アミナス•リヴィエール 激戦地に行く
アミナス「僕はまだ、13歳だぞ?!」
オルガ「仕方なくない?あの地は国の重要拠点で失うわけには行かないし、アミナスは王位継承権持ちなんだから。」
王宮の控室で頭を抱える僕と腕を組んで絵画を眺めているオルガ姉は今日、正式に辞令を交付される。
コンコン
「リヴィエール公、時間です。」
扉の向こうから謁見の間への招集がかかる。僕にはそれが死の宣告のように聞こえた。
敵対国と国境を接する辺境領モアナ。
そこの豊富な地下資源を巡って争いが絶えない地。先代の領主も戦死したという、いわく付きの所への領主任命。
オルガ「覚悟を決めなよ、キ○タマついてんだろ?」
アミナス「騎兵は戦場に散ってこそ花って事?オルガ姉は肝が据わってる。」『キン○マ……』
肩を落とす僕にオルガ姉は彼女なりの励ましの言葉をくれた。
オルガ「安心しな!私もアミナスと一緒に死んでやるから!」
嫌だよ。
僕らは謁見の間へと向かった。
「ラウト国王陛下!おなーりー!」
静まり返る謁見の間に初老の国王がたくさんの従者を従えて入ってきて玉座に着席する。
オルガ『国王陛下なんて見るの初めて。』(ひそひそ)
アミナス『僕も。』
僕とオルガ姉は謁見の間の真ん中で片膝をついてそれを見ていた。
国王が側に立つ右大臣に目配せすると、領主任命の宣告が始まった。
右大臣「公爵家リヴィエールの長男アミナス!貴公に領地モアナを与える。領主として立派に国へ貢献せよ!」
アミナス「つ、謹んでお受けします。」
ここで“嫌です”なんて言ったら打首ものだ。
事を仕組んだ他の公爵家の奴らがニタニタしてこちらを見下ろしている。
ちくしょー、絶対、生き延びてやる!
右大臣「オルガ•サングリエ騎兵隊少佐!貴殿はリヴィエール公を護衛し、その任を補佐せよ!」
オルガ「お任せあれ!この身果てようとも守ってみせましょう!」
いや、死なないでよ?
右大臣「リヴィエール公、サングリエ卿、共に退室されたし!次は○○卿と✕✕卿の婚約の宣誓を!」
僕らは謁見の間を追い出されるように退室した。
こうして僕らの、辺境領でのサバイバルが始まった。
雨の中、赴任先の辺境領モアナに、少ない荷物と(一応) 遺書を持って馬車で向かう、箱車の向かいには軽装のオルガ姉が座って窓から外を見ている。
金髪の崩れたリーゼントヘア、長いまつ毛、フトした時に見せる憂いのある瞳、スラっと伸びた鼻先、薄い紅をさした唇、大きな胸、引き締まったプロポーション……
アミナス『黙ってれば、割と美人なんだよな、オルガ姉は。』
オルガ「聞こえたぞ?少年。私は美人か?黙ってれば!」
ギュー
アミナス「いへへへへへ!やめへ!」
オルガ「フフ。まぁ、褒め言葉と受け取っておこう。」
力いっぱい、つねられて赤くなった頬をさする。
いってー。
オルガ「お?見ろよ、ここ、町だったんだ!」
馬車の差し掛かった瓦礫しか残ってない町、先の戦争で焼け野原になった町を僕らは通過してたらしい。
アミナス「うわー、ヤダヤダ!」
すでに、背の高い草が生い茂っていて言われるまで気が付かなかった。
アミナス「?なんだアレ?」
その時、
それまでシトシトと降っていた雨は上がり、
厚い雲の隙間から刺す霹靂に僕は奇妙な光景を目にして馬車を停めさせた。
空間の揺れ?虚空から何かが地面に落ちる所を。
ガチャ
オルガ「アミナス、外に出るのか?私も!」
馬車を出てその光の中に進む。その中心には一人の少女が倒れていた。
アミナス「おい、君!しっかり!」
オルガ「こんなとこに人?」
僕はその子に上着を着せると馬車に戻った。馬車は再び走り出した。冷たくなった少女の体をそっとオルガ姉が抱いている。
その子は目には薄くクマがあり、顔はやつれている。長らくあそこで倒れてたはずなのに、きれいにまとまった黄金のボブカット。傷1つない白い肌。
うーん、奇妙だ。
オルガ「初日から変なのを拾ったなぁ。」
うん。僕もそう思う。
アミナス「戦地で無傷?ここが戦場になったのって……」
オルガ「一ヶ月は経ってる。だいぶ前だ。」
しばらくすると少女が目を覚ます。
???「うう、ここは?」
オルガ「アミナスの馬車の中だぞ?」
アミナス「君の名前は?」
ダリア「えーと、確か、ダリア。ダリア•シュピーゲルです。」
オルガ「ご両親は?」
アミナス「あそこで倒れてたのは何故?」
ダリアは頭痛がするのか頭を手で押さえている。
ダリア「うぅ、思い出せません。自分がどこの何者で何をしてたのか……」
ぐぅぅぅぅ
アミナス&オルガ「あ。」
ダリア「ご、ごめんなさい!」
オルガ「とりあえず、コレ食べときな?携帯食でうまくはないけど。」
苦笑するオルガ姉は官給品のウエストポーチから紙に包まれたプロテインバーを取り出した。
アミナス「あ、オルガ姉、僕も欲しい。」
オルガ「なんだよ、アミナスもいるの?ほら。」
オルガ姉が投げてよこした細長い携帯食を食べる。
アミナス『焼き菓子的な?』(モグモグ)
あ。
アミナス「ドライフルーツ入れればいいんじゃない?おいしくなるよきっと。」
ダリア「そうかも!アミナス様!」
オルガ「ハハハ、アミナスに様か!こりゃいい!」
ダリア「変、だったでしょうか?」
僕が寝小便していた頃からの近所付き合いのオルガ姉はツボに入ったのか笑い続けている。
オルガ「いや?いいんじゃないか?アミナス、この子が記憶を取り戻すまで、お前のとこで見てやんなよ。」
そうだなぁ。記憶喪失となると、拾った僕が責任を持ってみないといけないよなぁ。
アミナス「わかったよ、けど、今から行くモアナは君を遊ばせておくほど人が余ってる場所じゃないんだ。済まないけど、メイドをしてもらうよ。」
ダリア「わ、わかりました!旦那様!」
ぶー!ワッハッハ!
