ってしまったので、この手段を取らせて頂きました。まずは申し訳ありません、と謝罪しておきます。今、この【イデア】において、ある問題が浮上していることと思います。そう、四つ目の失われし大陸について、です』


 そこまでアヴォロスが読み上げて、皆からも息を呑む音が聞こえた。


(やはり奴も当然ながら気づいてたか。なら思った通り、何かしらの動きをしていたということだろうな)


 日色も自身の考えが当たっていたと納得顔を浮かべる。


『かつて四つ目の大陸は、海へと沈みました。それは確かな自然が引き起こした現象だといえるでしょう。原初の時代、我々がこの地に来た時にはまだ大陸はあり、そして大陸には豊かなで膨大な力の結晶体が存在したのです』


 結晶体……。

 日色は誰かが何か知っているかと思い、皆の顔を見回すが総じて首を横に振る。

 シリウスも同様だ。


『その結晶体は自然の力が凝縮して生み出したもの。故にイヴァライデアさんも恐らくは気づいていなかったのではないでしょうか。そしてその結晶体の存在に、一早く気づき、手にしようと考えたものがいました。――――サタンゾアです』


 久しぶりに聞いた名前だ。『神族』の王を名乗り、【イデア】のすべてを牛耳ろうとして、結果的に日色に敗北して散った人物。


『しかし海位が上がり、すでに大陸は海へと沈み始めていました。彼はある人物に、結晶体の抽出を命じたのです。それが――アンタレス。真名をオリザスと名乗る者。…………僕の双子の兄に当たる人物でした』


 またまた全員の度肝を抜かせるような事実が。

 いや、シリウスだけはさすが同族なのか、知っていたようで平然としている。


『しかしオリザスは、ハーブリードさんのようにサタンゾアに心酔しているわけではありませんでした。彼がその想いを向けていたのは……いえ、それは必要のないことでしょう。今は状況報告だけします。とにかく彼は僕の兄で、結晶体に近づいたただ一人の人物だったということです。しかし彼はその結晶体の力を使って、あることを企てようとしました。それが――一撃で星をも破壊する兵器を作ることです』


 読んでいるアヴォロスも目を見開きしばらく沈黙する。

 誰かが「へ、兵器……」と恐ろしげに呟いているが、日色もまた表情を険しくさせていた。

 沈黙を破り、アヴォロスが続ける。


『無論我々は、彼の思想を危険だと判断し処理することになったのです』


 つまりは殺すことを決めたということだろう。


『しかしここでまだ生きていたアダムスさんが反対しました。同族なのだから、話し合えば分かり合える、と。しかしサタンゾア他、多くの同胞たちは、オリザスを討つことを決めました。その時、オリザスは自分だけの街を作り、戦力を着々と増やしていたのですが、結局サタンゾアたちには勝てずに殺された――はずでした。……もうお分かりでしょう。彼は今もなお生きており、再び暗躍し始めたのです』


