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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
公国編
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75/75

邂逅

一気にまとめたらいつもより長くなりました(^_^)v

すっかり冷たくなった風を受けながら一行は次の集落へと着いた。集落の名前はツバキというらしい。ちょうど咲いているぜとカグヤが指を指した先には赤い花弁の花がぽつりぽつりと咲いていた。


「…これ…花元気ないよね?」


「本当だ、しかもここ一体植えてたはずなのに全然開花してない」


ふと気になってしゃがんで花を見た真由の声にカグヤも目線を合わせる。花は花弁の端がしおれている状態で咲いていた。満開の時期が終わった様子はなく、目を閉じ集中すると土壌からうっすら瘴気の気配がする。祭事に使う泉の近くに瘴気の核がある、という話だったが思いのほか状況が悪いのかもしれない。


「…全員武器構えてマスク装着しろ」


アイラの声に一気に緊張が走る。誠司が即座に真由の警護の姿勢に入る。アイラもクラノスもすでに武器を構えて周囲を警戒している。


「魔物?」


「違う、よく見てみろ…村人が一人も出てこない」


アイラの言葉に真由はハッとしてあたりを見回すが確かに人が誰もいない。今は昼を過ぎたところだ。子供たちが遊ぶ様子も、仕事に戻る大人たちの姿も声も聞こえない。先行して聖女一行が行くという連絡をカグヤの同胞達がしてくれているはずだが、出迎えの村長も出てこないのだ。


「まさか!」


カグヤが勢いよく近くの民家へと駆け出し引き戸を開ける。真由たちも後を追うと家の中は静まり返っていた。だが台所には昼食の用意をしていた形跡があり、囲炉裏には火がともっていた。


「緊急でどこか避難しているとか?」


「かもな、ちょっと同胞に…」


「みんな‼‼‼」


誠司とカグヤの声をかき消すかのようにユキの大声が聞こえる。一同は即座にユキとアイラの元に走ると二人は武器を構え戦闘態勢に入っていた。村の中心には瘴気を身に纏い、魔物を従えた魔王が立っていた。その足元にはカグヤと同じ装束を来た男性が倒れている。


「ハイエルフ‼‼お前ここの人たちに何をした‼‼?」


誠司が叫ぶと魔王は鼻で笑うように男性を蹴り飛ばしてくる。クラノスが受け止めて生存確認を行う。


「大丈夫、脈はある」


「くっそこの人上忍だぞ…⁉」


カグヤが背中に庇うように男性を隠す。魔王は誠司の問いには答えずただ笑っているだけだった。


「笑ってないで答えろ‼‼何をしていた‼‼」


「…しつこいな、私はただ降臨しただけだ。それにこの私をハイエルフと呼ぶな劣等種」


魔王がため息をつきながら口をやっと開いた。呼び方を拒否したが、ハイエルフであることを否定しなかったことによりハイエルフその者であることが確定した。


「降臨?偉そうに…何様のつもりよ老害!」


「女よ、お前こそ偉そうな面をするな。いずれこの世界は私に膝まづく。降臨と称して何が悪い」


杖を構えた真由が吼えるが、魔王は余裕の笑みを絶やさなかった。従えている魔物がじりじりと唸り始める。真由とユキは魔法の用意をする。魔王は既にレイピアを抜刀している。あの速い剣筋を受けきれるのはおそらくクラノスとアイラだけだ。主戦力が取られるとなると周りの魔物を即座に倒して魔王単体にするしかない。二人は頷いて真由は浄化と防御、ユキは攻撃魔法を唱えた。


「余興だ、どこまで力をつけたか見てやろう」


魔王はゆっくり手を横に払うと魔物達が一斉に飛び出してきた。ユキが用意していた光の杭を降り注ぐ攻撃魔法が魔物の勢いを殺し、さらに数体倒す。真由も浄化魔法を発動させ瘴気を取り除き前衛の攻撃が通りやすくする。


「真由!真由も攻撃魔法にかえて!」


「あ、そっかごめん!」


誠司の指示で真由は肝心なことを思い出した。もう前衛の手には浄化の力を宿した神聖武器があるのだ。今までのように浄化で魔物の瘴気を消さなくても直接倒せる。いつもの癖でやってしまい真由は恥ずかしくなった。


「邪魔だこいつら!」


アイラが魔物を切り捨て魔王へ肉薄する。魔王は素早く斧を受け流すと華麗な剣術でアイラと打ち合い始めた。その間に一行はなんとか魔物の群れを討伐した。神聖武器のおかげで前衛の攻撃が通るようになり、真由やユキが魔法攻撃やサポートに集中できるようになった。


(神聖武器が行き渡れば一般兵士でも対応できるようになるのに!)


