#95 温泉旅行1日目前半 進展
10月12日(土)
「お~い、凛〜まだか〜?」
「今行くからちょっと待って!」
朝7時前、玄関前に凛以外の8人が揃い、凛を待っている。
今日はクローバーの関係者及びクローバーのメンバーの家族総出で行く旅行の初日だ。
八王子駅前に7時集合と、ちょっと早い集合時間だが、ばあちゃんを中心に親達が話し合った結果、折角なんだから現地で沢山遊びたいという事で、この時間になったらしい。
「お待たせ〜さあ、行こう〜!」
「おー!」
待たせていた張本人の元気な掛け声で、八王子駅前に移動した。
勿論唯佳の転移で。
集合場所には既に雛の家族もほのかの家族も可憐さんと紗奈さんも揃っていて、俺達が最後だった。
「おはようございます。遅くなってしまってすみません」
「いえいえ、まだ集合時間前ですから問題ないですよ」
「私達も来てからそんなに時間は経ってませんし」
女性陣の大人組7人が固まって挨拶をしている横で、父さんズの4人も挨拶を交わしている。
「唯佳っち春斗っちおはよ〜」
「唯佳さん、春斗くんおはようございます」
「雛ちゃん、ほのかちゃんおはよー」
「2人共おはよう」
「智佳さんと凛ちゃんもおはようございます」
「智佳姉、凛ちゃんおはよ〜」
「2人共おはよう。朝から元気ね~」
「雛姉、ほのか姉おはよ〜旅行楽しみだね~」
「そうだね~」
「ふふっ凛ちゃんも朝から元気ですね」
俺達も智佳姉と凛も交えて挨拶をしていると、ほのかの兄の裕人さんが声を掛けて来た。
「春斗おはよう。唯佳ちゃんもおはよう」
「裕人さんおはようございます」
「裕人先輩おはよー」
「白坂先輩おはようございます。お久し振りです」
「おっ?生徒会長じゃん!そっか、青山ってどっかで聞いた事あると思ってたら、ほのかちゃんって生徒会長の妹だったんだ」
「生徒会長は止めて下さいよ。前と同じでお願いします」
「そお?じゃあ、ヒロ君おはよう」
「おはようございます」
「智佳姉と裕人先輩って知り合いなん?」
「ああ、智佳姉はうちの高校の卒業生だから、知っていてもおかしくないな」
「もしかして兄さんが言っていた凄い美人な先輩って」
「ほ、ほのか!?」
「ほ〜ほ〜、ヒロ君そんな風に私の事を話していたんだ~」
「い、いや、あの、それはその...ほ、ほのか!何とかしてくれ!」
「照れちゃって可愛い〜かも〜」
裕人さんが智佳姉とほのかのオモチャになっている横では、年少組の3人も挨拶をしていた。
「はじめまして。私は黒木 凛。よろしくね!」
「あっ!俺は桃井 直人です。中2なんで、1番下らしいんですが、宜しくお願いします」
「うん!よろしくね。って事はあなたが裕貴くん?ほのか姉の弟の」
「ん?ああ、そうだ」
「ハア〜あなたね~まともに挨拶も出来ない訳?」
「うるさいなっ!今はそれどころじゃないんだよ!」
「大好きなお姉ちゃんが取られて悔しいのは分かったけど、挨拶くらいはちゃんとしなさい!格好悪いわよ!?」
「チッ!おはよう。これでいいか?」
「やり直し。朝の挨拶は爽やかに。はい、せーの!」
「くっ!?お、おはよう...」
「まあ、今日はいっか〜」
裕貴くんが凛にダメ出しされている様だ。
初対面だよな?その割に凛はキツくないか?