 話の流れからそうかもしれないと思っていたが、やはりアンタレス――いや、オリザスが白髪の男だという認識が強まった。

 それと街を作ったと聞き、アヴォロスが見た街ではないかと推察する。


『四つ目の大陸を浮上させたのは、確かに空に浮かぶ月が遠ざかったせいもあるでしょうが、彼が本格的に行動を開始したために起こったと推察されます』


 どうやら日色が予想していた潮汐力のせいで、だけというわけではなさそうだ。


『彼は今、四つ目の大陸の地中で虎視眈々と計画を実行しています。その計画とは、恐らく――兵器開発』


「で、でも何で兵器なんか……? この世界が滅んじゃえば、その人だって危険なのに……」


 ミュアの言う通りだ。

 それともオリザス自身は、そうなっても生き残る術を容易しているということなのか……。


『僕は最近、彼の気配に気づき探っていました。できれば身内の恥を晒さず、僕だけで問題を処理しようと考えたからです。そして彼のもとへ辿り着きました。ですが……』


 そこでアヴォロスの言葉は一旦止まった。


「……おい、どうしたアヴォロス?」


 おかしいと思って彼に声をかけた日色。

 アヴォロスが目を細めて、静かに口を動かしていく。


『ですが……僕は敗れました。この文が届く頃は、もうこの世に僕という存在はいないでしょう』


 ――衝撃。


 誰もが愕然とした表情を浮かべて瞬き一つしない。

 ペビンが。あのいつも飄々として、何だかんだ長生きするであろうペビンが……死んだ。

 いや、オリザスに――殺された。


「そんな……ペビンさんが……!」


 ミュアの呟きは、誰もが心の中で思った言葉だろう。


「……まさか、あのペビンが……いや、相手がオリザスならばそれも致し方ないのか」


 一人だけ納得気に声を発したのは、シリウスだ。


「どういうことだシリウス、そのオリザスというのはそれほどの輩なのか?」


 リリィンが代表して、皆が聞きたかったことを聞き出す。


「そうだな。奴は言わば天才……というやつだろう」

「天才?」

「ああ。サタンゾアの《再現のクドラ》でさえ、奴の力を再現できなかったほどの強き力と才を持つ者。我々は奴を畏怖をも含めてこう呼んだ――〝才禍のアンタレス〟と」


 彼は言う。その有り余る才能は、時として暴力となった、と。

 アンタレス――オリザスは一流の者が一年かかる所業を、一カ月もかからない程度で成せるほどの才があり、その実力はなまじ才を持つ者にとっては羨望を超えて嫉妬と心痛を伴ったのだという。


 こんなことがあったらしい。

一族の中でも優秀といえる者が、十年の時をかけてある画期的な装置を作り出した。それは革新的な仕組みを持ち、一族の暮らしも豊かになりその者は皆から称えられたのだ。

 しかしそれから一年と経たないうちに、オリザスがその装置を上回るものを製造し、皆を驚愕させた。


「その時、オリザスはまだ生まれて十年ほどしか経っていなかったにもかかわらず、だ」


 シリウスの言葉通りならば、僅か十歳でそれを成したということ。

 リリィンが「その装置とは?」と尋ねると、シリウスは渋い表情のまま答える。


「宇宙空間を自由に航行することができる船だ。しかし最初に造られたものは一人乗りで、距離も制限があったし、燃料だって膨大にかかった。しかしそれでも他の星へ行き、未知の鉱物などを手にし、それを元に様々な新しいエネルギー開発などができたことにより、我々の暮らしも楽にはなったのだ」

「なるほどな。だがその上を白髪の男はあっさりと行ったわけだ」


 日色の言葉にシリウスは「そうだ」と頷き、


「奴が造りあげたのは三十人は軽く乗れる船であり、航行距離も比較にならないほど伸び、同じ距離ならば燃料も最初の船よりもうんと少なかった」

「そ、それは何と……」


 シウバの絞り出したような呟きの理由は分かる。 

 それはきっと彼が最初の船を造ったものの感情を想像したからだろう。

 十年かけて一族のために造り上げたものを、たった一年未満で比較にならないほど優秀なものを造られたのだから。

 しかもそれを成したのは、僅か十歳の子供。その者の絶望は計り知れない。


「さらにそれだけでなく、船を造り上げたオリザスは、次々と誰も思いつかないものを生み出した。一流の研究者や科学者たちは、彼の才に羨むよりも恐怖を覚えた。そして中には勝負を挑み、当然……敗北し、心の痛みに耐え切れずに自害した者までいた」

「じ、自害……って」


 ミュアが悲しげに暗い表情を見せた。


「それほどまでに完膚なき……だった。だが彼のお蔭で、この【イデア】へ辿り着けたのも確か」


 シリウスの言葉から推察するに、オリザスが造った宇宙船で、この【イデア】まで来たということだろう。


「しかし彼は、自分のその才を兵器に向けてしまった。彼の才の異端さを知っているサタンゾアが放置できずにいたのも頷けるというものだ。サタンゾアは【イデア】を掌握したかったのだからな」 


