#90 大家族会議
10月5(土)
「唯佳っちナ〜イス」
「いえーい」
「キュッキュ〜」
「ゆきくんもいえーい」
雛と唯佳がハイタッチを交し、そこに雪兎も混ざって喜んでいる。
「テンション高いな」
「ふふっ私達の関係性が1歩前進したので、無理もありません。私も気分が高揚していますもの」
そう言って俺の袖を摘むほのか。
今俺達がいるのは富士森公園ダンジョンの71階層のど真ん中辺り、72階層への階段に向かって移動して来て、この階層から出て来たトリケラトプスを唯佳の弓矢で倒した所だ。
「あ〜ほのかっちずるい!」
「ほのかちゃん?抜け駆けはメッ!だよー」
ほのかが俺の袖を摘んでいる事に気付いた雛と唯佳が、ほのかに抗議をしている。
ダンジョン内で好きと言わないようにお願いをして受理されたのだが、もっとちゃんと禁止事項を決めないと行けないのかもしれない。
ダンジョンに入る前にも、散々愛情をぶつけられ、頭を切り替えるのに苦労したし、嬉しいけど困った事にもなっているし、話し合いの時間を設けた方がいいな。
「72階層への階段はこの辺りの筈だから、さっさと見つけてしまおう」
「「「は~い」」」
3人に階段を探そうと提案したタイミングで、雪兎がこっちに来いという感じでこちらを振り向きながら移動して行く。
後を付いて行くと、そこには階段があり、雪兎がドヤ顔で胸を張ってこちらを見ていた。
「おっ!雪兎偉いな~階段を見つけてくれたのか。ヨ〜シヨシ」
階段を見つけてくれた雪兎を思いっきり撫で回して褒めてやると、擽ったそうに身を捩りながらも、頭や頬を擦り付けて来る。
「癒されるな~」
「雪兎っち気持ちよさそうだね~」
「そだねー」
「階段を見つけたゆきとくんの特権ですね」
いや、ほのかさん?仮にあなた達3人が手柄を挙げても、こんな風に撫で回さないからね?俺の理性が死んじゃうからね?
「と、取り敢えず、階段内に入ろうか」
「「「は~い!」」」
ん?何だかテンションが上がった様な気がするんだけど、何で?
理由はすぐに分かった。
「春斗っち、休憩しよ〜って2人共行動早っ!」
「春くーん、ギュー。えへへー」
「春斗くん、頑張りましたね。ヨシヨシ」
階段内に入り、休憩を要求して来た雛だったが、俺にハグしている唯佳と俺の頭を撫でているほのかを見て、行動の早さに驚いている。
確かに階段内では愛情表現をする事を許可したけど、2人の行動の早さには俺もびっくりしている。
階段内に入る度にこんなにイチャイチャされると、俺的に気持ちの切り替えが難しくなりそうで困ってしまう。
という事で、嬉しい気持ちに蓋をして、1度きちんと話し合う事にしよう。
「みんな、今日は終わりにして帰ろう」
「えっ!?春斗っちまだ2時間半しか潜ってないよ?」
「ああ、でも、1度きちんと話し合う必要があると思う。この状況について。だから、各両親も交えて話し合いをさせて欲しい」
「両親を交えてですか?」
「ああ、今日は土曜日でみんなのご両親は唯佳の家以外は土日祝が休みだって言っていただろ?今日は唯佳の家のおじさん達も休みだって言っていたから、全員に集まってもらって話し合いをさせてもらいたい」
「何で急にそんな事思ったん?」
「この状況は男としては嬉しいけど、探索者としては改善が必要だと思う。そこで、大人の意見も聞いて参考にしたいという事と、今までちゃんと挨拶をしていなかったから、この機会に挨拶をさせてもらいたいと思ったからだな」
「親を呼ぶのはまあ分かりましたけど、改善...ですか?」
ほのかが首を傾げている。
「ああ、確かに階段内では愛情表現を許可したけど、あまりくっつかれるとその、何て言うか、ちょっと問題があるって言うか、主に俺に...」
しどろもどろになりながら説明を試みるが、上手く言葉が出て来ない。
「まあ、アタシは別にいいよ。春斗っちの言いたい事も分かるしね~ニシシシシ」
雛が思わせ振りに視線を動かし、他の2人もそれに釣られ...