それぞれ挨拶も終わり、予約した時間通りにやって来たバスに乗り込んだ。
客席の後方が、パーティーが出来るような形になっていて、そこに全員が座る事が出来た。
俺の横には雛とほのかが座り、ほのかの横に唯佳が座っている。
1番奥のシートには、ばあちゃん達女性陣の大人組が座り、座り切らなかった可憐さんと紗奈さんは、雛の横と智佳姉の横に座った。
俺達の向かい側には智佳姉や凛などの俺達の兄弟姉妹が座っていて、前述の通り紗奈さんが智佳姉の横に座っている。
父さんズは1番手前側に向かい合って座り、楽しそうに会話している。
「春斗くんって姉ちゃんの事、好きなんすか?」
「ふぇっ!?」
「姉ちゃん達から告られたんすよね?」
「いや、その、それはね直人くん...」
「あっ!呼び捨てでいいっすよ!それでどうなんすか?」
バスが走り出してすぐに、雛の弟の直人くんにド直球な質問をされ、返答に困っていると、
「春斗っちどうなん?アタシの事好きな〜ん?」
「あっ!狡いですよ雛さん。私の事も聞きたいです」
「私もー春くん?私の事好き?」
ここぞとばかりに3人が乗っかって来た。
「それは異性としてって事?だとしたら、真剣に考えている所でして...」
「まだ、答え出ないの?もう1週間以上経ったよー?」
「そろそろ答えが聞きたいな~」
「春斗くん?答えを聞かせて下さい」
「い、今!?ここで!?」
「「「はい!」」」
高速道路を走行中のバスの車内という、逃げ場のない場所で、告白の答えを迫られ、目が泳ぎまくっているが、泳いだ目に映るのは真剣な顔で俺を見つめるそれぞれの家族だけで、助け舟は期待出来そうになかった。
腹を括るしかない事を悟り、口を開いた。
「俺はこの9日間、真剣に考えていました。恐らく、どんな答えを出しても批判はされると思う。だったら俺は、好きな人達と一緒にずっと一緒に生きていきたい。みんなで支え合って行きたい。だから、俺の彼女になって下さい!」
周りからのプレッシャーに晒されながら、噛む事なく思いの丈を言葉に出来た自分を褒めてあげたい。
そう思っている俺に、3人が前と左右から勢いよく抱き着いて来た。
「春くーん」
「春斗っち〜」
「春斗く〜ん」
涙を溢しながら俺の名を呼び、抱き着いている3人の事を抱き締め返し、幸せな気持ちに浸っていると、向かい側から『ドンッ!!』という大きな音が聞こえた。
「姉さん達から離れろ!3人も恋人にするなんて、やっぱりお前は汚らしいクズだ!!」
ほのかの弟の裕貴くんが立ち上がってこちらを見下ろしながら、指を差して怒鳴って来た。
気持ちは分かるし、こういう風に言われる事も覚悟はしていた。
「裕貴くん、確かに普通の日本人の倫理観で考えれば、俺の決断は不純で不道徳で不誠実だと思う。これからもっと多くの人達から面と向かって、若しくはネットの中で、今の裕貴くんが言ったような内容の事を、もっと口汚く言われると思う。だけど、俺は3人の事をどんな事があっても守って行くと決めたから、だから、みんなの家族には時間が掛かっても認めてもらえる様に、言葉や態度で示して行きたいと思う。長い付き合いになると思うけど、よろしくね」
俺は抱き着いている3人に離れてもらい、裕貴くんに自分の想いを伝えた。
「大丈夫です春斗くん。裕貴には私からきちんと説明しておきます。それはもうきっちりと」
「えっ?ほのか?」
「ほのかっち、アタシも手伝うね?」
「私もー」
「ええ、お願いします」
「えっ?おい?ちょっと3人共落ち着けって」
「春斗くん、少し離れます。裕貴、こっちへいらっしゃい」
「えっ?いや、姉さん?俺はこいつとまだ話が...」
「いいから行くよ!」
「いや、だから...」
「裕貴くん?行こっかー」
「でも...」
「「「いいから来い!!」」」
「は、はい!」
凄い迫力の3人に連れられ、裕貴くんは前方の席に移動して行った。
さっきの3人共ステータスシステムをオンにしてただろ...