正直神聖武器のことを聞いてから真由は内心そう思っていた。これがあれば一般の兵士でも瘴気を纏う魔物を討伐できるようになる。浄化魔法を使える魔法使いの負担が減るのだ。そんなことを戦闘の間でさえ考えてしまう。目の前にいる魔王―ハイエルフはにやりと笑うと剣を構え一気に真由目掛けて突撃してきた。


「…ッ‼この‼‼」


誠司が間に割り込み刀で受け止める。魔王は舌打ちすると突撃をやめ一歩下がる。誠司は負けじと魔王相手に果敢に切りかかった。これだけ至近距離にいられる機会は早々ない。誠司は一つ確かめたいことがあった。そう、カグヤが見たという真由とそっくりな目元を。


「お前、長命種とは言え長く生きてるよな、その体どうしたんだ!」


「…なに、たまたまいい体と魂を見つけただけの事よ。誰しも老いには逆らえんからな」


魔王は調子に乗っている。試しに問いかけると余裕の表情は変えずに勝手に情報を開示してくれた。他者の体だけではなく魂まで搾取しているのか、誠司は舌打ちした。


(こいつ扱いやすいけど…!戦闘中はまだきつい!)


「貴様が取り込んだ魂は誰のだ!」


クラノスが誠司の意図を汲んだのか深堀しようと叫ぶ。魔王はまだ表情を変えずに誠司との打ち合いを遊ぶようにいなしながら口を開いた。


「ふ、無垢な魂だ。生存を強く願っていたからな、二つほど似た性質の魂を取り込んでみたのだ」


横から間に割り込んできたアイラを蹴り飛ばし魔王は後ろに飛んで手を広げる。


「生存を…⁉手にかけた人のをか⁉」


「違う、元々産まれることができなかった魂だ。愚かな女が気まぐれに捨てた魂をな。よほど生きたかったのだろう…救済してやったのだよ私は」


直球で答えない魔王に内心イラつきを覚えながらも誠司は即座に考察を始める。


(二つの捨てられた魂…堕胎ってことか、……あ)


『わしらが倒したのは魔王、いやハイエルフの一部だった。奴は聖女の―真由ちゃんの魂を狙っている』


ふとエノスの言葉を思い出した。魔王が取り込んだのは二つの似た性質の魂、そして今狙っているのは真由の魂。魔王の目元は真由と似ている。


(いやいやいや嘘だろ、なんてことを思いつくんだ俺‼‼)


自分の考えに思わず頭を抱えてしまう誠司。魔王は今魔物を召喚しながら狂ったように笑いくるくる回っている。そう、無邪気な子供のように。


(だめだ、そうとしか考えられない‼‼確実に思い当たる節もある‼‼)


構えた刀が揺れてしまう。その様子に気付いた真由がとっさに誠司を呼んだ。横目で見ると汗をかきながら真由が心配そうにのぞき込んでいる。ややたれ目に近い純粋な瞳が。


(真由のお母さんは男癖が悪い、真由は小学校に上がる前まで両親と一緒にいなかった、だから気付かなかった)


「誠司、すごい汗だよ、今治癒かけるね」


「私がカバーする、ユキはアイラとカグヤの援護を、先に魔物を!」


真由とクラノスの声が流れていく。とっさに汗を拭うと誠司は思いっきり唇を噛んだ。


(魔王が取り込んだ魂は―真由の弟妹に当たる魂だ‼‼‼だから性質が近い真由を狙っている‼‼)


うっすら想像していた。どうして真由と魔王の目元が似ているのか。たまたまではない。カグヤの見間違えではなかった。でもあまりにも残酷すぎる考えすぎて違っていて欲しいと何度も願った。


―真由と魔王の中の魂は血のつながった家族であることを。

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誠司が青白い顔をしている。濃い瘴気を受けたのだろうか。念のため浄化も掛けておく。


(何かわかったのかな、どうしよう私あいつの言い回しうざすぎて深く内容理解できてない)


魔王の言い回しは独特だ。すぐ本題に入らない、回りくどいような、自分の中だけで完結しており相手に伝えようとする気持ちが一切ない言い方だ。真由でさえイラついているのだ。他の仲間も真由より混乱しているだろう。


「真由、戦闘範囲内に浄化を!」


「あ、はい!」


クラノスの声に真由は即座に浄化魔法を展開した。魔王が息をするように瘴気をばら撒いている。神聖武器があるとはいえ、瘴気を纏った魔物を倒せるようになるだけで、空気中の瘴気を浄化できるのは浄化魔法を使える魔法使いだけなのだ。ユキは今攻撃魔法に専念している。真由は治癒と浄化で仲間を護る。