「は、春斗くん、すみません。気が付かなくて...」
「春くんのエッチ...」
取り敢えず、みんな納得してくれたので、早速支部に帰還した。
「あら?どうしたの?」
「ちょっと改善したい事がありまして、話し合いをする為に戻って来ました。可憐さんも参加してくれませんか?意見を聞きたいです」
「ええいいわよ」
「じゃあ唯佳、一旦うちに行ってそれからみなさんを迎えに行こう。2人は承諾を得られたか?」
「はい」
「うちもオッケ~だよ」
「他にも誰か呼ぶの?」
「全員の親にも集まってもらおうと思います」
「随分大掛かりな話し合いね」
一旦うちに行って事情を説明して了承を得て、雛とほのかのご両親を迎えに行った。
「本日は急な招集にお集まり頂きありがとうございます。お集まり頂いたのは、僕達クローバーの現状の問題点を改善する為に、ご意見をお聞かせ願いたいと思った事と、Sランクに昇格した事で、僕に起こっている問題についてお話させて頂きたいと思ったからです」
全員がうちのリビングに集まり、一頻り挨拶も終わったので、話し合いを始める事にした。
「先ずは僕に起こっている問題についてですが、お子さんから話を聞いたり、ニュースの映像や記事で知っているかもしれませんが、Sランクに昇格した時に女子達の要望で、僕は重婚が許可されてしまいました。それにより、現在唯佳、雛、ほのかの3人からアプローチを受けています。好きだと言ってもらえるのは当然嬉しいですし、3人の様な美少女からであれば尚更嬉しいです。ですが、今まで一夫一妻や恋人は1人というのが当たり前だという価値観で生きてきたので、戸惑いが大きく恋愛関係になるかどうかは保留させてもらっています。ただ、真剣に考えてはいますので、ご理解下さい」
うちと白坂家、それと各家の母親は穏やかに聞いてくれていたのだが、桃井家と青山家の父親は納得出来なかったらしく、食って掛かって来た。
でも、理由は全く違った。
「黒木くん、この間うちに君が来た時に、私と次男が失礼な態度を取ったとして家族から責められてしまったが、やはり君は3人とそういう関係になるのが目的だったのではないのかね!?」
「いえ、決してそんなつもりは...」
ほのかの父親は、元々俺にいい感情は抱いていなかったので、こう言われる可能性は考えていたし、状況が状況だけに甘んじて怒りは受け入れるつもりでいたのだが、黙っていない者がいた。
「お父さん!春斗くんの話を聞いていなかったの!?春斗くんの重婚を政府に要求したのは女子3人で、言い寄っているのも女子3人なの!春斗くんは3人の想いに真剣に向き合ってくれているの!今の話からそのくらいの事が理解出来ないなんて、大人の意見も参考に、今ある問題点を改善したいという話し合いに参加してもらおうと思ったけど、役に立たなそうね!邪魔だけはしない様に大人しくしていて!」
「あなた?あまり私をガッカリさせないで下さいね?」
「.....はい」
ほのかの父親裕史さんは、見た事ない程にキレたほのかと静かな口調ながら圧力が半端ない涼子さんによって大人しくなった。
そしてもう1人、雛の父親の直樹さんは裕史さんとは違った理由で食って掛かって来た。
「黒木くん!うちの雛の何処が不満なんだ?こんなに可愛くって性格だって明るくて、誰に対しても別け隔てなく接する女神の様な雛の、何処に不満があると言うんだい!?」
「いや、不満はないんですが」
直樹さんは俺が即決で雛を受け入れなかった事に不満がある様だった。
弁明しようとした俺を遮って、雛と雛の母親の瞳さんが割って入って来た。
「ちょっとパパ!うるさい!!」
「あなた?春斗くんは真剣に考えてくれているの。いい加減な気持ちで即決されるよりも余っ程信頼できるじゃない。あなたも少し黙って聞いていなさい」
「うるさいって...分かりました。大人しくしています...」
何処のうちも女性上位らしい。
涼子さんと瞳さん、ほのかと雛が謝って来たが、うちの親やばあちゃんは気持ちは分かるし仕方ないと言って、気にしない様に伝えた。