 しばらく沈黙が場を支配する。

 それぞれがオリザスという存在に思うところがあるのだろう。

 そんな中で、日色は腕を組みながら口火を切る。


「とにかく、幾つか情報を手に入れることができた。アヴォロス、続きは何か書いてないのか?」

「いや、まだ書いてある。奴の今後の予想だったり。これは……恐らく奴が見つけたオリザスとやらが潜伏している場所であろうな」


 三枚目の紙には地図らしきものが描かれてある。


「なら一応そこを調査してみる必要がある、が……」

「ヒイロの懸念は分かる。すでにそこにはオリザスはいないだろう。いたとしても、こちらが辿り着けないような仕掛けを施しているのは確実だ」


 アヴォロスの見解通りだろう。

 しかし何もしないわけにはいかない。


「アヴォロス、お前は幾つか信頼できる部隊と一緒に、そこの調査に行け」

「余に命令か? いつから余は貴様の部下になったのだ?」

「いいから行け。お前もこのまま放置はできないことは分かっているだろ?」

「……利害は一致しているということか。仕方ない。しかし向かう者の選抜は余がする」

「報告だけはして行けよ。……あとはあの糸目野郎がホントに殺されたのかを調べる必要があるが……」


 日色は両手の人差し指に魔力を宿していく。


『糸目』と『召喚』


 自身が思い描く人物を想像し、この場に召喚させようとした結果――。


「…………現れない、か」


 つまり手紙でペビンが言ったように、すでにこの世にはいないということだろう。

 もし【イデア】にいるならば、どこにいても召喚できるはずだから。


「ヒイロさん……」


 ミュアが心配そうに見つめてくる。

 別にペビンに強い思い入れがあるわけではない。一応ともに戦った間柄ではあるが、ミュアやリリィンたちのような絆は形勢されていないのだ。


 何とかして言葉にするとしたら戦友というのが正しいかもしれない。

 彼が死んだということに、泣きはしないが少し残念だという気持ちもまたある。

 日色は諦めを感じさせる溜め息を吐いてから、


「……今後はさらに情報を収集するとして、アクウィナスに聞きたいことがある」

「分かっている。そのオリザスという輩が使った力について、だな?」

「そうだ。アヴォロスが言うには、奴の力はお前の《創剣の魔眼》に類似したものだってことらしい」

「……しかし実際のところ、この俺の力については天与であるということ以外、教えられることはないな」

「そうか……」

「ただ聞いた話によれば、その者が使用した力は俺の魔眼と同類のものだということだけは間違いないだろう」

「それについて、まだペビンの見解があるぞ、ヒイロ」 


 そこへアヴォロスが二枚目の紙を見せながら口を出してきた。

 皆の視線が当然そちらへと向く。


『ここで僕がオリザスについて知り得た情報をお伝えしたいと思います。まずオリザスにはアクウィナスさんと同等の力を持つ能力が備わっています。また、これは驚きだったのですが、テリトリアルさんの《菱毘眼》の力まで持っていました』


 ここにテリトリアルの弟子であるテッケイルがいればさぞ驚愕したことだろう。

 ただテリトリアルと友人関係にあったアクウィナスは当然のごとく目を見開いているが。


「バカな……《菱毘眼》の力を……?」


『これは推測でしかありませんが、オリザスはかの《三大魔眼》と呼ばれる力を持っていると思われます』


 聞き慣れない言葉に多くの者が眉を寄せる――が、説明をアヴォロスがしてくれる。


「《創剣の魔眼》、《菱毘眼》、そして――余の《黄泉の眼》を総称して《三大魔眼》と呼ぶのだ」

「! それを一人で扱えるってことか? その白髪の男は?」

「ペビンの見解通りならそうだろうな」

「……その力を使えるのは三人だけじゃないのか?」


 日色の問いにアヴォロスが「うむ」と答えて、


「確かにこの世に存在する魔眼と呼ばれる代物は多かれ少なかれ存在する。しかし《三大魔眼》を冠する瞳を宿すのは、余とアクウィナス、そしてテリトリアルだけであった。これは魂に受け継がれるようなもの。つまりはユニーク魔法と同等だ。故に二つと存在せぬはずなのだが……」

「……恐らく、だが」


 そうして語り出したのはシリウスだ。


「オリザスは元々この世界の住人ではない。つまりその瞳を持つわけがないのだ。だとしたら一つ。――――《三大魔眼》を造り出したのだろう」

「バカな! そのようなことは有り得ぬ! ユニーク魔法を創り出すような所業だぞ!」


 アヴォロスが彼の考えを否定するが、シリウスは至って平然とした様子で言う。


「それがオリザスという男の才だ」

「!? し、しかしどのようにして……?」

「我々には《クドラ》という力があるのは知っているな? ペビンには《強奪のクドラ》、私には《活性のクドラ》があるように、オリザスにもまた存在している」

「なるほどな。一体どんな《クドラ》なんだ?」


 日色の問いにシリウスが若干目を細めつつ言葉を発す。


「――――《叡智のクドラ》。オリザスがその力を使えば、不明なことなど一切存在しないだろう」


 また厄介そうな力を持った敵が現れたものだ。


「あらゆる観点から物事を考察し、物事の道理を見極め、真理を導き出す力だ。その《三大魔眼》という力もまた、《叡智のクドラ》にて解析され、同様の代物を造るに至ったのだろうな」

