第1話 ハーレムになっちゃった
キーンコーンカーンコーン。
学校のベルが鳴り響く。一見すれば、どこにでもある学園の光景だ。
しかし、屋上にいる一人の男にとっては――まったく平和ではなかった。
「……」
腕を組み、無言で座る鋭い目つきの男。学ラン姿に強面の顔つき。誰でも「不良」と判断するであろう風体だ。
そんな男が、今まさに本気で悩んでいる。
――この状況についてだ。
俺は悪の組織の幹部だ。
なのに今――
魔法少女に弁当を食べさせられている。
「大牙くーん、はいあーん」
ニコニコと笑うピンク髪の少女が、弁当を当たり前のようにこちらに箸を差し出してくる。
……ちなみに、コイツがその敵の一人である。
(弁当はうまい……しかし……)
「ちょっと桜!あんただけ大牙にお弁当食べさせすぎ!」
「私も食べさせたいんだから!!」
委員長風の青髪の少女が、頬を膨らませながら割って入ってくる。
――明らかにやきもちだ。
(この状況はどうしたものかな……)
「うふふ、お二人とも。そんなにしたら、大牙さんが困ってしまいますわよ?」
朗らかに微笑む黄色髪のお嬢様風の少女は、優雅にお茶を淹れている。
気遣いはありがたい。ありがたいのだが――
(気が利いているが、ここは敵のど真ん中なんだよな……)
三人とも、歩けば周囲の視線を集めるほどの美少女だ。
しかも、なぜか揃いも揃って俺に好意を抱いている。
……一応言っておくが、俺はハーレム主人公なんかじゃない。
断じて違う!
他人が見れば羨望か、あるいは「爆発しろ」と罵られる光景だろう。
だが、本人である俺の心境はただ一つ。
(どうしてこうなった?)
(俺は敵幹部だぞ?)
(なぜ魔法少女に餌付けされている?)
ここにいる三人は俺の敵である‘‘魔法少女トリニティブーケ‘‘だ。
ピンク色のサイドポニーの少女は「花園 桜」。
普段は、天真爛漫の少女であるが、変身すれば凛々しく、三人の中では精神的中心になる。
魔法少女の一人「ブロッサム・ハート」である。
青色の長髪の少女は「清水 りん(しみず りん)」。
委員長風の少女でしっかりしているが人間味がある。変身時は冷静で対処する戦士になる。
「アクア・セレナ」である。
黄色のゆる巻きヘアーの少女は「邑楽 めぐみ(おうら めぐみ)」。
お嬢様風の穏やかな少女ではあるが、変身後はそれがランクアップして神聖で包容力ある。
「グレイス・ルミナ」である。
その敵である三人の魔法少女全員に好意を持たれている異常事態だ。
(青いなー……現実逃避したくなるなー)
青い空と白い雲を見ながら、現実逃避をする。
「大牙さん。どうぞ」
「……ありがとう」
邑楽めぐみが、入れてくれたお茶に舌鼓を打つ。
「相変わらず、うまいな」
「お粗末様です」
さすがお嬢様というべきか、入れてくれるお茶は一級品だ。
「次は私のお弁当食べなさいよ」
清水りんが、弁当を口元に運ぶ。俺はまた反射的に食べる。
「……うまいな」
和食メニューの弁当は、質素だが味わい深い。
それを聞いた彼女は、嬉しそうな笑みを見せる。
(相変わらずこの笑顔は可愛いと思う)
「大牙くん!次、わたしー!」
「すまんが桜、そろそろ食べ終わらないと授業に間に合わん」
「ぶぅーー!」
口を膨らませ、不満そうな顔は敵ながらかわいく見える。
「では、また放課後にみんなでどこか行きましょうか」
「そうね。行きましょう」
「おーー!」
三人がそんな話をしている。
「おい、お前ら部活と用事は?」
一瞬の沈黙。
「「「休(むわ)(みますわ)!」」」
「おい!」
俺との放課後のために部活や習い事を休む始末。
(ここまで、惚れられている)
普通の男なら嬉しいんだろうが、こっちは――
敵の真っ只中にいる訳だから、いつも戦々恐々だ。
昼食を終え、教室に戻る。
桜とは一緒のクラスだが、りんとめぐみは別クラスだ。
戦々恐々は変わらないが、昼食よりマシだ。
学校生活と授業中は何も変わらない普段の生活だ。
たまに空を見てよく思う。
「どうしてこうなったかなー」と。
そうして授業を終えると約束通り、四人で遊びに行く。
しかし、三人が美人のせいか――
周囲の男たちの視線が、刺さるどころか殺気を帯びている。
「どこ行く?」
「そうですねー」
「最近できたドーナツ屋に行かない?」
「いいね!」
「行きましょう」
「大牙もそれでいい?」
行き場所を決められ、特別どこかに行きたいと思ってない俺は。
「……いいぞ」
ドーナツ屋に行くことになる。
ドーナツを買い、四人でテーブルを囲み、食べる。
その間は、周りの嫉妬(特に男たち)の視線が痛く、針の筵状態だ。
自意識過剰な男なら美少女を囲んで喜びそうなもんだが――
(こっちは気が気でないわ!)
そんなことを思いドーナツを頬張ろうとすると――。
ドカーーーン!!!
近くで爆発音がする。
事件?テロ?いや――怪人だ。
同時に三人が立ち上がる。
「りんちゃん!めぐみちゃん!」
「「ええ!」」
魔法少女としての彼女たちの活動が始まる。
「大牙くん!ごめん!私たち用事を思い出しちゃった!」
そう桜が言い、二人も行く準備をする。
「おう。気をつけてな……」
俺は、そう言い彼女たちを見送る。
本人たちは、自分が魔法少女だと俺は気づいてないと思っている。
「……ふうーー」
と俺は安堵するようなため息を出す。
俺は王守大牙。それが今の偽名だ。
本当の俺の正体は、悪の組織の幹部。コードネーム、ウルフマン
なぜ敵であるはずの彼女たちが、俺に好意的なのか。
そして、なぜ俺が学校などという場所にいるか。
……一つ、確かなのは、
全ての始まりは三か月前の任務が原因ということだ。
そして――
ある任務で、俺は一つだけ‘‘決定的なミス‘‘を犯した。
――それは三か月前に遡る。