俺も反発されるだろうと思っていたので、気にしないで欲しいと伝え、次の話に移った。
「ここからが、今日ダンジョン攻略を中断してまで話し合いたかった本題になります。先程お話させて頂いた様に僕は今、3人から恋愛方面でアプローチを受けています。昨日、4人で話し合いをして、ダンジョン内ではアプローチ禁止にして欲しいとお願いして、受け入れてもらいました。ですが、魔物が出ない階段内では許可して欲しいと言われ、許可しました」
「私はちゃんと守ったよー」
「アタシもちゃんと我慢したけどね~」
「うっ!」
「ほのか?えっ?あなたまさかダンジョン内の魔物が出る場所でも!?」
「そ、そんなに激しい物ではないですよ?戦闘終了後にちょっと春斗くんの袖を摘んだだけです...」
「あれはあざと可愛かったね」
「ヤバかったよねー」
「ほのか?ルールを破って抜け駆けは絶対に駄目よ?これからも力を合わせて黒木くんを支えて行く仲間なんでしょ?しかも魔物が出る場所でなんて、命を落としかねない愚行よ?きちんと反省なさい!」
「ごめんなさい...」
ほのかが涼子さんに叱られしょんぼりしてしまった。
「まあ、それはルールを守ってもらえばいいとしてですね。改善したいのは階段内でのアプローチに関してなんです。昨日許可した時は、まさかあそこまで積極的なアプローチをされるとは思っていなくて、線引きが必要だと思ったんです。ですが、僕と女子達で意見が平行線にならないとも限らず、良識ある大人にも意見を聞きたいと思ったので、みなさんに来て頂きました。」
「春ちゃん、積極的なアプローチって、どのくらいのアプローチをされたの?」
「そこは気になるわよね。こんな話し合いの場を設ける程って一体どれ程のアプローチだったのか知っておきたいわ」
優佳おばさんと母さんが、どんなアプローチだったのかを聞いて来た。
「唯佳っちは、春斗っちの頭を胸に埋める様に抱えてハグしてて、ほのかっちは唯佳っちと反対からハグして、唯佳っちの胸の間から出てた春斗っちの頭をいい子いい子してたね~」
見えてなかったけど、そんな状況だったのか...
雛の説明で当時の状況が判り、真っ赤になって俯いてしまった。
「まあまあまあまあ、それは流石に刺激が強かったかもしれないわね~」
「そうね〜今の春斗にはちょっとね~」
「黒木くん、いえ、春斗くんって呼ばせてもらうわね。春斗くんはうぶそうですもんね」
「雛?出遅れたの?あっ!」
「ちょっ!?ママ!?今どこを見てあっ!って言ったの!?」
「雛ちゃんはまだ若いから大丈夫よ。私なんてもう...」
「か、可憐姉!?ちょっ!落ち込まないでよ。大丈夫だよ?大きさだけが全てじゃないもん!一緒に頑張ろ?ねっ?」
「「.....」」
「2人も顔真っ赤にして俯いてないで可憐姉の事慰めてよ~」
「雛姉、それは逆効果じゃない?」
「2人共大っきいもんね~」
「智佳姉だって人の事言えないからね?嫌味?嫌味なの?」
「り、凛ちゃん?落ち着こっか。怖いよ?」
改善に向けて話し合うというよりも、女子話に花が咲いてしまった感じになってしまった。
改善の話は何処に行っちゃったの?
俺の悩みはどうなっちゃうの?
4人に増えた父さんズは、ソファーで大人しくお茶を啜りながらサッカーを観ていた。
あっ!今日は鹿島の試合観てるじゃん!俺も観たいな~話も進まないし観ちゃおうかな~怒られる未来しか見えないな...
女子話から戻って来た母さんズの意見で、結局は俺が慣れるしかないという結論になったのだが、俺が慣れるまではダンジョン内全般でアプローチ禁止となり、ダンジョン内での俺の心の平穏は確保される事となった。
但し、俺は知らされていなかったが、俺が慣れる為に、ダンジョン外でのアプローチは母親達公認の下、激しさを増す事になるのだった。
あと、母さんズと可憐さんや凛に智佳姉と父さんズそれぞれ同性同士で仲良くなった様で、連絡先の交換をして解散となった。