「それは……とんでもない力だな」


 サタンゾアが恐れるのも分かる。その気になれば、ユニーク魔法と同格の魔眼でさえ生み出せるというのだから。


「しかし、何故奴の傍に『クピドゥス族』が?」


 尋ねたのはアヴォロスだ。彼の質問の答えも確かに気になる。


「『クピドゥス族』を『神族』が生み出したのは知っているだろう? 実際に造り出したのはサタンゾアやハーブリードだったが、元々の創造製法を編み出したのはオリザスだ。故に奴が傍に『クピドゥス族』を置いているのは別段不思議なことではない」


 つまり絶滅したはずの『クピドゥス族』を、再び創造し傍に控えさせている可能性が高いということだ。


(まさか命まで創り出せるなんてな。しかも一人で)


 まるで神の所業である。


「いろいろ奴のことは分かって来たが、やはり放置はできないことは確かだ。もしかしたら今も兵器を開発しようとしているかもしれないからな」


 日色は皆の前でオリザスに対して危険性を口にする。


「なら早々に再調査に向かうべきだな。ヒイロよ、余はもう行く」

「ああ、頼んだぞアヴォロス」

「フッ、貴様に言われるまでもない。この世界の安全は余が望むところだからな」


 そう言うと、彼は日色にペビンからの紙を託して部屋から出て行く。


「ちょっと待てアヴォロス、三枚目に書かれている地図を持っていかなくていいのか?」

「必要ない。もう頭に入っておる」


 嫌味なことを。この短期間で、地図に書かれている情報をすべて暗記するとは、やはり曲がりなりにも王を背負っていた人物だけはある。

 アヴォロスが出て行ったあと、日色はアクウィナスに声をかけた。


「アクウィナス、来てもらって悪いが……」

「いや、こちらも大した情報を伝えられずにすまないな。さっそく今の話を陛下に伝えておく」


 彼もまたそれだけを言うと、その場から去っていこうとするが。


「まだ二枚目に書かれた内容を全部読んでないぞ?」

「いや、先程一瞬見えたのでな。もう憶えた」


 またまた嫌味なことをパート2。

 瞬間記憶能力まで見せつけてくるとは……。

 日色もそこそこに暗記力に対して自信はあるが、アヴォロスやアクウィナスと比べると見劣りするだろう。


 彼らの才能に少し嫉妬を覚えつつも、まだ確認していない二枚目に目を通していき、周りにいるリリィンたちにも聞こえるように声を出す。

 

『ヒイロくんに忠告しておきます。恐らく彼はこの世界に災いを招く存在でしょう。弟として僕自身が止めたかったのですが、もうヒイロくんたちにお任せするしかありません。ですが彼と戦う時は十二分に注意を払ってください。あのサタンゾアたちや僕にも悟られずに死を偽装し、隠れ住んでいたのです。虎視眈々と何かを成すために。ですから侮ってはいけません。あっさりと殺されてしまった僕が言える立場ではないですが。まあ、もし死んだらあの世で会いましょう。ヒイロくんとなら、あの世でも楽しめると思いますので。ではあしからず』


 何だか最後まで本当に殺されたのかと思うほど明るい奴だった。

 しかし彼の残した言葉は今後に十分役に立つ。

 ペビンが死んでしまったのは日色にとってほんの少しだけだが物足りなさと寂寥感を覚えるが、それでも日色は……。


(コイツらを守らないといけないしな)


 周りを見渡し、集まってくれたミュアたちを見る。

 もしこの世界を破壊するような兵器を本当にオリザスが造っているとしたら、これは確実に止めなければならない。


(この世界はもうオレが住む世界だ。絶対に壊させたりはしない!)





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