「春斗くん、ごめんなさいね。この間きちんと説明した筈なんだけど...」
「ああ、いえ大丈夫ですよ。それよりも大丈夫ですかね?」
「唯佳姉達怒ってたもんね~」
「久し振りに唯佳が怒ってる所を見たわね~」
「いや、俺偶に怒られているんだけど?」
「それは春斗の事を心配してでしょ?あれは、それとは違う怒りオンリーだもん」
「うちの姉ちゃんはしょっちゅう怒ってるから見慣れた顔だったな~。標的が俺じゃないのは珍しいっすけど」
「ほのかはこの間、ほぼ同じ理由で同じく裕貴に怒っていたな。あの時は父さんも怒られていたけど」
「まあ、兄弟とはいえ、恋人を貶められたら怒るのも無理はないわ」
「そうね。私も昔父と大喧嘩したわ」
「ふふっ雛ちゃんの気質は瞳さん譲りなのね」
「そういう優佳ちゃんだって新婚の頃に、虎太郎くんの事をこんな息子の所に嫁に来てくれてありがとうって言った姑の喜代子さんに、『虎太郎さんはこんななんて言われるような人じゃありません!』って大きな声で反論してたわよね?」
「お、おばさま!?」
「それ、私も覚えてるわ。強いお嫁さんが来たな~って思ったもん」
「ちょ、香代さんまで!?」
「皆さん凄いですね...」
「そうね。紗奈ちゃんも見習いなさい」
「ふぇっ!?わ、私はまず彼氏から探さないと...っていうか先輩はどうなんですか!?恋人はいないのに告白されても全員断っているって聞きますよ?」
「私は今はまだ、恋人はいいのよ...」
可憐さんの雰囲気に、さっきまでわいわいやっていた女性陣が静かになった。
何があったのかは知らないけれど、無闇に踏み込んでは行けない雰囲気は伝わって来た。
話題を変え、再びわいわいと話をしていると、裕貴くんを連れて3人が戻って来た。
いつの間に行ったのか、凛も一緒に戻って来た。
「お兄さん、さっきはお兄さんに暴言を吐いて不快にさせてしまいすみませんでした」
「いや、うん。気にしてないから、裕貴くんも気にしないで。あと、お兄さんじゃなくて、いつも通りに呼んでくれればいいよ?」
「いつも通りだとクズって呼び方にn...ヒッ!!」
裕貴くんがクズと言った瞬間、3人から怒気が吹き上がるのが俺にも分かった。
「クズは流石に世間体的にまずいから、名前呼びでお願い出来るかい?」
「は、はい!」
裕貴くんと打ち解けるには時間が必要だな。
そんな俺達を見て、周りはクスクスと笑っていた。
そんなこんなしている内に諏訪SAに着き、トイレ休憩になった。
「うわ〜綺麗だね~唯佳姉、ダンジョンの中にはこういう景色もあるの?」
「湖はあるから、こういう景色も何処かにあるかもねー」
「ダンジョンの中には綺麗な景色もあるって聞いた事があるわね」
「ダンジョン内じゃないと見られないような景色もあるよ。智佳姉も探索者なら、アタシ達がガイドして上げんだけどね~」
「危険が伴いますが、見応えのある景色は多いですもんね」
「俺はサッカーあるからダンジョンには行けないな〜」
「直人くんは多摩市の方のクラブチームでプレーしてるんだったね」
「ええ、よかったら裕人さんも今度試合を観に来て下さい。応援が多いほどいいプレーが出来るんで!」
「分かった。近い内に観に行くよ」
諏訪SAの駐車場から諏訪湖を見下ろしながら、ダンジョン内の事や直人のサッカーの事なんかを話し、暫く景色を楽しんだ。
恋人関係になった3人に抱き着かれながら見る景色は、全然頭に入って来ませんでした。