アミナス『うわ!きたな!』
オルガ姉はまたもや、その言葉に大笑いしていた。
ぐぬぬぬぬ……
力でも言葉でもオルガ姉にはいつまでたっても勝てない。
オルガ「……」
けど、どこか寂しげでほっとけない女性だ。口は笑ってるのに目はそうでもない。
辺境領モアナの自分に与えられた屋敷に到着する。
オルガ「クワ〜!ついたー!私はここの騎士団の詰所とかに挨拶しに行くから、また後でな!」
アミナス「うん。オルガ姉、迷子にならないでね。」
オルガ「言ったなー!?よーし、帰ってくるまでに片付けとか済ませとけよー?」
あ、そっかオルガ姉もここに住むんだ。
ダリア「なんでしょうか?アミナス様?」
アミナス「……死なないようにしないと。僕はまだ若い。」
希望は、80くらいまで生きたい。
結婚して、子供作って、たくさんの孫に囲まれてみんなに惜しまれつつ死ぬんだ。
僕の理想の人生像。
アミナス「若くして戦地で死んでたまるか!」
オルガ姉は夕飯前には帰ってきて、僕と夕食を共にした。2人で食べるのは久しぶりだ。
アミナス『オルガ姉が騎兵隊に入隊してからほとんど一緒になる機会がなかったからなぁ。
少しは上流階級の人たちにもまれて上品になったのかな?』
オルガ姉は出されたステーキを切り分けるでもなく歯で引きちぎっている。
アミナス『か、変わってねぇ……』
オルガ「ダリアのメイド姿かわいいよな?」
ダリア「そ、そうですか?私かわいいですか?」
僕の後ろに控えていたメイド姿のダリアは確かに可愛い。僕は意識して、あまりガン見しないようにしていた。
アミナス「ここの騎士たちとはうまくやれそう?」
オルガ「ダメだね?私に勝てないようじゃ、みんな鍛え直さないとすぐ死んじまいそうな奴らばかりさ。」
道場破りでもしてきたのか?
オルガ姉は女がてらにハルバートを巧みに馬上で扱う騎兵のエキスパートだ。
オルガ「方天画戟だ。アミナス。」
この前の御前試合でも優勝候補相手に大暴れして見事、優勝した実力者でもある。
そのせいで、他の騎士から疎まれて、こんな激戦地に送られたわけだ。
アミナス『男社会の騎士団にあって、女の少佐なんて、さぞ、扱いにくかったことだろう。単騎駆する猪武者だし。』
今回の人事は体のいい左遷だったのだろう。
風呂に入ってその日は就寝。ダリアはお付のように僕の後ろをついて回った。部屋に入るのを少し寂しそうに見ている。
ダリア「それではアミナス様。おやすみなさい。」
アミナス&オルガ「うん。おやすみ、ダリア。」
え?
オルガ「私はアミナスの隣の部屋だ。」
アミナス「……他にもいっぱい部屋あったじゃん……」
オルガ「べ、別にいいだろ?!この方が護衛とかしやすいんだし!こっちおいでダリア。一緒に寝よう。」
ダリア「え?!いいんですか?!」
オルガ「私は誰かとしゃべりながら寝ると寝つきがいいんだ。それじゃ、アミナス君おやすみ〜。」
……なんか、ダリアを取られたような気がして来た。
悔しいような、悲しいような、羨ましいような。
隣から漏れる楽しそうな笑い声を聞きつつ、僕はこれからのことを天井に思い描きながら、就寝した。
あ、モアナ
喪 穴、墓穴だわ