「くっそ、村の人も探して泉の核もどうにかしないといけないのに!」


カグヤが舌打ちをする。魔王は相変わらず村人をどうしたのかを言わない。血痕が無いので無事に逃げたと願いたいが、奴は魂を吸収できる。それなら生きた人間を吸収することだって可能ではと恐ろしい考えを真由はしてしまう。だがこのままではこちらがやられてしまう。何か決定的な一打をしなければならない。


「泉…そうだ‼‼カグヤ護衛お願い‼‼‼」


「ちょ、ユキ‼‼‼?」


「行けカグヤ‼‼こちらはどうにかする‼‼」


何かを思いついたのかユキは駆け出した。カグヤも慌てて後を追う。アイラが魔物が二人に行かないように即座に進行方向に割り入って守る。誠司も立ち直ってすぐ戦闘を再開する。


「誠司無理しないで!」


「ごめんもう大丈夫だから!」


誠司の顔はまだ青白い。それでも必死に刀を振るい隙を見て魔王に打ち込みに行く。どこか焦っている様子も見える。アイラもクラノスも瘴気の中で戦い続けるのが段々苦しそうに見える。


(まずい、ユキ、早く!)


「聖女様!参上が遅れ申し訳ございません‼‼我々も参戦します‼‼」


「アズマさん‼‼‼助かります‼‼‼‼」


上空からクナイと護符が飛んできて魔物を蹴散らす。即座に真由の横に着地したのは王国で会ったカグヤの上司、アズマだった。懐かしい顔に思わず笑顔になる。アズマの他にも忍者を引き連れており即座に魔物を処理していく。圧倒的手早さでクラノスとアイラが一息つける隙ができるほどだ。


「なんだちょこまかと…」


魔王も増援気付き飛んできたクナイを軽く躱す。何度も飛んでくるクナイに飽きたのか魔法で蹴散らそうと静かに詠唱を始める。聞いたことが無い言葉に一同緊張が走る。古い魔法だろうか、真由だけで対処できるのか不安だがやるしかない。防御魔法を展開したとき、魔王に向かって突然巨大な水球が命中した。


「ぐああああ‼‼?」


「いまだ‼‼‼」


もがき苦しんだ魔王に向かって誠司が突進する。真由も浄化魔法に切り替え誠司を援護した。水球が飛んできた方向からはユキの魔力の気配がする。


「そうか泉!聖水にさらに浄化魔法をかけて飛ばしたんだ!」


「さすがユキ‼‼」


だから泉の位置を知っているカグヤを護衛に走り出したのかと真由は納得した。誠司もだが機転と発想が素晴らしい。心の底から称賛していると第二の水球が飛んできた。誠司も水を被るが誠司は気にせず特攻している。


「近づきすぎだ!いったん離れろ!」


アイラが援護のため駆け出す。真由も段々心配になってきた。今日の誠司はあまりにも特攻しすぎだ。何を思っているのだろうか。とにかくいったん彼を離れさせなければならない。真由もアズマに守ってもらいながら駆け出した。

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浄化のバフがかかった水球が直撃する。祭事に使う泉だから元々聖水である。ユキのおかげでこうして魔王の顔面を見ることができる。誠司は今しかないチャンスを逃さないよう必死だ。


「忌まわしき聖女が…‼‼」


段々魔王の体の瘴気が剝がれていく。誠司は思いっきり魔王の腹を蹴り飛ばし、そのまま首辺りに回し蹴りを決めて倒れさせた。即座に馬乗りになりその顔を見る。―やはり、カグヤの報告は正しかった。真由と魔王は目元だけでなく、全体的に顔が似ているのだ。


「―お前、やっぱり真由の家族を取り込んだか」


「…は、だからなんだ」


魔王は否定しなかった。嫌な推測が当たってしまった。誠司は吐き気を堪えながら必死に口を動かした。


「どうして真由を狙う」


「なぜ?私がこの世界を支配するために必要な力のために決まっているだろう。性質の似ている魂はひかれあう。あの贋作は私の魂と実に似ている、誰よりも飢えている性質がな」


三発目の水球が直撃しながらも魔王は笑った。贋作とも真由を呼んだ。また誠司の予想が当たってしまった。


「真由を呼んだのはお前だな、聖女の力を与えて成長させて、取り込むつもりか」


「貴様、つくづく有能だな。私の部下に欲しいぐらいだ」


応えになっていないようであっている事実に誠司は舌打ちした。やはり真由は魔王サイドの召喚だ。そして女神サイドでは別の聖女が選ばれている―つまりユキだ。魔王にとって聖女はユキだけである。真由はただの贋作にしか過ぎない。いずれ自身に取り入れるための駒として。


