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#96 温泉旅行1日目後半 松本城と大人の階段

 諏訪SAを出たバスは、松本ICを出て松本城に到着した。


「お〜!お城おっきいね〜、直人くん行くよ~。ほら、裕貴も早く!」

「凛ちゃん先輩行くからちょっと待って!」

「お、おい!襟を引っ張るな!あと、何で俺は呼び捨てなんだ!?」


 松本城が見えた途端に、凛が直人くんと裕貴くんを引っ張って走って行こうとしている。


「凛ちゃん!松本城の敷地に入ってからも距離あるんだから、今から走ってたら疲れちゃうわよ!」

「ハハッ白坂先輩と凛ちゃんはホントの姉妹みたいですね」

「ええ、春斗と唯佳も含めて、兄弟同然で育って来たもの。今もほぼ一緒に暮らしてる様なものだしね」


 凛達の後を付いて智佳姉と裕人さんが歩いて追い掛けながらいい雰囲気で話をしている。


「ねえねえ、何だかあの2人いい感じじゃない?」

「そだねー」

「兄さんが憧れている先輩が、まさか智佳さんだったとは思いませんでした」

「裕人さん、智佳姉に憧れているのか?」

「以前、憧れの先輩に相応しい人間になると言って、生徒会に入ったと言っていました。あの雰囲気を見るに、その先輩というのは智佳さんだったのだと思います」


 智佳姉に相応しい人間になる為に生徒会に入った?全く結び付かないんだけどな~

 まあでも、智佳姉も生徒会長として覚えてたっぽいし、印象に残るって意味では成功してるのかな。


「センパ〜イ、何だかどんどん若い子達がいい雰囲気になってますよ~?」

「若い子達って、紗奈ちゃんも十分若いでしょ?そんなに彼氏が欲しいのなら、紗奈ちゃんも春斗くんにアプローチしてみたら?優良物件よ?」

「私は恋人のオンリーワンになりたいんです〜」


 俺達の後ろを歩く大人組の女性陣の中から、可憐さんと紗奈さんの声が聞こえて来た。


 いや、俺今フラレたよね?告ってもいないのに...何かこの展開最近もなかったっけ?


