7.ニ日目、寮
こんばんは、『バケツ』くん。
驚いてますね。
荷物は?
まだまとめていないのですか。
…………なるほど、とても帰れないでしょう、そういう事情では。
……そうですね。
……そう。
………ええ。
…………なるほど。
………大変ですよ。
『バケツ』であっても、ここ以外なら問題はないと思いますが?
…………ええ、そういうことです。いずれは破綻する。
それには気づいているのですか。
………………『花瓶』ではだめなのですか? 美しい花を楽しめます。
………なるほど。
いつから『バケツ』だったのか、覚えていますか? それが思い出せれば、その時点へ戻しましょう。
え?
………まあ、そういうことです。そこが一番拘束が緩いでしょうし。
……………そこかもしれませんが………もう少し前に似たことは?
いえ、事実が似ているものではありません。抱いた感情が人をそこに縛りつけるのです。
……………そうです。
………つらかったらやめましょう。この先はもっとつらいですよ。
魔法など幻です。
なくても生きていけます。
……そうですね、私がそう言うのは不謹慎ですね。
……………いえ、かまいません。ではもう少し話しましょうか。
吐き気は?
そう。
……………その時、一番強く思ったことは?
…………そうですか、悲しかったんですね。
ええ、そうです。
卑劣なことだと思います。
けれど、あなたがそれにつき合い続ける必要もありません。
…………そうですね。
………一つ、方法があります。
宇宙を入れられる『バケツ』になることです。
不可能?
………ああ、あなたは講議を聴き損ねたんでしたね。
では、補習をしましょう。
ものには全て名前があります。
名前はものの本質とそのものの願いを表現するものです。
名前で呼ばれることによって、そのものは本質を花開かせ、あるいは可能性を手に入れます。
ここに、教室の隅の辞書よりうんと小さいものですが、辞書があります。
あなたが開くんですよ。
探してごらんなさい。
………そうです。
あり得ないと?
あなたは何を学びに来ているのですか?
魔法でしょう?
あり得ないことを起こすのが魔法………そうではありませんか?
あなたが今、それを為してごらんなさい。
………見つかりましたか。
…………泣かなくてもいいでしょう。あなたがたの涙腺はホースのようですね。
………そうです。
では、出席簿を訂正しておきます。
明日から『ブラックホール』くん、でいいですね?