「どこまで腐ってるんだお前…!」


強い怒りが体の底から湧き上がり、魔王に突き付けている刀が震える。血液が体の中で沸騰しているようか感覚だ。こいつははるか昔からどれだけの人の人生を破壊してきたのだろう、常に自分が勝者であると思っており、他は全部自分のために存在していると信じて疑わない。これほど自己中心的な者はどの世界を探しても目の前の魔王以上の存在はいないだろう。


「私の部下にならないのなら死ね」


いつの間にか詠唱されていた。どす黒い球が目の前に浮かんでいる。まずい、と思った瞬間思いっきり首根っこを掴まれ後ろに投げ飛ばされた。魔王の魔法は真由の浄化魔法によって相殺されているのが見える。


「馬鹿お前手止めんな‼‼‼」


「ぶはっ‼‼‼ごめんアイラありがとう‼‼‼」


息を吐きだしアイラに顔を向ける。アイラも額から血が出ている。魔物との戦闘だろうか。魔王に再度刀を向けると魔王は既に立ち上がっており誠司からかなり距離を取っていた。


「…ふ、飽きたな。帰るか」


「⁉待てハイエルフ‼‼」


真由が叫ぶのも虚しく魔王は真由に一瞥すると転移を開始した。せめてもう一発と思ったが誠司では間に合わない。というより転移魔法に目が行ってしまう。


「せい‼‼‼‼」


勢いの言い声が聞こえたかと思った瞬間、魔王の腹部に槍が突き刺さっていた。あれはクラノスの予備の槍だ。魔王はよろめき血を吐きながらもそのまま転移していった。


「…何だったんだあいつ…」


アイラも流石に疲労が限界なのだろうか、片膝をついて肩で息をする。とりあえず危機は去ったようだ。仲間達が集まってくるのが見える。誠司はとっさにアイラに耳打ちをした。


「魔王について真由と一緒にいないときにみんなに話したい」


「わかった、アタシが護衛している間にまずは他の奴らに話しな。アタシは最後でいい」


察しが良いアイラが即座に了承する。誠司は感謝しながら仲間達に話す内容をまとめるのだった。

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「泉にあるという瘴気の核は?」


「無くなってた。…残滓は残ってたから浄化したけど…多分、魔王が取り込んでいったと思う」


近くの民家を借りた一行はお互いの無事を讃えながら休息をとっていた。ユキは聖水をぶつける作戦を思いつき、カグヤに道案内がてら護衛を頼んでいたのだ。魔法が届く範囲で良かったと安堵している。


「あいつ、核を取り込んで…村の人を…」


「…全員死んだわけじゃない。どのみち俺たちがここに来る前にやられたんだ。誰も悪くない」


「カグヤの申す通りでございます、聖女様。…遺体も残らず吸収されたのが悔しいですな…」


村人たちは森の奥へと避難していたようだ。だが最初魔王を見て緊急事態を叫んだ人、逃げ遅れた老人、そして村人を守るため戦った忍者や村人が数名亡くなったという。先ほど救助した上忍曰く、魔王や魔物に殺された者は一人残らず魔王に吸収されたという。一行に沈黙が続く。


「失礼いたします。聖女様ご一行に村長がご挨拶したいと来ております」


アズマの部下が控えめに障子の外から声を掛ける。真由は目じりを拭うと静かに立ち上がった。護衛のため誠司とクラノスが続いてくれる。


「…お待たせしました。…亡くなった方へ謝罪とお悔やみを…」


「いえいえ聖女様、襲撃は突然でございました。決して聖女様のせいではございません。あのままあの者が村にいれば被害がさらに広まったことでしょう。土地と泉まで点検して浄化していただき誠にありがとうございます。」


村長は深々と地に頭をつけて礼を尽くしてくれる。だがその声は震えている。無理もない、村民を守り切れなかったことを悔やんでいるのだろう。村長と少し話をしている間にも村人たちがこちらをみて頭を下げてくる。悲壮感が漂う中、真由はずきずきと痛む胸をずっと抑えていた。


「…どうしてこんな酷いことができるんだろう、みんな普通に暮らしていただけなのに」


「そう…だよな」


村長を見送りぽつりとつぶやいた真由に誠司は消え入りそうな声で返した。青白い顔はあまりよくなっていない。瘴気の影響だろうか。クラノスに促され、二人は重い足取りのまま中へと戻るのだった。

魔王に対してみんな割と辛辣なのは後々わかります(笑)

ここから真由曇らせになります…

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