 先を行く凛達を見失わない様にしながら、松本城公園内を進んで行くと、大きな建物に着いた。


「智佳姉見て〜これ門なんだって〜大っきくない!?」

「そうね。大きいわね~」

「お城の門なんだから大きくて当たり前だろ?」

「裕貴?そういう言い方は良くないな。もう少し丁寧な言い方を心掛けた方がいいぞ?」

「うっ!ごめん...」

「まあまあ、折角の旅行なんだし、裕貴くんも落ち込まないで楽しみましょうよ!ねっ?」

「直人くんの言う通りだよ!裕貴も楽しも?」

「あ、ああ、そうだな。旅行だもんな!」


 直人くんの人懐っこさに、いつの間にか裕貴くんも引っ張られて、打ち解ける事が出来て来たみたいで安心した。


「直人くんは人付き合いが上手そうですね」

「あの子は昔っから友達作んの上手いんよ~」

「流石は雛の弟だな」

「雛ちゃんも上手だもんねー」

「でも、凛ちゃんだって変わんないくらい人懐っこくない?」

「凛ちゃんも上手だよー」

「俺には辛辣だけどな...」

「それは信頼の証ですよ」

「そうなのかな~」


 凛達に続いて一の門を通って松本城の入口までやって来た。


「近くで見ると余計大きく見えるっすね〜」

「だね~」

「これを昔の技術で作ったって凄いよな~」

「ほら3人共、中に行くわよ」

「今日は晴れているし天守閣からの眺めは良さそうだぞ」

「あっ!智佳姉も裕人兄も待ってよ~」

「お前、いつの間に兄さんの事を裕人兄なんて呼ぶ様になったんだよ」

「俺もそう呼んでいいっすか?」

「ああ、いいぞ」

「あざ~す!」

「直人まで!?」


 凛が裕人さんの事を裕人兄と呼んでいるのを聞いて、直人も裕人さんの事を裕人兄と呼ぶ事にした様だ。


 そんな様子を右腕に唯佳、左腕にほのかが抱き着いている状態で後ろから見ているのだが、俺達は俺達で周りから好奇の目で見られている。

 まあ、俺の状況は異常だもんな。


「唯佳っち交代だよ~」

「は~い」


 俺と腕を組むのは時間で交替制になったらしく、時折こうして入れ替わる。

 そのタイミングを目撃した人はより一層驚いた顔になるのだが、3人は気にする事なく幸せそうな顔をしている。


 城内を見学して天守閣までやって来ると、裕人さんが言っていた様に絶景が待っていた。


「お〜!絶景だね~」

「お山が綺麗だね~」

「本当ですね~晴れていてよかったですね」

「そうだな」

「あ〜!あの橋綺麗じゃない!?」

「ホントだね~」

「お前、遠くの景色じゃなくて、真下を見ていたのか?」

「まあいいじゃん裕貴くん。凛ちゃん先輩ぽくってさ」

「そうそう、直人くんみたいに広い心を持たないとモテないよ裕貴」

「うっせー!余計なお世話だ」

「裕貴?もう少し丁寧な言い方をって、さっき兄さんにも言われていたわよね?」

「ヒッ!?ね、姉さん!?」


 ほのかからの圧に裕貴くんが小さく悲鳴を上げた。


「ほのか?ちょっと落ち着いて」

「まあでも、裕貴は言い方を考えないと人から嫌われちゃうぞ~」

「裕貴くん気を付けようね?」

「は、はい...」


 裕貴くん怒られてばかりだけど、折角の旅行なんだから楽しんで欲しいな~


「凛ちゃんが言っているのは埋橋うずめばしの事ね。後で渡ってみましょうか」

「渡ってみる〜!」


 ばあちゃんの提案に凛だけじゃなく、全員がすぐに下へと降り始めた。


 埋橋をわいわい言いながら賑やかに渡って来た俺達は、振り返ってお城の方を見る。


「おー!何か見た事あるー」

「結構写真とかで紹介されている景色ね」

「だからか〜私も見た事あると思ったんだ〜」

「みんなで写真撮りたいわね」


 近くにいた人に頼んで全員の集合写真を撮影してもらい、お礼を言ってお返しにその人達の写真も撮って上げた。


 お昼は松本城近くのお店で信州名物の蕎麦を食べる事になった。


「やっぱり長野のお蕎麦は美味しいわね」

「そうですね〜お水が綺麗だからですかね?」

「そうかもしれないわね~」

「この味噌漬けも美味しいわよ」

「長野は味噌漬けも有名よね」

「お酒が欲しくなりますね~」

「先輩は何食べてもそうじゃないですか」


 女性陣の大人組、父さんズプラス運転手さん、クローバー、兄弟姉妹組に別れて席に付いて食事を進める。


 大人達は男女共に、味噌漬けの所為でお酒が欲しくなっている様だ。


 食事を終えてバスに戻り、白骨温泉を目指して移動する車内で、何処で買って来たのか裕貴くんがおやきを食べている。


「裕貴それ何?」

「ん?おやきだって。さっきバスに戻る途中で売ってたから買って来たんだ」

「自分の分だけ?」

「えっ?あっ!」

「裕貴くん狡いっすよ~」

「いや、お昼食べたばかりでみんな食べないかなって思って...」

「まあ、1個はムリだったかも」

「だろ?」

「俺は食えたっすよ?」

「悪かったよ。ほら、ひと口食っていいから」

「やった!いただきま~す」

「えっ?」


 裕貴くんが差し出したおやきを、凛がひと口頬張った。


「り、凛!?」

「なあに?私は駄目だったとか言わないよね?」

「いや、そういう訳じゃないけど...」

「凛ちゃん先輩、裕貴くんと間接キスしたっす」

「ん?ああ、そんなの気にしてたの?ふふっほら、美少女のよだれ付きおやき召し上がれ〜?」

「「!?」」


 凛の言葉に裕貴くんと直人が固まってしまった。

 その様子を見ていた他のみんなは、必死に笑いを堪えてどうするのか見ていた。


「な、直人、ほら、食べろよ」

「い、いや、やっぱり今はいいっす」

「遠慮すんなって」

「押し付けはよくないっすよ?」

「何?2人共私の食べ掛けは食べれない訳?いいわよ、貸して!お兄ちゃん食べちゃって!」

「えっ?ああ、分かった」

「「あっ!」」


 仕方なく俺が食べ掛けの部分を食べると、2人から残念そうな声が漏れた。


「まったく、素直にならないからよ?2人共」

「そうそう、素直になってれば凛ちゃんと間接キス出来たのにね~ニシシシシ」


 2人は姉達に誂われ、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「2人共中学生を誂うなよ」

「ほのかも雛ちゃんもその辺にしておいてやってくれ」

「「は~い」」


 2人は姉達からの追撃を免れ、ホッとした表情をしていた。


 それからも賑やかな車内から車窓の景色を楽しんでいると、次第に山深くなって来て、やがて宿泊する旅館に辿り着いた。


「いらっしゃいませ。当旅館の女将でございます。まずは、フロントでご記帳頂きまして、お部屋へとご案内させて頂きます」


 記帳を済ませ案内された部屋は、本館とは別の建物の4階角部屋の囲炉裏がある特別室だった。


「うっわ~広〜い」

「すごーい!囲炉裏があるよー」

「奥の部屋も広いですね。奥の部屋だけで10畳もありますよ」

「見て見て、露天風呂が付いてる!」

「うわーホントだねー」

「ここは透明なんですね」

「こちらは温泉ではなく、地下水を利用した半露天風呂なので、お湯は透明になっております」

「温泉じゃないんだー」

「ざんね~ん」

「温泉は来る途中に露天風呂もありましたし、大浴場もありましたから、そちらに行きましょう」

「そうだね~」

「うん!」


 特別室というだけあって、ここに来るまでに見た他のみんなの部屋よりも断然グレードが上だった。


「みんなの部屋もベッドがあって広く思えたけど、比べ物にならないくらい広いね」

「ホントだねー」

「お祖母様に感謝ですね」


 部屋の探索を終えた女子達が、10畳の和室で寛ぎながら談笑している。


「春くんどうしたのー?春くんもこっちにおいでよー」

「あっ!春斗っち、早速温泉に行く?ここの旅館混浴があるらしいけど、春斗っち以外に見られるのは嫌だから一緒には入ってあげられないかな~」

「その代わりにお部屋のお風呂でしたらご一緒させて頂きますよ?」

「子供の頃以来だねー」


 今いるのは俺の部屋で間違いない筈、だけど、同じ部屋にいるのは家族ではなく、女子達3人で、3人共すっかり寛いでいる光景に俺は理解が追い付いていなかった。


 この状況を親達は知っているのだろうか?ばあちゃんの悪戯なのだろうか?そうか!ドッキリか!


「ドッキリじゃないよー」

「あと、おばあちゃんの悪戯でもないよ~」

「親達、正確には母親たちは事前に知っていましたよ?」


 また声に出していた様だ。

 そしてばあちゃんと母親たちは知っていたらしい。


「春斗っち、別にいいじゃん。こ、恋人同士になったんだしさ!」

「そ、そうですよ。な、何かあっても、それはもう間違いとはならない関係になったんですから...」

「春くんのエッチ」


 思いっきり誘われているけど、交際初日にそういう関係になるのは早過ぎないですか?あと、唯佳よ、エッチなのは俺じゃなくないですか?


 その後、大浴場で汗を流し、宴会場みたいな部屋で食事を頂き、部屋に戻った。


 裕貴くんと裕史さん以外からニマニマとした視線を向けられ、その2人からは憎々しげな視線を向けられてしまった。


 交際初日になんて思っていた俺だけど、3人からの圧力に理性は耐えきれず、大人の階段を一足飛びに駆け上がりました。


 大人の階段って、松本城の天守閣に登る階段以上に急なんだな...

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